新しく転送されてきた6名は各々の反応を示した。
まず奇抜な格好をした若い男がカメラを傾け、大袈裟なリアクションを取る。
「ここドコ!? あっれぇ、タクシーで移動中だったんだけど!」
次に体格のいい厳つい男がサングラスを外し、教室内を見渡した。
「……どうなってやがる? ここは何処だ。お前は誰だよ」
その男の睨みに怯えているのが白衣姿のバス運転手だ。バス運転手は厳つい男に問われ、慌てて顔を横に振う。
「し、知らないです、私は何も!」
「知らねぇのかよ、使えねえな……おい、お前は?」
「自分も知らないっすね! てか、なんか見た事ある顔だなと思ったら、もしかして宇都宮拓也!? プロボクサーが何でここに!?」
奇抜な格好の若い男は厳つい男――宇都宮拓也というらしい。のことを知っているようで、興奮ではしゃいでいる。
宇都宮拓也は訝しげな目を向け、「何だファンかよ」と呟いた。
「自分、動画投稿者なんすけど、『ぺっとぼとる』って活動名の、知ってます?」
「しらねぇよ」
「えっ!? 結構有名っていうか、一応大手なんすけど!? 自分を知らない事にガーンって感じで驚きでいっぱいっすね!」
「うるさいなお前……」
暫く様子を見ていた丸は、たった今会話をしている3人の中で宇都宮拓也と動画投稿者のことは薄らと見たことがある程度の認識だった。
宇都宮拓也。ヘビー級日本チャンピオン王者。最近有名になってきているプロボクサーだ。
人気動画投稿者『ぺっとぼとる』は某動画サイトで登録者数200万人を越えている有名人だ。
残りの男は丸達が乗っていたバスの運転手だ。彼も交通事故に遭ったが、ニュースで死んでないとアナウンサーが言っていたのを覚えている。しかし、彼もまた時間が経ち、遅れて死亡したのだろう。そう予想できる。
「そこの少年、この場所のことを知っているのか?」
そんな事を考えていたら、いつの間にか赤髪の男が丸の近くにいて話しかけられる。急に話しかけられたものだから、どう話していいか困る。
「あー、俺だよな? 少年って」
「そうだ、君以外に居ないだろ?」
「でも太ってるあいつとか、もっと小さいガキとか、いるぞ?」
「いや、君でいい。君が一番冷静かつ周囲を観察しているからね。あそこにいる黒いスーツ姿の女子もいいかもしれないが、あの際どい格好をしているから男のオレは話しかけにくい。よって、黒いスーツを着ていない君が消去法的に残った訳だ」
「なるほど、な。あんた……よく見てるな」
この赤髪の男、観察眼に長けていると丸は素直に思った。突然この教室に来て、状況も理解していない中にこれだけ冷静でいられる胆力もある。
「俺は月川丸だ。高校生。あんたは?」
「高校生か。
そう言って、刈谷は丸に名刺を渡す。
確かに刈谷探偵事務所、と書いてある。先ほどの観察眼は探偵だからこそといったところか。
「探偵……珍しいな。刈谷さん」
「刈谷でも、赤でもいい。好きに呼んでくれ、月川少年」
「俺も別に月川でもいいし、丸でもいいからな。少年っていっても、高校生だぞ?」
「オレからしたらまだ少年だよ。じゃあ、月川でいいか?」
「いいぞ、刈谷」
結構刈谷はフレンドリーな性格のようだ。初対面の丸とここまで親しみやすく会話が出来る人間性。それが狙いなのか、自然にできているのか。少なくとも情報収集が目的で近づいて来たのは間違いない。
「それで何が知りたいんだ? 刈谷」
「全部。この教室のこと、あの黒い球のこと、オレが死んだかもしれないこと」
「……そうだな、この教室は東森学園の旧校舎だ。あの黒い球はガンツって呼ぶ。最後の件については、かもしれないんじゃなくて、事実だ。死んだんだ、あんた」
「――――」
流石に全てを答えれば、冷静だった刈谷も無言で動揺を見せた。
だが、すぐに平静を持ち直したらしく、「そうか、オレはやはり死んだのか……」と1人で納得している。
「知っているということは、君も死んだんだな。それにしては落ち着き過ぎている」
「俺は2度目だから、これで分かるか?」
「……2度目、か。まあね、君が何故これほど冷静かつここの事を知っているかは、それで説明が付く。君のおかげで、自分の状況が掴めて来た。だけど君は肝心な事をオレに伝え忘れている。
刈谷はガンツに転送され、この教室に来た後の展開のことを知りたいのだろう。
これから先。ガンツのミッションが始まる。この後に華凛から一通り説明がされるだろうが、早いに越したことはない。それに心構えもできる。
「これから始まるのは、あの黒い球……ガンツのミッションだ」
「ミッションと来たか。その可能性は、頭になかった。どんな内容のミッションだ? 月川」
「敵だよ。宇宙からやってきた敵を俺たちが倒す、ゲームみたいなもんだ」
「急にSFチックな話が来たな……分かった。信じ難いが、この際信じよう。でないとドッキリだとか、今は夢の中だとか、そんな可能性が頭に過ぎって、話が進まないからね」
「話が早くて助かるぜ。後は、あそこにいるセクシー女子が教えてくれる。あー後、これだけは言っておく。黒いスーツは着たほうがいい」
「説明感謝する。黒いスーツ……あの少女が着ている奴だね、考えとくよ」
そこで丸と刈谷の会話がひと段落付き、終える。この間も丸はストーカー男を見張っており、未だ彼が暴挙に出ていないのを確認している。しかし、それもここまでのようで、ストーカー男は隠れていた佐里を発見する。
「佐里……? 隠れてないで出ておいでよ、佐里」
「……石黒。何でここに」
「やっぱり、佐里だ。ぼくの佐里ぃ。ぼくは助かったんだね、あの男のせいで死にかける羽目になった」
口の端を上げ、気持ち悪い笑みを浮かべた男は佐里の方へ近付こうと一歩足を――出そうとした時に、佐里と男の間に丸が壁になるように立ち塞がった。
「いや、お前は死んだ。ここに来てるってのは、そういうことだ」
「お前……あの時の!」
「来るかもとは思ってたけど、来て欲しくない奴が来たぜ」
「お前っ! ぼくを殺そうとしたなぁ!?」
「死んだんだよ、足りねー頭で考えろ。何でさっきまでは外だったのに、今は教室にいる?」
「……っ! ぼくは、確かにさっきまでは……ぼくに何をした!?」
男は丸の発言に動揺して叫ぶ。
今ここに来てようやく自分の記憶を思い出したのだ。自分の死んだ記憶を。
死ぬ記憶を、受け入れることは難しい。数秒の動揺だけで済んだ刈谷が変わっている。
その認識を、記憶を、信じることができない。自分の都合のいいように、記憶の改竄をする。
死んだのではない、理由は分からないが、生き延びたのだと。
「他にもいるんじゃないか、死んだ心当たりがある奴が」
「僕……死んだかもしれない、です」
丸が他の4人に声をかけ、反応したのが今まで一言も話さなかった白髪の少年が小さく手を挙げた。
白髪赤目の少年を呼び餌に、動画投稿者が、プロボクサーが、バス運転手が同調する。
「俺もだ、病んでる女に刺されてな。多分致命傷だった」
「自分もっす! 自分は多分毒キノコ食ったせいっすけど……動画録ってて、急に苦しくなって。毒キノコで死ぬとかインパクトやばいっすよね!」
「……私は、交通事故で一時は助かったんですけど、2日と持たなくて、死んじゃったんですかねぇ……」
三者三様の死に方をしている。特に動画投稿者の死に方は滑稽である。だが同じ死には変わりないため、笑い話ではない。
丸としてはバス運転手に一言言ってやりたい気持ちがあったが、言っても仕方ないと口を閉じる。
『新しい朝が来た♪ 希望の朝~が♪』
突然、大音量のラジオ体操の歌が、黒い球から流れ始める。それは女性の美しく鈴の鳴るような声音で、リズムは完璧だった。
ガンツのミッションが始まる前兆、前触れ。前回もこのような歌が流れたのだ。
おそらくガンツなりのルーティンか儀式なのかもしれない。
兎にも角にも大事なのはこの後、どんな敵が示されるかである。
「何だ? ラジオ体操か……?」
「ラジオ体操っすか!? やります? 宇都宮さん!?」
「やらん……それにしても、何なんだ?」
「確かに、何なんすかね〜」
「女性の声?」
プロボクサーと動画投稿者とバス運転手が反応し、
「何が始まるんですか……これから」
「おそらくミッションだよ、オレも初めてだが」
「ミッション? 何ですかそれ……」
白髪の少年と刈谷も黒い球を見る。
この教室にいる全員の視線が、ガンツに集まり、ラジオ体操の歌詞に耳を傾けた。
『それ♪ 一 二 三 ♪』
ラジオ体操の曲が終わり、静寂が訪れる。誰かの息を呑む音が聞こえた。
ち〜〜〜〜ん、と高い音が黒い球から流れ、ガンツ前画面の光が付く。
【貴方達の命は無くなりました。
新しい命をどう使おうと私の勝手です。
という理屈な訳です。】
その黒い球からのメッセージに、見ている者は直感的に理解させられる。自分たちは死んだのだと。これから何かが始まるのだと。
【貴方達には今からこの方を殺しに行って来てください。
スライム:特徴弱い。好きなもの:? 口癖『しゃむしゃむ』】
その文と共に、半透明色の液体が映っている。
――コイツを倒せばいいのか? スライム? 弱い? 雑魚? もしかして今回楽勝だったり?
丸は、疑う。本当に雑魚敵として有名なあのスライムが出て来るのか。何か裏があるのではないかと。
だがしかし、指示されたからには、倒すのがミッションだ。スーツなしの丸からしてみれば、敵が弱いのは助かる。
――あのスライムは、俺が倒す。
雑魚だろうが強敵だろうが関係ない。初回の前回とは違う。ルールを知っている。それはアドバンテージとなる。その口が知らぬ間に、笑っていた。
ここが俺の生きる世界なんだ。