月川丸を犠牲にして赤竜から離れる判断をした刈谷含めて六名――途中で夏目の離脱があったため、五名となった集団は森の中を進んでいた。その過程で遭遇したゴブリンやオークの敵を各個撃破していき、全員生存出来ている。
刈谷は丸から皆を任されたのだ。どんな時も冷静に、的確な指示を下し続けた。しかし、集団のリーダーをやるというのは、思ったよりも疲労が激しい。額から伝った汗がスーツを通って地面に落ちる。
――月川、君はやっぱり凄いよ。その若さで、オレよりもずっと凄い。だからといって、オレは皆を失うつもりなどない。
「ハっ……ハ、皆全員ついてきているか?」
「は、はい……っ、なんとかっ」
「私も!」
「いつまで走り続ければいいのよ、刈谷君。私は結構限界――それに、子供はもっときついわ」
「確かに……な」
まだ若い佐里、比較的若い千春先生、中年男性の安川はまだ走ることが可能だ。だが、子供の上村は息が誰よりも荒く、今にも倒れそうだった。誰かが背負うべきか? と考え、その分一人分の戦力を失うのは痛手だとも思う。それに上村だってXガンで敵を撃破する貢献をしているのだ。上村を誰かが背負う場合、実質二人分の戦力が減る。
「上村少年、まだ行けるか?」
「……はぁ! はっ! い、いけるっ!」
「そうか……すまないな、あともう少しだけ頑張ってくれ。そうすれば、ミッションを達成するか、制限時間がきて帰れる」
ガンツに最も経験があると言っていた東森華凛から事前に刈谷はいくつかの質問をしていた。ミッションが終了する条件には、三つある。
一つ目、敵対生物の全滅。
二つ目、制限時間に達する。敵対生物を殲滅してない場合、ミッション内にいくら強い敵を倒しても点数はゼロとなる。
三つ目、ミッションメンバー、すなわち人間側の全滅。
刈谷が待っているのは、一つ目と二つ目。特に望ましいのは一つ目、敵対生物の全滅だ。しかし、それをするには森の中にいるゴブリンやオークの群れ、更に現在戦っているだろうヒドラ、赤竜の両方を倒さなければならない。それをするには、丸、先ほどそちらに向かった夏目、東森、飯田の四名が敵に打ち勝つ必要がある。
東森、飯田の二人はスーツが残っていることからまだ可能性があると踏んでいる。
しかし、スーツが壊れた夏目とスーツなしの丸があの赤竜に勝つということ。それは……とても、現実的ではなかった。刈谷は丸が勝つと願っているが、客観的な刈谷の頭の中では赤竜は倒されないと予測している。
もう時間的に三十分以上経過したように思える。連戦の連続で、脳内時間が乱れるせいで、正確な時間が把握できない。
上村はまだ行けると言っていたが、本人が思うよりも限界は近いだろう。それは他の者にも言えること。刈谷だってあと何分走り続けることができるか不明だ。
これ以上移動するのは、判断ミスか?
この場所に待機し、制限時間が来るのを待ち続ける方が、良い気がする。
少しだけ刈谷が思考し、集団の足が止まっているその時。
木々の先から、土と雑草を踏む音がした。
「誰だ!?」と、すぐにXガンをその方向へ、構える刈谷。
「ぼ、僕だ!」
姿を現したのは、ガンツスーツを着た眼鏡の男――石黒だった。
一先ず敵対生物ではないことを確認し、刈谷がほっと胸をなでおろす。
「石黒……、今まで何をしていた? 一人で生きていたのか」
「うぅっ、そうだよぉ、ぼくぅ、いきてるっ、うっ」
「石黒? 君、様子がおかしいぞ」
刈谷は石黒の顔が異様に白いことに気が付く。それだけじゃなく、ガンツスーツの至る所が脈打つようにミミズが這うように動いている。ガンツスーツが肥大化している。明らかに様子がおかしい石黒に警戒を抱き直す。
「しゃ、む……ちがう、ぼくはぁ! しゃむ、しゃむ」
「石黒、答えてくれ。――何があった? それともこう言おうか。君は……本当に石黒なのか」
「しゃむっ……しゃむしゃむ……ぼくはっ! しゃむ、だよ!」
しゃむしゃむ、と言葉を連呼する石黒に、当たりかと刈谷は判断する。
Xガンを片手で石黒に向け、もう片方で横にいる皆に合図する。片手をあげ、指でピースサインを作ったら、Xガンで攻撃しろという意味。これはここに来る途中で決めたこと。
「で、でもっ、刈谷さん……人間、ですよ?」
「そうよ、何を考えているの? 刈谷君」
「流石に私でも、人は撃てないです......」
「こいつはもう――チっ」
攻撃サインをしても、佐里、千春先生、安川は躊躇している。当然だ、同じ人間にあの破壊力を持つXガンを撃とうなどどうかしている。
刈谷とて、躊躇していないわけではない。だから、今も刈谷は撃てないでいる。だが、一斉に皆が撃つのなら……自分も撃つきっかけを作れる、そんな考えからのハンドサインだった。自分を納得させないといけない。人殺しの。
しかし、その躊躇をしている時間が仇となった。
突然飛び出した石黒が、まず目の前にいた刈谷を拳で吹っ飛ばした。ガンツスーツによる腕力強化が為されている、その威力で木々にぶつかりながら遠くに飛んでいく刈谷。
残り全員の悲鳴が上がり、その次に安川がXガンを慌ててトリガーを引き発射する。が、木に当たり外れる。その間にも、石黒が接近して安川の腕をつかみ、地面に力強く激突させた。べちゃり、と安川の頭が潰れる音。血の花が、地面を鮮やかに飾る。
「きゃぁあああああ!」
佐里が叫び、千春先生が唖然と動けず、上村が状況を理解できずに蹲る。
無抵抗な三人に、首を有り得ない角度に曲げて振り返った石黒が、佐里の方へ、顔を向ける。
「しゃむ、しゃむ」
「や、やだ……あたし……こんな、死にたくない」
「しゃむしゃむ、しゃむしゃむ」
「こ、来ないで! 来るな!」
後退る佐里は、石黒から逃げるも、やがて背後に木が立ち塞がる。背中が固い幹に触れて、止まる。
次第に迫ってくる石黒から、声がする。
それは、しゃむという声の間に、
「さ、り、しゃむ、ぼ、しゃむ、く、しゃむ、の――さり」
「ち、違う! あたしは、お前なんかの! い、イヤ……」
まだ理性が残っているというのか。
何かに取り付かれても、まだ佐里のことを認識していることに恐怖する。
そして、遂に目の前にやってきた石黒が、手を伸ばす。
死の恐怖で、下半身からちょろちょろと濡れた感触がする。半透明の液体が股間部から噴出し、足を通って地面に滴り落ちていく。
伸びた石黒の手が、徐に佐里の胸に触り、ぎこちなく揉みだす。腕を背中に回し、木の幹に押し倒す。
そのまま覆い被る姿勢になり、佐里は完全に石黒にマウントされる。
「やめてっ! 気持ち悪い……ッ! だれか、たす、けて!」
犯される。佐里はそう直感し、手で跳ね除けてもガンツスーツの力を使って退かない石黒に、心底気持ち悪さを感じる。
「しゃむ、しゃむ」
「い、イヤ……こんなの、ヤダ……あたし、こんな最期……」
石黒の手が佐里の股間部を弄り、スーツを人間離れした力で破き、穴をあけ、その中に指を淹れようと――
「そこは、俺のだああああああああああああああああ!」
と、横から物凄い速度で月川丸が、ライダーキックを、石黒の横面にかました。盛大に吹っ飛んでいく石黒と、一緒に吹っ飛んでいく丸の姿に、佐里の目から涙が零れる。
「――丸、くん」
「言っただろ!俺が守るってえええええ!」(ただし、頭から木にダイビングしている)