GANTZ〇(マル)R15版   作:闇の戦士

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14「絶体絶命」

「スライム? スライムってあの雑魚っすか?」

「……ゲーム? おいお前、何かの企画か?」

「違うっすよ! ちょっと面白そうではあるっすけど、今回は自分じゃないっす!」

「何が何だか……私には分からない」

 

 動画投稿者やプロボクサー、バス運転手が黒い球からのミッション提示に困惑の声を上げる。

 理解できないのは当然だ。丸だって最初は理解できなかった。片や刈谷と白髪の少年が興味深げに黒い球を見つめている。

 

「これがミッションか、月川」

「そうだ、刈谷。ガンツから今回出されたミッションは、スライムを倒す……俺も2回目だからあんま分かってないけどな」

「スライムといえば、ドラクエとかか?」

「そうなんじゃねーか? 俺もそのイメージがあるし。おい、華凛。説明してくれ」

 

 新規組からの視線が集まり丸が説明する流れになっていたので、丸は華凛にバトンを渡す。

 やれやれ、という顔をした華凛が黒い球の前に出て、真剣な顔に切り替えた。

 

「前回生還した6名は分かっていると思うが、今回新しくやって来た者も含め改めて説明しよう。私は東森華凛だ。君たちよりも何回か多くここの経験がある。今から話すのは君たちの命を守る為のものだ! よく聞いてほしい、まず君たちは、死んだ――」

 

 華凛によって、ガンツの生き抜く方法を一通り説明を受ける新規組。

 刈谷と白髪の少年以外は間に受けていないようで、スーツの重要性がイマイチ分かっていない者が4名。ゲームの説明を受けるような様子で聞いていた。

 

 その間に丸は別の教室に行きガンツソード(と呼ぶらしい)の武器を手に取って、元の教室に戻って来る。

 

「丸っち、この長いXガン、もしかしてスナイパーライフルかなぁ?」

「あー、銃身が長いし、そうなんじゃね? 使うのろっく?」

「おいら……サバゲーだといつも狙撃銃選ぶから、コレなんかしっくりくるんだお」

「お前が使いやすい奴が一番いいだろ」

「じゃあ、これにするお」

 

 その武器をXライフルガンとろっくが名前をつける。

 長距離射撃が可能ならば、一方的な戦いが出来る。それは魅力的だが、その大きさや重さがネックだと丸は思う。既に丸の片手はガンツソードで埋まっているし、もう片方だけで持っていく重量ではない。

 では軽量かつ小型のXガンを持っていくのが無難だと考えるが、丸の目にはもう一つの武器が目に入った。

 Y字型の銃だ。Xガンよりも軽量で片手で携帯するのに適している。Y字だからYガンか? と丸は仮で名をつける事にする。

 悩んだ結果、丸はYガンを選ぶ事にした。使い方は後で華凛に聞けばいいだろう。

 スーツがない丸はもう準備を終えて、もう一度新規組の様子を見る事にした。

 

「こんなコスプレ着るよりかはまだ裸の方がマシだ……」

「同意っす! こんなの履いたら、動画BANになっちゃうっすよ!?」

「私も……流石にこれは……」

 

 やはり、スーツを着るのに難色を示しているようだ。それは一般人の共通認識で、いくらスーツを着ないと危ないと言われても行動に移すのが難しい。スーツが恥ずかしい服装なのも、より抵抗が増すのだ。

 丸は人の目がある中で着たことがないから、恥ずかしい気持ちが共感できる。

 そう考えていたら、刈谷がスーツケースを持ち丸の近くに寄って来た。

 

「月川はスーツを着ないのか?」

「俺、スーツ持って帰って壊したから、着たくても着れないんだ」

「……壊した? スーツは一種のバリアのようなものを張っていて耐久性があると東森さんが言っていたが?」

「あー、まぁ、なんか浮かれて夢中になり過ぎて……酷使し過ぎたみたいな?」

「月川は意外と羽目を外すタイプなんだな」

「そっちの方がいつもの俺だ」

「そうなのか? 君は頼りになる人間だと思っている」

 

 どうやら刈谷は丸のことを高く買っているらしい。期待されるのは苦手なんだけど、と丸は顔を顰める。顔を顰めた丸を見て、刈谷が軽く笑った。

 

「頼りにしてるよ、本気でね。オレは帰らないといけないんだ、仕事がまだ残っていてね」

「探偵の仕事だよな? やっぱ殺人事件とかか?」

「違うよ、猫の迷子探しだ」

「……それ、探偵業?」

「立派な探偵としての収入源さ。殺人事件は現実で滅多に起きないし、私立の探偵にそういう仕事が来ることが少ないんだ。幻滅したか?」

「いや、大変なんだなって思った」

「いい奴だな、君は」

 

 探偵というのはロマン溢れる職業だが、現実は甘くない。実際に依頼される仕事は浮気の捜査や地味な仕事が多いのだ。それでも刈谷は自分の仕事に誇りを持っている。財布の中身がスカスカなのが玉に瑕だが、と最後に付け加えていたが、仕事を変える気はないらしい。

 

「刈谷はスーツ着ろよ。女達は別の教室に着替えに行ったし、ここで着ても問題ないぜ」

「勿論、スーツを着ないという選択肢はない」

 

 刈谷は堂々と服を脱ぎ、スーツを着ながら話を続ける。彼に恥ずかしいという感情はないのか? と丸が苦笑いをした。――華凛いるんだけどな。まあ、いっか。

 

「スーツを壊したと言っていたが、着た感想を聞いても?」

「いいぜ。ガンツスーツは身体能力をすげー向上させる。簡単に言うと、軽く10メートル以上ジャンプできるようになるパワードスーツ的な感じ」

「それは凄いな……超人になれるのならば、なおさらスーツを着ないのは有り得ない。確かに着てみて分かる、全身に力が漲っているような感覚があるな」

「そういうこと」

 

 不思議と刈谷がガンツスーツを着ると様になっている。要領がいいし、彼も生還するかもしれない。話し合いが出来る人間は貴重である。

 一方で話し合いができない人間筆頭のストーカー男は、スーツを着ていた。

 着なかったら、死ぬ可能性が上がったのに。と丸は小さく舌打ちをする。お人よしな華凛とは違って、丸は残酷な性格をしている。時と場合で、他人を蹴り落とすことも頭の中には入っている。

 ガンツスーツは着る人間を超人的な力を与える。それは武器を持たせることと同義で、着てはいけない人間に渡してしまえば、悪用に使う輩も中にはいる。その1人がストーカー男だったのだが……彼はもうスーツを着ていた。

 ――最悪、佐里ちゃんに危害を加えるなら、俺も武器を使う必要がある。常に見張っておく必要があるな。今は周囲に人が居るから、手出しはしないのか……?

 

「そこのお前も着た方がいいぜ」

「?」

「お前だよ、白い髪のお前」

「僕……ですか? 着るって、スーツですよね?」

「それ以外にないだろ? お前名前は? 俺よりも歳下だよな? 俺、月川丸。高校生」

「僕は、夏目月渚(なつめるな)……です。僕も高校生」

 

 夏目月渚。ルナ。キラキラネーム? を名乗った白髪に白い肌、真紅のような目の少年は丸よりも小柄だ。本人は高校生だと言っているが、中学生に見える。身長が150センチも無いように思えた。

 

「高校生? 中学生じゃなくて?」

「うん……高校2年生。君は?」

「俺、1年だけど。歳上かよ……」

「驚くよね……ごめん。月川君は、男だよね?」

「あー……男だ」

「ご、ごめん……でも、良かった合ってて」

 

 白い少年はそう言うと、少し微笑んだ。何だか話してると気が狂うやつだと丸は思う。儚げというか、容姿は目立つはずなのに存在感が薄いというか、表現が難しい少年だ。

 

「夏目、スーツは着とけ。じゃないと死ぬぞ」

「……死ぬって、一回死んだのに? また死ぬの?」

「死ぬ。俺たちは生き返ったんだ。だから、死ぬ。スーツはお前のことを守ってくれるし、武器にもなる」

「武器……その持ってる銃……何?」

「これか? ガンツソードとYガンだ。まぁ剣と……これはまだ分からないが、武器として使えんだろ。お前は……Xガンとか持っとけば」

「うん、分かった……ありがとう、月川君」

 

 素直な奴だな、コイツ。と丸は思ったが、後は彼の運の良さを信じるしかない。誰も彼もを、丸が守り切ることは難しいのだから。

 ――守る? 守れるのか? スーツ無しで? 自分の命が優先じゃないか、その上で余裕があるのなら佐里ちゃんや千春先生を守る。それでいい。それ以外の奴を守る理由がない。

 

「ぁあああっ! 宇都宮さん!? 頭が!」

「あ? おい、何だこ――」

 

 動画投稿者の叫び声が響き、丸が何だと顔を向ければ、プロボクサーの顔が無くなっていた。いや、転送が始まったのだ。次に動画投稿者が、バス運転手が次第に飛ばされていく。

 

 そして、丸の番が来た。視界が黒くなり、徐々に転送が進む。

 

「始まったか、転送が」

「月川! 気を付けろ! 私が行くまで耐えるんだ! だから――」

 

 華凛が心配そうな顔で、転送されていく丸に叫ぶ。

 何でそこまで心配そうな顔なんだ。丸がスーツを着ていないからだろうか。それとも、丸のことを純粋に心配してるのか。

 どっちにせよ、耐えろと言われてもスーツなしの人間なんて簡単に死ぬ。人間なんて、野生動物に勝てないんだ。

 それでも、丸は彼女に向けて笑い、

 

「心配すんな、お前が来るまでは生きてる。だから、早く来てくれ」

 

 少しだけ格好の悪い台詞を吐いて、姿を消した。

 

=====

 

 丸は目を開く。暗い。真っ暗闇だ。

 耳をすませば、虫の鳴き声と木の葉が擦れる音がした。

 だが、次第に目が暗闇になれ、その場所が明らかとなる。

 

「……ここは、森か?」

 

 そこは鬱蒼と茂る森だった。木々が一本ずつ太く、高い。空を樹葉が覆っていて、月の光が届かないせいか辺りが暗い。

 その時、ぎぃ、と木が削るような音がした。辺りが暗く、その音はどこから聞こえたのかが判明しない。

 

「……?」

 

 ()()がいる。周囲に。それもかなり近い。誰かが見ている。自分のことを。1回目のミッションの時と同じ感覚。

 一歩、後ろに下がった。腐葉土と枝を足で踏み、かさと音が鳴る。二歩目でべちゃりと音がして、違和感を抱く。――べちゃり? そんな音鳴るか? 水溜まり?

 

 そして、丸は地面を見た。

 赤黒いドロドロとした液体が、円状に広がっている。そこの中心を見てしまう。

 血で出来た水溜まりの中心。そこには、何かが横たわっている。目を凝らす。その人影が、鮮明になっていく。

 それは。それは、頭部がない死体だった。

 

「――ッ!?」

 

 血の水面に、何かが映り、体を停止する。――何かが、背後にいる。誰だ? 転送されてきた誰かか?

 丸はゆっくりと背後を振り返る。

 

 その先にいたものを見て、丸は凍り付く。

 それは下半身が人間のモノで、上半身が牛だった。牛、だ。紛れもなく。

 ――ミノタウロス?

 

 ミノタウロス。古代ギリシャ神話に登場する、半人半牛の怪物。その怪物が、その巨大な背ほどもある斧を握って、仁王立ちしていた。

 

 その鼻から、ふんすと息が吐き出される。

 

「やあ、これって、俺……詰んだ?」

 

 スーツなし。

 背後には首なしの死体。おそらくミノタウロスの斧に斬られ、殺されたのだろう。

 片手にはガンツソード、もう片方にYガン。そういえばYガンの使い方を華凛に聞くのを忘れていた。

 

 絶体絶命のピンチが、丸に訪れていた。

 ――悪い華凛、わんちゃん俺お前が来る前に死ぬかも。

 

 

 

 

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