伏黒恵に転生したから魔虚羅をブン殴る 作:鈍い
呪術師として認められてから1年が経ち2010年。
俺は小学2年生になった。
五条先生は特級術師なだけあって多忙だ。
必然的に修行に付き合ってもらえる時間も限られている。
しかも先生は生まれついての天才なので他人に呪術を教えるのが下手だ。
最強だからといって最高の師匠になれるとは限らない。
ぶっちゃけ修行の大半は夜蛾学長と行っている。
学長の傀儡操術は「自分以外の存在を操って戦う」術式だ。
十種影法術にも通じる部分が多く、式神の運用についても色々と相談できる。
その他にも体術、戦闘時の判断、効率的な呪力の練り方、武器の扱い。
複数の式神を連携させる方法や術式に頼りすぎない戦い方まで教わった。
基礎から徹底的に叩き込んでもらったおかげで、1年前の俺とは比べ物にならないほど強くなっている。
「それじゃあ始めようか」
五条先生がニヤリと笑う。
これから行うのは調伏の儀だ。
「どの式神を調伏するのかな?」
「俺が普通の調伏を行うと思ってます?」
「思ってるよ」
「思ってませんよねぇ!」
「あー、うん」
冗談はともかく、俺は転生してから常に十種影法術の運用法を考えてきた。
どうすれば調伏の儀を利用して、より大きなリターンを得られるのかを。
「今回は鵺と満象を同時に調伏します」
「……へぇ」
「本来、調伏の儀は1体の式神を術師本人だけで倒すことで成功します。当たり前ですが1体よりも複数体を相手にした方が難易度は高い。だからこそ縛りとして機能するはずです」
同時調伏を行えば失敗して殺されるかもしれない。
なので五条先生と出会うまでは実行に移さなかった。
「ですので『2体の式神を同時に調伏することに成功した場合、3種類の式神を同時に顕現できる権利を1度だけ得る』という縛りを結びました」
「確か十種影法術は同時に2種類の式神を顕現できたよね。今回の条件を達成したら一時的に上限を無視できるってわけか」
「そういうことです」
同時調伏に成功しただけで常に術式を強化する。
そんな都合の良い縛りが成立するとは思えない。
七海さんの時間外労働のように継続的な制限を課す必要があるだろう。
というわけで今回は「1度だけ」という条件を付けた。
それなら相応の見返りとして認められる。
「僕はここで見てるから安心して戦ってね」
五条先生は少し離れた場所で待機している。
俺が敗北した時に儀式へ介入して強制的に終了させる為だ。
つまり万が一に備えた保険というわけである。
「玉犬・渾!」
影絵を結ぶと足元の影が大きく波打つ。
次の瞬間、そこから巨大な犬の式神が姿を現した。
「アオーンッ!」
威風堂々とした遠吠えが辺りに響き渡る。
俺は玉犬・白を破壊して玉犬・渾へと生まれ変わらせた。
インスタントに強くなるのなら利用しない手はない。
本来なら玉犬・白は少年院の特級呪霊に破壊される。
しかし俺の場合は自分の意思で手放した。
その犠牲を無駄にするつもりはない。
だから『自らの手で玉犬・白を破壊する代わりに、玉犬・渾のの能力を1度だけ強化する権利を得る』という縛りを結ぶことにした。
玉犬たちは家族同然の存在だ。
白を自らの手で破壊するのは正直かなり辛かった。
というか全く無関係の犬を殺すことすら嫌だ。
それでも、やるしかなかった。
悲惨な未来を回避するための必要経費である。
本来の伏黒も玉犬・白を意図的に破壊すれば玉犬・渾を生み出せた。
最後までそうしなかったのは式神たちを愛していたからだろう。
……俺のようなドブカスとは大違いだな。
「相変わらず美しい毛並みだね。後でモフらせてよ」
「ケアは怠っていませんからね。最近はブラシをブタ毛にしました」
俺は『1日に1度、玉犬に餌やりと散歩とブラッシングをする代わりに性能を強化する』という縛りも結んでいる。
最古参の式神ということもあり色々と贔屓しているのだ。
なお餌とブラシ代は経費で落としている。
他の式神に同じ縛りを課すつもりはない。
全員に世話をしていたら食費と手間暇が洒落にならないからな。
ただでさえ玉犬・渾は巨体だから割と大変だ。
五条先生から資金援助を受けているとはいえ流石に限界がある。
「蝦蟇!」
「ゲコゲコッ!」
続けて影絵を結ぶと蝦蟇が姿を現す。
既に蝦蟇と大蛇は調伏済みだ。
もちろん普通に調伏したわけではない。
この2体も同時に調伏している。
蝦蟇と大蛇は十種影法術の中では弱い方の式神だ。
玉犬・渾を従えた今の俺なら余裕で調伏できる。
ちなみに立ち会ってくれたのは五条先生ではなく夜蛾学長だ
この時も報酬として『3種類の式神を同時に顕現できる権利』を得ている。
ただし、いきなり本番で使うつもりはなかった。
縛りが本当に機能するのかを事前に確かめておく必要があったからだ。
いざという時に発動しなければ命取りになる。
そこで試しに得た権利を使ってみた。
結果は成功。
3種類の式神を同時に顕現できた。
縛りは確かに機能している。
「調伏開始!」
そう言って俺は2つの影絵を結ぶ。
すると巨大な鳥と象が姿を現した。
「クェーッ!」
「ぱおーん!」
1年前までの俺が戦ってきた相手は普通の人間ばかりだった。
玉犬を使えば過剰火力になってしまう為、実戦で連携させる機会も少なかった。
しかし五条先生と出会ってからは違う。
呪霊の討伐や呪骸との模擬戦を行えるようになり、ようやく式神たちを本格的な戦力として扱えるようになった。
その甲斐あって今では連携にも十分慣れている。
「クェェッ!」
「パオオオッ!」
頭上から鵺が急降下してくる。
地上では満象が鼻から水流を放とうとしている。
数では俺らが有利だが油断できないな。
「蝦蟇、盾になれ」
「ケロッ」
俺の命令に反応して蝦蟇が前へ飛び出した。
直後、凄まじい水流が直撃するが身体の表面を滑って弾かれた。
術式は使い手の解釈次第で姿を変える。
ならば式神の元ネタになった生物の伝承を反映できるのではないか。
例えば蝦蟇、つまりヒキガエルには「ガマの油」という有名な逸話がある。
そこで俺は蝦蟇の呪力に油の性質を付与してみた。
結果は見ての通り。
油は水を弾く。
つまり満象の水流であっても防げる。
まあ代償として炎に弱くなったわけだが。
「玉犬、今がチャンスだ」
「ガルルルッ!」
俺の声に反応して玉犬・渾が満象へ飛び掛かった。
あいつの爪は特級呪霊にも通用する。
中堅どころの式神なら余裕を持って倒せるはずだ。
おそらく本来の伏黒も同じように調伏したのだろう。
「クェーッ!」
鵺が玉犬へ向かって急降下してくる。
仲間のために身体を張るとは大した根性だ。
ならば全力で迎え撃つとしよう。
とはいえ奴の身体は電撃を纏っている。
迂闊に近付けば感電するのがオチだ。
それなら遠距離から撃ち落とすしかない。
「人間様の叡智を見せてやる」
俺は影の中からアレを取り出した。
※新たに課した縛り
・同時調伏
2種類の式神を同時に調伏することに成功した場合、3種類の式神を同時に顕現できる権利を1度だけ得る。
・生贄(玉犬・渾)
自らの手で玉犬・白を破壊する代わりに、玉犬・渾の性能を強化する1度だけ権利を得る。
・お世話
1日に1度、玉犬に餌やりと散歩とブラッシングをする代わりに玉犬の性能を強化する。
餌とブラシ代は経費で落としている。
手間暇がかかるので他の式神には行っていない。
この贔屓に対して蝦蟇は気にしていないが大蛇は嫉妬している。