GANTZ〇(マル)R15版   作:闇の戦士

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18「リーダーシップ」

 全長12メートル以上の巨大な怪物――9本の蛇の首を持つヒドラ。その9つの首を支えているのは四足の胴体部。それが、森の開けた空き地に棲む蛇の怪物。

 その空き地に飛び出た丸は、次の瞬間宙を舞う刈谷を見た。あの巨大な首の一つが薙ぎ払うように、刈谷を簡単に吹き飛ばす。何回かボールのように地面を跳ね、物凄い速さで丸の横に地面を削りながらコロコロと回転して来る。

 

「刈谷! 大丈夫か!?」

「月、川……ゴホッ!」

 

 丸が刈谷の体を両手で抱き起こす。幸い刈谷は生きてはいるようだが、咳を吐き血痰が飛び出る。ダメージが通っていると丸が驚愕し、見ればガンツスーツのレンズ型部品から透明の液体が溢れ出てきていた。――あの時と同じだ、俺がスーツを壊した時と。

 

「刈谷、スーツが壊れて……」

「……月川、このままじゃ、全滅するぞ。あの蛇の怪物は、オレらが倒した奴らと違う。何とかしないと、彼らは、間違いなく死ぬ」

「分かってる。だけど、あそこには華凛も飯田のおっさんもいる。大丈夫だあいつら2人は強え。だから、刈谷はここで休んでおけ」

 

 丸はそう言ったが、刈谷は真面目な顔で首を横に振るった。その目に覚悟が宿っている。戦う気なのだ刈谷は。スーツが壊れたのに、何故。

 

「まだ、オレも戦う。それを言うなら月川……君だって、スーツないだろう? 血は吐いたが、口内を切っただけだ。まだ動ける。探偵を舐めるな」

「――刈谷、お前……カッコいいな。だったら、やるぞ。じゃないと千春せんせーも佐里ちゃんも、多分死んじまう。俺たちで、あの怪物を殺す」

「いいね、探偵として体を動かすことは得意分野でないが、依頼人が減っては困るからね」

 

 丸は刈谷を手で引っ張って体を起こす。そうすると、2人は軽く笑い合った。

 恐怖がその身体を縛り付ける。ここからでも威圧される。あの九つの首を持つ怪物の前だともっとそれは大きく感じるはずだ。

 それでも、2人は同時に走り出す。スーツなしとスーツが壊れた男。どちらも防護服なしに火事に突っ込むようなものだ。

 そんな時。丸はヒドラの元に、小さな影が飛び出たことをその目で見た。

 

「何だ!?」

 

 次の瞬間、遠くにあったヒドラの3つの首が、同時に切断された。

 それを成し遂げたのは、黒いスーツを纏った長髪の女性――東森華凛だ。刀身が伸びたガンツソードを手に待ち、跳躍した彼女が空中を舞っている。

 丸は徐々にヒドラに近づきながら、華凛を見て口の端を上げ笑った。

 

「やっぱ、強え」

 

 しかし、空中で自由落下している華凛を、2本の首が同時に襲った。その長い首の蛇が、鋭い牙で彼女を噛み殺そうと――

 

「華凛! 避けろッ!」

 

 丸は叫ぶ。叫んだところで彼女が反応しても自由落下の軌道が変わるわけじゃない。いくら強い彼女でも自由落下中は無防備。当たる。あの牙で、彼女のスーツが貫かれる瞬間を、想像してしまう。

 だが、その瞬間は訪れなかった。その双頭が、唐突に長い首と切断されたからだ。何もない虚空から放たれた斬撃によって。――何だ!? 今どこから!?

 ビリビリと、虚空から稲妻が迸る。その稲妻と共に現れた半透明の黒いスーツ。それが徐々に鮮明になり、ガンツスーツだと分かる。

 新しく空中に現れたガンツスーツを着た白髪老人の男。その男に2つの首は抜刀するように、黒い刀身に振り斬られた。

 

「飯田のおっさんか! 良くやった!」

 

 透明化を解いた飯田勇三。華凛の付き添い執事だと丸は思っている人物。2人目の強者。

 難を逃れた華凛と飯田は綺麗に地面へ着地する。

 

 そこにようやく丸と刈谷が辿り着く。

 ほぼ全員そこに集まっていた。

 佐里、千春先生、男子小学生の上村、サラリーマンの安川、白髪少年の夏目、華凛、飯田、バス運転手、そこに今合流した丸に刈谷が加わって10名。

 

「月川君!? 生きてたのね!」

「丸くんっ? 良かった……」

「千春せんせーも、佐里ちゃんも無事で良かったぜ。今合流した」

 

 皆、その顔が疲れ果て絶望感に染まっていた。そんな中、現れた丸の存在に小さな希望を見出す。だとしても、絶望の原因は未だ取り除かれていない。

 まだ4つの首が残っているヒドラを丸は仰ぎ見た。遠くから見たよりも大きい、その巨大。分かっていたが、こんな奴に人間が勝てるのか? と疑問が出て来る。

 

「「「「シャァアアアアアアアアアア!」」」」

 

 4本の残った首が一斉に吼える。

 空気を割くような不協和音が、皆の鼓膜を震わす。

 怒っている。ヒドラが、首を5本も失って、その痛みに猛っている。

 

「は? 嘘だろ……」

 

 それは、あっという間に起きた。

 斬られ、無くなったはずの首が、2本共胴体から生えた。

 残り4本だった首が2本増やされ、6本に成る。

 再生能力。RPGゲームで見たことがある。ヒドラは一定時間で2本の首が再生する、それを丸は思い出す。

 新たに再生された2つの鎌首が交差し、ゆっくりと牙の生えた大口を開け、禍々しい色の液体が口内で蠢く。

 

「何だあれは? 何をしている?」

「……刈谷、やばいかも」

「月川?」

 

「避けろッ! 皆!」

 

 華凛の叫ぶ声。

 丸はその声が出される前に、刈谷の体を押し倒す形で思いっきり体当たりをする。

 

「ふざけんな!」

 

 そして、2本の開かれた口から紫の色をした液体が、高速で大量に放たれた。

 滝を思わせる量の液体の息(ブレス)が、皆が立っていた位置に飛来する。

 直撃を受けたのは、反応に遅れたバス運転手だ。回避したがその余波を受けたのが、数名。

 大量の液体が上空から飛来するのは、津波を思わせた。何トンに及ぶだろうその津波に、皆が巻き込まれ、一瞬にして瓦解した。

 

 それが行われてから10秒以上経過して、丸は倒れていた体を起こした。丸の下には刈谷が倒れている。

 

「何だよ、クソ……」

「月川、何があって……」

 

 起き上がった丸は後ろを振り返り、唖然とする。

 紫の水溜りの中心でぐちゃぐちゃになっている赤黒い肉塊。その周囲で倒れ、浮かんでいるのは丸、刈谷、華凛、飯田を除く全員。

 

「皆ッ! おい生きてんのか!? 千春せんせー! 佐里ちゃん!」

「悪夢を見ているのかオレは?」

 

 紫の水溜りのせいで丸は迂闊に近づけない。

 暫くすると水溜りが地面を流れて少なくなる。地面に倒れていた者たちがもぞもぞと動き出す。生きている、そう思い、丸は佐里の元に駆けつけた。

 

「佐里ちゃん! 大丈夫か?」

「丸、くん……なんとか? でも、なんかおかしくて」

「おかしい?」

「スーツが、おかしくて……」

 

 そこで丸はようやく気付いた。

 黒いスーツが所々溶けて、肌を露出している。そのせいでこんな場合ではないのに、エロいと丸が思う。いやいやいや、と首を振り、改めて確認すると、スーツのレンズ型部品から透明の液体がこぼれ出ていた。

 ――スーツが、壊れてる。それも、倒れてる全員。体に怪我はしてないようだが……。

 

「スーツが壊れたんだ……あの攻撃で」

「スーツって、壊れるの? じゃあ、次当たったら……し、死ぬ?」

「間違いなく。保険がいよいよ切れたな……早くどうにかしてアイツを倒さないと」

 

 丸は冷静に辺りを見回す。

 スーツが無事なのは華凛、飯田の2人だけ。

 スーツが壊れたのはそれ以外。

 あの肉塊は、状況を整理して推測するにバス運転手。あのヒドラのブレスを直接受けたのだ。考えるまでもなく、死んでいる。

 

 直撃しないまでも、浴びるだけでスーツを破壊する紫色の液体……おそらく毒か何かだと判断して、毒の息(ブレス)を浴びれば、生身の人間は溶かされ死ぬだろう。

 

 そこまで考えた上で丸が辿り着いた結論は、戦える者以外を逃すというものだった。

 起き上がってきた皆の前に丸が出る。

 

「皆! 聞いてくれ! 華凜と飯田のおっさん以外は逃げろ! スーツは皆壊れた! もう次受けたら死ぬ! だから、逃げろ! まとまって森の中に!」

 

 真剣な顔でそう叫ぶ丸に、皆がだんだんと理解する。スーツが壊れたのも、自分が今死の危機にいることも。理解して、状況の悪さに顔を青ざめていく。

 

「華凛! 聞いてるか!?」

「月川、何だ!?」

「悪いな、貧乏くじ引かせて。俺たちの代わりに、戦ってくれ。謝るのは、こいつらを安全な位置に逃した後に、戻ってきてするから」

 

 丸の申し訳なさそうな言葉に、華凛が丸の目を見て微笑んだ。

 

「気にするな。月川が言わなかったら私が自分で言っていた。先に言ってくれて助かった。私と飯田のことは気にせずに、逃げてほしい。皆のことを頼むぞ、月川」

「華凛……必ず戻って来るからな。みんな、俺に付いてこい! 絶対にはぐれるなよ!」

 

 丸は分かりやすように手を挙げながら、集団の先頭を出る。状況を理解し切っていない人も、丸についていけば何とかなると思えた。それほど、今は誰かに縋りたい。それが見知らぬ高校生の少年だとしても。

 前回のミッションをクリアしたメンバーは知っていた。彼はスーツなしで敵を撃破したことを。咄嗟に指示をして皆の生存率を上げたことを。だからこそ、信頼できた。

 

 こうして丸率いる集団は、森の中に逃げ込んだ。妙な気配がして、辺りが騒ついている。不安そうに佐里が丸の腕を掴んだ。

 

「丸くん、こっちは危ないんじゃ」

「いや、こっちでいい。戻るのは危険だ」

 

 しかし運が悪いことに、逃げ込んだ先でオークとゴブリンの群れに遭遇する。大量の数に囲まれていた。

 

「見つかっちゃった……丸くんどうしよう」

「月川君、どうするの?」

「月川くん、どうしよう……!?」

「月川」

「……月川君」

「お兄ちゃん」

 

 佐里が、千春先生が、安川が、刈谷が、夏目が、小さい子供の上村が、全員の目が丸のことを見る。

 心配。不安。恐怖。期待。

 色々な感情を込められた視線を向けられて、少し逡巡した後に口を開いた。

 

 

「……突破するしかない。皆、前に抜けて敵の囲いを突破する! 刈谷! Xガンで援護してくれ! 他の奴も撃てるんだったら敵がいるあたりに適当でもいいから撃て! 行くぞっ!」

「了解だ月川!」

 

 刈谷が返事するのみで、皆の返事を待たずに丸は走り出した。時間をかければ後方から囲まれて詰みだ。この囲いを突破するには、敵が薄い箇所を一点集中で抜けることが必要だ。

 丸はそこめがけて走り出す。

 ガンツソードを展開し、大振りに、構える。

 腕を鞭の如くしならせ、跳ねるように、ガンツソードを振るい、オークを、ゴブリンを数体纏めて斬り殺す。

 丸の後ろについて走ってきている者達の息を呑む音。――凄い。誰もが丸の強さに驚愕する。

 

「撃てェ!」

 

 敵を斬った直後に、丸は叫ぶ。

 数秒後に、それが指示だと皆が判断する。

 ギョーン!

 ギョーン!

 ギョーン!

 ギョーン!

 ギョーン!

 とXガンの射撃音が鳴り、時間差で木々を、ゴブリンを、オークを、衝撃波めいた爆発が起きる。

 ――結構外れたが、前の何体かには当たった。穴は出来た。これだったら!

 

「走るぞ! こっちだ!」

 

 丸は敵の包囲が欠けた穴の場所目掛けて走り抜ける。敵の包囲を抜けても走る。

 走って、1分ほど経っただろうか。

 丸は緩やかに足を止め、後ろを振り返る。

 幸運なことに、全員がついて来れていた。

 

「はぁっ、はぁ……みんな、ついて来れたか」

「丸くんっ、はぁ……はぁ、凄すぎ」

「はぁ……はぁ……月川君は、凄いって知ってたんだから私」

 

 何故か嬉しそうにしている女性2人を丸は見て、生きてて良かったなと思う。

 辺り一帯には敵の姿が見えない。油断はできないが、危機を乗り越えたのだ。

 丸について来た全員が、それに安堵する。

 

 しかし、ガンツのミッションはそう甘くないらしい。

 丸の前方から叫び声と共に、1人の派手な服装の男が走って来る。

 

「誰かあ! 助けてくれっ!」

 

 ドンドン、という地鳴りが、響く。

 ミシミシと木々が倒れる音。

 逃げて来た動画投稿者の、後からそれは現れた。

 

 赤い鱗。

 赤い翼。

 赤い尻尾。

 爬虫類を思わせる黄金の縦に細い目。

 

 巨大な、赤い竜が、森を突き破って。

 ――ドラゴン? ふざけんなよ、マジ。

 

 

 

 赤きドラゴンが、更なる危機を齎す――。

 

 

 

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