GANTZ〇(マル)R15版   作:闇の戦士

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24「転送開始」

 待ち望んでいた再開は、思ったような平和ではなくて――、最悪だった。

 スライムに乗っ取られた東森華凛の、黒く染まった片目ではない方が、その目が、まだ人のままの目が、丸を捉えて離さない。

――殺して。

 

 そんなこと、出来るわけないと丸がすぐに否定する。

 殺せない。それだけは、決まっていた。

 例え自分が殺されてもだろうか? 丸にとって、初めての恋を自覚した相手に殺される。このままでは、何もしないままだったら。

 

 ――どうするんだよ、お前(俺)。

 

 目の前には、飯田の生首を掴んだまま、華凛が立っている。ただし、スーツは異様に肥大化していて、その片目も黒く染まっていた。

 鮮血に彩られたスーツはある種の芸術を生んでいて、美しい彼女に似合っている。

 

「なぁ、何があったんだよ? 華凛! 飯田さんは、何で死んでんだよ! お前たち強いんじゃないのかよ!?」

 

「しゃむ……しゃ、む、こ、ころ、ころしゃむ、せ! ――つき、かわ、頼む」

 

「殺せって言ったか? お前……俺が、どんな気持ちだって知ってるのか!? 出来るわけねえだろ! 何とかなんないのか!」

 

「しゃむ、しゃむ」

「―――ッ」

 

 唐突に華凛は、生首を持っていない方の手でガンツソードを握りしめ、丸に斬りかかってきた。その俊敏さ、力強さは、紛れもなく華凛の物。

 その一撃を、片手で受け止めようとして、

 

 宙に、片手が舞う。濃い鮮血が、溢れだす。

 腕の途中から切断され、少しのラグがあって痛みが襲ってくる。

 

「アあ……があああああああああああああああああああああああ!」

 

 先が無くなった腕を地面に押し付けて、絶叫を上げる。

 血が、止まらない。

 痛みが、熱さが、増えていく。

 激しい痛覚に、何度も意識が飛びかける。

 

 残っている手は、ガンツソードを握りしめたまま溶接されているので、切断面を塞ぐことができない。

 その一撃を、腕に受けながら丸は、明らかに自分より実力が上だと分からされる。本気でやっても、仮に丸が無傷の体でも、負ける。勝てない。強さが、桁違いだ。

 

 

 無理だ。精神的に、実力的にどうあがいても、丸に華凛を殺すことが出来ない。

 地面に近くなった低い視線の中、丸は恐る恐る彼女を、仰ぎ見る。

 

 その顔が、表情が、苦痛に歪み、泣きそうだった。

 私を殺せ。殺してくれ。じゃないと、

 月川、君を殺してしまう。と、表情で物語っている。

 

「――そん、な顔すんな……」

 

「しゃむ?」

 

「そんな悲しい顔すんな、華凛……俺が、なんとか、してやる」

 

「――――」

 

 丸は、ガンツソードを土に食い込ませて、それを軸に無理やりに立ち上がる。

 それは男の意地で、頑固さで、プライドで、魂で、強がりにすぎなかった。

 

 それでも、立ち上がらせる力を丸に与えてくれる。

 それだけで、丸にとっては価値がある。

 今、立ち上がる力さえあれば、

 アイツに、そんな顔させるぐらいだったら、

 

 俺が、お前に勝ってやるよ。

 

 

 月川丸が、東森華凛に打ち勝つ――。

 

「知ってるか、華凛? 男は、女より、強いんだぞ……ッ!」

 

 男尊女卑の権化ともいえる、台詞を口にして、口の端を吊り上げる。

 実力が負けている? 本当にそうか? まだ戦ってない。

 やる前から決めつけるのはバカのすることだ。

 月川丸、やればできる子だって、千春先生が前に言ってくれた。

 

 前に一歩、踏み出す。

 同時に、反応してきた華凛の斬撃に合わせ、丸も斬る。

 ブンという聞いたこともない金属音が打ちなり、刃で切り結ぶ。火花が咲く。

 

「諦めてるだろ、お前……俺はまだお前のこと、諦めてない」

 

「しゃむ、しゃ……めろ、諦めろ! 月川ッ!」

 

「イヤだ! 絶対にあきらめないからな! 俺、頑固だからさ。やるって決めたら、もう退かない!」

 

 ガンツソードを握りしめる力が残っていない。手のひらとガンツソードの柄がくっついて離れないのが幸いだった。

 一の斬撃、

 二の斬撃、

 三の斬撃、で徐々に力とスピードの差が開き、四の斬撃で刃を通りぬけて、丸の肩が切り裂かれる。一文字に、血のラインが浮き上がった。

 

「か、んけいねえッ」

 

 五の斬撃で再び、刃と刃を切り結ぶ。

 ぎちぎちと、力の押し付け合いが始まる。が、ガンツスーツの差で、余裕で押し負けた。丸は後方に吹っ飛ばされる。

 木の幹に足の底で受け止めて、力の限り、蹴って飛ぶ。また、斬りかかる。身体を少し横にズラされ、回避――隙が空いた丸の腹に、華凛はガンツソードを突き刺す。ずぶ、と腸を貫通して、背中から刃が姿を現す。

 

「――ガハあッ! でも、つ、捕まえたァ!」

 

 丸は、腹に相手の刃を受け止めたまま、笑う。

 逆に、華凛の腹に、刃を突き刺し返した。ずぶりと、血が彼女の腹から飛び出す。

 

「もう、離さないからな……このクソスライムッ」

 

「――何をして、しゃむ……つき、かわ?」

 

「本当は、もっとエロいこともしたいけどッ でも、今回は、これで勘弁してやる」

 

「――――」

 

 互いにガンツソードを刺し、至近距離の位置から丸が顔を近づけ、華凛の唇にキスをする。

 時が止まったような静寂の中、彼女の瞳が動揺するように震える。

 これはただのキスではない。丸の舌を、無理やりに華凛の口の中に食い込ませる。

 

 そして、強いディープキスを行った。

 舌が絡まり、唾液の線が、妖しく光る。

 

「んっ、んん!」

 

 ――まだ来ないのか!? と丸は刺しているガンツソードを強く押し、痛みを与える。

 そうすると、口の奥から丸の口の中へ、粘液を帯びた何かが這い上がってくるのを感じる。

 

 ――来た! 来やがったな! 

 

 

 丸の身体の中に大量の何かが侵入して、気持ち悪さを覚え、吐き気がやってくるが、今は耐えの時間。

 それどころか、丸はそれを自ら飲み込む。

 華凛の身体を突き放し、勢いよく丸が後退する。

 

 ごくり、と飲み込み切る喉の音。

 だが、ここからが問題だ。

 

 飲み切ったコイツを、殺さないといけない。

 

 

「ッ、月川!? 何、をして……!?」

 

「思ったよりも、気持ち悪いなコレ……吐きそう」

 

「これが、狙いだったのか!? 月川!」

 

 乗っ取りの鞍替え。

 それが思いついた丸の作戦。

 スライムは人に乗っ取り、寄生する生物―ーその能力を逆に利用する。

 

 まだ華凛の目が半分黒く染まっていないことから、寄生が完全に成功しているわけじゃないと丸は感じていた。

 それも勘でしかなかったが、丸の身体に移ってきた今、それが正解だと知る。

 

 

「しゃ……む、やめろよ、口癖、しゃむ……なんか、モテないだろクソ」

 

「月川……、何をする気だ! やめろ、そんな考えは!?」

 

「ハ、ハハ……しゃむ、お前が悪いんだぞ、諦めたみたいな顔するから、こんなことになった……」

 

 Xガンを探す必要がある。

 痛覚は与えることができても、殺しきることができない。

 斬撃はスライム本体に効かない。それは前のスライムで実証済み。

 だが、衝撃波が出せるXガンなら。

 

 

 どこかに、Xガンないのかよ!?

 

 華凛はXガンを持っていない。

 辺りを探すが、Xガンが落ちているわけがない。

 

 このままじゃ、丸が完全に乗っ取られて、構図が逆となる。

 ――でもいいか、死にかけの俺なら、華凛なら余裕で殺せるだろ。

 

「月川、頼むから、私の前で、変なこと考えるの辞めてくれ! 死人が出るのはもう嫌なんだ! 誰かを失うのはもう――」

 

「しゃむ……しゃむ、なぁ、お願い一つだけ聞いてくれないか? 頼みなんだけどさ、俺死んだら……少しだけお前の中でさ、生き返らせる優先順位上げてくれね? 一番最初じゃなくていいからさ……しゃむ」

 

「また、私の方に移せば、同じことをすれば!」

 

「男のカッコいいところ、台無しにすんなよ。しゃむ、しゃむ……」

 

 丸が、どこかに逃げるか、支配され理性が無くなりつつある頭の中で考えていると、視界の端で人影を捉える。

 その人影は、派手な格好に、きらきらする眼鏡を付けている男。

 

 

 以前赤竜から助けてた動画配信者が、木の陰から丸達を見ていた。

 丸は、薄れゆく意識の中、その男の手にXガンが握られていることに気づく。

 

「ハ、ハハ……やっぱ助けてよかったじゃん、俺。しゃむしゃむ……ぺっとぼとるゥ! 俺を、Xガンで撃てェ!」

 

「は、はあ? む、無理っす!」

 

「助けただろ、俺お前のこと! だからやれェ! 恩を忘れたのか!」

 

「確かに……助けてもらったっすけど、でもいいんすか!? 撃って!? 死にますよ!?」

 

「や、辞めろ! 撃つな、月川を!」

 

 自らを撃てと叫ぶ丸と、撃つなと叫ぶ華凛。

 動画配信者『ぺっとぼとる』は、丸の覚悟した目を見る。

 男なら分かる、あれは好きな女の為に意地を張る愚かな男の姿だった。

 

「撃てェーー!」

 

「もう、知らないっすよ―ー! このバカ―ー!」

 

 ぺっとぼとるがXガンを両手に構え、丸に照準を定める。

 ダブルトリガーを引き、

 

 

 ギョーン! と青く発光し、音が鳴った。

 

 

 

 

 一秒後、丸の身体が、爆発する。

 盛大に、血の花火を上げて。

 

 

 

 その鮮血を間近で浴びた華凛の顔が絶望に染まる。

 

 

 

 

 

 そして、転送が始まった。

 ガンツのミッションが、終わったのだ。

 

 

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