スイートプリキュア♪ -ArrangeScore-   作:おとともの

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ep6.「ピ~ヒョロ~! 奏と和音の少年楽団ニャ!」

海岸線と平行に続くその道を、ジャージ姿の女の子が大きな荷物を背負いながら小走りに進んでいた。

 

彼女の名は西島和音。休日のその日、潮風を感じながら真っすぐに彼女は走り、そしてここ最近ではお決まりとなった場所で足を止め、いつも変わらずそこに存在するベンチに腰を降ろすのだ。

 

「ふぅ~、やっぱこの大荷物背負いながらだと、軽い走り込みでもキツいなぁ~」

 

同時に、背負っていた荷物を降ろす。口先の延びたひょうたんのようなシルエットの入れ物……それはギターケース、いや、ベースケースだった。

 

慣れた手つきで留め具を外し、中に仕舞われていたベースを丁寧に取り出す。それは、しらべの館の音吉から借り受けているものだ。

 

「ラブ“ベース”ロッド! …………なんちて」

 

自分と……ある活動を共にしている仲間にしか理解出来ないであろう口上を決めてベースを構える和音。和音は一緒に仕舞っていた楽譜を一通り読み終えると、目をつむって弦を弾き鳴らし始めた。

 

低音のゆったりとしたリズムが周囲に広がる。アンプによる増幅のない低音は静かに寄せては返すさざ波の音に溶け込むように静かに広がり、哀愁のような空気を周囲に広げていた。

 

決まった区間を演奏し終えると、和音は指を止めて一息をつく。

 

「ふぅ」

 

「…………ズレてる」

 

思いがけない、それでいてどこかで聞いた事のあるフレーズを聞かされた和音が、声の方を振り返ると、そこには小さな女の子が立っていた。

 

「……アコちゃん?」

 

和音には見覚えがあった。その少女は、和音が響達と一緒に歩いているとよく遭遇する(妙な話ではあったが、事実だった)、二人の小学生のうちの片割れ、アコだった。

 

「途中、不自然にリズムが崩れてる所があった。ベースがズレてちゃあお話にならないわ」

 

「あっれぇ? そうだったかなぁ?」

 

アコはいつものごとくの嫌みっぽい言い方をしているが、和音はさほど気にしている風でもない。

 

和音は自分の演奏を心の中で振り返った。頭の中で組み立てられる音の流れの中に、確かにアコの言ったようなズレを感じ取る。

 

これはまた一度調整しないといけないな……と和音が考えに一区切りを入れると、今度は別の事に興味を移す。

 

「ところで、そんな所で立って何してるの?」

 

「…………」

 

純粋な疑問から来る和音の言葉に、アコは何も答えず突っ立っている。和音の座っているベンチの後ろで不機嫌そうに身動きせず立っているアコ。まさか自分の演奏を聴くためにここにいる訳でもないだろう、と和音は思った。

 

無言でそこに立っているアコは、どこかそわそわしているようにも見える。

 

和音は、どうやらアコの目的は“この場所”らしい、という考えに行き当たって、ベースを仕舞い込むとその場を立ち上がった。

 

「それじゃ、またね、アコちゃん」

 

「…………」

 

挨拶にすら答えないアコにお手上げ、といった具合に去っていく和音は、砂浜と反対方向の住宅街へと消えていった。

 

「………………」

 

ず~っとその場に突っ立ったまま、和音が住宅街の奥へと消えていくのを確認していたアコは、今度は顔を左右にぐるりぐるりと回し、周囲に誰もいない事を確認すると、細長い袋の口を開いて、リコーダーを取り出した。

 

両手で縦にリコーダーを構え、先ほどまで和音が居たそのベンチに腰掛けたアコは、すぅっと一瞬息を吸ってから、リコーダーを口に添えて演奏を始めた。

 

なめらかな指使いによって吹き鳴らされる音色。心地の良いメロディが砂浜へ向け広がっている……ように見えたその時、リコーダーが腑抜けた音を出した。

 

アコは顔を赤くして、リコーダーから口を外す。誰が居るという訳でもないのに恥ずかしがっていたアコが、気を取り直して演奏を再開させようとしたその時、彼女は背後にかすかな気配を感じてバッと後ろを振り向いた。

 

アコのいる場所から少し離れて、建物の影からアコの演奏を見ていたのは……住宅街の奥へと姿を消したかに思えた和音だった。

 

「あ、あんた……!」

 

「むふふ…………見ちゃった」

 

満面の笑みを浮かべている和音。

 

その表情は、アコの演奏の失敗を見て嘲るとかバカにするといった類のものとは違い――だからこそアコにとっては一層厄介に感じられたのだが――親しみと純粋な興味から生まれているものだった。

 

 

---

 

 

「そぉ~と、そぉ~っと」

 

つま先立ちという不安定な状態で歩いている南野奏太は、裏口のドアノブをゆっくりと回しながら、泥棒をする人間というのはこういう気分なのだろうかと想像した。

 

といっても彼は盗みに入る泥棒とは逆に、建物の中から出ようとしている所だったのだが。

 

我が家でもある場所から逃げようとするのは妙な感覚のはずだったが、奏太にとってはさほど珍しい事でもないのだった。

 

普段、ゴミ出しの時などに使うこのキッチンの出入り口。正面入り口は客が入った時すぐに分かるように鈴がかかっているし、そこを通るには開店準備中の家族の目を潜らなければならない。

 

いや、違う。開店準備中で店内の内装チェックをしている今だからこそ、ここから逃げ出すチャンスがあるのだ。奏太は逸る鼓動を抑えながら、音を立てないように慎重に扉を開けた。

 

「よ、よし、開いた……」

 

「…………それで? どこに行くつもり? 奏太」

 

奏太がビクッと体を跳ね上げて振り返ると、そこには苛立たしげに眉をピクつかせている姉、南野奏の姿があった。

 

「あ、はは……ねーちゃん、何時からそこに?」

 

「さっきからずっと居たわよ。まったく、朝から挙動不審だと思ったら……どういうつもり!? 今日はお店の手伝いの約束でしょ!」

 

手を両腰に当てながら、奏は威圧するように奏太に迫る。

 

「え、え~っと、今日はちょっとさぁ、大事な用事が……」

 

「大事な用事って、なに?」

 

じわじわとにじり寄る奏から、後ずさりして離れようとする奏太だったが、姉は彼に逃げる隙を与えてくれそうにない。

 

仕方ない、と覚悟を決めた奏太は、“奥の手”を繰り出す事に決めた。

 

「あっ! 後ろに愛しの王子先輩がっ!?」

 

「えっ!? 王子先輩!?」

 

奏太の声に即座に反応して振り向く奏だったが、言うまでもなく、彼女の憧れの先輩、王子正宗が開店前の店の調理場に居る訳が無い。

 

自分があまりにも間の抜けた事をしでかした事に奏が気づいて振り返った時には、奏太はすでに視界から消えていた。

 

「……奏太~~~~! 待ちなさい! 王子先輩の名前を勝手に使ってぇ~~~~~っ!」

 

「うっひぃ、やっべぇ!」

 

全速力で逃げ去る奏太を、これまた全速力で追跡する奏。

 

今や奏は、姉としての立場から来る責任感だけでなく、憧れの王子の事を利用された個人的な怒りも交えて必死に奏太を追いかけている。

 

しかし、こうなる事は奏太も承知の上。小さい体を利用して狭い路地をかい潜るようにして奏を撒こうとするが、奏は尚も必死に食らいついていた。

 

「奏太ぁ~~~~~~~~~!!!」

 

「ひぇぇぇぇ、勘弁してくれ~~~~~!!!」

 

 

---

 

 

「ねぇねぇ、アコちゃんも楽器の練習してるんだ?」

 

「さぁね」

 

ムスッとした表情で、前だけ見て歩くアコを、和音が後ろから追いかけながら質問する。アコは早足で歩いているのだが、そもそもの歩幅に大きな差のある和音とでは、いくら頑張っても差を広げる事は出来ない。

 

「ねぇ、なんで練習してるのか、教えてくれてもいいじゃない?」

 

「うるさいわね、あんたには関係無いでしょ!」

 

いい加減我慢しかねたのか、立ち止まって後ろを振り返りながらアコが怒鳴った。しかし、和音は全く動じていない。

 

「関係無くなんかないよ。……だってアコちゃんは、わたしの友達の弟の友達だし」

 

「……そういうのを“赤の他人”って言うのよ」

 

アコの厳しい突っ込みに、「そうかな?」とすっとぼけたような表情を見せる和音。

 

「じゃあ、同じベンチで楽器の練習をした仲!」

 

「………………」

 

アコは今更ながらに、この和音という人物は、今までアコが目にして来たような、軽く馬鹿にした事を言えば怒って離れていくような輩とは根本的に違うのだという事を思い知らされた。

 

諦めた様子で、くるりと振り返って歩き出すアコ。和音も慌てて追いかけようとした所、アコは急にまた立ち止まって、周囲を見て「あっ」と声を漏らした。

 

向かいの曲がり角から、必死そうな二つの声が聞こえたのは、丁度その時だった。

 

「待~ち~な~さ~い~~~~~~~!」

 

「ひぇぇぇぇ~~~~~! どこまで付いて来る気だよ~~~~~~!」

 

和音とアコが聞き覚えのある声に驚く間もなく、角を飛び出し奏太と奏の姉弟が姿を現した。

 

「あっ……アコ?」

 

「あれっ……和音?」

 

奏と奏太は進行方向に立ちはだかる二人に気付くと、立ち止まってそれぞれの友人の存在を不思議そうに見つめた。

 

アコと和音の二人も突然の姉弟の登場に驚き目をぱちくりさせている中、奏太が口を開く。

 

「何だよアコ、もうここに来てたのかよ」

 

「……ここ?」

 

奏太が「やべっ」と口を塞いだ時にはもう遅かった。奏と和音は、「この場所」に何か意味があるのだと気づいて、周囲を見渡す。

 

そのうちに、自分達がある大きな施設の前に居る事に気が付き、二人で頭上に掲げられた看板の文字を見た。

 

「「加音町老人福祉センター?」」

 

 

---

 

 

「おお、アコちゃんに奏太くん。いつもすまないね」

 

「サトルくんにユイちゃんもありがとうねぇ」

 

老人福祉センターには、建物内のレクリエーション……簡易的なスポーツなど……の準備や片付けに協力する奏太とアコの姿や、皆のためにお茶菓子の乗ったトレイを運んでいる別の少年少女二人組の姿もあった。

 

その二人は、少し太めのぽっちゃり体型の少年がサトル、髪を後ろで三つ編みにして下げている髪型の少女がユイといって、二人とも奏太とアコのクラスメイト。

 

そんな合計四名の小学生の活動を時に感心しながら見つめ、時に自分も手伝いながら、奏と和音の二人は奏太達の秘密の活動を知ったのだった。

 

---

 

「なるほどね~、みんな、こんな風にお年寄りの人達を助けてたんだ」

 

いったん作業を終え、ロビーの休憩スペースに集まっている一同。和音と奏が見下ろしている長椅子に奏太、サトル、ユイが順番に座り、そして一つ分間隔が離れた位置で一人だけそっぽを向いたアコが座っている。

 

「ま、まぁね」

 

「こら、奏太!」

 

奏太が照れたように軽く答えると、すかさず奏が声を上げ、奏太はいつもの調子ですくみ上がる。しかし、その次に奏の口から発せられたのは、いつものような叱責の言葉では無かった。

 

「……もう、どうして今まで言ってくれなかったの?」

 

「えっと、ねーちゃん、怒らないの?」

 

「怒る訳ないでしょう。お年寄りの為のお手伝いをするなんて、素晴らしい事じゃない」

 

「い、いや、なんつーかさ、改まってねーちゃんに言うのもちょっと恥ずかしかったっていうか……」

 

奏太の恥ずかしげな言葉にまったく……という調子でため息をつく奏。

 

「それに、これ、俺が始めた事じゃねーしな……」

 

「えっ? そうなの?」

 

和音の疑問の声を受けて、奏太が少しためらいがちに向けた視線の先には、皆の輪から外れているアコの姿があった。

 

「あいつ、いつも決まった時間にいなくなるから何だろうって思ったら、ここでお年寄りの手伝いをしてたみたいで」

 

「それで、あたし達も手伝おうって決めたの!」

 

「……別に、手伝って欲しいなんて言ってないけど」

 

奏太から続くユイの言葉に鋭く釘を刺すアコ。ユイとサトルの表情が凍り付き、気まずいムードが生まれそうになった所を、奏太が素早くフォローする。

 

「そ、そう言うなって! おじいちゃんおばあちゃん達も喜んでるんだしさ!」

 

「……ふん」

 

ある種の同意の意味なのか、それとも単に不満なだけなのか……アコは鼻を鳴らすだけだった。

 

奏と和音は苦笑いを浮かべてその様子を見守り、サトルとユイの二人も、こういう事態になるのは慣れっこなのか、すぐに気を取り直して表情を戻す。

 

「……でも、やっぱり僕たちじゃ手伝える事も少なくて」

 

「う~ん、それはそうよね……」

 

「だから……」

 

サトルと奏の会話に続き、ユイが背負ったリュックから何かを取り出した。その“何か”を見た和音は、今日の一連の出来事が全て一本に繋がっている事に気づく。

 

「ふぅん、なるほどねぇ……」

 

「な、なによ……」

 

ニコニコとしながらアコの方を見る和音。アコの方はチラチラと和音の顔を窺いながら赤面している。

 

「本格的な手伝いが出来なくてもさ、おじいちゃんおばあちゃん達を喜ばせる事くらいは出来るだろ?」

 

「なるほどね、かのん町住民はみんな……」

 

「「「「「音楽が大好き!」」」」」

 

奏、和音、奏太、サトル、ユイの声がハモる。参加せず赤面しながらそっぽを向いていたアコも、内心は同じ事を心の中でつぶやいていただろう。

 

サトル、ユイ、奏太達の手には、「リコーダー」が握られていた。

 

 

---

 

 

「響ぃ~! また一緒にやろうよ!」

 

フルートを手に持ち、入り口からホール中央を走り抜ける女子の姿を、観客席で休憩中の和音と奏は何の気なしに眺めていた。

 

ここ、しらべの館の中央ホールは……いつの間にやらアリア学園女子生徒達のたまり場になっていた。

 

全員が全員予定が合う事などはほとんど無いので、それぞれが空いた時間に自主的にやって来て、そのうち自然に集まりになる形なのだが、その集まりの中心にはほぼ必ず「響」の姿があった。

 

奏達と違って今は部活動をやっておらず、音楽一本で活動をしている響は、放課後から夕食前まで……下手をすると深夜近くまで練習に打ち込んでいる事もある。

 

しらべの館に行けばほぼ必ず響が居て、“響の演奏が聴ける”。それが、今しらべの館に絶えず人が集まる大きな要因となっていた。

 

「……あれ? ねぇ奏、あんな子、スイーツ部に居たっけ?」

 

「…………え? 女子サッカー部の人じゃ……ないみたいね」

 

響がフルート持ちの女子と演奏を開始する段階になってやっと……和音は現れた女生徒に対して感じていた疑問を口にした。

 

別の部とはいえ、和音はスイーツ部に何度も出入りしていたし、この館で何度もスイーツ部の皆とアンサンブルもしている。それなのに見覚えのないあの女生徒は一体? と和音は思ったのだが、奏もその人物が何者であるのかは知らないという。

 

しらべの館の音楽活動は、今や二つの部をまたいだ大がかりな活動になっていて、特別隠している訳でもないために、アリア学園内でもちょっとした噂になっている。今響と演奏している彼女は、そんな噂を聞いてやって来た人の一人なのだろう……和音と奏はそう想像した。

 

彼女の「また」という言葉や、彼女の誘いにすぐに応えて演奏を始めた響の姿を見る限り、和音と奏の知らぬ間に活動に加わった人のようだ。

 

「みんな、こんにちは」

 

「あっ、聖歌先輩」

 

「ハミィもいるニャ!」

 

ホールの入り口、休憩している和音達から見ると背中側から……今度は聖歌とハミィが現れた。

 

「そういえば……聖歌先輩、最近ハミィと一緒にいる事が多いですね」

 

「あら? ふふ、そうだったかしら」

 

奏の質問を曖昧に返す聖歌。それははぐらかしているというよりも、相手が答えるまでもなく分かっているであろう事を見越しての言葉のようだった。

 

奏の言うとおり、ここ最近聖歌はハミィと一緒に行動している場面が多かった。それは奏だけでなく和音も良く知る事だったが、何故二人が一緒に居るのかという事は奏も和音もよく分かっていない。

 

「はっ! 聖歌先輩、もしかして……ハミィの肉球を独り占めしようとしてるんじゃ!? ……って、そんな訳ないか」

 

奏が自らの勝手な妄想に自己ツッコミした所で、和音はもう一度フルートの女の子とアンサンブルをしている響を見る。あのフルートの少女と同じように、この館の活動の中で、自分の知らない事を響は色々知っているのだろう。

 

ハミィと聖歌が見えない所で秘密の活動をしているように。

 

かつての和音は……「自分の知らない響の姿」に不安を覚える事があった。ところが今は……その「自分の知らない響の姿」が増えていく事が、何故だか和音には楽しく思えていたのだった。

 

「ね、ねっ、奏!」

 

「ん? どうしたの和音」

 

「“今回”の事さ、わたし達二人だけでやってみない?」

 

「今回のって……あ、奏太達の事?」

 

和音の言葉の意図を、奏は即座に理解する。奏太とアコ達が老人福祉センターで行っている活動を、みんなで応援してあげよう、という話が和音と奏との間で上がっていたのだ。

 

本来なら、今のこの館での活動の中で落ち着いた時に響と聖歌にも話を持ちかけようと二人は考えていたのだが……

 

「ね、どう?」

 

「う~ん、そうね……ふふ、それ、確かに面白そうかも」

 

いたずらっぽい笑みを浮かべる和音に対して、含み笑いで返す奏。

 

内緒話で笑い合う二人の姿を、不思議そうに見る聖歌とハミィ、アンサンブルを続ける響達。

 

和音と奏、二人の秘密の活動は、ここから始まった。

 

 

---

 

 

「それじゃ、みんないい?」

 

公民館の音楽ホールに奏と和音、そしてアコと奏太達が集まっていた。奏は備え付けのピアノに座り、和音はしらべの館から貸し出し中のベースを持っている。

 

「音を合わせるアンサンブルにおいては、ただ上手に演奏する、という事よりも、みんなで息を合わせ、ハーモニーを生み出すのが何よりも重要じゃ」

 

和音が、音吉からの受け売りの講釈を声真似しながら口にした。アコ以外の三人はそんな和音の様子にクスクスと笑い合い、アコは露骨に不機嫌そうな顔をしている。

 

笑いを小さな咳払いで収め、奏が改めて口を開く。

 

「だからね、私のピアノと和音のベースで伴奏をして、それに合わせる形でみんなのリコーダーをハモらせようと思うの。ハモって気持ちのいい音が出ると、凄く楽しくなるのよ」

 

「音を出す事自体が楽しくなれば、練習そのものもはかどる! 練習がはかどれば、演奏も自然と上手くなる! いい事づくめでしょ!」

 

サトルとユイの二人が「はい!」と元気良く、奏太は「おう!」と勇ましく返事をし、アコは返事こそしなかったものの……いつものように不満や嫌みを言う事もなく、リコーダーの準備をしていた。

 

奏のピアノと和音のベースがリズムを組み立て、そこに四人のリコーダーの音色が被さる。今までも何度か練習してはいたらしいのだが、四人の演奏はまだまだ粗い。

 

まず、指が穴をしっかり塞げていないせいで、音がきちんと出ていない所が多々あり、指の移動が遅いせいでタイミングが大きくズレてしまう場面も多い。管楽器でとても重要なタンギングもまだまだといったところ。

 

これでは音をハモらせる以前の問題だ。

 

「ちょっと、あんた音外れすぎでしょ、ちゃんと練習してきたの?」

 

「う……ごめん」

 

「おいおい、上手く出来るように今練習してるんだろ? そう焦るなって」

 

「うん、サトルくんも、もう一度やってみよ?」

 

演奏終了後、アコがサトルにダメ出しをし、それに対して奏太とユイがフォローを入れる。

 

四人の中で演奏が一番上手くいってないのがサトルなのは明らかだった。小太り気味の体型で指が太いのが影響しているのかどうか……それは分からないが、リコーダーの指の配置や押さえが上手くできてないのだ。

 

「サトルくんにアコちゃんも、落ち着いて。こういうのは反復練習。何度も何度も繰り返して体に覚えさせるんだ。焦らないでじっくりやろう」

 

和音がなだめるように言う。それを聞いてサトルも少しほっとした様子だったが、そこで黙らなかったのがアコだった。

 

「そうは言っても、発表の日は一週間後でしょ、こんな調子で本当に大丈夫なの?」

 

そう、奏太達が演奏会を開くのは今から丁度一週間後の日曜日。その日に老人福祉センターの一室を借り、お年寄りの皆を集めて演奏を披露する事になっている。

 

一週間で演奏が劇的に変化するかというと難しいところだ。それに、和音も奏も部活や自分達の活動があるために、練習に付き合える時間はさほど多くない。

 

「今更んな事言ったって、予定は変えられないだろ?」

 

「……元はと言えば奏太が安請け合いするからこんな事になったんでしょ」

 

アコの突っ込みに、うっ、とたじろぐ奏太。今回のお年寄り達に向けた演奏会の立案者である奏太だが、他の三人の予定などを深く考えず日程を決めてしまうという問題も同時に引き起こしていた。

 

小学生とはいえ、四人でしっかり集まって練習する時間を作るというのはそれはそれで難しいもの。奏太も今でこそ奏の後ろ盾があって堂々とこの活動に参加しているが、彼もつい少し前までは隠れてコソコソと活動していたのだから。

 

今までにどれだけ集まって練習できていたのかも怪しく、とすると四人の演奏が上手く合わないのも仕方のない事なのかもしれない、と和音と奏は考えていた。

 

「奏太がおっちょこちょいなのは仕方ないとして……でも奏太の言う事にも一理あるわ。文句を言ったって、予定は変えられないのだから、練習に集中しましょ」

 

「……フン」

 

「上手く行ってないようねぇアンタ達!」

 

奏の言葉にアコが不満げに鼻を鳴らしたその時、バァーンという派手な音を響かせて入り口のドアが勢いよく開け放たれた。

 

反射的に視線を移動させた一同のうち、子供達は現れたその姿に絶句し、和音と奏は驚きのあまり悲鳴に近い大声を上げていた。

 

「「セイレーン!?」」

 

「おっと、ここでのあたしはさすらいの笛吹きエレンさんよ」

 

そう、その場に颯爽と現れたのはプリキュアの宿敵、マイナーランドの歌姫セイレーンこと黒川エレン。反射的に身構える奏と和音に対し、エレンは両手を軽く上に上げ非戦闘の意志を示した。

 

敵がいきなり現れるという混乱を生む状況ではあったが、エレンの出で立ちが……おそらく小学生女児を意識したのであろう、赤いミニスカに白いシャツ、真っ赤なランドセルに黄色い学童帽という、おおよそ常識では考えられないものだったために、奏と和音は敵意を見せ続けるのが不可能になった。

 

「一応~、我々もいるんですけどね……」

 

「なあ、我々までこんな格好をする意味があるのか?」

 

「我々はバックコーラス隊ですから、メインには合わせておかないと……」

 

エレンの後ろに、エレンと合わせたらしい小学生男子風の衣装とランドセルを身に着けたトリオ・ザ・マイナーを確認した奏と和音は完全に脱力した。

 

「い、いきなりなんなんだよあんた達……変な格好して、気持ち悪ぃなぁ」

 

「なんなんだとは何よ! このあたしがアンタ達にリコーダーの手ほどきってのをしてあげようってのにねぇ!」

 

「セイレ……エレンが……」

 

「リコーダーの手ほどき?」

 

エレンがランドセルに刺さったリコーダーに手をかけた時、和音と奏はハッとした。おかしな風貌でごまかされたが、エレンは悲しみの音で人を苦しませる事に喜びを感じるマイナーランドの住人。

 

油断をさせて悲しみの音を皆に聞かせるつもりだったのだと和音達が察した次の瞬間、無情にもセイレーンの笛の音が周囲に響き渡った。

 

~♪

 

「……これって…………」

 

「…………?」

 

セイレーンの吹いた曲は、悲しみの音楽ではなく、ごく平凡な……あまりにも平凡すぎる普通の音楽であった。

 

あっけに取られる奏と和音を尻目に、エレンは更に演奏を続ける。今度の曲は、軽快ながらも、どこか間の抜けていて、それでいて妙な親しみを覚えるような……

 

「これって、もしかしなくても………」

 

「チャ、チャルメラ………」

 

奏と和音だけでなく、奏太にサトルにユイ、更にはアコまでもが、エレンの滑らかな指先の技巧から放たれるリコーダーの……チャルメラ演奏を聞かされ、唖然としていた。

 

エレンが演奏を終え、リコーダーを構えてポーズを取った瞬間、今まで蓄えていたものが一気に決壊するように、奏太、サトル、ユイの三人が吹き出す。

 

「あは、あっはははははは! なんだよそれ、おっかしーの!」

 

「お姉ちゃん達、おもしろ~い!」

 

「凄く吹くのが上手いのに、演奏する曲がチャルメラなんて……ぷぷ……」

 

「フフフ、アンタ達にもあたしの凄さってものが分かったみたいねぇ?」

 

笑いの中心にいるエレンが得意げに笑い、その姿を見て更に周りの三人が笑う。

 

「いや、誉めてるっていうのとはちょっと違うと思うけど……」

 

「ホント、何しに……ん?」

 

エレンの起こす笑いの輪を怪訝そうに見る奏と和音。

 

和音がふと気づいて、輪から外れた所にいるアコの姿を見た。アコは目を背けてつまらなそうにしている……という体を装ってはいたが、頬を紅潮させていて、自分も笑いがこぼれそうなのを必死に我慢しているのが見て取れる。

 

普段むすっとしていてばかりで笑顔をなかなか見せないアコの意外な姿に、どこか安心を覚える和音だったが、事はそう単純でもない。奏に肘でちょいちょいと脇を突かれているのに気づいた和音は、奏と一緒に笑いの輪に背を向け、少し離れた所でひそひそと会話を始めた。

 

「ねえ、これ、どういう事だと思う?」

 

「セイレーンがみんなに楽しい音楽を聞かせようとするなんて、ちょっと考えられないよね……」

 

「何かを企んでるのは確実……やっぱり追い出した方が……」

 

「う~ん、でも……」

 

和音はちらりと後ろを振り返る。

 

セイレーンは再びリコーダーの演奏を披露していたが、その整った技巧から放たれる美麗な演奏とは裏腹の、体を前後に激しく振る演奏パフォーマンスが周囲の笑いを誘っていた。

 

「ぷふっ、……って、わたしまで釣られて笑っちゃった」

 

和音は奏に向き直る。

 

「セイレーンが企んでる事は気にはなるんだけど……でも、セイレーンが今作ってくれたこの空気って、今のあの子達に必要だと思うんだ。特に……アコちゃんには」

 

「今の、空気……」

 

今度は二人で後ろを振り返る。

 

いつの間にか、輪の外にいたはずのアコが、顔を真っ赤にしながらセイレーンに「いい加減にして!」と文句を言いつつ詰め寄っていた。しかしそれは本気で怒って言っているというよりは、周りと一緒に頬を緩めてしまっていた自分の行動に対する照れ隠しという意味合いが強いように見える。

 

怒られている側のセイレーンも、「あたしの演奏が凄すぎるもんだから嫉妬しているのかしら?」とおどけた調子で軽くあしらっており、怒り怒られながらも、その中に和やかな空気があるためか、本人達も、その周囲の皆にも、険悪な雰囲気は生まれていない。

 

「……あの子でも、あんな風に怒る事が、あるんだ」

 

嫌味な態度でいつも他人を小馬鹿にしている女の子……奏の中ではアコという少女にはそういう印象しかなかった。そんなアコの、子供らしい一面を、奏は今日初めて知る。

 

奏は和音に視線で合図を送り、それを受けた和音はこくりと頷いた後皆の元に歩み寄っていく。

 

「よし、それじゃあみんな! 今度はこのお姉ちゃんに習って演奏してみようか!」

 

「へ~ぇ、アンタにもあたしの凄さってものが理解出来たみたいねぇ」

 

「凄さっていうかなんて言うか……いや、うん、ほんとに凄いと思う、セ……エレンは。良かったら、みんなに演奏の仕方、教えてくれないかな」

 

「言っておくけど、何かよからぬ事を企んでいるんだったら承知しないんだからね!」

 

さわやかに言った和音に対して、奏は疑念を隠せない調子で言う。しかしセイレーンは気にした様子もなく得意げに答えた。

 

「いいわ。アンタ達、演奏会の日まであたしがビシバシ鍛えてあげるから、覚悟しときなさいよ!」

 

「な、なんであんたなんかに教えてもらわなくちゃいけないのよ!」

 

「まあそう言うなってアコ。ふざけた感じだけど、演奏は凄く上手いし、このねーちゃん」

 

「うん、私もこのお姉ちゃんに教えてもらいたい!」

 

「ぼ……ボクも!」

 

抗議の声を上げたアコだったが、奏太達三人の説得を受けて口をつぐむ。

 

「ふん……じゃあ、あんた達は好きにすれば……あたしはあたしで好きに練習するから」

 

アコは結局納得しないままだったが、奏太達三人の指導に新たにエレンが加わる事となった。エレンの指導は本人が言っていた通り厳しいものではあったものの、同時に的確な内容でもあり、なにより奏太達は楽しみながら演奏の練習をしていた。

 

しかし一方で、指導を受ける三人から離れた所で一人練習するアコの姿もあり、期待とは少し違った形になってしまった事を和音は残念に思う。

 

(アコちゃんも、一緒に練習してくれればいいんだけどな……)

 

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そうして練習の時間は過ぎていき……

 

「あっはっはっは! 今日はここまでだけど、次はこんな生易しいものじゃ済まないわよ! ……じゃっ!」

 

「………なんか、バックコーラス隊の私たち、居る意味があまりなかったような……」

 

「言うな、悲しくなるから……!」

 

「ではさようなら~~~~!」

 

結局、エレン達は何の悪さをする事もなく去っていった。さわやかに去るエレンらに手を振る奏太達と、苦笑いを浮かべて見送る和音と奏。

 

「エレンさんありがとう! おかげで凄く良くなったよ!」

 

「また来て下さいね!」

 

アコはエレン達に意識を向ける事はなく、むしろエレン達を笑顔で見送るサトルとユイの二人にきつい表情を向けていた。

 

「結局、何もしないで帰っちゃったね」

 

「ほんと、一体なんだったのかしら……」

 

何がしたいのか分からないエレンの奇怪な行動に、顔を見合って肩をすくめる和音と奏。奏はエレンに宣言したとおり、相手に心を許したわけではなかったのだが、そういった疑念よりも脱力感の方が最後には強く残ったのだった。

 

 

---

 

 

それからの数日間、奏太達は奏と和音、それにエレンの指導を受け、演奏会へ向けて調整を続けていた。

 

 

---

 

 

「やっぱり、今日も来てたんだ」

 

「……あんたも、またベースの練習?」

 

あの日出会った時と同じように、和音とアコは早朝の浜辺のベンチで顔を合わせていた。アコの問いに、和音はううん、と首を振る。

 

「今日は練習より、アコちゃんの顔を見に来た、ってのがメインかな。でも、ちょっと意外だったかも」

 

「……なにがよ」

 

「わたしに練習の場所知られたから、てっきり別の場所に移っちゃうのかなと思ってた。かのん町は音楽の練習が出来る場所、いくらでもあるし」

 

「……人が集まる場所だと、色んな音が混じっちゃって嫌なのよ。ここは、かのん町でも端の端だから、人がほとんど来なくていい場所……だったのに」

 

“だった”という部分に力強いアクセントを込め、アコは和音を睨んだ。和音は「あはは、ごめんごめん」と謝りつつも涼しい顔だ。

 

「音が混ざるのが嫌、か……練習の時もあまり奏太くん達と一緒に演奏しないのは、それが理由?」

 

「…………」

 

アコは答えない。

 

「でも、これはみんなで一緒に演奏するアンサンブルなんだからさ、もっとみんなと足並みを揃えないと……」

 

「一緒に演奏するなんて、奏太達が勝手に言い出した事だし、それに……それぞれがちゃんと上手くならないと、音を合わせたってしょうがないでしょ……」

 

アコの言葉に、和音はう~ん、と唸って視線を海岸に向ける。

 

「それって、他のみんなが下手だから、一緒に演奏するのは嫌ってこと?」

 

和音はズバリと聞くが、アコは動じなかった。

 

「……さあね。でも、あんなエレンとかいう怪しいヤツに教わって、本当に上手くなれると思ってるのかしら、あいつら」

 

「まあ、あの人が怪しいのは確かだけど、教えるのが上手いのも確かだと思うよ」

 

和音の巧みな切り返しにも、アコは淀みなく鋭い切れ味の言葉を返していく。

 

「他人におんぶだっこで本当に上手くなれるのか、って話よ」

 

「う~ん、アコちゃんは厳しいな…………でも、なんかわたしとアコちゃんって似てるよね」

 

「はあぁぁぁあ?」

 

和音の突然すぎる話題の切り替えと、あまりにも突拍子もないその内容に、アコは信じられないというような声を発した。

 

「意味分かんない! あんたみたいな底抜け脳天気とあたしが何で似てるのよ! もう、付き合ってらんないわ!」

 

「ああちょっと、アコちゃん、待ってよ~!」

 

和音はまだ話を続けたい様子だったが、その日は結局アコが逃げ去った事で会話は中断された。

 

 

---

 

 

そして、演奏会まで二日となったその日……

 

~♪

 

奏太達四人の演奏に、奏と和音は耳を傾けていた。多少ぎこちない部分はあるものの、数日前と比べたら大きく進歩している。

 

和音達が上半身で無言のリズムを刻み聞き入る中、いよいよ曲の盛り上がり所に入る、というそのタイミングで……

 

――プッ

 

大きな音の外れが空気を乱した。演奏に失敗したのはサトル。

 

彼は一瞬焦りながらも急いで周りと調子を合わせようとしていたが、その時アコがすっとリコーダーを口から離した。

 

「……ちょっといい加減にしてよ!」

 

突然の隣からの怒鳴り声に、慌てて調子を戻そうとしていたサトルがびくっと肩を跳ね上げる。奏太らも驚いてアコの方を見た。

 

「駄目だよアコちゃん、失敗があってもちゃんと最後まで演奏しないと」

 

「そんな事言ったって、こいついっつも同じ所で間違えてるじゃない! 他にもミスが多いし……これじゃ演奏会になんてとても間に合わせられない!」

 

「ご、ごめんアコちゃん、本番までにもっと練習して、ちゃんと出来るようにするから」

 

おどおどとした様子でサトルがアコに弁明するが、その態度が火に油を注ぐ形になったのか、アコは更に怒気を強くして、サトルをキッと睨みつける。

 

「もっと練習して……? “優しいエレンさんにもっと教えてもらって”って事?」

 

「えっと、それは……」

 

「あんた、ちゃんと自主練してる? “エレンさん”に教えてもらって、練習した気になってるだけじゃないの!?」

 

「アコちゃん、そこまで言わなくても……」

 

ユイが仲裁に入ろうとするが、アコに一睨みされると押し黙ってしまう。奏と和音が動こうとしたその直前に、今度は奏太がアコとサトルの間に割って入って来た。

 

「アコ、お前いい加減にしろよな」

 

「……なによ」

 

「こいつのミスの事ばっか言ってるけど、お前だってミスが無い訳じゃないだろ。そんな簡単にミスがなくなったりしねーよ」

 

「あたしは姿勢の問題を言ってるのよ。……こいつ、真面目にやる気あるの!?」

 

奏太を睨み付けながら、サトルの方を指差し糾弾するアコ。

 

「お前はどうなんだよ! 今度の演奏会は四人で一緒に演奏するって話だろ!? みんなで練習しようって言っても、いっつも一人で離れた所にいて! お前の方こそ真面目に演奏しようって気あるのかよ!」

 

「な、なんですって……」

 

アコは顔を紅潮させ、怒りで身体を震わせている。

 

「二人とも、もうやめなさい!」

 

「ほら、アコちゃんも……」

 

さすがにまずいと奏と和音が間に入り、言い争いを中断させる。奏太の方を奏が、アコの方を和音が抑える形になったのだが、和音はその時、アコが身を震わせながら顔を伏せている事に気づく。

 

「なにが……真面目に演奏よ…………あんた達なんか、音楽なんて適当にやって、失敗して終わっても別にいいやなんて、そんな程度なんでしょ…………」

 

「お、おい……アコ」

 

アコのただならぬ雰囲気に、顔を真っ赤にして怒っていた奏太が逆に心配そうな声を投げかける。サトルとユイも二人の様子を不安そうに見つめていた。

 

「もう、どうでもいいわよ! あんた達だけで適当にやって、勝手に酷い演奏でも聞かせてればいいわ!」

 

和音を振り払い、奏太を突き飛ばさんばかりの勢いでアコが外へ駆け出していく。奏太達が見たその横顔には、涙に滲む瞳があった。

 

「……フフフン、アンタ達、待ちに待ったエレンさんがしごきにやってきたわ…………ん?」

 

「ぎょえぇっ!」

 

「いたた……な、何なんですか一体……」

 

そのタイミングで丁度エレンらが練習場に現れたが、アコはエレンを無視して横を通り過ぎ、後ろにいたトリオ・ザ・マイナーらを押しのけて外へと駆けて行ってしまう。

 

「おい、待てよアコ!」

 

慌てて奏太がアコを追いかけ、トリオ・ザ・マイナーらはまたも突き飛ばされそうになってさっと道を開けた。その様子を見届けたエレンは、ふぅん、と面白そうに和音達を見る。

 

「なんか面白い事になってるみたいじゃなぁい? 演奏会は明後日だけど、中止になるのならあたしは帰った方がいいのかしら?」

 

挑発的なエレンの言葉の真意を測りかねた和音と奏だったが、今は彼女にかまっている時ではない。

 

「演奏会は中止になんてならないわ! 二人とも、きっとこんな所で終わる事を望んでない!」

 

「サトルくん、ユイちゃん、それにエレンも……二人はわたし達が連れ戻すから、だからここで待っててよ!」

 

おろおろするサトルとユイに一言告げ、奏と和音も二人を追って駆けだしていく。

 

「……そう。楽しみに待っていてあげるわ」

 

エレンはそれを見送り、不敵に笑う。……小学生コスチュームの姿で。

 

---

 

「離して! 離しなさいよ!」

 

「待てよアコ! お前、本気で演奏会やめちまうつもりかよ!」

 

公民館の外では、奏太の手を振り払おうと暴れるアコの姿があった。

 

「もう、どうでもいいって言ってんでしょ!」

 

アコが思いっきり腕を振り下ろし、奏太はたまらず手を離す。

 

「いいのかよ……そんなんで。おじいちゃんおばあちゃん達みんなを、喜ばせたかったんだろ……? 頑張って練習したのに、あんなつまらない事で簡単に投げ出しちまえるもんだったのかよ……」

 

「あたしは元々、こんな事する気なんてなかった……! 一人で居たかったのに、あんた達が勝手に演奏会をやるなんて言い始めて……」

 

建物内から飛び出して来た奏と和音が二人の姿を捉える。アコは奏太に背を向け、身体を震わせていた。

 

「でも、一緒にやるって言ってくれたじゃねえか……俺、嬉しかったんだぜ……アコが乗り気になってくれた事。なんでなんだよアコ、なんでやめるなんて言うんだよ。俺があんな事言ったから? だったら……」

 

「……あんたに、あたしの気持ちなんて分からないわよ!」

 

吐き捨てるようなアコの言葉に、今度は奏太の中の押し留められていた感情が決壊した。

 

「分かんねえよ! お前、何も言わないじゃねえか! いつも一人で寂しそうで、みんなが演奏してるの羨ましそうに見てて……! お前、ほんとはみんなと仲良くなりたいんだろ!? みんなと一緒に、演奏したいんだろ!? なのになんでいつも肝心な時に黙って…………何か言ってくれなくちゃ、俺……何にも分かんねえよ……」

 

最後の方はほとんど消え入るような泣き声だった。アコは何も答えず、そのまま走り去ってしまう。

 

「アコ……バッキャローーーっ!」

 

目に涙を溜めながら、奏太はアコとは逆方向に駆け出していく。

 

話に割って入る事も出来ずに一部始終を見守っていた和音と奏は、一旦顔を見合わせると、それぞれ別々の方向に分かれて走り出す。

 

「アコちゃん!」

 

「奏太!」

 

 

---

 

 

「……アコちゃん、やっぱりここに居たんだ」

 

「…………」

 

和音がたどり着いたのは、アコと邂逅を果たした海岸線近くのベンチ。アコはベンチに座り、一人うずくまっている。

 

「アコちゃん言ってたもんね。ここが一人で練習出来る場所なんだって。一人になりたいって考えたならここに来るんじゃないかと思ったんだ」

 

「…………」

 

何も答えないアコを気にせず、和音はベンチの隣へと腰掛ける。

 

「……何しに来たのよ」

 

顔を伏せたまま、アコが言う。ずっと泣き続けていたのだろう、その声はガラガラだった。

 

「……あたしを連れ戻しに来たんでしょ」

 

「…………アコちゃんは、戻りたい?」

 

和音の言葉に、アコが顔をがばっと上げる。

 

「戻りたいわけないでしょ! あんな、あんな奴らの所になんて!」

 

泣きはらして目元を真っ赤にしたアコの顔を、和音はただ見つめる。表情に怒りも、悲しみも、落胆も、期待も、何も浮かべず、ただアコの顔を見続ける。

 

予想していたのと違って、自分を説得するような言葉も何も言って来なかった和音に調子を崩されたのか、アコは和音から視線を外し、ゆっくりと正面に向き直る。

 

「……どうせ戻ったって、またあんな風に喧嘩になるだけ。……あたし、嫌味な性格だし。……それに、演奏会だってあたしがやりたかった訳じゃない。奏太達に付き合ってやっただけ……」

 

ようやくアコが自分の気持ちの一端を見せた事で、和音は微笑を浮かべた。

 

「アコちゃん、戻れとは言わないからさ、その代わり……来て欲しい所があるんだ。ほら!」

 

「えっ……ちょっと、何よ……!」

 

アコの手を掴んで、強引に、しかし優しく立ち上がらせる和音。和音の先導に、泣き疲れていたせいなのか、アコは特に抵抗するでもなくそのまま引っ張られていく。

 

 

---

 

 

「…………しらべの、館……」

 

「あ、なんだ、アコちゃんもやっぱり知ってるんだ?」

 

和音がアコの手を取りやって来たのは、彼女達の音楽活動の中心となっているしらべの館。和音は館の内部にまでアコを連れ立って行こうとするが、今まで黙って着いてきたアコが、そこで初めて足を止めて抵抗の意を示した。

 

「アコちゃん?」

 

「……あ、あたし…………」

 

和音が困ったな、と次の行動に迷い始めたその時、館の内部から響きわたる旋律にアコがハッと顔を上げる。

 

「こ、この音色……」

 

「おっ、やっぱり、丁度いいタイミングだったみたいだ」

 

事を説明するために和音が言葉を続けようとしたその時、アコは和音の手を振り払い、自らしらべの館に駆け込んでいた。

 

「えっ、ああちょっと、アコちゃ~~~ん!」

 

---

 

しらべの館内部の中央ホール。音に導かれるようにやってきたアコの目に飛び込んで来たのは、彼女自身もよく知る人物がピアノの演奏をしている姿だった。

 

――北条響。

 

アコはよく知っている。奏太と一緒の時に、よく出会うから。奏太が姉の話をする時によく一緒に話題にしているから。

 

だから、よく知っている……はずだった。

 

アコの頭の中に存在する北条響は、スポーツ好きで、がさつで、それでいて時に女々しく、他人とよく喧嘩していて……自分より年上のくせに、だらしない、ろくでもない女性……その程度の印象しかなかったのに。

 

アコの目に映るその女性の姿は、そんなイメージの中の彼女とは全く違っていて……アコが眩しく思うほどに輝いていた。

 

ピアノと一緒に踊るように、ピアノも、そこから奏でられる音色も、全てが自分の身体の一部であるかのように……響は時に優雅に、時に情熱的に、深く、優しく、力強い音楽を全身で奏でていた。

 

そして、アコにとって何より眩しく映ったのは……ピアノと一体となって音楽を奏でている彼女の、弾けるようなその笑顔だった。

 

額には汗が浮かび、この場で長い時間練習を続けていた事がうかがえる。なのに、疲れを一切見せず、むしろ演奏をして疲れる事すら楽しむように……輝くその笑顔は、美しい旋律と共に周囲に広がってホールを満たし、それを棒立ちで聴いているアコの身体にまで染み渡らせるかのような暖かさを持っていた。

 

「……すごい」

 

ゆっくりとした足取りでアコを追いかけてきた和音だったが、アコの漏らしたそのつぶやきは聞き逃さなかった。

 

いつの間にかホールを満たす音楽に身をゆだねていたアコだったが、演奏している響が、その流れの中でふいに自分に視線を向けて来た事にドキッとする。

 

……いや、アコには分かっている。目の前の演奏に集中している響には、自分がここに立っている事など気づきようがないのだと。

 

しかし、音楽と一体になった響の、一瞬だけ自分に向けられたその表情が、アコにはまるで「一緒に演奏しよう?」と訴えかけていたように見えて……

 

「…………っ!」

 

アコは拳をぎゅっと握りしめ、堅く握った手の震えが肩にまで伝わったかと思うと、今度はホールから外へ向けて駆け出していった。

 

「あっ、アコちゃん! ……ありゃりゃ、またかぁ」

 

中に追いかけて来たと思ったら今度は外に逃げられて、和音は困ったように頭を掻く。

 

しかしそんな慌ただしいアコの姿を見て、和音の脳裏に浮かぶ記憶があった。

 

音に誘われるまましらべの館へと入り込み、中で行われていた演奏に衝撃を受けて外へと逃げ出す……まるで、“あの時”の誰かの行動をなぞっているようだ。

 

(アコちゃんとわたしって、やっぱり……)

 

---

 

和音がワンテンポ遅れてしらべの館の外に出て来ると、彼女にとっては幸いにも、アコは館の外に立っていた。しかし、その身体は先ほどと同じようにふるふると震えている。

 

「…………アコちゃんに、聴いてもらいたかったんだ。響の演奏」

 

「……なんで」

 

え~っと、それは……と和音が答えようとする前に、アコは激しい言葉を背後の和音に投げかける。

 

「なんで! あいつが……あんな奴が、あんな演奏出来んのよ!」

 

アコの発した疑問は和音の言葉に対してのものでは無かった。和音は真顔に戻ると、アコの刺々しい言葉をただあるがままに受け止める。

 

「最初は音楽が嫌いで!? その後は好きだけど演奏しない方がいいとか訳分かんない事言って! ……あんな、あんな適当に、いい加減に音楽と付き合ってる奴が、なんで……あんな! あんな……凄い演奏を……」

 

そこで語調が弱まる。しかしアコは萎みそうになった気持ちを押しのけるかのように、また強い言葉で続けた。

 

「そうよ! 父親が凄い音楽家なんでしょ! 凄い父親に教えてもらって……だから、だからあんな奴でも上達出来るんだ!」

 

友人を貶めるような発言にも、和音は反応せずアコの言葉を聞き続ける。

 

「あたしっ、あたしだって本当は……っ!」

 

「……やっぱり」

 

そこで和音が初めて口を開く。アコはハッと顔を上げ、和音の方を振り返る。

 

「やっぱり……アコちゃんが納得出来なかったのは、他のみんなの演奏にじゃなくて……自分の演奏に、だったんだね」

 

アコが再びうつむいて視線を落とす。

 

「……わたしも、同じだったんだ」

 

「えっ……」

 

今度こそ、和音にしっかりと意識を向けて振り返ったアコの視線を、和音は優しげな笑みで迎えた。

 

「凄いでしょ、響の演奏。……前にも話してたけど、わたし達、響やみんなと一緒に演奏を楽しんでるんだ。でも……」

 

和音は一度館へと視線を向ける。

 

「響の上達速度が本当に凄くてさ、わたしの演奏、響について行けなくなっちゃってるんだ。一緒に演奏する時は響は上手く合わせてくれるけど、それって何だか……響の演奏の邪魔をしてるみたいに感じちゃって」

 

和音は確認するようにアコに向けて言うが、アコは何も答えず視線を外す。

 

「響はコンクールを目指して毎日遅くまで必死に練習してるから、追いつけないのって当たり前なんだけどさ……でも、一緒に楽しみたいって思うなら、自分の出来る限りの全力でぶつけてみなきゃ駄目なんじゃないかと思って。こっそり一人で練習してたりもしたんだ」

 

「あ……ベンチの練習……」

 

海岸線近くのベンチでの秘密練習……その意味をアコが察したのを見て、にひっ、と和音が歯を見せて笑う。

 

「そ。あれってそのための練習だったんだ。アコちゃんも、自分の演奏に納得出来なくてあそこでリコーダーの練習してた。……ね? わたしとアコちゃんって、似たもの同士でしょ?」

 

「に、似てないわよ! そんな事くらいで……」

 

アコは、気恥ずかしさと不満の混じった声で、和音の言葉を否定する。

 

「あたしなんて、いつも周りに文句言って遠ざけて……そんなあたしに笑って声かけてきたりして、誰とでも仲良くなれそうなあんたとは……全然似てない……」

 

いつの間にか、和音に自分の気持ちを開くようになってきていたアコ。和音の心の広さ……それが自分にこんな事を言わせているのだろうと、アコはそんな想いも込めて心境を語っている。

 

「誰とでも、かぁ……そ~でもないんだよね、これが」

 

「えっ…………」

 

和音が少し恥ずかしそうに話し始める。

 

「わたしの家って両親共働きでさ、小さい頃、家で結構寂しい想いしてたんだ。そのうちに、近所の男友達と一緒にサッカーとか、スポーツして楽しむようになったんだけど……楽しかったのは、小学校低学年くらいまで」

 

今度は、寂しげな表情で和音が続ける。

 

「だんだん、周りのみんなが「女子となんて遊べない」なんて言い出すようになっちゃって。かといって周りの女子とは話が合わないし、スポーツでわたしの全力についてきてくれる子もなかなかいなくて……わたし、中学に入るまで友達があんまりいなかったんだ」

 

和音の語る過去を、アコは意外そうな表情で聞いている。

 

「わたしには、心の底から通じ合える友達なんて、出来ないんだろうな、ってなんとなく思ってたけど……そんな時、響に出会った」

 

「響……」

 

北条響、今も尚、周囲に美しい旋律を広げている演奏者。二人の視線が自然としらべの館へと向かう。

 

「わたしについてくるどころか、わたし以上にスポーツが上手い女子なんて初めてだったから本当に驚いた。そして、そんな響に『親友になろう』なんて言われて、あの時、わたし、凄く嬉しかったんだ」

 

言葉通りの嬉しそうな笑みを浮かべる和音だったが、しかしその表情が少し曇る。

 

「……でも、そんな風に親友になれたと思った響とも、一度険悪な仲になっちゃって」

 

和音はアコに向き直る。

 

「だからさ、わたしもアコちゃんと一緒。……自分の中で抱えた気持ち、それをちゃんと口に出来ないで、自分で勝手に納得しちゃってさ、ずっと、それでいいと思ってたんだ。……響と喧嘩して……仲直り出来たあの時までは」

 

「あ、あたし、は…………」

 

今度のアコは、「和音と自分が似ている」事を否定はしなかった。

 

「アコちゃんもさ、自分の気持ち……言いたくない事は言わなくてもいいかもしれないけど、分かってもらいたい気持ちがあるんなら、言ってみたらいいんじゃないかな」

 

「あたし、あたしには……出来ない。自分の……気持ちを言うなんて。だって、だってあたしは…………」

 

言葉は途中で途切れる。アコにも、自分が本当に望んでいる事は見えてきているのだろう。

 

だが、それに対して一歩踏み出すには、まだ、もう一押し何かが足りないようで……

 

「………………」

 

「………………」

 

二人の会話が途切れると、今まで風景に溶け込むように遠くに聞こえていたしらべの館からの演奏が、すぐ側で、自分達を優しく包み込むかのように心地よく響き始めるのを、アコは感じた。

 

今度は、それを拒絶する事はない。アコの身体の震えも、少しづつ収まっていく。

 

「……ねえ、一つだけ教えてくれない?」

 

「……ん? なに?」

 

アコが口を開く。怒りや不安ももはや感じさせない、穏やかな声色で。

 

「……あの人の演奏、あそこまで上達出来たのって、やっぱり、音楽家の父親が、レッスンしてる、から……?」

 

先ほどのアコの言葉にもあった内容だ。和音には、アコが何故そこにこだわるのか、そこにどんな意味があるのかは分からなかったが……その質問に対して、自分なりの答えをちゃんと聞かせてあげようと、そう思い彼女は頭を捻らせた。

 

「う~ん……家で指導も受けてるみたいだけど、北条先生は仕事で人に教えてる人だから、響に付き合ってあげられる時間はそんなに無いだろうし。……もちろん、影響は少なからずあると思うけど、でも……ここまで成長出来たのは、響自身の頑張りのおかげだと、わたしはそう思うな」

 

「そっか。そう…………なんだ」

 

アコは少し残念そうな、それでいてどこか安心したような……そんな不思議な笑みをこぼす。

 

自分の答えがアコを満足させられたかどうかはともかくとして、アコの顔に穏やかな笑みが浮かんだ事を確認出来たのを、和音は嬉しく思った。

 

「あたし、みんなの所に戻る」

 

「……うん」

 

「でも、あんな事言って……許してくれるかな」

 

「大丈夫だよ、きっと。……でも、ちゃんとごめんなさいは言わないとダメだよ?」

 

それくらい分かってる! とムキになっていうアコに、ごめんごめん、と軽く謝る和音。

 

歩き出した所で、アコは名残惜しそうに一度しらべの館を振り返り……瞳を閉じて旋律を耳に刻むと、それからゆっくりと歩き出した。

 

 

---

 

 

「奏太、こんな所に居たの」

 

「…………」

 

かのん町の公園内のベンチで泣きはらした表情をしている奏太を、奏はようやくの形で発見した。

 

「ねぇ、アコちゃんの事、放っておいていいの?」

 

「俺……もうあいつの事、分かんねえ……どうしたらいいのかも、分かんねえよ……」

 

隣に座って優しく語りかける奏の言葉に、奏太はしゃがれ声で答える。

 

「本当に、それでいいの?」

 

「…………」

 

奏太の本心を察しながら、それを彼自身に分からせるために、問いかけ続ける奏。しかし、奏太とて自分の望みくらいは分かっているはずだ。

 

「俺がどう思っても……あいつ、許してくれねぇよ……俺、あんな酷い事言っちまって……」

 

落ち込むばかりな奏太のそんな言葉を聞いて、奏がふふ、と小さな笑みをこぼす。

 

「奏太って、優しいね」

 

「えっ…………?」

 

普段自分を叱ってばかりである姉の予想外な言葉を聞いて、奏太は顔を上げる。

 

「あれくらいで『酷い事言った』だなんて。私と響が喧嘩する時なんて凄いんだから。もう、一週間は顔を合わせたくないって思う時もあるし」

 

「ね、ねーちゃん達の関係は特別だろ!」

 

響と奏、二人の関係をよく知る奏太は、そんな特殊な関係は参考にならない、とばかりに言い返す。

 

「そう、特別な関係。……さすがに、響ほど好き勝手に言い合える相手は、他にはいないだろうな……でも、そんな響とだって、簡単に仲直り出来たって訳じゃない。ちゃんと気持ちを伝え合って、相手の事を理解出来たから仲直りできたの」

 

「気持ちを……伝え合う…………」

 

遠くを見るように語った後、奏は奏太に向き直る。

 

「だからね、奏太も、アコちゃんと特別な関係になっちゃえばいいのよ」

 

「……な、なな、なんだよ! アコと特別な関係って!」

 

顔を真っ赤にする奏太を見て、ぷっと吹き出す奏。そうじゃなくて……と一言挟んでから奏が続ける。

 

「言いたい事をちゃんと言い合える関係、って事。奏太は酷いこと言っちゃったなんて言ってたけど、アコちゃんだって口が悪いんだからお互い様じゃない」

 

「だからって、そんな簡単に行くかな……」

 

尚も不安そうな奏太に、そっと後押しするように奏が言う。

 

「喧嘩したっていいんだと思う。……でも、その後に相手から顔を背けちゃ駄目。相手の怒った顔も、悲しんだ顔も……見えなくなっちゃうから。私も響も、そんな風になってた事があった。……でもね、相手の顔をちゃんと見れるようになれば、何度だって……きっとやり直せるの」

 

奏の話を聞き終えた奏太は、しばらくぼうっと地面を見つめていたが、やがて顔を腕で大きくぬぐうとその場から立ち上がる。

 

「……俺、あいつが怒ってんのか悲しんでんのか、それすらまだ分かってねぇや……」

 

奏もそれに続き、姉弟は一緒に歩き出していく。

 

 

---

 

 

奏太と奏の二人に少し遅れる形で、和音とアコが公民館前に帰って来た。

 

アコと奏太はお互いの姿を確認すると、一瞬気恥ずかしそうに視線を逸らした後、示し合わせたようなタイミングで相手に顔を向け、そして……

 

「「……あのっ!」」

 

そして同時に声を発する。お互いの声に出鼻を挫かれる形となった二人は、互いに先を譲るように相手の声を待つ形となり、なかなか話を切り出せない。

 

二人の様子を穏やかな表情で見守る和音と奏。

 

そうこうしていると、公民館内からサトルとユイが現れた。後ろからは不敵な笑みを浮かべたエレンと、居心地の悪そうなトリオ・ザ・マイナーが続く。

 

「アコちゃん、奏太くん!」

 

「良かった、帰ってきてくれたんだ!」

 

「あっ、二人とも……」

 

二人の姿を見て、一瞬顔を曇らせるアコ。

 

アコは意を決した様子で、今度はサトルとユイの二人に対して、あのっ、と声を発しようとする。

 

「「ごめんなさい!」」

 

「……えっ!?」

 

しかしそんなアコの言葉は、今度はサトルとユイの言葉に遮られるのであった。

 

「アコちゃん、おじいちゃんおばあちゃん達に素敵な演奏を聴かせてあげようって、すっごく頑張ってたのに……」

 

「ボクたち、いい加減な気持ちでやってて、だからアコちゃんは怒ったんだよね。……ごめん。ボク、ヘタクソだけど、それでも頑張っていい演奏が出来るようになるから、だから、もう一度……アコちゃん、一緒に演奏してくれないかな……?」

 

ユイの言葉にサトルが続く。

 

謝ろうとした相手から逆に謝られてしまう形になり、最初は面食らった様子だったアコだが、最後まで聞き終えると、表情を崩して優しげな笑みを浮かべる。

 

「違うよ。謝らないといけないのはあたしの方。……本当はね……嬉し、かった、んだ…………演奏会に誘ってくれたこと」

 

アコはたどたどしい言葉を吐きながらちらっと奏太を見る。今までに見せたことのないアコの言葉と表情に、奏太はドキンと心臓の鼓動が高まるのを感じた。

 

「でもね……やってみたら全然思ったような演奏が出来なくて。それで、なんだか凄くイライラしちゃって。……そんな気持ちを、みんなにぶつけてたんだ。……本当にごめんなさい……」

 

「アコ……」

 

深々と頭を下げるアコの側に、奏太がゆっくりと近づく。

 

「俺の方こそ、ごめんな、アコ…………酷い事言っちまって」

 

「……何言ってんの。奏太は一番……あたしの気持ち分かってくれてた。……いつも、あたしの事ちゃんと見てくれて、ありがとう、奏太」

 

顔を上げたアコの見せる儚げな……それと共に浮かぶいたずらっぽい笑みを間近で見て、奏太は顔を赤くして目を逸らしてしまう。

 

「みんな、こんなあたしだけど…………また、一緒に演奏練習して、くれるかな……?」

 

「勿論だよ!」

 

「一緒に、素敵な演奏にしようね!」

 

アコ、奏太、サトル、ユイら四人が笑顔を見せ合い、和音と奏も自然に笑顔を見せ合う。そして……

 

「さっきまで喧嘩してたと思ったら、今度は笑顔を見せて仲直り。見事なものねぇ」

 

一同とは違った、含みを込めた笑みを和音と奏に向けていたのがエレンだ。

 

「セイレ……いや、エレン…………」

 

「これがアンタ達の力、って事かしら」

 

「……それは違うわ。私達はきっかけを与えてあげただけ。皆が仲直り出来たのは、あの四人が、お互いの事をちゃんと想っていたからよ」

 

「ふぅん……」

 

奏の言葉を聞き、意味ありげにアコ達を流し見るエレン。エレンがアコにつかつかと歩み寄ると、それに気づいて四人が顔を上げる。

 

「ほらっ、アンタ達、いつまでもニヤニヤしてる場合じゃないでしょ? とっとと今日の練習に入るわよ! 特に、そこのアンタ!」

 

エレンがアコをびしっと指さす。

 

「なっ、なによ…………」

 

「今まで離れてあたしの指導を受けてこなかったアンタは徹底的に鍛えてあげるわ! ……リコーダー演奏は姿勢が大事。まずはアンタのねじ曲がった姿勢から鍛え直してあげる!」

 

「は、ハァ!? 何言ってんのよ! みんなと一緒に練習するとは言ったけど、あなたに教えてもらうとは……」

 

「つべこべ言わな~い!」

 

アコを強引に引き連れていくエレンに、引きずられながらギャーギャーと文句を言うアコ。奏太達は笑い合い、後を追っていく。

 

「やれやれ、結局セイレーンが何を考えているかは分からなかったけど……」

 

「でも、とりあえずは綺麗に収まったみたいで、良かったわ」

 

和音と奏も後を追う。

 

「……ところで、私達は今日も居なければいけないのでしょうか?」

 

「我々はセイレーン様のバックコーラス隊ですから……」

 

「俺らも後ろで演奏するか?……リコーダーで」

 

後には、話の流れに入って行けなかったトリオ・ザ・マイナーが残された。

 

 

---

 

 

そして時間は流れ……演奏会当日となった。

 

「色々あったけど、みんな楽しく演奏出来るようになって良かったよね」

 

「……ええ。私も、今日の演奏会でみんなの演奏を聴くの、楽しみ」

 

和音と奏は老人福祉センターへ向かう道を並んで歩く。今日はアコ達の応援と、練習の成果を見るのが目的だ。

 

奏と同様、和音も今日のアコ達がどんな演奏をするのか楽しみで仕方がなかったようで、弾む気持ちが歩きにも現れ自然とスキップになる。

 

「もうっ、和音ってば、はしゃぎすぎ!」

 

「あはは、ごめんごめん! 今日演奏するのはアコちゃん達なのにね……ん?」

 

~♪

 

不意に、頭上から鳴り響いた音色に、和音はスキップを止める。

 

どこかで聴いた事のあるような、巧みな技巧と滑らかな息づかいによって奏でられる、しかし今まで聴いた事のない、絶望の底に落ちる事を予兆するようなフレーズの、リコーダー音。

 

奏も足を止め、和音と同時に頭上を見上げる。屋根の上でリコーダーを構え、二人を見下ろしているのは……エレンとトリオ・ザ・マイナー。

 

「……セイレーン!」

 

「あなた達、どういうつもり……?…………まさか!」

 

ここ一週間の練習中に現れた時と違い、いつものコスチュームでの登場、そして先ほどの不吉な音色の演奏から、奏達はエレン達マイナーランドの悪意を感じ取った。

 

「フフフン、なかなか察しがいいじゃなぁ~~~い?…………何かを成功させようと必死に努力を重ねて、それが失敗に終わった時! その時こそ最も深い絶望が生まれる! そう、まさに今がその時!」

 

エレンはリコーダーを頭上に投げ上げると同時に本来の姿……セイレーンへと戻り、そして同時に叫ぶ。……リコーダーの内部には既に、音符が収まっていたのだ。

 

「いでよ、ギガトーーーーーーーン!」

 

「ギ・ギ・ギ……………………ギ~~~~~~ガトーーーーーーーーーーン!」

 

リコーダーのボディを持つ怪物、ギガトーンが二人の前に立ちはだかる。

 

「……まさか、最初から演奏会を台無しにする目的でみんなに近づいたっていうの……!」

 

「なんで……」

 

セイレーンの行為に義憤をたぎらせる奏に対し、和音はセイレーンを悲痛な表情で見つめていた。

 

「みんなの練習を、応援してくれたじゃないか! セイレーンが教えてくれたから、みんな上手くなって、アコちゃんだって、あれからよく笑うようになったんだよ!……なのに、なんでだよセイレーン!」

 

和音の言葉を、セイレーンは鼻で笑う。

 

「フン、だから言ったでしょ。そんな風に仲良しこよしで笑顔になった所で、絶望の淵に叩き落とすのが最っ高に楽しいって事よ! そのために、練習にわざわざ付き合って、上手くいってるように思わせてあげたってワケ」

 

「そのために、私達も付き合わされた訳です!」

 

「正直、居ても居なくても変わらなかった気もしますけどね……」

 

「だから、それを言うな……」

 

心底楽しそうに言うセイレーンに対し、気の抜けた様子で言うバスドラ、ファルセット、バリトンの三名。

 

和音はそんな……と表情を暗くする。

 

「さぁさぁ、そんな無駄話をしてていいのかしら? ギガトーンがこのまま暴れるのを見過ごすのかしら? あたしが命令しなくとも、こいつは今に暴れ出しちゃうわよ~ぅ?」

 

セイレーンの言った通り、ギガトーンはズシン、と一歩踏み出し動き出していた。

 

和音はキリッと決意を込めた表情を見せ、奏と視線を交わし合う。

 

「今まで頑張って練習してきた……」

 

「皆の演奏会を台無しにする事は……」

 

「「……絶対に許せない!」」

 

「レレッ!」「ララッ!」

 

ハモった二人の声に合わせて、フェアリートーンのレリーとラリーが飛び出し、変身アイテムキュアモジューレに合体する。

 

「「レッツプレイ・プリキュア・モジュレーション!」」

 

二人のハーモニーパワーとフェアリートーンの力が混ざり合って光の奔流を生み出し、その中で二人は伝説の戦士の姿へとその身を変える。

 

「爪弾くはたおやかな調べ、キュアリズム!」

 

「爪弾くはほとばしる調べ、キュアビート!」

 

「「届け! 二人の組曲! スイートプリキュア!」」

 

変身完了の名乗りを上げ、奏はキュアリズムとして――和音はキュアビートとして――二人はギガトーンの前に並び立つ。

 

ギガトーンを睨むその表情は硬い。気負いをしている訳ではないが、油断する事は出来ない。

 

何故なら、キュアビートとキュアシンフォニーの二人が居なければ破壊の音を無力化する「ツインビート・シンフォニア」は使えず、更に四人が全員揃わなければギガトーンを浄化する「スーパーカルテット」も使えないのだから。

 

「響達もギガトーン出現の波動には気付いているはず! 二人が来るまでなんとか持ちこたえよう!」

 

「うん、分かった!」

 

リズムの案にビートが同意し、二人は戦闘を開始する。まずは、ビートが必殺武器・ラブギターロッドを出現させ、その弦を弾き鳴らす事で光の矢を放つ。

 

「ビートソニック!」

 

「ギギッ、ッガ!」

 

ギガトーンがその骨の翼を羽ばたかせると、広がる不快な音の突風がビートから放たれた攻撃を全てかき消してしまう。

 

「やあああああああ!」

 

音の渦を突破して来たリズムは、ギガトーンの目の前で垂直跳躍、上昇しながら細長いそのボディにテンポ良く蹴りを繰り出していく。

 

「ギッ、ゴッゴ……ゴッ!」

 

「よし! リズムの直接攻撃なら、ギガトーンにも通用するぞ!」

 

リズムの素早く力強い連続攻撃を受け、ギガトーンは身体を後ろに仰け反らせる。

 

「くぅっ、やるじゃない…………と見せかけてぇ~……行くわよ、アンタ達!」

 

「相変わらずこの破壊の音は辛いですけど……」

 

「私達もなんとかやってみせます!」

 

「行くぞ、せーの!」

 

「「「アアアァァ~~~~~~~~♪」」」

 

破壊の音の反動を受けて苦しみながらも、セイレーンの指示に合わせ、一斉に合唱を行うマイナーランド一同。

 

その声を受けて、後ろに仰け反っていたギガトーンが、起き上がり小法師のごとく身体を跳ね上げ、そのまま前方に倒れかかる。

 

「えっ、嘘っ!? きゃあああっ!」

 

ギガトーンの真正面に居たリズムは、倒れてくるギガトーンの身体に叩き落とされ、地面で身体をバウンドさせた。

 

「リズム! …………あっ!?」

 

ビートがリズムの心配をしている余裕は無かった。

四つん這いの状態になったギガトーンが、その翼を振動させ、力を蓄え始めたのだ。

細長いリコーダーの身体が横倒しになったその様は、まるで大砲のよう………ギガトーンが破壊の音の衝撃を放とうとしているのは明白だった。

 

「………あっ!?」

 

「………まさか!?」

 

そして二人は気づく。その“大砲”が狙っているのは、自分達二人ではなく、道の向こう……老人福祉センターの方角!

 

 

---

 

 

「奏おねえちゃんと和音おねえちゃん、まだ来てないのかな……」

 

「あたし達、上手く出来るかな……」

 

老人福祉センターの一室で待機しているアコ達一同。サトルとユイは、応援に来てくれるという話だった奏と和音が不在である事もあって不安を感じているようだ。

 

「くっそ~……ねーちゃん達、こんな時に限ってどっか行っちまったのか……?」

 

二人の不安を見て奏太も焦りを感じ始める。しかし、そんな中で澄ました顔を見せているのが一人……

 

「あんた達、なんて顔してんの。誰が応援に来ようが来まいが、別にどうだっていいでしょ」

 

「で、でも……」

 

不安そうにしているサトルに対し、アコは涼しげな笑みを浮かべながら告げる。

 

「今日の主役はあたし達なんだから。……さ、余計な事考えてないで、演奏を楽しみましょ」

 

 

---

 

 

「逃げる事なんて出来ないわよねえ? 今までみんなで頑張って来たんだもんねえ? せっかくのこの日を台無しにしたくはないわよねえ? さあ、大切な演奏会を、アンタ達の大切な絆とやらを……守ってみなさいよぉっ!」

 

「くっ!」

 

ギガトーン内部の力が最大限に高まるのを見て、ビートはギガトーンの狙いの真正面に立ちはだかり、自らも身体に力を溜めた。

 

「ギ、ギ、ギ、ギガガガガガガガガ!」

 

「ビートバリア! ……くうっ!」

 

ビートがラブギターロッドを弾き鳴らす事でバリアを生じさせるが、ギガトーンの破壊の音を受け、バリアに一瞬で“ヒビ”が生まれる。

連続してギターを掻き鳴らす事でバリアを補強しようと試みるが、破壊の音の勢いは強く、バリアを今にも貫通しそうになっている。

 

「ビート! バリアを解除して逃げて!」

 

「………で、でもっ!」

 

破壊の音が放たれる直前に駆け出していたリズムが、ビートに駆け寄りながら叫ぶ。

躊躇するビートをそのまま追い越し、すれ違い様にリズムが続ける。

 

「私に考えがあるわ!……ビート、信じて!」

 

「…………! 分かった、お願いっ!」

 

ビートはバリアを自ら弾けさせ、一瞬生まれた隙にその場から離脱する。

 

その時には既にリズムが破壊の音の射線上で待機しており、自らの武器、ファンタスティックベルティエを構えている。ベルティエにはレリーとファリーのフェアリートーン二人が合体していた。

 

……リズムに破壊の音の衝撃が迫る。

 

「私だっていつまでも同じままじゃないのよ! プリキュア! ファンタスティック…………ミキサーーーー!」

 

リズムは手首のスナップをきかせてファンタスティックベルティエを投げ飛ばす。不規則な回転をしながら飛んでいくベルティエは、破壊の音の衝撃と正面から衝突し、そして……

 

「なっ、何よあれ!?」

 

「破壊の音が、分散していく!?」

 

セイレーンらが驚いたのも無理はない。ベルティエは不規則な回転運動を維持したまま空中の一点で留まり、破壊の音を周囲に拡散させていたのだ。

 

破壊の音も、細かな音に小分けにされてしまえば大きな音の一種でしかない。

 

「破壊の音を完全に無力化する事は出来なくても、周囲に分散させてしまう事くらいなら出来る! 私がかき混ぜ器の手の動きから編み出した技よ!」

 

「な、なるほど…………って、納得できるか~~~~い!」

 

「かき混ぜ器なら逆に混ざっちゃいそうだよなぁ?」

 

「……うん」

 

リズムの決め顔による解説にツッコミを入れるセイレーン達だったが、目の前で起こっている現象を否定する事は出来ない。

 

やがて、破壊の音の衝撃波が止み、ベルティエもリズムの手元へと戻ってくる。しかし、ベルティエをキャッチしたリズムの手に、びりっと鋭い痺れが襲う。

 

「……うっ!」

 

「し、痺れたレレ~!」

 

「これ以上はしんどいファファ……」

 

音の力によって形成されたプリキュアの武器といえど、長時間破壊の音にさらされてはその影響を無視する事は出来なかった。ベルティエに装着されたレリーとファリーも、目を回したようにして疲労を露わにしている。

 

「ごめん、ふたりとも……やっぱり、防げるのは一回が限度みたいね……」

 

「……でも、時間稼ぎは十分だったみたいだよ!」

 

リズムの元に駆け寄ってくるビート。リズムが顔を上げたその時には、見知った存在が視界に入る位置まで駆けて来ていた。

 

「二人共! 大丈夫かニャ!」

 

それは歌の妖精のハミィ、そしてハミィに先導されてやって来た二人は……

 

「メロディ、シンフォニー!」

 

「ごめんなさい二人とも。遅くなってしまって」

 

「わたし達が来たからには、もう安心だよ!」

 

リズム達の目論見通り、二人が時間を稼いでる間に、敵の出現を各々キャッチした響と聖歌の二人が変身しその場に辿り着いた。

 

「来てくれたのね! もうこれ以上ギガトーンを暴れさせるわけにはいかないわ! メロディ!」

 

「うん、わたし達がギガトーンを押さえ込むから、ビート、シンフォニー、お願い!」

 

リズムに促されたメロディがリズムと共にギガトーンに向けて走り出す。身体能力に秀でた二人が前面に出て、ビートとシンフォニーが後方からの援護でギガトーンを弱らせ、そのまま四人最大の技で一気に決めてしまおうという算段だ。

 

しかし、一方でマイナーランドの側にも動きがあった。

 

「フン、こういう流れになる事は計算済みよ! ほら、アンタ達! ここが見せ場よ!」

 

「ま、任せておけ!」

 

「我々だってマイナーランドのバックコーラス隊!」

 

「意地を見せてやりますよぉ~!」

 

「アアアァァ~~~♪」「アアアァァ~~~♪」「アアアァァ~~~♪」

 

セイレーンの指示に、バスドラ、バリトン、ファルセットの三名が別々のパートを同時に歌唱し始めた。セイレーンのチャームにその声が集まり、ギガトーンに変化が訪れる。

 

「えっ、ちょ、何よあれ!?」

 

今まさにギガトーンに飛びかからんとしていたメロディは、目の前で起こった光景に驚きの声を上げる。リコーダーの体を持ったギガトーンが、頭部管、中部管、足部管の上中下に三分割されたのだ。

 

「シャイニングトラ……えっ!?」

 

「うわぁっ! な、何だあれ!?」

 

骨の翼と目が付いた頭部管はそのまま空中に飛び上がり、攻撃準備に入っていたビートとシンフォニーの間に割り込むように急降下する。その勢いによって発生した突風が、二人を吹き飛ばし完全に分断した。

 

「二人とも!……きゃあっ!?」

 

二人を手助けせんと方向転換したリズムを、両足が付いたギガトーン足部管の強烈なキックが襲う。

 

「ちょっと! 邪魔しないでってば!」

 

メロディの方も、両手を足のように動かして襲いかかる中部管に襲われ、思うように動くことが出来ないでいる。

 

「オーーーーッホッホッホッホ! 力を合わせれば強い力を発揮出来るって言うんなら、力を合わせられないよう物理的に引き離してしまえばいいって寸法よ!」

 

セイレーンの高笑いが響く。

 

分離しているとはいえギガトーンの一撃一撃は重い。セイレーンの思惑通り、四人はその攻撃に翻弄され、協力態勢を取る事が出来ないでいる。

 

「ビートソニック!」

 

「ブラストトランパー!」

 

ビートとシンフォニーはそれぞれ遠隔攻撃によってギガトーンを追い払おうとするが、空中を高速で飛び回るギガトーンを捉える事が出来ない。

そしてまた急降下するギガトーンの突風攻撃によって吹き飛ばされ、二人は徐々に体力を奪われていく。

 

「うう、くそっ!……ん?」

 

再度宙に舞い上がったギガトーンを目で追って振り返ったその時、同じ方角に居た屋根の上のセイレーン達の姿がビートの目に飛び込んできた。

 

そして彼女は気づく。セイレーンの後ろのトリオ・ザ・マイナーが“別々に”歌唱を続けているという事に。

 

「リズム! 見て!」

 

「えっ…………あれは!」

 

ビートの声を受けてリズムもトリオ・ザ・マイナーを見やる。そして、何かを察したリズムが、すぐさま他の三人に聞こえるような声で叫ぶ。

 

「みんな! 一カ所に集まって!」

 

「えっ!?」

 

「リズム……?」

 

言葉の意図を計りかねて一瞬躊躇する他二人だったが、リズムとビートの何かを確信したような表情を見て、すぐさま行動を開始した。

 

同時に駆け出すビートとシンフォニーをギガトーン頭部管が、メロディをギガトーン中部管が、リズムをギガトーン足部管がそれぞれ追いかける。

 

「集まって力を合わせようってんでしょうけど、同じ事だわ! またギガトーンのパワーで分断させてやる!」

 

「一カ所に集まれ」と言われれば、集まる事で協力して何かをしようとしている……と考えるのが自然な思考だ。

 

実際、メロディとシンフォニーの二人もそういった考えで行動を開始していたのだが、ビートの全力疾走する姿と、リズムの目線からのアイコンタクトを受け、その考えを二人は即座に切り替えた。

 

(そうか……分かったわ、二人とも!)

 

(止まるんじゃなく、このまま……)

 

((((走り抜ける!))))

 

走り寄っていく四人の交点……そこで彼女たちはお互いの合間をすり抜けるようにして交差し……そのまま走り抜ける。

 

「……なっ!? ま、まずい! アンタ達、追いかけるのをやめさせなさい!」

 

プリキュア側の行動の意図を遅ればせながら察知し、セイレーンはトリオ・ザ・マイナーを振り返る……が。

 

(今こそ、今こそ私の高音パートが輝く時ですよぉ~~~!)

 

(メンバーの中で私が一番地味な気がします……ここで目立たなければ!)

 

(セイレーン様には適わなくとも、マイナーランドナンバー2の座を渡すわけにはいかん……!)

 

「……ねえ聞いてる? アンタ達、あたしの話聞いてる?」

 

操るだけでも大きな反動を生むギガトーンのコントロールに集中していたためでもあったが、トリオは自分のパートを歌う事に夢中になっており、彼らにセイレーンの声は届いていない。

 

お互いぎりぎりの距離をすり抜け通過したプリキュア達。巨体を持つギガトーンの部位が同じように交差しようとすれば当然……

 

「ギッ!?」

 

「ガッ!!」

 

「ト~~~~~~~~ン!」

 

ギガトーンは自分のパーツ同士を見事に正面衝突させた。そのままもつれ、絡み合うように地面に重なり合って倒れる。

 

「どわああっ!?」

 

「な、なななな、何ですか!?」

 

「あ、あれぇ?……プリキュアを追いつめているはずだったのに……」

 

「あ、アンタ達ねぇ……」

 

激突してコントロール不可になった所でようやくトリオ・ザ・マイナーが我に返る。セイレーンも怒りを通り越して呆れた様子だ。

 

「残念だったね!」

 

「あなた達の歌には、ハーモニーが足りないわ!」

 

ビートとリズムがビシッとマイナーランド一同を指差す。

 

「二人とも、今だよ!」

 

「……ええ。ビート!」

 

「うん!」

 

ビートがソリーの合体したラブギターロッドを、シンフォニーがラリー、シリー、ドドリーの合体したシャイニングトランパーをそれぞれ構え、二つの楽器の音を調和させていく。

 

「轟け! この魂!」

 

「導け! その輝き!」

 

「「プリキュア!」」「ツインビート!」「シンフォニア!」

 

二つの音が生み出す音楽の渦が、ギガトーンを、彼女達自身を包み込む。

 

その時には既に、メロディとリズムがお互いの武器を合体させ、技の総仕上げの段階に入っていた。

 

「「クロスロッド!」」

 

「「四つの心を、一つの力に! プリキュア! ミュージックロンド…………」」

 

「「「「スーパー…………カルテットーーーーーー!」」」」

 

四人の力が結集した光の奔流に、ギガトーンは三部位まとめて貫かれた。

 

「「「「フィナーレ!」」」」

 

「ガガッ! ギギッ!……グーグーグー…………」

 

「ニャップニャプー!」

 

破壊の音の力を浄化され、安らかな眠りについたギガトーンは、その体を元のリコーダーへと変える。ハミィが両手を合わせてハート型の光を飛ばすと、それがリコーダー内部に吸収され音符を出現させる。

 

「レレッ! レリーッ!」

 

白のフェアリートーン、レリーが音符を吸収した事で、今回の戦いは終結した。

 

「うぬぬ……作戦は間違ってなかったはずなのに! アンタ達、今日は帰ったら反省会よ!」

 

「うう……今回は反論の余地もない……」

 

「でも、今日はちょっと目立てて嬉しかったりもして」

 

「私も、高音のソロで結構いけるんじゃないかと……」

 

「黙らっしゃい!」

 

バスドラ、バリトン、ファルセットの三人を叱りつけながら、撤退していくセイレーン。

 

「ハニャ? これはどうするのかニャ?」

 

「あっ、それ……セイレーンが使ってたリコーダー」

 

ハミィはギガトーンの体として使われていたリコーダーを手にしている。しかし持ち主のセイレーンはとっとと帰って行ってしまった。

 

「せっかくだし、ハミィが貰っておけば?」

 

「ハニャ、じゃあ記念に取っておくニャ!」

 

メロディに軽く言われ、同じく軽い調子で返すハミィ。そんな様子をシンフォニーが見ていたその時、三者から少し離れた所で、ビートがリズムに話しかけた。

 

「……ねぇ、今回のセイレーン、なんでこんな事したのかな?」

 

「えっ、こんなって……奏太達の演奏練習に付き合った事?」

 

リズムの言葉に、ビートが「うん」と答える。

 

「それは……自分で言ってたじゃない、頑張って努力した分だけ失敗した時の悲しみは大きいって。それが狙いでしょ。セイレーンのやりそうな事だわ」

 

「う~ん、そんな理由であそこまでやるのかなぁ?」

 

セイレーンの所業を思い出してむすっとした表情を見せるリズムに対し、ビートの方は少し腑に落ちない様子だった。

 

ハーモニーパワーを打ち破るため、響達の仲違いを狙って様々な作戦を実行してきたセイレーン。しかしそれらの作戦は優れたものとは言いづらく、回りくどすぎて何が目的なのか彼女らには良く分からない場合も多かった。

 

今回もその系統なのだと納得できそうなものだったが、ビートには今回のセイレーンの行動は、今までと違った気配を感じるものがあった。

 

 

---

 

 

「ごめんねみんな、応援に来るの間に合わなくって」

 

「もう、ねーちゃんいつも時間にうるさいくせにさ、こんな肝心な時に自分が遅刻するってねーよな!」

 

「ご、ごめんってば、奏太!」

 

和音らの遅刻に不満の声を漏らす奏太の言葉に、和音も奏も苦笑する他ない。だが、奏太を含む四人の表情がとても朗らかで楽しそうなものだったために、和音と奏は聞くまでもなく今回の演奏会の結果を理解する。

 

「でもみんな、素敵な演奏に出来たんだね。顔に出てるもん」

 

「はい! 今までで最高の演奏だったと思います!」

 

「うん。……でも、ちょっとだけ失敗しちゃったんだけどね……せっかく練習したのに、失敗しないでちゃんと演奏したかったな……」

 

いい笑顔を浮かべるユイに対し、笑顔を見せてはいたものの、失敗の気恥ずかしさと、後ろ髪を引かれる様子を見せているサトル。しかしそんな彼にやれやれといった調子で声をかける者が。

 

「あんたもバカね、そんな事いちいち気にしてたの?」

 

「え、でも……」

 

アコだ。突っかかるような言い方だったが、その言葉に苛立ちや嫌みといった調子はない。

 

「演奏が終わった後のおじいちゃんおばあちゃん達の笑顔、見てなかったの?……あたし達の演奏、大成功だったじゃない」

 

「アコちゃん……そう、だよね。うん。ありがとう!」

 

サトルもようやく満面の笑みを見せ、アコも誇らしげな笑みを見せる。四人の様子に、和音と奏も顔を見合って笑いあう。

 

「でも、エレンさんにも聴いてもらいたかったな、今日の演奏」

 

「確かに……。結局演奏指導してもらった事、礼も言えなかったし」

 

エレンについての話題に、和音と奏はちょっと複雑そうな表情を見せた。演奏会を台無しにしようと怪物を呼び出したセイレーン……しかし奏太達の中では、エレンはあくまで奇妙だが親切な指導者のままだったのだ。

 

「もう、あんな奴らの事はどうでもいいでしょ。勝手にやってきて、勝手に教えて……それで最後は勝手にどっか行っちゃったのよ」

 

「よく分かんねー人達だったよな。……それにしてもさ、やっぱアコ、音楽の才能あるんだな! 俺らはエレンさんに指導受けてようやくって感じだったけど、アコは一人で練習してばっかだったのに一番上手かっただろ?」

 

奏太の賞賛する言葉に、アコは赤面して「そ、そう?」と照れたように言う。奏太の評価にはサトルとユイも納得のようで、二人も続けてアコを誉め讃える言葉を並べる。

 

「うん、本当に凄かったよ! アコちゃんの演奏、また聴いてみたい!」

 

「さすが音吉さんの孫だよね!」

 

「「…………え?」」

 

最後のユイの言葉に、和音と奏は自らの耳を疑った。アコは、いたずらがばれた時の子供のように、気まずそうな表情でおそるおそる和音と奏を見る。

 

二人は目を丸くしていて……やがてユイの言葉の意味を飲み込むと、二人揃って先ほどのフレーズを口にした。

 

 

---

 

 

「「アコちゃんが音吉さんの孫!?」」

 

ついさっきの和音と奏と同じように、驚愕の事実を知り驚きの声を上げたのは響と聖歌だ。和音と奏はサトルとユイの二人と別れると、今度はそれぞれの用事を終えた響や聖歌と合流したのだった。

 

「いや……っていうかさ、結構長い付き合いだったのに、ねーちゃん達知らなかったの……」

 

「知るわけないでしょ!? だって奏太、アコちゃんの事苗字で呼んだ事一度もないじゃない!」

 

「そ、そんな事怒られても困るって!」

 

未だ困惑の感情の途切れない奏の責めるような言葉に、奏太の方もどうしていいか困り果てている。

 

「そういえば確かに、音吉さんにはお孫さんがいて可愛がっているという話だったけれど……」

 

「まさかそれがアコちゃんだったなんて!……あ、じゃあ、あの財布を作ったのもアコちゃんだったんだ……」

 

謎の老人、音吉のわずかに知られるプロフィールを思い返す聖歌と、過去の事件で関わった音吉の財布の件を思い返す響。人形の形をした音吉の財布は、孫に作ってもらった大切なものだという事で、それを届けようと響と奏が町中を駆け回った事件があった。

 

まさかその騒動を巻き起こす原因となったあの財布を作ったのが、会う度嫌味ばかり言ってきていたこの少女だったとは……響達は改めてアコの事をまじまじと見つめる。

 

アコは話の中心になり、響ら四人からの好奇の視線を浴びて気恥ずかしそうにしている。

 

「……もうっ! あんた達みたいに騒ぎ立てる奴ばっかだから知られたくなかったのよ!」

 

みんなの視線の輪の中から飛び出すアコ。しかしそのまま駆け去って行くかと思いきや、アコは少し走った所で足を止め、チラリと響達……いや、響の事を見つめながら、もじもじとしている。

 

先ほど以上に顔を赤くして恥ずかしそうなアコの姿を一同が不思議に思っていると、アコが、最初はか細い声で、やがて強く絞り出すような声で後ろに向かって話し出した。

 

「あ……あのっ!…………ひ、響……さ、ん……」

 

「「「「「え゙っ!?」」」」」

 

アコと音吉の関係という驚くべき事実に混乱させられたばかりだと言うのに、またも目を見張るような出来事が眼前で展開するのを見せられて……今度は奏太を含む一同がぎょっとして体を固まらせる。

 

「えっと…………その……ピアノのコンクール! 出るんでしょ……あたし、応援、してるから…………そ、それだけ!」

 

たどたどしい口調で言いたい事を言い終えると、アコは今度こそその場を後にして駆け出していく。

 

慌てて奏太が追いかける。

 

「ちょ、おい、アコ! 一体、どういう事だよ!? 響ねーちゃんがピアノのコンクールって……そんなの俺も聞いてないぞ!? それに応援するって……急にどうしたんだ!?」

 

「別に、なんでもない!」

 

「な、なんでもなくないだろ!」

 

「なんでもない!」

 

仲良く言い争いしながら去っていく二人を、硬直したまま見つめ続けていた四人。

 

「い、今確かに、響さん、って…………」

 

「聞き間違いじゃ、ないわよね……」

 

混乱する一方の響と聖歌。

 

「ぷ……ぷぷっ」

 

「うふ、うふふ、あはははっ!」

 

裏の事情を知る和音と、和音から大体の話を聞いていた奏の二人は、事態を呑み込むとおかしさをこらえきれずに笑い出す。

 

「……あっ! 二人とも、何か知ってるのね!」

 

「えっ!? なになに、なんなの!? 気になるじゃない、教えてよ~!」

 

二人の様子から隠し事を察した聖歌と響が、和音と奏に詰め寄る。しかし二人はそんな追及をするりと抜け……

 

「えへへ……」

 

「それはね……」

 

「「ナ・イ・ショ!」」

 

人差し指を口に添えて、声をハモらせるのであった。

 

 

---

 

 

しらべの館。

 

もう夜も更けて来ている今の時間帯、今日はもう響も帰宅しており、そのため他の演奏仲間もここにはいない。

 

ただ一人、音吉だけが、いつものように巨大なパイプオルガンの調整のためそこに残っていた。

 

「……お前さんがここに来るとは珍しいのう」

 

カン、カン、とパイプを叩き調整を行っていた音吉が、館の中に入ってきた存在に気づき、声を発する。

 

ホール中央には、いつの間にか“調辺アコ”が立っていた。

 

「おじいちゃん、今日ね……友達と一緒に、リコーダーの演奏をしたんだ」

 

アコは自分の祖父である調辺音吉に、今日の出来事……彼女にとって、とても大切な出来事を言って聞かせる。

 

脚立から降りた音吉は、アコが恥ずかしげに、それでいて嬉しそうに口にする話を、満面の笑みで聞き入っていた。

 

「……そうか。…………音楽を、もう一度楽しむ気持ちになれたかい」

 

「……まだ、分からない…………でも、また、みんなと一緒に演奏したいな……」

 

気恥ずかしそうに視線を床に向けていたアコが、顔を音吉に向ける。

 

「ねえ……響、さん…………ここでいつも演奏してるんでしょ?………どう、あの人の演奏?」

 

「……ふむ。最初は随分とズレておったがの。……今は、とてもいい音楽を奏でておるよ。何より、今のあの子は音楽を心の底から楽しんでおる」

 

髭をさすりながら語る音吉。アコは遠くを見るような表情でホールのピアノに目を向け、あの日あの時の響の演奏を思い返していた。

 

「音楽を……楽しむ、か…………あたしもまた、聴きに来ようかな」

 

怖がって、恐れて、目を背けていたあの時の自分。その震えを包み込んで、前を向かせてくれたあの演奏。

 

「あの人の演奏を聴いたら…………勇気が持てそうな気がするから」

 

 

 

 

 

 

つづく

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