伏黒恵に転生したから魔虚羅をブン殴る 作:鈍い
「ヒャアッ!」
漏瑚が三下みたいな掛け声と共に腕を振り上げると、地面と壁からマグマが噴き出し、俺を挟み込むように襲い掛かってきた。
要するにクロスファイアか。
1級術師であっても、まともに喰らえば大怪我は免れない攻撃だ。
「これはどうだ?」
俺は満象の能力を自分に付与し、全身を水のベールで包み込んでガードした。
これなら熱も多少は和らげられるし攻撃の威力も軽減できる。
「ジュアアッ!」
「鈍いわぁ!」
顎吐が漏瑚へと殴り掛かるが軽々と躱される。
直後、カウンターとして大量の火山弾が降り注いだ。
無数の攻撃を浴びて顎吐の身体が炎に包まれる。
皮膚が焼けていくが大した傷ではない。
この程度なら反転術式ですぐに修復できる。
「想像以上に速いな」
俺たちは攻撃力と防御力に反して素早さは今ひとつだ。
しかも領域展開によって相手のステータスが底上げされている。
これでは余計に追いつけないな。
一応、素早さを補う技はあるが漏瑚相手には使えない。
「小童、名前は?」
漏瑚が此方を睨みながら尋ねてくる。
「伏黒恵だ。そっちは?」
「……漏瑚だ」
「そうか。これからは頭富士山と呼ばせてもらう」
「死ねェッ!」
しょうもない挑発で漏瑚が激昂した。
直後、大量の火礫蟲が空から降り注ぐ。
まるで絨毯爆撃だ。
「顎吐!」
「ジュアッ!」
顎吐が俺の前に躍り出て盾になる。
無数の火礫蟲が顎吐の身体に刺さり、次々と爆発を巻き起こす。
その隙に俺は爆煙に紛れて漏瑚へと接近した。
「むっ!」
反転術式のエネルギーを釈魂刀に纏わせながら斬り掛かる。
しかし直前で漏瑚に接近を察知されて距離を取られてしまった。
躱されたのは残念だが、これで攻撃が終わったわけではない。
《ブッー!》
血塗が手の甲から口を生やして血液を吐き出した。
完全な不意打ちだったので漏瑚の身体に命中する。
「なんじゃコレは!?」
「ここからが本番だ」
《蝕爛腐術・朽!》
まだ血塗の術式は俺の身体に刻まれていない。
というわけで本人に使ってもらうことにした。
「……ウギャアアアッ!?」
血塗が術式を発動すると漏瑚が絶叫を上げた。
血液が付着した箇所から身体が腐り始めている。
「粘膜や傷口から俺たちの血を取り込み、術式を発動すると侵入箇所から腐蝕が始まる。それが蝕爛腐術だ」
"
俺が術式の開示をする裏で血塗が呪詞を詠唱する。
これにより蝕爛腐術の効果が極限まで高まった。
「ジュアアッ!」
その間に火礫蟲による負傷を修復し終えた顎吐が再び漏瑚へと襲い掛かる。
「ぐっ……!」
またしても攻撃を躱された。
しかし腐蝕によって動きが鈍っていたせいか、今度は完全には避けきれず、顎吐の拳が漏瑚の右腕を掠める。
反転術式によって生み出される正のエネルギーは呪霊にとって猛毒だ。
少し触れただけでも大ダメージになる。
その証拠に漏瑚の右腕は大きく損傷し、腐蝕も相まって全身が融解しかけていた。
「俺なんかで苦戦してるようじゃ、五条先生には逆立ちしたって勝てないぞ」
「舐めるなっ!」
すると漏瑚の呪力が膨れ上がる。
「極ノ番・隕!」
空から巨大な溶岩塊が落下してきた。
その大きさは最早、隕石そのもの。
それが領域によって必中必殺となり顎吐へと直撃する。
「ジュアアアッ!」
凄まじい爆音と高熱、そして圧倒的な衝撃。
溶岩と岩石が周囲へと吹き飛び、近くにいた俺まで巻き込まれて思い切り吹き飛ばされた。
「ハァ……ハァ……やってくれたな」
俺は瓦礫の中から立ち上がる。
咄嗟に顎吐が盾になってくれたおかげで思ったよりも傷は浅い。
それで爆心地にいた顎吐はどうなった?
もしかして破壊されてしまったのか?
「シャー!」
瓦礫の隙間から顎吐の尻尾が出てきた。
それはヘビのように地面を這いながらウネウネと身体を再生させている。
何とか破壊されずに済んだようだな。
おそらく尻尾を切り離して俺の近くに投げたのだろう。
流石の判断力である。
とはいえ、これ以上はまともに戦うことは出来ないはずだ。
それに顎吐が近くにいると必中必殺の攻撃に巻き込まれる可能性が高い。
「顎吐、よく頑張ったな」
再生途中の顎吐を労い、その身体を影へと戻す。
すると漏瑚が地面からマグマを噴き出して攻撃してきた。
「これで忌々しい式神は破壊された! 後は貴様を倒すだけよ!」
「俺の後には五条先生が残ってるけどな」
「黙らんかぁ!」
漏瑚が激昂するのを尻目に、俺は足の裏から満象の水流を放出した。
その勢いをフライボードのように利用して一気に加速。
漏瑚の速度には及ばないが、それでもかなりのスピードが出ている。
「小癪なぁっ!」
漏瑚が紙一重で躱す。
だが攻撃は1度だけではない。
《ブーッ!》
血塗がスプリンクラーのように血液を撒き散らした。
「ぬぅっ!」
漏瑚が飛び退いて回避すると同時に俺の影から玉犬が這い出した。
そして彼の爪が漏瑚の身体を貫く。
今の攻撃は想定できたはずだが処理能力の限界を迎えたな。
「お、おの……れっ!」
漏瑚が倒れると同時に灼熱の領域が崩壊していく。
やがて周囲の景色は元の湖へと戻った。
何とか勝てたな。
相手は五条先生との戦いで消耗していた。
それが無ければ勝負は分からなかっただろう。
「お疲れ様」
そんなことを考えていると五条先生が俺の髪をワシャワシャと撫で回してきた。
「ご褒美に僕の領域も見せてあげる」
すると五条先生は帝釈天の掌印を結ぶ。
次の瞬間、宇宙のような光景が周囲を塗り潰していく。
星の光すら飲み込んでしまいそうな無限の暗闇。
静寂に支配された空間だ。
これが呪術師最強の領域展開か。
漏瑚の領域とは比較にならないほど圧倒的な重圧を感じる。
「ここは無下限の内側。知覚や伝達、生きるという行為に無限回の作業を強制する。皮肉だよね。全てを与えられると何もできなくなる」
五条先生が説明を終えると領域が解除された。
そして俺たちは湖から上がり近くの森へと移動する。
こうして生首だけになった、ゆっくり漏瑚の尋問が始まった。
「命令されて動くタイプじゃないか……僕を殺すと何か良いことがあるのかな? どちらにせよ相手は誰だ? 早く言えよ。祓うぞ。言っても祓うけど」
さてと……問題は漏瑚をどうするかだ。
ここで祓ってしまえば渋谷事変で呪霊側の戦力が減る。
戦力が減れば獄門疆に五条先生を封印する計画が失敗する可能性が高くなる。
しかし失敗したらしたでデメリットも大きいんだよな。
呪術師の存在を一般人から隠し続けるという現在の仕組みは永遠に続くものではない。
インターネットや監視カメラなど科学技術の発展速度を考えれば限界は近いはずだ。
日本全国に呪霊が湧くことが判明した状態で今の呪術秩序が破綻すれば、日本という国家そのものが滅びかねない。
だからこそ原作のように「呪霊が大量発生するのは東京だけ」と発表された後に秩序が破綻するべきだと思っている。
要するに渋谷事変で五条先生は封印されて死滅回游が開催されるべきだ。
「ん?」
すると上空から植物のような見た目をした何かが飛来してくる。
それは五条先生と漏瑚の間に着地すると一瞬で周囲にお花畑を作り出した。
わー、お花だー。
今度、津美紀にベゴニアでも買おうかな。
ちなみに花言葉は片想いだ。
……って、違うだろ。
我に返ると、目がある部分から木を生やした呪霊が漏瑚を抱えている。
あれは花御か。
追おうとしたが足に樹木が絡みついている。
五条先生も虎杖を助けようとしている為、手を回す余裕がない。
そのまま花御を取り逃がしてしまった。
まあ原作通りだから別に構わないだろう。
「このレベルの呪霊が徒党を組んでいるのか。楽しくなってきたねぇ、恵」
「俺は貴方のような異常者じゃないんで楽しくないです」
「つれないこと言うなよぉ~!」
五条先生が駄々を捏ね始める。
とりあえず漏瑚に勝てることが判明したのは収穫だ。
だが魔虚羅には遠く及ばない。
さっきの戦いも領域展開を習得していれば顎吐を戦闘不能にせず勝てただろう。
まだまだ俺も未熟だな。
……こうなったらアレをやるしかない。
十種影法術の呪詞は神道、蝕爛腐術の呪詞は仏教モチーフです。