伏黒恵に転生したから魔虚羅をブン殴る 作:鈍い
今日も今日とて呪霊討伐である。
現場に到着すると補助監督の伊地知さんが事件の概要を説明し始めた。
「呪霊が民家を襲撃したものと思われます。現場に残されていたのは大人2人分の死体と未登録の残穢1つです。同居していた子供は行方不明。また冷蔵庫を荒らされた形跡も確認されています」
「つまり呪霊が子供を誘拐して、どこかに監禁していると。冷蔵庫を荒らしたのは子供に与える食料を確保する為ですかね?」
「その可能性もありますが既に殺されているかもしれません」
助けられると思っていたのに手遅れだった。
そんな結果になればショックを受ける。
特に俺は小学生という多感な年頃だ。
動揺しないように予め釘を刺してくれたのだろう。
やはり伊地知さんは優しいな。
「玉犬、呪力の匂いを辿れ」
「ワフッ!」
影絵を結んで玉犬・渾を顕現させて命令を下す。
するとアイツは冷蔵庫へ鼻を近づけて周囲の匂いを探るように首を動かした。
やがて何かを察知したのか顔を上げると勢いよく駆け出していく。
というわけで俺と五条先生も後を追う。
「ここにいるのか」
「ワン!」
「あー、呪霊に気付かれるかもしれない。もう少し声を抑えてくれ」
「クゥーン……」
玉犬は申し訳なさそうに耳を伏せる。
その先にあるのは周囲の家屋から離れた場所に建つ大きな廃屋だった。
壁はところどころ剥がれており窓ガラスも幾つか割れている。
長い間、人が使っていないのは一目で分かった。
「これじゃあアイツらは使えないな」
鵺と満象の実力を試すには少々狭すぎる。
鵺は飛行能力を活かそうにも屋内では満足に動けない。
満象に至っては、あの巨体で動き回れば建物そのものを壊しかねない。
そうなれば誘拐された子供も犠牲になるだろう。
……今回はは諦めるとしますかね。
「ちょっと探って来てくれ」
そう言うと玉犬は廃屋内に侵入する。
対する俺はその場に立ったまま右目を閉じた。
次の瞬間、視界が切り替わる
玉犬が見ている景色が右目に映し出された。
これは式神との感覚共有だ。
本来の伏黒恵が使えたのかは分からない。
だが冥冥や羂索も式神を介した感覚共有を行っていた。
ならば十種影法術でも同じことが出来ても不思議ではない。
それはともかくとして玉犬の視界を通して内部を探っていく。
内部は想像以上に荒れていた。
床板は腐っており天井からは水が染み出している。
奥へ進むと数人の子供がいた。
そして呪霊が彼らに黒ずんだ何かを配膳している。
気になるのは呪霊の姿だった。
頭部が幾つも積み重なっている。
その中でも一際大きな顔から腕と脚が生えていた。
……この見た目、どこかで見たことがあるな。
そんなことを考えていると呪霊と目が合う。
どうやら気づかれてしまったらしい。
次の瞬間、こちらへ向かって襲い掛かってくる。
まあ玉犬はデカいから残念でもなく当然だな。
「戻れ!」
俺は急いで視界共有を切り玉犬を影へ戻す。
今の玉犬ならタイマンでも倒せそうだったが万が一があるからな。
これで子供たちがいる場所も、呪霊の位置も、廃屋の構造も把握できた。
後は祓うだけである。
「蝦蟇、大蛇」
影絵を結んで2体の式神を顕現させる。
玉犬も地味に巨体なので狭い屋内では動きづらい。
こういう場所では小回りの利くコイツらの出番だ。
「相変わらず慎重だねぇ。たぶん呪霊の強さも3級か2級くらいでしょ。ぶっちゃけ今の恵なら余裕なんじゃない?」
「油断して負けるとかダサいじゃないですか」
冷やかしてくる五条先生を尻目に俺は廃屋内へ足を踏み入れる。
そして玉犬がいた部屋へ向かうと廊下の先から声が聞こえてきた。
「ごごご、ごははん……ごはんよォ!」
先ほどの呪霊だ。
何かをぶつぶつ呟きながら徘徊している。
周囲を警戒しているようだが俺の存在には気付いていない。
つまり奇襲のチャンスだ。
「大蛇」
「シャーッ!」
俺の命令に反応して大蛇が床を這うように疾走する。
そして巨大な口を開き呪霊に噛みついた。
「ごごっ!?」
大蛇の牙が呪霊の身体へ食い込むが倒すには至らない。
倒せないほどではないが割と強いな。
鵺と満象の相手としては丁度よさそうなのに……。
「ご、ごぉっ!」
呪霊が怒りの声を上げる。
大蛇へ向かって拳を振り上げた。
「蝦蟇」
「ゲコッ!」
蝦蟇が大蛇の前へ飛び出す。
そのまま呪霊の拳を受け止める、ことはなかった。
触れた瞬間、身体の表面をツルリと滑っていく。
蝦蟇の身体を覆う油のような呪力が攻撃の軌道を逸らしたのだ。
真正面から受け止めるよりも衝撃が逃げるので受けるダメージも大きく軽減される。
ある程度の威力を持つ攻撃には軽減しきれないが雑魚相手には効果覿面だ。
マジで万能の呪力特性である。
「オオオッ!?」
すると呪霊は口から紫色の血を吐き出して苦しみ始めた。
もちろん大蛇にも蝦蟇と同じように術式の解釈を広げている。
蝦蟇に油の性質を与えたように大蛇にもヘビらしい性質を一つ加えてみた。
安直だが蛇といえば毒。
というわけで大蛇の牙に毒の性質を持たせてみた。
「これで終わりだな」
呪霊は動かなくなり、その身体が煙へと変わっていく。
これにて任務完了だ。
保護した子供たちは伊地知さんに任せて俺たちは廃屋を後にする。
「モテちゃうかもよ?」
少し歩いたところで五条先生が妙なことを言い出した。
「何の話ですか?」
「ほら、あそこ」
五条先生が指差した先にはバス停の近くに立つ少女がいた。
薄汚れた服に伸び放題の髪。
どう見ても普通の生活を送っている人間には見えない。
さっき倒した呪霊に捕まっていた子供の1人か。
俺たちの後を追って、ここまで来たのだろう。
……いや、ちょっと待てよ。
呪霊の見た目、現場の状況、そして今の時期。
もしかすると彼女は来栖華か?
だとしたら今のうちに仲良くなっておくのは悪くない。
原作では五条先生を封印された後に天使を探し回ることになる。
彼女と早い段階から親しくなっていれば、その手間を省ける可能性がある。
だが、それはそれで問題がある。
下手に俺たちと親密になれば羂索の行動が変わるかもしれない。
天使は獄門疆の封印を解除できる術式を持つ。
奴からすれば絶対に野放しにしたくない存在だ。
その受肉体候補に五条悟と親しい術師の知人を選ぶだろうか?
「無ー視ーすーんーなーよー!」
いつものように五条先生が俺の頭をワシャワシャと掻き回す。
天使が俺たちに非協力的な人物に受肉したら面倒なことになる。
なので原作と同じように距離を置いておくのが無難だ。
とはいえ完全に無視するのも感じが悪い。
俺は五条先生の手を振り払い少女の方へ歩いていく。
「え、えっと……ありがとう」
「礼なんていい。それよりも無事で良かった」
「う、うん」
「じゃあ、またな」
「……またね」
少女は戸惑いながらも小さく笑った。
名前も聞かない。
連絡先を交換するつもりもない。
この程度なら問題ないだろう。
「ヒューヒュー!」
背後から五条先生の冷やかす声が飛んでくる。
未来を変えるのは簡単だ。
だからこそ余計な手を加えない慎重さも必要になる。
まあ俺が伏黒恵に転生した時点で今更な気もするけどな。
最後まで読んでくれてありがとうございます!
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