伏黒恵に転生したから魔虚羅をブン殴る 作:鈍い
ここは呪術高専の敷地内にある道場。
その広い室内で俺と虎杖は模擬戦を行っていた。
「さあ、かかってこい!」
そう言うと虎杖の拳が迫ってくる。
俺は僅かに身体を捻って拳を躱し、そのまま反撃の拳を叩き込む。
だが虎杖はそれを受け止めると間髪入れずに蹴りを放ってきた。
なので咄嗟に後方へ跳び距離を取る。
「やるなっ!」
「そっちこそ!」
虎杖は真希先輩をも凌ぐほどの身体能力を持っている。
しかも少ない呪力でも並の相手と渡り合えるだけの打撃を成立させているので、攻撃の際に流れる呪力が少ない。
そのせいで呪力の流れから動きが読むのが難しく、本人の格闘センスも相まって中々に手強い。
「そこだっ!」
虎杖の拳が俺の腹へ突き刺さる。
直後、打撃に遅れて呪力の衝撃が炸裂した。
……これが逕庭拳か。
通常、打撃と呪力はほぼ同時に対象へ命中する。
だが虎杖の場合、人間離れした身体能力に呪力操作が追いついていない。
その為、物理的な打撃が命中した直後に遅れて呪力が衝突する。
要するに1度の打撃で2度の衝撃が生まれるわけだ。
《ビリビリするぜぇ》
血塗が少しだけ苦しそうに声を漏らす。
虎杖の肉体には宿儺という自分以外の魂が存在する。
その影響で無意識に魂の輪郭を知覚しているのだ。
故に虎杖が放つ打撃は魂そのものを捉える。
その打撃は受肉体の宿主から呪物の魂を引き剥がす効果を持つ。
つまり俺たちの呪力の流れが大きく乱された。
「まだまだっ!」
俺の動きが止まった隙を突いて、虎杖が一気に距離を詰めてくる。
左右から繰り出される連打が次々と身体へ叩き込まれた。
「悪くはない……だけど不十分だな」
「いっ!?」
攻撃の軌道を見切り両こぶしを握り締める。
そしてカウンターの蹴りを鳩尾に叩き込む。
すると虎杖の身体が大きく吹き飛んだ。
「ゲホッ、ゲホッ!」
虎杖と同じように俺の放つ打撃も魂そのものを捉える。
しかも魂の輪郭を意識的に知覚しているので精度が高い。
とはいえ虎杖は羂索製だけあって器としての強度が段違いだ。
そう簡単に肉体と呪物を引き剥がすことは出来ない。
「逕庭拳は厄介な技だが、これに頼りっきりでは強くなれないぞ。どうしてか分かるか?」
「……慣れるから? 伏黒に通用したのは最初だけだし」
「正解だ。こいつは仕組みさえ分かれば威力が分散するだけの欠陥技だ」
例えば防御力が5の相手に20の攻撃を加えれば15のダメージを与えられる。
では10の攻撃を2回連続で放ったらどうなるだろうか。
最初の攻撃は10-5で5。
2発目も同じように5。
つまり合計10ダメージにしかならない。
「逕庭拳は1級以下の呪霊には有効だが特級には通用しない。だから相手を混乱させる為の崩しとして使え。普段は呪力を拳にドンピシャで乗せた全力の打撃で戦うんだ」
「分かった! それで、どうやるんだ?」
「逆に質問するが虎杖はどこから呪力を捻出している?」
「そりゃ腹からだけど……」
「つまり腹から出す呪力が打撃に間に合わないから逕庭拳になるわけだ。それなら拳に近い腕に呪力を流せば良い」
「……腕に?」
腹が立つ、腸が煮えくり返る。
負の感情から生まれる呪力は臍を起点として全身へ流す。
それが呪力操作の基本だ。
だが身体を部位で分ける思考が呪力の遅れを生む。
「俺たちは腹でモノを考えるか? 頭で怒りを発露できるか? いいか、虎杖。俺たちは全身全霊で世界に存在している」
これは東堂のアドバイスのパクリだ。
俺が宿儺と戦ったことで、虎杖は原作以上の強さを身につけている。
ならば、ここから先も前倒しで強くなってもらおう。
「……ありがとう、伏黒。なんとなく分かった」
「それじゃあ訓練に戻るか。今までよりも厳しくするぞ」
「応!」
虎杖が力強く返事をした、その時だった。
道場の入口から五条先生が入ってくる。
「恵、悠仁。調子はどうだい?」
「五条先生!?」
「2人とも、出かけるよ」
せっかく良いところだったのに。
もう少し虎杖を鍛えたかったんだが。
……いや、もしかすると奴が襲来したのか?
「課外授業。呪術戦の頂点、領域展開について教えてあげる」
そう言って五条先生は俺たちの襟首を掴んだ。
次の瞬間、視界が一変する。
「ごめんごめん、待った?」
「どこ!? ねぇ、ここどこ!?」
俺と虎杖が周囲を見回す。
そこは森に囲まれた湖だった。
「ソイツらは……」
目の前には1体の呪霊がいる。
火山のような頭部に単眼の人型。
こいつは漏瑚か。
本来なら虎杖が映画鑑賞による修行をしていた頃に遭遇したはずだ。
しかし今世では逕庭拳を習得した状態でのエンカウントか。
原作以上に強くなっていることが良く分かる。
「見学の虎杖悠仁くんと対戦相手の伏黒恵くんです!」
「対戦相手?」
「富士山! 頭、富士山!」
「なんだ、そのガキは。盾か?」
「言ったでしょ。見学と対戦相手だって。なんせ僕は教師だからね」
五条先生は飄々とした様子で応える。
「もしかして、そこにいる火山頭と俺が戦う感じですか?」
「そだよ。まあ負けそうになったら助けるから安心して」
正直、勝てるかは分からない。
漏瑚は宿儺も認めるほどの猛者だ。
今まで戦ってきた相手よりも圧倒的に強い。
……これは楽しい戦いになりそうだな。
「足手纏いを2人も連れてくるとは愚かだな」
「大丈夫でしょ。だって君、弱いもん」
すると漏瑚の全身から凄まじい呪力が噴き出した。
頭頂部の火口だけではなく、両耳からも炎が噴き出している。
少しシュールだが見た目とは裏腹に洒落にならない。
漏れ出した呪力だけで並の1級術師なら容易く焼き尽くせるだろう。
「舐めるなよ小童が! そのニヤケ面ごと飲み込んでくれるわ!」
漏瑚が怒声を上げて大黒天の掌印を結ぶ。
対する五条先生は戦慄する虎杖の頭に手を置いた。
「悠仁、僕から離れないでね。というわけで恵。後は頼んだよ」
「分かりました」
膨大な呪力が周囲を包み込む。
森も湖も消え去り風景が一瞬にして岩石へと塗り替えられた。
地面からは赤熱した溶岩が噴き出し凄まじい熱気が全身を襲う。
まさしく灼熱地獄だ。
「これが領域展開。メチャクチャ呪力を消費するけど利点も大きいよ」
「五条先生、解説している間に戦っていいですか?」
「構わないよ。でも授業の邪魔にならないように戦ってね」
「無茶ぶり!」
許可が出たのなら遠慮はいらない。
反転術式で生み出した正の呪力を拳に纏わせて一気に踏み込む。
「ぬっ!」
漏瑚が咄嗟に後退したことで拳は空を切った。
そう簡単には祓わせてくれないよな。
影絵を結び玉犬と顎吐を顕現させる。
続けて影の中から釈魂刀を抜き取った。
これで俺の戦闘準備は完了だ。
「頼んだぞ」
「ワンッ!」
玉犬は俺の影の中へと潜り込み、彌虚葛籠を展開した。
つまり玉犬を中心とした結界の範囲内に俺も入っている。
彌虚葛籠のような複雑な呪力操作と反転術式を同時に扱うことが出来るのは、五条先生や宿儺といった天井クラスの猛者だけだ。
だから今回は裏技を使う事にした。
これなら領域展開に対抗しながら反転術式も使える。
しかも玉犬は動かずに掌印を結び続ける代わりに、結界の強度を上昇させる縛りを結んでいる。
当分の間は彌虚葛籠を剥がされることはないだろう。
もちろん俺の影の中にいる玉犬は動けないが俺自身は自由に動ける。
つまり縛りによるデメリットを実質的に踏み倒した。
「それにしても熱いな」
彌虚葛籠が展開されているのにジワジワと体力が削られていく。
この熱は領域内に付随する効果で必中必殺の攻撃ではないな。
だから簡易領域や彌虚葛籠で防ぐことが出来ないというわけか。
「悪くないんじゃないか?」
思わず口角が上がる。
さあ、戦いを始めようか。
領域展開は途轍もない方法で習得するんで期待しててください。