スイートプリキュア♪ -ArrangeScore-   作:おとともの

11 / 12
ep11.「フィニャーレ! 未来へ続くみんなの組曲ニャ!」

鍵盤の架け橋が空に伸びていく。響が、奏が、和音が、聖歌が、皆がマイナーランドからメイジャーランドへと帰還する。

 

今度の架け橋は、王宮の玉座の間ではなく、城の入り口前に降ろされた。

 

城の大きな入り口から、地面につきそうなほど長いドレスを足で踏まないよう器用に走りながら、アフロディテが姿を現す。

 

その後ろからは様々な容姿のメイジャーランド人達も現れるが、皆疲労の色が強い。終焉のメロディの力を抑えるために演奏していた者達だ。

 

「みんな……よく無事に帰って来てくれました」

 

響達の姿を確認して、自身も疲労の色をにじませながらも、安堵の表情を見せるアフロディテ。

 

「アフロディテ様~! 伝説の楽譜だニャ!」

 

「それに、これも……」

 

ハミィが伝説の楽譜を持ち上げてみせ、響も両手で抱えていたヒーリングチェストを差し出す。ヒーリングチェストが響の手から浮き上がり、上蓋が開いて中央の宝石からクレッシェンドトーンの半透明な姿が宙に映し出される。

 

「アフロディテ。これまで苦労をかけましたね」

 

「クレッシェンドトーン様……あなたのご帰還をお待ちしておりました」

 

アフロディテが恭しくお辞儀をする。彼女はメイジャーランドの女王ではあるが、クレッシェンドトーンはメイジャーランドの誕生からこの国を見守り続けた偉大な大長老のような存在である。そして、ヒーリングチェストがメイジャーランドから失われて以来、数年ぶりの帰還でもあった。

 

「演奏しながらも戦いの様子は見届けていたわ。プリキュア、ハミィ、みんな。本当によくやってくれました」

 

ハミィが差し出した伝説の楽譜をアフロディテが受け取り、響達とハミィにねぎらいの言葉をかける。

 

「わたし達だけの力じゃ無理でした。かのん町のみんなの音楽が、力を貸してくれたから」

 

「かのん町の人達が?……確かにあの時、消えかけていた音の力が途中で大きくなって…………あれは地上の人達の……そう……そういう事だったの…………」

 

響は戦いの中で自分達を励まし、力を与えてくれた人々に想いを馳せる。アフロディテは戦いの映像は見ていても、あの場の皆が感じた音楽そのものは聞こえていなかったのだろう。響に言われて、その事実を噛みしめるような様子を見せる。

 

「そして……」

 

伝説の楽譜とヒーリングチェスト。メイジャーランドの宝があるべき場所に還って来た形だが、帰還したのは響達やクレッシェンドトーンだけではない。ヒーリングチェストを奪った張本人、メイジャーランドを去ってマイナーランドを興した人物、メフィストがそこに居た。

 

音の力のリングで身体を拘束され、メイジャー3が周りを固めている。アコは少し離れた場所に立っている。

 

アフロディテの悲しげな眼がメフィストに送られ、メフィストは落ち着いた表情をしているが、それ以上の感情は見せなかった。

 

「メフィストの処遇は改めて決める事になるでしょう。ですが、まずは幸福(しあわせ)のメロディを歌わなければ」

 

個人的な感傷を女王としての立場の仮面で覆い隠したアフロディテ。己の立場としてやらねばいけない事の優先順位を明確にする。

 

「終焉のメロディの影響で、伝説の楽譜の音符も多くが失われてしまったわ。幸福のメロディを完全なものには出来ないけれど、楽譜を編集してなんとか歌える状態にします。皆も疲れたでしょう。準備が済むまで休んでいてちょうだい」

 

その言葉は演奏を行っていたメイジャーランドの有力者にも向けられた言葉だったようだが、響達もメイジャーランド側の人々も、異論のある者は一人もいないようだった。

 

「……ハミィ。あなたの歌姫としての力を貸して。幸福のメロディを再び形にするために」

 

「分かったニャ!」

 

「アフロディテ。私はプリキュア達と話しておかなければいけない事があります」

 

「分かりました。伝説の楽譜の事はお任せください」

 

ハミィはアフロディテと共に城の中へ、メイジャー3もメフィストを連れて中へと姿を消す。アコはちらりと一瞬自分に振り返った父の背を見送った。

 

 

---

 

 

城下町を挟んで城の反対側にある巨大な湖のほとりで、響、奏、和音、聖歌、そしてアコが並んで湖を……湖に映る映像を見下ろしていた。

 

クレッシェンドトーンが、その力で湖面に地上の様子を映し出していたのだ。

 

「良かった、ママ、元気そうで……」

 

「奏太達も……」

 

「みんな、元気を取り戻してるみたいね」

 

響は映像に映し出された元気そうな様子の母を見て安堵する。地上からの演奏でその想いは届いていたが、それでも母がギガトーンに捕らわれてから無事をちゃんと確認した訳ではなかったので、元気な様子を見られただけでも気持ちは楽になった様子だった。

 

アコや奏も、そして和音や聖歌も、切り替わっていく映像の中で自分の家族や友人たちの無事な姿を確認する。

 

「でも、みんなわたし達の事探してるんじゃないかな……」

 

「あっ、確かに! わたしやみんなも、ピアノのコンクールの後行方不明になってる!?」

 

「……なるべく早く帰りたいけれど、ハミィの最後の仕事も、見届けないといけないわよね……」

 

和音が口にした懸念によって、響が他の人たちから見た自分たち自身の状態についてようやく気付く。

 

すぐにでも皆の所へ帰って無事を知らせたい。それは皆の共通の想いだったが、聖歌の言うように、ハミィが行う最後の仕事――幸福のメロディが歌われ、世界に平和が戻る――によって響達プリキュアの使命は全て果たされる形となる。その最後の瞬間を見届けたいという想いも、皆同じだった。

 

「そういえばクレッシェンドトーン様、話さなければいけない事って、一体何なんですか?」

 

奏の言葉に、皆の視線がクレッシェンドトーンの姿に集まる。

 

「まずは……謝らなくてはいけません。あなた達をメイジャーランドの問題に巻き込んでしまった事。地上人であるあなた達を戦わせてしまった事に」

 

クレッシェンドトーンの言葉に、皆押し黙ってしまう。クレッシェンドトーンに怒りを感じたから、ではない。プリキュアとなった事に後悔したり、恨みを覚えている者など四人の中にはいない。ただ、クレッシェンドトーンの謝罪の言葉に、「そんな事はない」ときっぱり言い切るのも、クレッシェンドトーンの言葉を無下にするようで、なかなか口に出せなかったのだ。

 

「……そういえば、不思議だったんですけど、なんで地上のわたし達がプリキュアに選ばれたんですか?」

 

「私も、それが気になっていました。メイジャーランドの方々は音の力を操り、高い音楽の才能もある……私達より、プリキュアになる資格があるように思うのですけど」

 

思いがけず気まずい空気になってしまったのを気にしてか、和音が疑問を口にする。聖歌もまた、和音と同じ疑問を持っていたようだ。

 

「地上人から資質ある者……ハートマークのト音記号を持つ者が現れ、プリキュアの力を得る事……それは私が望んだ事なのです。あなた達が巻き込まれたのは私の責任……だからこそ謝らなければならなかった」

 

「クレッシェンドトーン様が……望んだ?」

 

「ええ。あなた達の言う通り、プリキュアとはメイジャーランド人から選ばれるはずのものでした。メイジャーランドは世界のメロディの調律のために生まれた国……ならば、世界のメロディに危機が生まれた時、率先して戦うべきなのはメイジャーランド人のはず。私も最初はそう考えていました」

 

クレッシェンドトーンの語る言葉は、筋の通った内容だ。しかし、続く言葉はクレッシェンドトーン自身がそう思いながらも考えを改めたという事を示している。

 

「……ですが、実際にその危機が生まれた時、プリキュアが生まれた時……私は、パートナーである彼女を、犠牲にしてしまった。……メイジャーランドでは”伝説の戦士”として語られていますが、そこにあったのは、一人の人間を犠牲にした悲劇だったのです」

 

「それって……」

 

響達が顔を見合わせる。メイジャーランド人から生まれた、伝説の戦士。それを犠牲にした記録。皆は、犠牲になったという過去のプリキュアに対して想いを馳せた。

 

「その時、私は一人の人間に全てを託す限界というものに気付きました。……だから私は、自分の力を八つに分け、四人のプリキュアに……複数の人間が心を響かせ合う事によって生まれるハーモニーパワー……それを力とする者に可能性を託したのです」

 

「そうして生まれたのがボク達なんだドド!」

 

ヒーリングチェストの周りに八体のフェアリートーンが勢いよく飛び上がる。クレッシェンドトーンは、我が子とも言えるフェアリートーン達を慈しむように見渡す。

 

「お前達も、よく使命を成し遂げてくれました」

 

「……でも、わたし達って最初はハーモニーパワーなんて全然なくって」

 

「私も、最初は響となんて一緒にプリキュア出来ないって言ってたし……」

 

響と奏が今となっては懐かしい、プリキュアになりたての頃を考えて恥ずかしそうな表情を見せる。しかし、クレッシェンドトーンは身体をゆっくり左右に振った。

 

「ハーモニーとは、最初から完成されたものであればいいという訳ではないのです。むしろ、それが生まれるまでの過程こそ重要。響。奏。和音。聖歌。……あなた達は、私が求めていたものを、望んでいたものを、そのハーモニーによって示してくれました。だから……感謝もしたいのです。本当に……ありがとう」

 

「クレッシェンドトーン様……」

 

四人は、クレッシェンドトーンの言葉の意味を完全に理解出来た訳ではなかったが、クレッシェンドトーンが自分たちの今まで行ってきた事を認め、高く評価している事ははっきりと理解した。

 

「……でも、今のお話だと、地上の人間から選ぶ理由にはならないのでは?」

 

「…………それは」

 

クレッシェンドトーンの言葉は根本的な疑問からややズレた内容になっている事に気付き、聖歌が再びの疑問を口にする。クレッシェンドトーンが少し間を置いて疑問に答えようとした時だった。

 

……歌が、鳴り響いた。

 

大きな音という訳ではないのに、身体の芯から芯に通り抜けるような、はっきりと響く歌声。メイジャーランド全体、いや世界全体に響き渡るかのような、澄み切った声。それは城を中心に広がっていた。

 

「えっ!? 幸福のメロディ、もう歌い始めちゃったの!?」

 

和音が困惑する。城から広がる歌声……状況から考えると幸福のメロディが歌われ始めたと考えるのが普通だ。

 

「これが、幸福のメロディ……?」

 

「確かに、綺麗な歌、だけど……」

 

「なにか……変だわ」

 

響、奏、聖歌、そして和音も、その歌に妙な引っかかりを覚えていた。

 

響達は幸福のメロディを聞いた事がないので、それを今まで想像するしか出来なかった。確かに心が洗われるような、美しい声と旋律。だが、その美しい歌声には、どこか突き放したような冷たさが含まれている。

 

そして、印象の話だけでなく、聞いている内に明らかにおかしな点に皆が気づく。

 

「これって、輪唱……?」

 

「幸福のメロディは、歌姫が一人で歌うはずじゃ……?」

 

響とアコが困惑の表情を浮かべる。最初は一つの歌声だったのが、一つの声を追いかけるようにもう一つの声、また別の声が順々に同じ旋律を繰り返す。一人の歌い手だけでは出来ない歌い方だ。

 

重なり追いかけていく声がだんだんと増えていき、旋律が幾重にも繰り返される。心地の良い歌声のはずなのに、それを聴き続けていると、迷路の中で同じ景色をぐるぐると歩き続けているような妙な感覚に囚われる。

 

「ああ、なんて美しい歌声なの……」

 

「心が洗われるようだわ……」

 

城下町の人々が口々に歌への賞賛の声を上げる。皆幸せそうな表情を浮かべているが、それは心を囚われるという状態を通り越して恍惚の表情となっていた。

 

「アンタ達!」

 

響達が人々の様子に戸惑っていると、湖の縁に沿って駆けて来る者がいた。

 

「セイレーン! メイジャーランドに来てたの!?」

 

「そんな事はどうでもいい! こんな所で何をボケっとしてるの!?」

 

マイナーランドで皆の前から逃亡したセイレーンの姿がそこにあった。後ろにはトリオ・ザ・マイナーが響達と同じような困惑の顔を見せている。

 

必死そうに苛立った声を出すセイレーンの言葉の意図を正確に理解していたのはクレッシェンドトーンだけだった。

 

「……これは、幸福のメロディなんかじゃないわ!」

 

 

---

 

 

城の中を走り抜ける響達。

 

「な、なあ、俺達はなんでついて来てるんだ?」

 

「つい流れで追いかけて来てしまいましたが……」

 

「でも、このまま何もせず帰るという訳にも……」

 

異変を感じ取って目的の場所へと急ぐ響達の後ろを、何故かトリオ・ザ・マイナーも一緒について来ていた。

 

城内には様々な姿のメイジャーランド人がいたが、町の人達と同じように恍惚とした表情を浮かべて歌に聴き入っており、セイレーンやトリオ・ザ・マイナーが城内を走り回っている事を気にする素振りも見せない。

 

「あ~アフロディテ様~メロディが、メロディが聞こえます~~」

 

途中には、アフロディテの側近のオウムも居たが、彼も聞こえている音楽に囚われている様子で、宙で同じ場所をぐるぐる回って飛び続けている。

 

それらに構っている余裕はない。響達が階段を駆け上がり、開かれた玉座の間の空間に着くと、異様な光景が皆の目に飛び込んで来た。

 

「な、何よこれ!?」

 

玉座の前には、宙に浮かぶ巨大な光の球体のようなものがあり、その傍らには同じような小さな球体が浮かぶ。

 

小さい球体にはハミィが身動きできない様子で浮かんでおり、巨大な球体には歌を歌い続けるアフロディテと伝説の楽譜が浮遊した状態で収まっていた。

 

二つの球体の表面には二重線が球体を取り囲むように無数に存在し、その二重線の間を光り輝く音符が衛星軌道のように走り続け、一回転する度に声を……アフロディテと同じ声を発し、無数の音符がそれぞれのタイミングでそれを続ける事で輪唱が発生している。アフロディテを包む球体には無数の音符が走り、ハミィを包む球体には数個の音符が走る。数は違うが構造は同じ。

 

巨大な球体の中で伝説の楽譜を開いて歌い続けていたアフロディテがそれを止め、響達に視線を降ろす。

 

「やはり、来てしまったのね、プリキュア……」

 

「みんニャ、アフロディテ様を止めてニャ~!」

 

「ハミィ!……アフロディテ様、一体、何をしているんですか!?」

 

「ハミィが幸福のメロディを歌うはずなんじゃ……それをこんな風に閉じ込めるなんて……」

 

ハミィが球体の中から響達に訴えかけ、それを見た響と奏が困惑と悲しみの表情を浮かべながらアフロディテに疑問をぶつける。

 

「ハミィは音符を操る力がある。だからこの儀式が完成するまでは、動かないでいてもらう必要があったの。メイジャーランドの人々にも邪魔をされる訳にはいかなかった。……でも、全てが終われば、みんな元に戻るわ」

 

「この儀式……?」

 

「全てが終わったらって……」

 

「アフロディテ。伝説の楽譜を、どうするつもりなのですか」

 

和音と聖歌はアフロディテの説明に戸惑いを隠せない。ヒーリングチェストが皆の前に浮かび上がり、クレッシェンドトーンが尋ねると、アフロディテは表情を曇らせた。

 

「プリキュアのおかげで終焉のメロディは止められ、音の力も蘇りました。ですが、依然として音の力は大きく弱まったまま。そして、伝説の楽譜の音符は大部分が消えてしまい、幸福のメロディを完全な状態で歌う事もままならない」

 

アフロディテは穏やかな笑みを皆に見せた。それは、相手を安心させるようなものに見えるのと同時に、何かを諦めた上での清々しさを感じさせるものでもあった。

 

「だから私は考えたのです。残された音符の力を最大限に使い、世界のメロディに安寧をもたらす方法を。円環の中で回り続ける音符たちが、私の声に続き輪唱を繰り返す……始まりが終わりに繋がる音符の輪唱が形作る、この”無限カノン”の結界が、私を永遠の歌姫へと変え、そして、世界のメロディに永遠の安定をもたらす……そう、これは『幸福のメロディ』ではない。世界に永遠の安定を約束する、『永遠のメロディ』なのです」

 

「永遠のメロディ?……永遠の歌い手?」

 

「まさか、アフロディテ様は……その中で永遠に歌い続けるっていうんですか!?」

 

「……ええ。これはメイジャーランドの女王である私がやらなければいけない事なの」

 

アコと奏の困惑の言葉に、アフロディテは事もなげに、微笑みを絶やさず答える。

 

「だからって、そんな……!」

 

「どうして、誰にも言わずそんな事を……」

 

和音と聖歌。二人にはアフロディテの意図は分かっても、そう考えるに至った気持ちが理解できない。

 

だが、響は、アフロディテがこんな行動を取った理由が分かるような気がしていた。

 

「……メフィストの事、責任を感じてるんですか」

 

「………………」

 

響の周りの皆が「まさか」といった顔で響とアフロディテをそれぞれ見る。それまで作っていた微笑みの表情を変えなかったアフロディテが、メフィストの名に顔を曇らせる。

 

「私とメフィストは、小さい頃から肩を並べ、競い合う関係でした。いがみ合う事も多かったですが、少なくとも、同じ目線でメイジャーランドと、王になるという目標を見ていた者同士だったのです」

 

遠い過去を見つめるように語るアフロディテ。

 

「ですが、私はあの男の事を何も理解していなかった。ただ王の座につけなかった悔しさから復讐を考えているだけだと……隣に居たはずなのに、その気持ちを、何一つとして理解していなかった。……理解者が一人でもいれば、メフィストがあそこまでの暴走をする事はなかったかもしれない」

 

「パパの事で、アフロディテ様がそんな風に思う必要なんてない! あたしや、ママだって、パパの事は理解してあげられなかったのに……」

 

「ミューズ……」

 

アコの必死な訴え。父と想いを伝えあい、和解できた今だからこそ、アフロディテに父のために犠牲になって欲しくない、そういう気持ちがその言葉には込められていた。

 

「フン、敗者のみじめな気持ちに共感してやれるヤツなんていないわよ」

 

「セイレーン……」

 

自虐的に言うセイレーンを、結界の中のハミィが見つめる。ハミィも、セイレーンの気持ちを今まで理解できていなかった。アフロディテとメフィストの関係は、ハミィとセイレーンの関係にも重なるものでもある。

 

「……そうかもしれないわね。だけど、メフィストの語った内容が正しければ、私の女王という肩書きも、ただ形だけのものでしかない」

 

メフィストは語った。王を決める選定の中で、メフィストを王にさせないという動きがあった事を。最後の儀式の遥かに前から、アフロディテが王になる事は決まっていたと。

 

「そして、おそらくメフィストの言った事は正しい。音楽の国、メイジャーランドは、いつの間にか音楽の実力が序列と権威を決める国になってしまっていた。それも、世界のメロディを守るという名目があってのものなのに…………音の力が危機に瀕したあの時、それを救ったのはメイジャーランドではなく……プリキュア達と地上の人々の演奏だった」

 

プリキュア達とメフィストの戦いを、アフロディテは悲し気に振り返る。響達にとっては絶望が皆の力によって希望に変わった戦い。しかしアフロディテにとっては自分たちの無力さを痛感させられた戦いでもあった。

 

「クレッシェンドトーン様。新しいプリキュアが地上の人々から選ばれるようになっていたのは、音楽を力や権威として見てしまうメイジャーランド人の限界に気付いていたからなのではないですか?」

 

「…………………」

 

アフロディテのどこか寂し気な言葉に、クレッシェンドトーンは沈黙して答えない。響達は思う。先ほどクレッシェンドトーンに問い掛けた、プリキュアが地上人から選ばれる理由。その答えがこれなのかと。

 

「だから……メイジャーランドはもう、役目を終えるべきなのかもしれない」

 

「役目を終える……あ! 永遠のメロディが世界のメロディの安定を約束するなら、メイジャーランドの役割も無くなる……?」

 

「そんな……それじゃ、メフィストと同じ……」

 

奏が気づいた事実。メフィストは終焉のメロディで音や音楽を消し去ろうとしており、それによってメイジャーランドの役割が消える可能性があった。しかし、アフロディテの歌おうとしている永遠のメロディも、メイジャーランドの役割を消してしまう可能性を孕んでいる。アフロディテがメイジャーランドという国の根幹を揺るがしてでも永遠のメロディを完成させようとしている事実に、和音は動揺を隠せない。

 

それまでアフロディテの言葉を聞きながら沈黙し続けていたクレッシェンドトーンが、再びゆっくり上昇し、存在感を示し始める。

 

「……役目を終えるべきは、メイジャーランドではありません」

 

「クレッシェンドトーン様?」

 

クレッシェンドトーンの姿を不思議そうに見るアフロディテ。響達もクレッシェンドトーンの動向に注目する。

 

「私の作った伝説の楽譜が大きな力を持ちすぎていたせいで、人々に『音楽とは、大きな力で制御するもの』という誤った認識を与えてしまい、メフィストやあなたの心を惑わせてしまいました。だから……」

 

クレッシェンドトーンはそのつぶらな瞳を細めて、強い言葉でそれを言い放った。

 

「…………伝説の楽譜を、破壊します!」

 

「なっ!?」

 

「「「「「えっ!?」」」」」

 

「伝説の楽譜を……」

 

「……破壊するですって!?」

 

クレッシェンドトーンのその言葉は、アフロディテだけでなく、響達やハミィとセイレーンにも大きな衝撃と動揺を与えるものだった。

 

「そんな、何を仰っているのです、クレッシェンドトーン様! 伝説の楽譜は、あなたがこの世界に安定をもたらすために作り上げた物のはず!」

 

「楽譜は音楽を奏でるためのもの。ですが音楽を奏でるのに楽譜は必ずしも必要とはしない。……世界がメロディを奏でるのに、そもそも伝説の楽譜は必要ないのです」

 

「ですが……だったら、何故!?」

 

納得できない様子で必死に食い下がるアフロディテに、クレッシェンドトーンが説明を続ける。

 

「私がこの世界に音の種を産み落とした時、私は、この世界に生まれる者達が音をどんな風に扱うのかが分からなかった。音は悲しみや怒りの感情を乗せて響かせる事も出来る。そして、その音を受けて負の感情を心に響かせた者が、またその感情を音に乗せ周囲に広げていく……音は幸せや愛を届け、広げる事が出来るものですが、その逆もあり得る……悲しみや嘆きの音が、際限なく反響し続けて世界を覆い尽くしてしまう可能性もあった」

 

クレッシェンドトーンが語るのは、音をこの世界に生み出した者の視点から考えたこの世界の音の在り方。無秩序の状態で生み出された力が、無軌道に使われてしまう可能性を、クレッシェンドトーンは危惧していた。

 

「だから、私は伝説の楽譜を作り、音の力が暴走しないように、世界の音を調律する幸福のメロディをそこに記したのです。全ては、私の不信によるもの。……ですが、もういいでしょう。プリキュア達が、響達が見せてくれました。ぶつかり合う心と言葉の中で、真のハーモニーを生み出せるという事を」

 

「しかし……それは……」

 

クレッシェンドトーンの説明と想いを聞いても、アフロディテはそれを素直に飲みこむ事が出来ないでいる。

 

クレッシェンドトーンがヒーリングチェストと共に今度は響達に向き直った。

 

「皆さん、力を貸してください。アフロディテの心を封じているあの結界を打ち破り、彼女を伝説の楽譜の呪縛から解き放ちます」

 

「でも、伝説の楽譜を、壊しちゃうなんて……」

 

アフロディテに限らず、響達もクレッシェンドトーンの決断をそのまま無条件に受け入れる事は出来なかった。今までの戦いは伝説の楽譜を巡る戦いであり、楽譜や幸福のメロディを取り戻すためのものでもあったのだから。

 

「もともと、伝説の楽譜は世界に広がる音の力を私が集めて作り出したもの。それを……ただ、あるべき形に戻すだけなのです」

 

「だけど……」

 

メイジャーランドでの伝説の楽譜の扱いを、響達は話の上でしか知らない。しかし、ハミィやセイレーンの因縁の中心にあったものでもあり、そんな二人の因縁に関わり続けた四人だからこそ、メイジャーランドで伝説の楽譜がどれだけ大事なものであるのかも、彼女達なりに受け止めてもいた。

 

「……アフロディテを、救わなくてはいけません。アフロディテの心を救うのは、このような贖罪の形ではないはずです」

 

その言葉を聞いて、響達の顔に伝説の楽譜を破壊するという事に対する不安や抵抗感だけでなく、使命感が浮かび始める。最後の最後で……アフロディテに全てを押し付けて終わりにしてはいけない。

 

「アンタ達、いつまでグズグズ言ってんのよ」

 

響達が気持ちに整理をつけ始めていた時、セイレーンが皆の前に歩み出た。

 

「幸福のメロディを書き記す事も出来ない上、アフロディテの手垢まみれの伝説の楽譜になんて、もうなぁ~んの価値もないわ。燃えるゴミの日に出した方が清々するってもんよ」

 

「セイレーン……」

 

響達には分かっている。セイレーンはこの中の誰よりも、伝説の楽譜と幸福のメロディに強いこだわりがある。そのセイレーンがあえてこんな事を言うのは、迷っている皆の背を押すためだ。

 

「そうだよね……私達は伝説の楽譜を取り戻して、幸福のメロディを完成させるために戦ってきた。……でも!」

 

セイレーンの最後の一押しを受けて、奏が吹っ切れた表情を見せる。

 

「こんな結末のために戦ってきた訳じゃない!」

 

和音も、覚悟を決めてキュアモジューレを取り出す。

 

「最後まで、やり遂げましょう、私達の手で!」

 

聖歌も、強い意思でキュアモジューレを構える。

 

……だが。

 

「……響?」

 

「……………………」

 

他の三人がキュアモジューレを構えて変身の体勢を取っている時に、唯一、響だけが取り出したキュアモジューレを見つめて黙っている。

 

――予感がする。

 

(これが…………)

 

マイナーランドに向かう時、三人でマイナーランドでの決戦のため変身した時にはなかった、確かな感覚。

 

(これがきっと……本当に、最後の変身だ…………)

 

プリキュアとしての戦いに、これまで歩んできた道のりに、全てに終わりを告げる、本当に……最後の変身。

 

「……ごめん。なんでもない。…………行こう、みんな! アフロディテ様の心の呪縛を解いて……」

 

「「「「全てに決着をつける!」」」」

 

「ドドッ!」「レレッ!」「ララッ!」「ドドーッ!」

 

最後に響がキュアモジューレを構え、ハモッた声に呼応して桃・白・青・紫の四色のフェアリートーンが飛び上がり、それぞれの高さの音を発する。

 

「「「「レッツプレイ! プリキュア・モジュレーション!」」」」

 

フェアリートーンが各キュアモジューレにセットされ、光の粒子となって内部に吸収される。キュアモジューレを左手の手のひらに押し付けて、スイッチが入ると、中央の透明水晶からハートマークに囲われた黄金のト音記号が飛び出した。

 

音の力が光の帯のようになって四人の身体を包んでいき、伝説の戦士、プリキュアの衣装を形作る。髪の毛もほどけ、別の形に纏め直され、プリキュアの姿としての髪色、髪型を形成する。

 

「爪弾くは荒ぶる調べ! キュアメロディ!」

 

「爪弾くはたおやかな調べ! キュアリズム!」

 

「爪弾くはほとばしる調べ! キュアビート!」

 

「爪弾くは煌めく調べ! キュアシンフォニー!」

 

「「「「届け! 四人の組曲! スイートプリキュア!」」」」

 

周囲を覆う光が弾けて消えると、そこには四人の伝説の戦士の姿が揃い、四人でそれぞれ……そして四人で声を合わせてその名を轟かせた。

 

「…………永遠のメロディは……完成させます。たとえ伝説の戦士が相手だろうと、止めさせはしない」

 

「アフロディテ様……!」

 

アフロディテはプリキュアを前にしても、悲壮な決意を止める事はなかった。

 

変身完了したキュアメロディ、キュアリズム、キュアビート、キュアシンフォニーの四人、そしてアコとセイレーンが前に駆けだそうとしたその時だった。頭上から落下してきた三つの影が皆の前に立ち塞がるように着地する。

 

「えっ!?」

 

「あなた達は……」

 

「メイジャー3!?」

 

アフロディテの近衛兵にして、マイナーランドで身体を張ってメロディ達を助けた三人の男達がそこに居た。

 

しかし、今の三人はメロディ達の方を向いており、明らかにプリキュア達がアフロディテの所に向かうのを止めるために立ちはだかっている。

 

「メイジャー3! どうして!? マイナーランドでは助けてくれたのに!」

 

「すまないねぇ、お嬢ちゃん達。僕らはアフロディテ様の近衛兵なんだ」

 

アコの悲しそうな訴えに、フラットは眼鏡のブリッジを押さえながらはっきりと言う。眼鏡が光を反射するせいで、目元が見えない。

 

「アフロディテ様は自分を犠牲にして、永遠に歌い続けようとしてるんだよ!? それなのに、あなた達はそれでいいの!?」

 

「主君が覚悟を決めたなら、それに従うのが臣下ってものさ」

 

メロディの言葉にも、キザっぽい口調できっぱり言うシャープだったが、その目線はメロディ達から逸れている。

 

「君達がどうしてもアフロディテ様を止めたいと言うのなら、僕達を踏み越えていくしかないね」

 

ナチュラルは挑発的に言いながらプリキュア側を見ているが、その視線にはメロディを攻撃の嵐から庇った時のような決然とした意志は感じられない。

 

ピンチの時に身体を張って助けてくれた三人を前にして、メロディ達はまたも躊躇する。メイジャー3の後ろでは、アフロディテが永遠のメロディの歌唱を再開している。このまま時間稼ぎをされれば、永遠のメロディが完成してしまう。

 

「チッ、アンタ達に構ってる暇はないのよ!……行けっ! トリオ・ザ・マイナー!」

 

「ええッ!?」

 

「私達ですかぁ!?」

 

その場の流れで一同に加わって、後ろで成り行きを見守っているだけだったトリオ・ザ・マイナーが急にセイレーンから指示を飛ばされて驚愕の声を上げる。バリトン、ファルセットは困惑の色を隠せず、バスドラはあからさまに苛立った様子だ。

 

「お、おい! あんたはもう俺達の上司でもなんでもないんだぞ!」

 

「いちいち口答えすんじゃないわよ! ほらっ、さっさとお行き!」

 

トリオの後ろに駆け戻り、バスドラを背中から蹴りつけるセイレーン。バスドラは前のめりになって前に出てきてしまい、バリトンとファルセットも釣られて歩み出てしまう。

 

フラットの前にバスドラ、ナチュラルの前にバリトン、シャープの前にファルセットが対峙する格好となり、睨み合いになっているその隙にメロディ達がメイジャー3の横を通り抜けていく。

 

「ごめん! ここは任せるよ!」

 

横を通り過ぎる際にビートが声だけかけて行く。

 

しかし、トリオ・ザ・マイナーを前にして、メイジャー3は余裕の表情だ。

 

「へぇ、君達はメイジャーランドの落ちこぼれで、だからマイナーランドでメフィストの部下になったとかいう話だったけど、アフロディテ様の近衛兵であるボク達に勝てるとでも?」

 

「えっ? い、いやぁ……その、これは……成り行きで……」

 

シャープの挑発的な言動に、ファルセットは困ったように笑みを浮かべる。

 

「君達じゃ、正直時間稼ぎにもならないと思うけどねぇ」

 

「うぬぬ……そうまで言われて黙っていられるか! 俺達にだって意地ってもんがある!」

 

やれやれといった様子で肩をすくめるフラットの言葉に対し、バスドラもそのまま引き下がる訳にはいかなくなったようだ。

 

「ふぅん、惜しいね、君はルックスは悪くないのに」

 

「お褒め頂けるのはありがたいですが……私とてトリオの一角を担う存在!」

 

ナチュラルの言葉に、バリトンが冷静に、しかし勇ましく答えた。

 

「メイジャーランド人同士の戦いとなれば……!」

 

「やる事は一つ!」

 

「こちらから行かせてもらうぞ!」

 

ファルセット、バリトン、バスドラが戦う意思を固め、そして、トリオ・ザ・マイナーが三人で声を合わせる。

 

「「「アア~アア~~~~~~~~♪」」」

 

バスドラの低音、バリトンの中音、ファルセットの高音が合わさって合唱を行う。メイジャーランド人の音を操る能力によって、広がる歌声に”圧”が生まれてメイジャー3に降りかかる。

 

しかし、それを受けてもメイジャー3は涼しい顔だった。

 

「やれやれ、やはりその程度か…………いくよ!」

 

「「「アアアアァァァ~~~~~~~~~~~~~♪」」」

 

シャープの掛け声に合わせ、ナチュラル、フラットとの三人の合唱が広がり、その声の高まりと圧は、トリオ・ザ・マイナーのそれを圧倒し、トリオは一瞬で弾き飛ばされる。

 

「どわぁっ!」

 

「やはり君達じゃその程度だね」

 

床を無様に転がるトリオ・ザ・マイナーを見て、彼らに興味を失ったように振り返ってプリキュア達の所へ向かおうとするメイジャー3だったが、後ろからのうめき声に近い声に呼び止められる。

 

「ま……待て……」

 

メイジャー3が再びトリオ・ザ・マイナー側を振り返る。よろめきながらも、立ち上がって戦う意思を示す三人の姿がそこにあった。

 

「へぇ……根性だけはあるようだね」

 

「はは……一年間、セイレーン様にこき使われて来ましたからね……」

 

ファルセットは軽い調子で笑っているが、その表情にはどこか真剣さがある。

 

「だが、何度やっても結果は変わらないよ」

 

「俺達だって……いつまでも負けっぱなしで終われるか……!」

 

フラットに軽く言われても、バスドラは歯を食いしばって闘志を絶やさない。

 

「やれやれ……しつこい男は嫌われるよ?」

 

「ぶ、無様でも……引き下がれない時もあるのですよ……」

 

ナチュラルの呆れたような様子に、バリトンは己の意地を見せつける。

 

そんなトリオ・ザ・マイナーの様子を見て、軽くあしらうつもりだったメイジャー3は、彼らに対して明確に向き直った。彼らの見せる、みっともなくとも、格好悪くとも、己のやるべき事をやろうとする姿勢……それは、メイジャー3自身がメロディを守るためにメフィストの前に立ちはだかった時の姿そのものだった。

 

「だったら、その心が折れないかどうか、試してあげるよ!」

 

三対三の戦いが継続する。メイジャー3の歌の力に圧倒されながらも、挫けず立ち向かうトリオ・ザ・マイナー、それが幾重にも繰り返される。

 

---

 

プリキュア四人とアコ、セイレーンが結界に封じられたアフロディテとハミィの前に集まった。

 

アフロディテは歌唱を続け、アフロディテを包む無限カノンの結界に音符が少しずつ加わっていく。

 

「あの結界を破らないと!」

 

「よし……ビートソニック!」

 

「ブラストトランパー!」

 

ビートがラブギターロッドの弦を弾いて無数の音符の矢を飛ばし、シンフォニーがシャイニングトランパーに息を吹き込んで光の竜巻を放つ。

 

その間にメロディとリズムも各々の武器を生成し、それぞれのベルティエをセパレートして構える。

 

「プリキュア! ミラクルハート・アルペジオ!」

 

「プリキュア! ファンタスティック・ピアチェーレ!」

 

ミラクルベルティエ、ファンタスティックベルティエ、分離させた二つの武器が描く光の軌跡がハート型のエネルギーを構築し、二人がベルティエを相手に向けて突き出すと、エネルギーが結界へと向け飛んでいく。

 

「ハミィ! 大丈夫……っ!?」

 

結界に囚われていたハミィの元に駆け寄ったアコが手を伸ばすも、結界に阻まれて手が弾かれてしまう。

 

「どいてなさい!…………アアァ~~~~~~~♪」

 

セイレーンが歌声によって、無限カノンを構成する音符を無力化しようとするが、円周上の無限軌道の中に居る音符は僅かに反応しただけで結界を揺るがす事が出来ない。

 

「駄目ニャ、ハミィも試したけど、音符は輪唱を繰り返していて言う事を聞いてくれないのニャ……」

 

ハミィが結界の中で顔を曇らせる。ハミィの力で脱出できなかったという事は、セイレーンでも対処が出来ないという事を意味している。

 

「……えっ!?」

 

そして、プリキュア側の攻撃も。ビートソニックの矢は無限カノンの結界に巻き込まれるように形を失って溶け込み、ブラストトランパーも糸を解きほぐすかのようにバラバラになって吸収され、二つのハート形エネルギーも、結界にぶつかった時点で力と勢いを失っており、そのまま形が崩れて燃え尽きるかのように揺らめいて消えた。

 

「この結界はネガトーンのような歪んだ音の力とは違います。プリキュアの力で浄化出来るものではありません」

 

「そんな……プリキュアの力も通用しないの!?」

 

歌を止めてアフロディテが冷たく言い放つ。アコが振り返って驚きの声を上げた。

 

「無限カノンは永遠に続く音楽を約束するもの……永遠のメロディは誰にも邪魔できない」

 

アフロディテが歌を再開すると、伝説の楽譜から光に包まれた音符が飛び出し、再度攻撃を加えようとしていたメロディ達四人それぞれに命中、そこから光の球体が広がり、円周軌道を描き続ける音符達によって形作られる無限カノンの結界の中に四人が封じ込められてしまう。

 

「……危ない!」

 

プリキュア達四人の後に、セイレーンを狙った音符が飛び出したが、様子をうかがっていたアコがそれに気づいて反応し、セイレーンを抱えて間一髪でそれを回避する。

 

「……終わりです。無限カノンの結界は打ち破れない。プリキュアの力も、分断されればハーモニーパワーは弱まっていくだけ」

 

冷淡に、しかしどこか悲しげに宣告するアフロディテ。セイレーンやアコが結界の外とはいえ、プリキュアを封じ込めればもう誰にもどうする事も出来ないという考えだ。

 

プリキュアの周囲を回る音符はハミィを封じるそれより遥かに多く、光の球体の輝きが中の様子を覆い隠している。そして、アフロディテは永遠のメロディを完成させるべく再び息を吸い込む。

 

だが、戦いをヒーリングチェストから見守っているクレッシェンドトーンも、セイレーンやアコ、囚われのハミィも、プリキュアが無限カノンに封じられたのを見ても不安や焦りの表情は見せない。……何かが見えている。いや、聴こえている。

 

「…………拍子!」

 

プリキュア達を包む結界の表面に、音符が作り出すのとは別の一筋の光が走り、円を形成する。

 

「いち!」

 

結界の内部からシンフォニーの声が。

 

「に!」

 

ビートの声が。

 

「さん!」

 

リズムの声が。

 

「「「「フィナーレ!」」」」

 

そして、メロディの声が。完全にハモッた状態で鳴り響き、終演の掛け声と共に音符が周回軌道から飛び出し、無限カノンの結界が霧散した。

 

「なっ!? 無限のカノンが……打ち消された!?」

 

「あなたも知っていたはず。……プリキュア達のハーモニーパワーに物理的な分断など何の意味もない」

 

メロディ、リズム、ビート、シンフォニーが武器を構えて着地する。四人が内部から作り出したトーンのリング。音の力が輪を描くそれが象徴とするのは輪舞曲(ロンド)。無限カノンと似た性質を持った音の繰り返し。しかし、それには明確な終わりがある。

 

「プリキュアの力は、悲しみを生み続ける音楽に終止符を打つ力。そしてそれは、アフロディテの完成させようとしている永遠のメロディに対しても同じ事……」

 

プリキュアが今まで対峙し、打ち破って来たのは、悪や敵というような存在ではなく、対峙する者達が持つ悲しみだった。今のプリキュアも、戦っているのはアフロディテという人間ではなく、アフロディテが生み出そうとしている悲しみの音楽そのもの。

 

「やるじゃない。無限の輪唱に自分達の音を合わせて終わりまでの道筋を作った……オラッ、ハミィ! アンタもいつまでもそんな所でぬくぬくしてんじゃないわよ!」

 

「わ、分かったニャ!」

 

「「アアァァ~~~~~~♪」」

 

セイレーンは外側から、ハミィは内側から歌声を響かせ、結界の音符を揺るがす。しかし、先ほどのセイレーンの声のように無理やり歌を終わらせて引きはがそうとするのではなく、結界を構築する輪唱に二人の声を合わせ、二人の歌の中で終わりへと導く。音符が一つずつ結界から外れていき、ハミィを拘束する無限カノンが消え去った。

 

「ハミィ! セイレーン!」

 

プリキュアの四人の前にハミィとセイレーンが走り出て、アコも皆の横に並ぶ。目の前にはアフロディテと伝説の楽譜を包む巨大な結界が残るのみ。

 

「この結界は簡単にいかなそうだ……!」

 

「私達を封じた結界とは違う。音符の密度が桁違いだわ!」

 

アフロディテを取り囲む巨大な結界は、プリキュアやハミィを封じていたのとは全く違う。永遠のメロディの本体であり、その円周上に数えきれないほどの音符が走り、それぞれが追いかけるようにアフロディテを模倣した声を発している。そして、中のアフロディテが歌を続ければ続けるほど、その音符の層は厚くなっていく。

 

「プリキュア、アンタ達のハーモニーパワーを結界にぶつけなさい!」

 

「でも、それだけじゃさっきみたいに吸収されるだけじゃ……」

 

セイレーンの言葉に疑問を投げかけるリズム。

 

「マイナーランドの結界を破った時と同じよ! 音符の結界なら……」

 

「そうニャ! ハミィとセイレーンが力を合わせれば音符を解放させられるニャ!」

 

「……そういうこと!」

 

セイレーンの意図を読み取ったハミィが元気に宣言する。メロディ達も二人がやろうとしている事を理解し、四人で視線を合わせる。

 

中央にメロディとリズムが並び、その左右にビート、シンフォニーが立つと、四人でシンクロした動きを始める。頭上で手を叩き、両足でステップを刻んで……メロディとリズムが中央で手を結び、更に開いた手でメロディがビートと、リズムがシンフォニーと手を握り合う。

 

握り合う手と手が互いを繋げ、お互いの心がハーモニーパワーを高め、それがメロディとリズムが繋ぐ手の一点に集中する。中央で突き出したメロディとリズムの掴み合う手の先にハートマークのト音記号が出現し、それが一段階、二段階と大きく膨れ上がる。

 

「「「「プリキュア! パッショナート・ハーモニーーーーーー!」」」」

 

ト音記号から四人のハーモニーパワーがエネルギーの波となって照射される。無限カノンの結界に激しくぶつかった波は結界の表面に引き込まれるが、完全に吸収はされず、黄金の光の流れが球体状の結界を駆け巡って、その表面に光の輪を作り出す。

 

「今よ!」

 

「行くニャ!」

 

「「アアアァァ~~~~~~ァァァァ~~~~~~~~♪」」

 

セイレーンとハミィが、マイナーランドでやった時と同じように声を合わせ、合唱を響かせる。

 

その歌声が、プリキュアの放つハーモニーパワーの流れに乗って、無限カノンの中に入り込んでいく。無限カノンの輪唱は、アフロディテに追従する音の模倣。しかし、そこに重なるように新たな旋律が走り、セイレーンとハミィの二人の声が、新たな先導者として終わりなきカノンに道筋を作り出す。

 

無限カノンの軌道で廻り続けていた音符が、パッショナートハーモニーの流れに引き寄せられていき、そしてセイレーンとハミィの歌によって終わりに導かれ、一つ、また一つと周回軌道から外れ、外に飛び出していく。

 

無限カノンの結界が明滅し、密度が下がり、弱まっていく。そして、ついに輪唱を繰り返していた最後の一音が軌道を飛び出し、結界が完全に弾けて消えた。

 

「そんな! 無限のカノンが……終わりを迎えた……」

 

結界の力が破られた事によって、アフロディテと伝説の楽譜がゆっくり降下していく。

 

「プリキュア! 私の力を使ってください! 伝説の楽譜を巡る争いに、終止符を打つ時です!」

 

クレッシェンドトーンがヒーリングチェストと共にメロディ達の前に浮遊してやって来る。クレッシェンドトーンの姿がヒーリングチェストの中に消えると、四人は頷き合い、ヒーリングチェストの四方を囲うように立って手をかざす。

 

「「「「出でよ、全ての音の源よ!」」」」

 

四人のハーモニーパワーがヒーリングチェストへと注ぎ込まれ、ヒーリングチェストを中心に四人を囲うような魔法陣が床に展開。八体のフェアリートーンの額から放たれた光がヒーリングチェスト中央の宝石に向け照射され、吸収される。メロディが扇状に配置された鍵盤を指でなぞると、美しい音色と共に、ヒーリングチェストの内部で力が爆発的に膨らんでいく。

 

ヒーリングチェストの宝石部から眩い光が放たれたかと思うと、それが天井に向かって収束していき、その光の流れを切り裂くかのように、内部から巨大なエネルギーの塊となったクレッシェンドトーンの姿が現れる。

 

「届けましょう……」

 

「「「「希望のハーモニー!」」」」

 

メロディ、リズム、ビート、シンフォニーが胸元で合わせた手を開き、そこから放たれた光が混ざり合って伸びていくと、伝説の楽譜に向け虹色の鍵盤の道が形成される。

 

浮かび上がっていくクレッシェンドトーンの姿に、メロディ達は引き寄せられる感覚を覚える。

 

「さあ……アコちゃん! ハミィ! セイレーン! ……みんなで一緒に!」

 

メロディがアコに、リズムがハミィに、そしてビートとシンフォニーがセイレーンに向け手を差し出す。

 

「……うん!」

 

力強くメロディの手を掴み返すアコ。

 

「行くニャ!」

 

元気に飛び上がってリズムの手にタッチするハミィ。

 

「フ……フン!」

 

少し気恥ずかしそうにセイレーンが両前足をそれぞれビートとシンフォニーの手に伸ばす。

 

キュアメロディ、キュアリズム、キュアビート、キュアシンフォニー、アコ、ハミィ、セイレーンの七人の身体が浮かび上がり、更に八体のフェアリートーンが皆を囲うように円を作り、全員がクレッシェンドトーンのエネルギー体の中に吸収される。

 

その巨大な翼をはばたかせ、宙で一回転したクレッシェンドトーンの姿は、鍵盤の道に沿って、伝説の楽譜へ向け加速していく。

 

「「「「「「「プリキュア! スイートセッションアンサンブル・クレッシェンド!」」」」」」」

 

全員の力がヒーリングチェストに結集して、クレッシェンドトーンの力が合わさった最大の技が、伝説の楽譜目掛け突き進んでいく。……だが。

 

「……いけません!」

 

アフロディテが、両手を広げて伝説の楽譜を庇うように立ちはだかった。

 

「アフロディテ様……!」

 

「伝説の楽譜を……世界のメロディを守るための楽譜を消し去るなど……メイジャーランドの女王として、そんな事を許すわけにはいきません!」

 

技は既に最後の段階に入っている。軌道を逸らす事も、力を緩める事も困難な状態。しかし、アフロディテはそんな事は承知の上で自分の身を攻撃の前に曝け出している。

 

メロディ達が技を止めるために力を込めようとしたその刹那だった。

 

アフロディテの横から、彼女を押し倒すように飛び込んで来た別の人影があった。アフロディテと共に倒れ込むようにして上に覆いかぶさっているその姿は……赤い髪に赤い髭の男……メフィストのものだった。

 

「…………パパ!?」

 

「今の内だ、プリキュア、さっさとやれい!」

 

アフロディテを抑え込みながらプリキュア達を見上げて叫ぶメフィスト。それを見て、メロディ達は最後の力を技に込める。

 

「「「「「「「はあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」」」」」」

 

眩い光を放つクレッシェンドトーンの姿がどんどん加速していき、輝くエネルギーの塊となったそれが伝説の楽譜を貫いた。

 

「「「「「「「フィナーレ!」」」」」」」

 

光の帯を残しながら順々に着地をしたプリキュアとアコ、ハミィ、セイレーンが最後の終演を宣言すると、音の力が伝説の楽譜から溢れ出して弾け、その形が光に包まれる。

 

伝説の楽譜が……光に包まれる本が、その形を少しずつ崩していく。端からゆっくりと、光の粒子が漏れ出して音符の形を取り、それも溶けて小さな音となって消えていく。

 

伝説の楽譜に僅かに残った音符も、無限カノンから解放され彷徨っていた音符も、同じように光に包まれて世界に溶け込んでいく。

 

本の形を取っていた光がバラバラに崩れて散らばっていき、だんだんと元の形も分からなくなっていく。

 

「伝説の楽譜が……」

 

「消えていくニャ……」

 

もはや形も見えなくなり始めている伝説の楽譜を見上げて、セイレーンとハミィが複雑そうな表情を浮かべる。二人の因縁の中心にあったもの。伝説の楽譜と幸福のメロディは、二人を引き裂き、対立させ、しかし同時に……二人を繋げたものでもあった。

 

メロディも、リズムも、ビートも、シンフォニーも。そしてアコも。皆思い思いの気持ちを込めて伝説の楽譜の最期を見守る。それぞれに伝説の楽譜と深い因縁があった訳ではない。しかし、伝説の楽譜はこの戦いの始まりであり、ここに居る皆にとって様々な思い出や戦いのきっかけになったものでもある。

 

メイジャー3とトリオ・ザ・マイナーももはや戦う意味もなく、それぞれがその光景を見つめていた。息も絶え絶えといった様子のトリオ・ザ・マイナーに対し、余裕のある様子のメイジャー3だったが、彼らにとっては、この光景は自分達の役目を果たせなかったという事を意味している。しかしそれぞれの表情には諦めたような、しかしどこか安心したような僅かな笑みが浮かんでいた。

 

伝説の楽譜が完全に光の粒となって形を失い、消えていくのを見届けたアコは、その傍らにある二人の姿に視線を移した。

 

アフロディテとメフィスト。アフロディテは床に腰を落としたまま、腕で身体を支えて伝説の楽譜が消える様を呆然と眺めている。それに対し、伝説の楽譜にもアフロディテにも背を向け立っているメフィスト。

 

「……まったく、聴くに堪えん歌だった」

 

メフィストの声に振り向いて、アフロディテは気づく。メフィストの両耳を蓋するように塞いでいたアクセサリが消えて、耳が開かれている。

 

「メフィスト、あなたはどうして……」

 

「ご自慢の部下の職務怠慢だな。あいつら、俺様の牢に鍵をかけずにどっかに行きよった」

 

アフロディテがメフィストからメイジャー3に視線を向ける。彼らが……意図的にメフィストを拘束しなかった……?

 

「アフロディテ……俺様は昔からお前の事が気に入らなかった!」

 

拳を震わせてどこか遠くを見ながら語るメフィスト。かつて競い合っていた二人の日々を思い出しているのか。

 

「……だが。お前の奏でる音楽は、あんな堅っ苦しくて独りよがりのものじゃなかったはずだろう」

 

メフィストが顔だけ振り向いてアフロディテに言う。その表情はやはり険しく不快そうだったが、その中にほのかな笑みが混ざっていた。

 

「メフィスト…………」

 

玉座の間に繋がる入り口の方角からどたどたとした音が響き、それが少しずつ近づいて来る。しかし、最初にはっきりと部屋の中に響いたのは羽ばたきの音だった。

 

「アフロディテ様~! こ、これは……一体どうしたんですか!?」

 

「プリキュア!? それに貴様は……メフィスト! 一体ここで何をしている!」

 

「アフロディテ様! 幸福のメロディは……伝説の楽譜はいずこに?」

 

アフロディテの側近であるオウムがまず姿を現し、それに続いて大勢のメイジャーランド人が室内になだれ込んでくる。マイナーランドに行く前にも見た顔で、王宮の重鎮達だ。永遠のメロディに囚われていた所から解放され、騒ぎを聞きつけてやって来たようだ。

 

「……伝説の楽譜は……消えてしまいました」

 

「……エエッ!?」

 

「なんですと!?」

 

「全ては私が……」

 

立ち上がったアフロディテが前に歩み出て発した言葉に、動揺を隠せないでいるメイジャーランド人達。アフロディテが全てを話そうと言葉を続けようとした時、それを手の平で制したのはメフィストだった。

 

驚くアフロディテに顔を向け、メフィストは小声で話しかける。

 

「『野望を捨てきれない愚かな悪党が最後の悪あがきをした』……それで全ては丸く収まる」

 

「メフィスト……! あなたは……」

 

メフィストは、アフロディテが行おうとした事の責任も含めて自分で被ろうとしている。アフロディテが何か言おうとする前に、メフィストはそれを掻き消すような声量でメイジャーランド人達に向け声を張り上げる。

 

「聞けい! 伝説の楽譜はな、この俺様が……」

 

「……ウォッホン!」

 

メフィストの声は部屋全体に響き渡るものだったのに、その小さな咳払いが今度はメフィストの言葉に被さりそれを止めてしまった。コツ、コツと床を踏みしめる音と共に、入り口からゆっくり姿を現したのは、その場に居る皆にとってよく見知った顔だった。

 

「「「「音吉さん!?」」」」

 

「おじいちゃん!」

 

「親父……!」

 

調辺音吉。アコの祖父にして、メフィストの父。そして、メイジャーランド人にとっては……

 

「先代王…………」

 

メイジャーランド人にとっては先代の国王でもあるが、大罪人であるメフィストの父でもあり、微妙な立場の人間である。彼がここに現れた意図が分からず、メイジャーランド人達の間にざわつきが広がる。

 

「やはり、あなたもこちらに来ていましたか」

 

「まったく、老体には堪えるわい。地上と行き来するのも簡単じゃないのでな」

 

ヒーリングチェストから再び姿を現したクレッシェンドトーンの半透明な像と音吉が顔を向け合う。両者は旧知の仲である事がそのやり取りだけで察せられた。

 

「先代王、あなたが、どうしてここに……」

 

メイジャーランド人の疑惑と困惑の目に晒されながらも、いつものような何を考えているのか分からない意味深な沈黙を見せる音吉。しかしやがて彼らに顔を向け、話し始めた。

 

「お前さん達、知っておるかの」

 

「は?……一体、何を……」

 

「メイジャーランド王を決める儀式、その意味についてじゃよ」

 

疑問の声に音吉が答えるが、その問いかけの意図も、その答えもメイジャーランド人達には分からなかったようで、戸惑った様子を見せている。

 

音吉は今度はアフロディテとメフィストの二人……王を決める儀式で実際に争った当事者である二人に目を向ける。

 

「お前さん達は知っておるか? 王を決める儀式で、何故わざわざ二人で同じ歌を別々のパートで歌わせるのかを」

 

「そ、それは……」

 

「いえ……存じておりません」

 

メフィストとアフロディテの二人も、その問いかけには答えられなかった。

 

音吉は順番に二人の顔を見て、そして言った。

 

「……音楽は、一人でやるものではない、という事じゃよ」

 

その言葉に、メフィストとアフロディテが何かに気付いたかのように目を見開く。

 

「伝えたい想いを込めて音を響かせ、それを誰かが受け取った時、初めて音楽というものは完成する。それに……一人の人間が出す事が出来る音には限界がある。じゃが……共に音楽を奏でる者がいれば……音楽を共にする仲間がいれば、音には無限の広がりが生まれる。競い合い、一人が王となって国を率いる立場になったとしても、常に誰かと共に歩むのだという事を忘れてはいけないと、あの儀式にはそういう意味が込められておるんじゃ」

 

「知らなかった……あの儀式に、そんな理由が……」

 

「私達は、ただメイジャーランドの神聖な儀式だと……その中で競い合うためのものだとしか思っていなかった……」

 

二人で全く同じ驚きと理解を共有して、メフィストとアフロディテが顔を見合わせる。

 

儀式の意味を知って感銘を受けたのは王の座を競い合った二人だけでなく、あの場所で重唱をしたハミィとセイレーンも同じだったようで、アフロディテ達と同じように顔を見合わせたが、目が合ったのに気づいてセイレーンは顔を赤くして顔を逸らした。

 

「王自身が自分でその意味に気付く事が重要だったんじゃが、お前さん達にはもっとはっきりと教えておくべきだったかもしれんな……」

 

音吉が少し寂し気な表情を見せる。先代の王として、メフィストの父として、気持ちを伝えられなかった後悔があるのだろう。

 

「アフロディテ。あなたは先ほど言っていましたね、メイジャーランド人の限界に気付いたから地上人からプリキュアが選ばれるようにしたのだと」

 

「え、ええ……」

 

今度はクレッシェンドトーンがアフロディテの前にやって来て、語りかける。

 

「その気持ちが無かったとは言いません。ですが、それで終わりではないのです」

 

「終わりでは……ない?」

 

「ええ。……たとえ道を踏み外しても、心が何かに囚われても、それを教えてくれる者がいればやり直せる。私は、メイジャーランドとは違う歩みを進めている地上の人々に、メイジャーランドの道を示して欲しかったのです」

 

「メイジャーランドの、道を……」

 

アフロディテはクレッシェンドトーンから視線を外してその奥を……四人並んでいるプリキュア達を見た。遠く離れたメイジャーランドにアフロディテはいたが、それでも彼女はプリキュア達の戦いと、その成長を見続けていた。ぶつかり合う中でハーモニーを育て、遂にはメイジャーランド人が見つけ出せなかった解決への道を作り出した少女たちの姿を。

 

「そう……あなた達は、ずっと、教えてくれていたのね……私達に……」

 

瞳を潤ませるアフロディテに、メロディ達が近づいていく。

 

「アフロディテ様。世界のメロディを守ったのはわたし達と地上のみんなだって言ってたけど、そうじゃないと思います。わたし達、ずっとメイジャーランドの人達に支えられてましたから」

 

メロディが微笑みを浮かべる。

 

「……ええ。プリキュアとして戦い始めた頃は、ハミィが私達を導いてくれて」

 

リズムがハミィに微笑みかけ、ハミィが嬉しそうに手を上げる。

 

「最後の戦いで、わたし達に道を示してくれたのは、アコちゃんやセイレーンだった」

 

ビートがセイレーンとアコにそれぞれ視線を送る。アコは穏やかに微笑み返し、セイレーンは気恥ずかしそうにそっぽを向いているが、まんざらでもなさそうだ。

 

「最後の戦いで身体を張ってくれたメイジャー3、終焉のメロディの力を抑えてくれたメイジャーランドの人達。そして……かのん町の皆の演奏を呼び起こしてくれたのは、音吉さん。地上の皆と、メイジャーランドの人々。それぞれが力を合わせたから、世界のメロディは守られたのだと思います」

 

シンフォニーがメイジャー3を始めとしたメイジャーランド人を見渡し、最後に音吉の方を見る。

 

メイジャーランド人は一同のやり取りを理解できない様子で不思議そうに見ていたが、クレッシェンドトーンが彼らの前に進み出る。

 

「皆さん。……伝説の楽譜は、力の制御を失ったために……私の判断で消滅させました。伝説の楽譜も、幸福のメロディも、もうメイジャーランドにはありません」

 

クレッシェンドトーンの宣言によって、メイジャーランドの象徴とも言える楽譜と音楽が失われた事を再認識し、メイジャーランド人がざわめく。クレッシェンドトーンは言うべき事を言い終えると、アフロディテの方を向いた。

 

「……後は、あなたの判断に任せます、アフロディテ」

 

「クレッシェンドトーン様……」

 

クレッシェンドトーンや音吉がアフロディテから離れて脇に下がっていき、プリキュア達もそれに従う。

 

女王としての表情に戻ったアフロディテがメフィストの方向き直ると、メフィストも同じように顔と身体をアフロディテへと向ける。

 

「……メフィスト。メイジャーランド女王として、あなたに処罰を言い渡します」

 

厳格なアフロディテの態度を見て、メフィストは跪き、首を垂れる。

 

「……謹んで、受け入れよう」

 

「メフィスト。メイジャーランドの宝であるヒーリングチェストや伝説の楽譜を奪い、終焉のメロディによって世界の音を消し去ろうとしたあなたの罪は、牢に繋ぐだけで許されるようなものではありません」

 

アフロディテの厳しい口調に、アコが一瞬、不安な表情を浮かべる。しかし、その肩にそっと添えられる手。アコが見上げると、穏やかな笑顔を向ける音吉の顔があった。

 

「…………ですからあなたには……世界のメロディを修復するために、これから死ぬ気で働いてもらいます!」

 

全てを受け入れる態度で黙っていたメフィストだったが、アフロディテのその言葉は予想外だったようで、驚いて顔を上げた。

 

「……! アフロディテ、お前……!」

 

アコがそのやり取りを見て顔を明るくする。

 

「なんと、そのような……!」

 

「メフィストの行った大罪には、もっと厳格な処罰が……」

 

メイジャーランド人がアフロディテの決断に不服の声を上げるが、彼らを見るアフロディテの表情は強く、迷いがなかった。

 

「メフィストは私とメイジャーランド王を争った身。あなた方よりも音の力を操る才は遥かに高いのです。それを今、遊ばせておく事など出来ません」

 

「しかし、だからといって……」

 

「この男を自由にするような事は……」

 

「あなた達も他人事ではありませんよ!」

 

食い下がるメイジャーランドの重役達に、アフロディテが叱りつけるかのように言い放った。

 

「終焉のメロディの影響で、世界のメロディは今、弱り切っています。ここに居る者達は音の力を操る能力を高く評価されたからこそ、その座に居るはず。その力が今こそ必要とされているのです!……プリキュア達が守ってくれた世界のメロディを、私達が正しい形へと導く。それこそが、メイジャーランド人の役目です」

 

アフロディテの強い決意の言葉に、今度は反論出来る者はいなかった。

 

全てが丸く収まりそうになっていたその時、アフロディテに皆の視線が集まっていたタイミングで、目立たないようにゆっくりと、つま先立ちで静かに、人々の輪から抜け出そうとする影が四つあった。

 

「「「「そろ~り、そろ~り……」」」」

 

「あっ、セイレーン、何してるんだニャ?」

 

「げっ!?」

 

セイレーンとトリオ・ザ・マイナー。メフィストの処遇に注目が集まっているのを好機と見て逃げ出そうとしていた者達に、ハミィが能天気に声をかけた。

 

「良かったニャ~。セイレーン、また知らないうちにどこかに行っちゃうんじゃないかと思ったニャ」

 

「そ、そそそそんな訳ないじゃな~い? 罰を受けるのが嫌だからって、どさくさに紛れてトンズラしようなんて、そ、そぉ~んな事は一切、全く、考えてないわよぉ!?」

 

セイレーンの動揺して上ずった声に、「ハニャ?」と首を傾げるハミィ。

 

更にメイジャー3が、トリオ・ザ・マイナーの道を塞ぐように取り囲んだ。

 

「おやおや、負けっぱなしで終われないと言ってたのに」

 

「尻尾を巻いて逃げ出すつもりだったのかい?」

 

「これは、ちょっとイケてないんじゃない?」

 

シャープ、フラット、ナチュラルがトリオ・ザ・マイナーに挑発的に語りかける。

 

「い、いや、逃げ出そうとかそういう訳ではなく……」

 

「い、今は戦う場ではないというだけだ!」

 

「え、ええ……そうですとも! あの、なので決着はまたの機会という事にはなりませんか……?」

 

ばつの悪そうな様子で言い訳を並べるトリオ・ザ・マイナーだったが、メイジャー3は三人を逃がそうとする様子はない。

 

メフィストに裁きは下され、アフロディテはメイジャーランドの道を示し、全てが、あるべき形に収まった……その結末を見届けていたプリキュア達四人の身体に、異変が起きる。

 

「えっ……!? なに、これ……?」

 

メロディ、リズム、ビート、シンフォニーの身体が光に包まれる。髪が発光したかと思うと、それが弾けるのと同時に髪がほどけ、髪型と色が元に戻っていく。そして、衣装も同じように膨らむ光に包まれ、それが拡散すると、元着ていた服装に戻っている。

 

「変身が……勝手に解けた?」

 

「あっ……キュアモジューレが!」

 

胸に取り付けられていた四人のキュアモジューレが勝手に分離して浮かび上がり、やはり同じように光に包まれる。そして、その形が粒子へと分解されていき、その下からキュアモジューレの元になったもの……四人の心に宿っていたハートマークのト音記号が剥き出しになって現れる。

 

実体を持たないト音記号すらも、キュアモジューレと同じように、光になって拡散していく……

 

「キュアモジューレが……消えていく……」

 

「これって、伝説の楽譜が消えたから……?」

 

その要素をどうする事も出来ず眺めていた、元の姿に戻った聖歌。同じく元に戻った和音が疑問を口にするが、四人の前に現れたクレッシェンドトーンがそれを否定した。

 

「……違います。役目を終えたからです」

 

「役目を……?」

 

「ト音記号は始まりの記号。あなた達の想いの響きから始まった”心の組曲”は……今、完奏を迎えたのです」

 

「わたし達の……心の組曲…………」

 

響が、奏が、和音が、聖歌が……天に昇っていき、光へと還っていくト音記号を見上げながら、プリキュアとしての自分達のこれまでの歩みに想いを馳せる。

 

「わたしと奏、あの頃は、喧嘩ばかりで……プリキュアになっても、ずっと息が合わなくて……」

 

響が思い出す。ハミィと出会い、初めてプリキュアになった時の事。最初の変身では全く足並みが揃わず、その後もいがみ合ってバラバラになった。でも、二人の共通の想いを確認して……思い出のレコードを取り戻すために、力と声を合わせた。

 

「でも……想いをぶつけていく中で、だんだん、心の隙間を埋めて行って……」

 

一緒に戦う事を決めた後も、ずっと喧嘩して、上手く行かない事の連続だった。しかし、その中で少しずつ本当のお互いの姿を確かめ、二人の連弾の中で、心の溝を埋めていった。

 

「わたし達、二人に対して勝手な思い込みをして、二人を苦しめて……」

 

セイレーンと不幸の音の力を宿したフェアリートーンによって、悪のプリキュアとなって響達を襲った和音と聖歌。その元になったのは、和音から響への、聖歌から奏への、不信や失望の気持ち。

 

「でも……それがあったからこそ、より相手を理解出来た…………心と心を、通じ合わせる事が出来た」

 

敵としてぶつかり合う中で、本心をぶつけ合い、そして二人は真のプリキュアとして覚醒し、力を合わせるようになった。

 

それから先も簡単ではなく、曲がりくねった道を進んで来た。時にずれ、時にぶつかり合い、でも最後には手を取り合って……そして、今、四人でここにいる。

 

フェアリートーンの八体も四人の周囲に集まり、舞い落ちる光を不思議そうに見上げていた。

 

ト音記号が完全に姿を消し、そして散った光が、音の欠片が、四人を祝福するように降り注ぐ。

 

(さようなら、キュアモジューレ……さようなら……プリキュア………………)

 

降下し消えていく光の粒子を見届けながら、響は目を潤ませて、もう一つの自分との別れを受け止めていた。

 

「あなた達にはもう分かっているでしょう。一つの音楽の終わりが全ての終わりを意味する訳ではない。また新たに楽譜が開かれ、新しい音楽が始まる……ですが、これから始まるのはあなた達自身が作り上げていく、あなた達だけの音楽(ものがたり)なのです」

 

天を見上げていた四人がクレッシェンドトーンの言葉に視線を落とす。

 

「わたし達だけの…………」

 

クレッシェンドトーンが道を開け、四人の前にアフロディテが歩み出た。

 

「響、奏、和音、聖歌…………あなた達には、感謝してもしきれないわ。……今まで、本当にありがとう」

 

「アフロディテ様……」

 

アフロディテの表情には、かつての穏やかさが戻っていた。その視線が、四人からハミィへと降りる。

 

「ハミィ。あなたの役目、まだ最後に一つ残っていたわね。…………みんなを、地上に送り届けてちょうだい」

 

「分かったニャ!」

 

元気に返事をしたハミィが、響達に歩み寄っていく。そんな様子を見ていたアコが、祖父である音吉と、メフィストに振り返る。

 

「おじいちゃん、パパ! あたし……」

 

「ああ、分かってるよ」

 

「行っておいで。地上で、待っている人がおるじゃろう」

 

「……うん!」

 

父としての穏やかな表情を浮かべるメフィストと、音吉の笑顔に見送られ、アコも響達の輪に加わっていく。

 

アフロディテ達に別れを告げ、ハミィに連れられて王宮を後にした響達は、ハミィの作り出す虹色鍵盤の架け橋で、地上へと降りていく。……自分達の帰る場所、かのん町へ向けて。

 

 

---

 

 

「パパ! ママ!」

 

「もう、どこに行ってたの?……心配したんだから」

 

「なんだか、随分と長い間会ってなかったみたいだ。……おかえり、響」

 

「うん……うん! ただいま!」

 

母であるまりあと父である団に抱き着く響。笑顔を浮かべながら、その目には涙が溜まっている。

 

「いやぁ、みんなで探してたんだよ」

 

「でも、元気そうで良かったわぁ」

 

「心配かけてごめんなさい、お父さん、お母さん。それに……」

 

奏も父である奏介と母である美空と再会を喜んでいた。その視線が、弟と……その友人へと向く。

 

「まったく、コンクールから急にいなくなってさ……ずっと、探してたんだぜ」

 

「へぇ……奏太。心配してくれたんだ?」

 

アコが奏太にいたずらっぽい笑みを見せる。アコの姿は、普段の地上で見せていた姿……調辺アコのそれに戻っていた。

 

「えっ!? お、おう……そりゃ、まあ、な…………」

 

アコの思わぬ言葉に、顔を赤くしてしどろもどろの態度を見せる奏太。アコはそんな様子を見てぷっと吹き出して、そして今度は穏やかな笑みを奏太に向ける。

 

「ありがとね、奏太」

 

「え、ああ……な、なんだよ、今日は。妙に素直じゃん……」

 

アコの様子に戸惑う奏太を、更に優しくからかうアコ。そんな二人を奏は微笑ましそうに見つめていた。

 

「奏の事を探している中で、声が聞こえたんだ」

 

「……声?」

 

「うん。奏達の声。……不安だったけど、それを聞いたらきっと帰って来るって思って……これを用意しておいたんだ」

 

奏介が手に提げていた袋の中の、大きな紙箱を開くと、そこにはぎっしりと詰まったカップケーキが入っていた。

 

「ラッキースプーンのカップケーキだニャ!」

 

「「「「「えっ!?」」」」」

 

猫が急に飛び上がって声を発するという驚きの光景と……それを誤魔化す響達の一騒動もあったが……響達は大切な人々との再会を果たす。和音や聖歌も、それぞれに家族や友人と再会を喜んでいた。

 

かのん町は、響達が飛び立った時のような冷たい静寂には包まれておらず、元のような活気を取り戻していた。町の至る所から様々な音楽が流れる音楽の町。

 

色んな想いと物語が交錯した、響達の町。そこに、皆が帰って来た。

 

 

---

 

 

――マイナーランドとの戦いが決着してから一年と少し後。

 

「それじゃ、こっちで手続きを済ませて来るよ」

 

「……うん、奏達ももうすぐ来ると思うから」

 

空港のロビーで、響は団と共に居た。団は出国手続きなどを済ませるためにいったん別れ、響はロビーの長椅子に座って、鞄からあるものを取り出す。

 

筒状に丸まったそれを広げ、鞄を簡易的な台として膝の上に広げる。伸ばすと細長い板状になったそれは鍵盤が描かれており、響は両手を所定の位置に揃えると、目をつむって指を躍らせ始める。

 

膝に広げた持ち運び用ロールピアノからは音は出ない。あくまで指の動きと、頭の中でイメージする音によって演奏を構築する。

 

一曲を――あくまで自分のイメージの中で――演奏し終えてその余韻に浸る響に、隣から声がかけられた。

 

「……とてもいい音楽を奏でているのね」

 

その声に響が顔を上げると、落ち着いた雰囲気の女性が響の姿を覗き込んでいた。

 

「……分かるんですか!?」

 

「……ええ」

 

聴こえるはずのない音楽を褒めた女性の言葉に、響は驚きというよりも喜びの表情で応えた。その女性には音楽が届いたのだ、という事が響には感覚的に分かったからだ。

 

女性が響の隣に座る。

 

「なんだか、夫の演奏を思い出したわ」

 

「……旦那さんも、もしかして音楽を?」

 

「ええ、そうよ。とても素敵な音楽を奏でる人なの。…………」

 

言葉とは裏腹に、女性の表情は優れない。

 

「……どうかしたんですか?」

 

「私達家族は……しばらく仕事で色んな国を飛び回っていてね。今度……久しぶりに家族皆で集まるのよ。でも……ずっと顔を合わせていなかったから、なんだか急に不安になってしまって。それに……私の言葉が、夫を苦しめてしまったから。あの人の顔を見るのが、怖いの」

 

不安を抱えている心情を一つ一つ吐露していく女性。響は、女性が膝に沿えた手に自分の手を重ねる。女性の手の震えが止まり、響の方を見た。

 

「大丈夫ですよ」

 

響が優しく、そして力強く。勇気づけるように言う。

 

「……だって、家族なんですから」

 

「……ありがとう」

 

響のその言葉に励まされた様子で、女性は不安の下から穏やかな微笑みの表情を浮かび上がらせる。

 

「お~い、響~~!」

 

「あっ、みんな!」

 

自分を呼ぶ声に響は腰を浮かせる。響はロールピアノを巻きなおして鞄に仕舞い、隣の女性の方を見た。

 

女性も席から立って、ゆっくりと頭を下げた。響もそれに倣って一礼して別れを告げた後、仲間達の元に駆け寄っていく。

 

---

 

「みんな、見送りに来てくれてありがとう!」

 

「そんなの、当然だよ!」

 

「響の大事な門出の日なんだニャ!」

 

響と和音が笑い合い、ハミィが奏が提げるキャリーバッグから顔を出す。空港のロビーに、響、奏、和音、聖歌、そしてハミィが集まっていた。

 

「……まさかあの響が海外留学なんてね。……ねえ、言葉の方は大丈夫なの?」

 

奏が心配性な母親のような態度で尋ねる。

 

「えっ!?……ええと、留学に向けて勉強はしたよ…………勉強は」

 

そう言う響の目は完全に泳いでいる。奏が呆れた様子を見せるのを見て響は自身の動揺を振り払うように勢いよく親指を立てて見せた。

 

「だ、大丈夫だって! なんせ、音楽は世界共通語なんだから!」

 

「まったく、それっぽい事言っちゃって……」

 

「……ふふ。響にとってはこの先に繋がる大きな第一歩ね」

 

「……うん! そういえば、和音も女子サッカーの強豪校に進学する事になったんだよね」

 

話題が和音へと移る。和音もあれからの一年で、女子サッカー部の部長として精力的に活動し、結果を残して推薦を受けた事で女子サッカーで有名な学校に進学する形となった。

 

「えへへ。マナやカナも一緒なんだ。……でも、入学しただけじゃ意味がない。わたし達以外もみんな必死だからね。強豪校だからこそ、全力で食らいつかないと試合にも出れないもん。むしろこれから頑張らないと」

 

「今は女子サッカーがすごい盛り上がってるもんね。……”聖歌”は高等専修学校で、もう資格を取るための準備を始めてるのよね」

 

奏が今度は聖歌に――一年前までとは違うより親密な態度で――話題を振る。他の三人より一年早く進学した聖歌は、高校に相当する教育を受けつつもパティシエとして専門的に学びながら国家資格を得る課程のある学校に行っていた。

 

「ええ。今のうちから出来る事をやっておきたいと思って」

 

「私は……高校が終わるまでは……家で、ラッキースプーンの手伝いを続けたい、かな。お父さん達の作るケーキでお客さんが笑顔になるのを見るの、好きだから」

 

「道は一つじゃない。あなたのお父様とお母様から学べる事は、まだまだたくさんあるはずよ」

 

奏と聖歌。同じように見えて、少しずつ違う道。しかし、その先にある道はパティシエという目標の上で交わっている。

 

「そういえばさハミィ、メイジャーランドのみんなは元気してる?」

 

響がハミィに顔を向ける。最後の戦いでかのん町まで見送られた後からハミィには会っていない。今日は久しぶりに顔を合わせる形だ。

 

「もちろんだニャ! ここ一年、ハミィもみんなも色んな所を飛び回ってたけど、ようやく落ち着いて来たんだニャ」

 

ハミィによると、これまでずっと、メイジャーランドの人間総出で世界のメロディの修復のための活動を続けていたという。

 

「メイジャーランドのみんなで頑張ったんだニャ~! セイレーンも、すっごく張り切ってたニャ!」

 

 

---

 

 

「「「アアアァァ~~~~~~♪」」」

 

どこかの熱帯の地域の浜で。トリオ・ザ・マイナーが合唱をしている。世界の色んな場所を巡り、音の力の歪みを見つけたら修正する……それが彼らに……メイジャーランド人に課せられた使命だった。

 

トリオ・ザ・マイナーがビーチの人々に合唱を披露しながら音の歪みを直している中、セイレーンはパラソルの日陰で面倒くさそうにあくびをしていた。

 

「ふぁ~~~~あ。なんであたしがこんな面倒な事を……」

 

「……っておい! あんたサボってるじゃないか!」

 

「はあ? この程度の歌の歪みだったら歌の妖精であるあたしの力を使うまでもないでしょ。そもそも、この前の大きな音の歪みはほとんどあたしの力で直したでしょうが!」

 

「俺達だって協力した! そもそもあんたも俺らも今は立場は同じだ! ちゃんと働け!」

 

いつもの調子で口喧嘩を始めるセイレーンとバスドラを見て、ファルセットとバリトンは困ったように笑っていた。

 

「まぁ、牢屋にぶち込まれなかっただけありがたいですけど……」

 

「この喧嘩を、あと何回見る事になるのやら……」

 

 

---

 

 

「そっか。メイジャーランドの人達のおかげで、世界のメロディも元に戻り始めてるんだね」

 

「そうだニャ! だから、メイジャーランドの大音楽会も、二年ぶりに開かれる事になったのニャ!……それに向けて、またみんなで歌姫を決めるのニャ」

 

響の言葉に嬉しそうに答えるハミィ。しかし、その言葉に皆が疑問を感じる。

 

「歌姫って……伝説の楽譜はもう……」

 

奏の疑問。歌姫とは、伝説の楽譜で幸福のメロディを歌う栄誉ある立場の事。伝説の楽譜が消滅した以上、その立場もなくなったはずだった。

 

「ハミィがアフロディテ様にお願いしたのニャ。歌姫を争って、セイレーンはつらい想いをしたけど……でも、それだけじゃないのニャ。歌姫はみんなの憧れで、それを目指してみんなで歌い合うのは、素晴らしい事だとハミィは思ったのニャ」

 

ハミィにとっての歌姫は、セイレーンという目標、憧れの存在が持つ輝きそのものだった。ハミィはその輝きを、みんなで目指す歌姫への想いを、消したくなかったのだ。

 

 

---

 

 

「次のエントリーは……あ、せ……セイレーンです!」

 

大音楽会の舞台で歌う新たな歌姫を決めるコンクールにて、セイレーンがエントリーに名を連ねていた。

 

かつての歌姫。しかしマイナーランドの歌姫として混乱を生んだ存在として、当然見守る人々や他の歌の妖精から嫌悪や疑いの目でセイレーンは見られる。

 

だが彼女はその目を気にしていなかった。舞台上で入れ替わりとなるハミィと正面で顔を合わせる形となり、セイレーンはハミィに自信に満ちた笑みを向けた。

 

ハミィも、舞台に上がって来たセイレーンに対して笑顔を見せながらも、その内に真剣さを秘めてセイレーンを見つめ返す。

 

ハミィが舞台を降り、セイレーンが自身の歌を披露する……かつての歌姫の時代から、色々な感情を飲み込み、乗り越えてきた想いを込めた歌を。

 

 

---

 

 

「そっか。セイレーンもまた歌姫を目指して……」

 

響は、セイレーンが再び音楽に対して正面から向き合おうとしている事を知って、胸が熱くなるのを感じた。

 

「トリオ・ザ・マイナーのみんなもメイジャー3と競い合ってるらしいニャ!」

 

「トリオ・ザ・マイナーが?」

 

「そういえば、なんかメイジャー3に対抗意識燃やしてたっけ」

 

玉座の間での争いと、地上に帰る前の彼らの様子を思い出している奏と和音。

 

落ちこぼれ三人組と、女王の側近の三人では立場も実力も大きく離れてはいるが……

 

 

---

 

 

「おやおや、まさか大音楽会に君達の出番があるとはね」

 

メイジャーランドの音楽ホール……その控室でトリオ・ザ・マイナーの前にメイジャー3が現れる。シャープの言葉は挑発的だ。

 

「はは、まあ私達は小さい扱いですけども……」

 

「チッ、余計な事は言うな!」

 

曖昧な笑みを浮かべるファルセットを肘で突くバスドラ。

 

「君達がまさかここまで出来るとはね。ちょっと驚いちゃったよ」

 

「確かに扱いは小さいですが大音楽会に出る事は変わりません。だから我々は…………あれ? 今もしかして褒められました?」

 

ナチュラルの軽い調子の言葉に、自分たちなりの真剣さを語っていたバリトンだったが、相手が意外な言葉を言っていた事に途中で気づく。

 

「元マイナーランドの落ちこぼれ。それが一年で大音楽会の末席に加わるなんて、簡単な事じゃない。ここ一年で随分と努力した……って事みたいだね」

 

「あ……当たり前だ! 負けっぱなしでは終われんと言っただろう!」

 

フラットの上から目線のようでいて、三人を明確に評価する言葉に、バスドラが胸を張るが、どこか照れたような様子だ。

 

「といっても、ボクらメイジャーランド一番の人気アイドルグループ・メイジャー3と比べたら、月とスッポンみたいなものだけどね。でも、その頑張りは評価してあげるよ」

 

「うわ~、すっごい上から目線……」

 

「まあそれだけの実力の差はありますからね……」

 

「ふん! いつまでも余裕ぶってるなよ! メイジャーランドのトリオと言えば俺達だ、って今に知らしめてやる!」

 

シャープの高い目線からの評価の言葉にファルセット、バリトン、バスドラがそれぞれ思い思いの感情を見せる。

 

そんな様子にメイジャー3は軽く笑ったが、そこに嘲笑するようなニュアンスはなかった。

 

「それじゃ、君達の歌を聞くの、楽しみにしてるよ」

 

 

---

 

 

「そういえば……音吉さんやアコちゃんは元気かニャ?」

 

「ああそっか、あの二人は結局地上暮らしを続けてたから、ハミィの方は会えてなかったんだね」

 

音吉もアコもメイジャーランド人ではあるが、あの戦いの後、結局地上でそのままの生活を続けていた。

 

「でも、今までと同じって訳でもなかったのよね。音吉さんのしらべの館、あれから人がよく集まるようになって……」

 

奏がここ一年を振り返るように語る。四人が演奏の活動で使っていたしらべの館のホール。それまで人が寄り付かず寂れた雰囲気だったが、響達の活動の影響か、それとも完成したパイプオルガンの音色を聞いたからなのか、かのん町の人々が集まる場所になっていた。

 

 

---

 

 

「……ズレとる!」

 

演奏を終えた男子に音吉のきっぱりとした声が向けられる。

 

ここしらべの館には、音吉の噂を聞きつけて教えを受けようとしてやって来る人々が集まるようになっており、彼もその中の一人だった。

 

少し落ち込んだ様子を見せる男子に対し、音吉は優しい笑みを見せる。

 

「……じゃが、ズレとるという事は、この先音が合う瞬間が待っているという事じゃ。その時が来たら、きっと音楽の楽しさをもっと深く感じられるようになるはずじゃよ」

 

音吉の言葉を受けて、その少年は再び楽器に意識を向けて音の調整を始めた。その様子を、音吉は静かに見守っている。

 

 

---

 

 

「アコちゃんも、初めて会った時から随分と変わったよね」

 

「ほんと、最初は信じられないような性格の悪い子だって思ってたけど……」

 

懐かしむような響の言葉に、呆れたような奏の口調。奏の言葉に昔のアコの事を思い出して皆が笑い出す。

 

「それが、今じゃ上級生でみんなを引っ張るしっかり者だって!」

 

和音が面白がって言う。彼女にとっても、今のアコの変化は昔を考えると可笑しく感じてしまうものだったが、同時にその変化を心の底から喜んでもいた。

 

 

---

 

 

「アコちゃん、ここの編成の事だけど……」

 

「うん、これで大丈夫だと思う」

 

「アコちゃん、みんなちゃんと揃ってるみたい」

 

「ええ、分かったわ」

 

私立加音小学校、一年生から六年生までの中から組み分けされた合唱チームが部屋に集まっていた。低学年の子達が落ち着きない様子を見せているが、六年を中心とした上級生が皆を纏めている。その中心には、アコが居た。

 

サトルやユイ、それだけでなく他にも何人もの上級生がアコを中心に動き回っている。かつて皆の輪から離れて孤独に居た少女はそこにはなく、皆に頼られる存在として笑顔を振りまいていた。

 

「それじゃあみんな、そろそろ合唱の練習を始めるよ!」

 

アコがぱんぱん、と手を叩いて注目を集め、皆を先導しようとする。しかし、その中で騒ぎが収まらない一団がおり、そこには……アコと同じ学年の奏太が、低学年の子達と追いつ追われつの状態で駆け回っていた。

 

「ちょっと奏太! 高学年のあんたが一緒になって騒いでどうすんのよ」

 

「おっと! まあまあ、ちょっとくらいいいじゃねえか!」

 

低学年の子達と打ち解けて楽しそうな様子を見せている奏太を見て、やれやれと呆れたような表情のアコ。そんなアコの顔を、奏太がまじまじと見つめる。

 

「なに? あたしの顔に何かついてる?」

 

「いや、なんかアコ、ねーちゃんに似て来たな、と思って」

 

片側の眉を吊り上げ、むすっとした表情で奏太に顔を近づけるアコ。

 

「……それ、どーいう意味?」

 

「説教臭くなったって事!」

 

にやけ笑いで言う奏太に、アコははぁ、とため息をつく。

 

「あんたがいつまでも子供っぽいからでしょ!……あんたのお姉さんの気持ち、分かるような気がしてきたわ」

 

まあまあ、とアコをなだめるように両手をひらひらさせていた奏太は、一緒にはしゃいでいた子供達に向き直り、空気が落ち着く様子が見えた所で話を切り出す。

 

「よ~し、走り回るのはここまでだ。これからは歌で元気を出していこうぜ!」

 

片腕を上げて力強いポーズを見せる奏太に、一緒に遊んでいた子達がうん! と声を合わせる。そんな様子を見て肩の力を抜いたアコは、再び笑顔に戻って皆に言い聞かせるように口を開いた。

 

「それじゃあみんな並んで。一緒に、素敵な歌にしましょうね!」

 

 

---

 

 

「でも、奏太とアコちゃん、あれから進展らしい進展も無いのよね。まったく、見ててもどかしいというかなんというか……」

 

奏太とアコの関係についてお節介な姉の態度を見せる奏に、聖歌が少し意地悪そうに笑いかける。

 

「あら、それは弟さんの事を言えないんじゃないかしら。王子くんとの関係……あれからどうなの?」

 

思わぬ不意打ちを食らって、奏は顔を真っ赤にした。

 

「え、ええと、その! あ、あ、あれから何度か……その、デートに付き合ってもらったり、それから、バレンタインでもまた、本命のチョコを受け取ってもらったりして……」

 

「へぇ~……奏も隅に置けないじゃん!」

 

「でも、まだまだね。彼の心を射止めたいなら、もっとガツンとぶつかっていかなくちゃ」

 

にやにやと笑う響に、まるで奏の恋模様を採点するかのように人差し指を上下に振る聖歌。

 

「……そういえばさ、アコちゃん、あれから家族とは会えたのかな」

 

和音が別の話題を切り出した。アコの父親はメフィストであり、罪人でもある彼は世界のメロディが復活するまではその回復のための仕事を続けるという話になっていた。アコの母親に関しても、メフィストや他のメイジャーランド人と同じように世界のメロディの修復のために世界中を飛び回っているという事になっている。その間は家族で集まる事も出来なかったはずだ。

 

そんな和音の疑問にはハミィが答えた。

 

「アフロディテ様に聞いておいたニャ! ここ一年で世界のメロディも安定を取り戻し始めたから、アコちゃんの家族……お父さんのメフィストとお母さん、みんなで地上で一緒に会えるだろうって、アフロディテ様はそう言っていたニャ!」

 

それを聞いて、皆の顔が明るくなる。

 

「アコちゃん、家族と再会出来るんだね、良かった……」

 

「離れ離れになってた人ともう一度、か……」

 

和音もどこか安心そうな表情を見せる一方、少し寂しげな色を顔に浮かべていた。その目線が響の方に行く。

 

その意図に気付いて、奏と聖歌、ハミィも響の方に注目する。

 

「やっぱり、ちょっと寂しくなっちゃうよね」

 

「海外に行ったら、簡単には会えなくなるもんね……」

 

「響の演奏も、しばらく聴けなくなってしまうわね……」

 

和音に続いて、奏や聖歌も寂しそうな表情を見せる。

 

「響が海外留学って聞いて、ハミィも驚いたのニャ」

 

「プロのピアニストを目指して、っていうのは分かるけど……」

 

他のメイジャーランド人同様、世界のメロディの調律のために飛び回っていたハミィは、響が海外留学するという話も最近聞いたばかりだった。他の皆も響がプロを目指して学ぶため、という事は自然な選択ではあると受け取っていたものの、簡単にそれを受け止められたという訳ではない。

 

「もちろん、それもあるよ。プロになって大舞台に立つために……自分を磨ける環境に身を置く!……それも、本当に大事な事。だけど……」

 

皆の空気に影響されたのか、同じように寂しげな雰囲気になって視線を落としていた響が顔を上げる。

 

「もっと、色んな人達の音楽を聴いてみたいって思ったの。……外の世界で、知らない世界で、世界の色んな人達の音楽を聴いてみたい。……それがきっと、わたしの音楽や心を豊かに育んでくれるって、そう思ったから……」

 

響はまだ見ぬ世界へ想いを馳せて目を細める。その瞳は遠くの景色を映し出すようにきらきらと輝いていた。

 

一瞬目をつむって開いた時には、いつもの調子に戻っていた響が明るく続ける。

 

「わたしも寂しいけど……でもパソコンとかで、あっちに居ながら話す事だって出来るしさ!」

 

「そうだね……向こうでの事、色々教えてよ、響!」

 

「私も興味があるわ。海外の事、そして……響が海外の環境でどんな風に変わっていくのか」

 

「帰って来た時の響の演奏を聴くのが楽しみだニャ!」

 

「……あっちに行ってまたメソメソしてるようだったら、画面越しにお尻ひっぱたいてあげるから!」

 

五人は笑い合った。寂しい気持ちが消えたわけではない。でも……響の目指すもの、その想いを受け取って、その未来に輝かしいものを感じ取って。

 

「……響、そろそろ時間だよ」

 

「パパ! ……うん、分かった」

 

少し離れた所からの団の呼ぶ声に振り返り、時間が来た事を知る響。

 

響はもう一度、皆の顔を見渡して……少しの間を空けた後、言った。

 

「それじゃ……みんな。……またね!」

 

「うん!」

 

「ええ!」

 

「ニャ!」

 

「……またね、響」

 

別れの言葉を済ませて、響は皆に背を向け、歩き出す。

 

一歩一歩、その歩みが、新たな生活に、新たな物語に続く道。

 

響は、自分が白く輝く世界を歩いているのを感じた。

 

今はもう、同じ道を歩く仲間はいない。皆はそれぞれ、別々の道で、それぞれの歩みを始めている。

 

……だが、確かに同じ世界に皆がいる。奏も、和音も、聖歌も。ハミィやセイレーン、アコや奏太、今まで関わって来た色んな人達が、この世界にいる。

 

……ここは、『調和の世界』。

 

時にぶつかり合い、時に手を取り合った者達が、ハーモニーを奏でる世界。

 

それは、音楽が繋いだ絆。響がこれまでの歩みの中で紡いできた人と人の繋がり。

 

そして、これからも。響が、皆が歩みを進める限り、心と心を響き合わせる限り。この世界はどこまでも、どこまでも広がっていく。

 

それを確信して、その先に広がる世界を思い描いて、響は新しい道を……未来へ続く道を踏みしめていく。

 

 

 

 

 

 

スイートプリキュア♪ -ArrangeScore-

 

 

~完~

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。