床の大部分が畳になっている和室の大部屋には、複数人の女性がいた。六、七人の黒服――ガンツスーツを着ている女性と、三人ほどの男が丸と同じように和室を見渡している。
冷静になって状況を確認している丸だったが、自分がガンツスーツを途中まで脱ぎ、無防備な姿を晒していたことを思い出した。そして、目の前で興味津々と自分を見つめている、体のラインがとてもセクシーな女性へと改めて視線を送った。
ボディラインが浮き上がるガンツスーツは、丸からしたら正義の味方だ。やはり、色気は正義。胸は正義。お尻も正義。むしろ全裸よりも魅力的と言える。
しかしながら、こんな姿の自分を見て悲鳴の1つも上げないのは、一人の女性としてどうなんだろう。ま、魅力的だからいいか。
そんなことを考えていると、美しい女性たちの視線を一身に浴びて顔が熱くなってきてしまう。
目の前にこれだけの目の保養があるのだから、男として意識してしまうのは仕方ない――。
「何してる? おまん」
「…………」
「だから何してる、おまん! 普通女が目の前にいりゃ、少しは遠慮するじゃん」
「…………」
「絵理沙、こいつ変な顔して固まってるじゃん! カカ」
カカ、という癖がある笑い方の甲州弁を使う二十代後半ぐらいの女性が座椅子にいる女性を絵理沙と呼んだ。その肩まで伸びたウルフカットの髪が揺れ、悠然とこちらの方に向き直った。
その鋭い切れ長の目が、丸の顔を捉える。唇を舌でぺろりと舐め、微笑む。
「面白いじゃない、変わってる子、嫌いじゃないわ。それに、結構可愛い顔してるしね」
「絵理沙、まさか気に入ったじゃんけ? この男」
「若い子もたまには味わわないとねぇ、直子は別のにしなさいよ」
「……分かってるじゃん、絵理沙には従う」
渋々と言った口調で、別の男に顔を向けた直子は猛獣のような笑みを浮かべて、一人の中年男性の腕を強引につかみ、別の部屋に引っ張っていく。
「な、何をするんだお前は! は、離せ!」
「いいから黙って来るじゃん」
「ひ、ひぃいい!」
中年男性の抵抗をあっさりと力でねじ伏せ、隣の部屋に連れ出していく直子。それはガンツスーツのパワーのおかげだろう。
二人減った大部屋の中、緊張と興奮で動けない丸の下に、絵理沙が腰をくねらせるように して、歩いてくる。
――セクシーなお姉さんがどこかに行ったと思ったら、もっと凄そうな人が来た! 最高!
しかし、絵理沙という女性の前に、浴衣のような和服を着ている髪の長い女性が立ちはだかった。
――スタイル抜群のお姉さんきたー! 胸もめっちゃでかいし、ここまじで楽園か!
「絵理沙……まだ年若い坊やよ、使い潰すのはやめなさい」
「――艶子、退いて。別にすぐに使い果たす気なんてないわよ、じっくりかわいがるだけ。若い子は貴重だから」
「……そう、私の分も残しておいてね。坊や、後でね♡」
和服の女性は丸に振り返り、片目でウィンクを送る。積極的な女性が多いんだなと丸は驚きながらも、内心歓喜してウィンクを返そうとしたが両目を閉じてしまい失敗した。
そして丸の前に立った絵理沙が、丸のことを優しく抱きしめ、畳の床に押し倒す。
押し倒された丸は、強引に唇を絵理沙に奪われた。
「――――」
息もできないほど濃厚なキスを交わされ、絵理沙の甘い香りと柔らかな体温に包まれる。女性にこんな風に密着された経験のない丸は、あまりの刺激と緊張で頭が真っ白になる。
「どうかしら? ねぇ、貴方こんなところで赤くなっちゃって、可愛らしいわね」
囁くような声と吐息が耳元をくすぐり、丸の心臓は破裂しそうなほど打ち鳴らされた。
「名前なんて言うの? 貴方」
「つき、かわ、まる」
名前を聞かれ、たどたどしく答えながら丸は混乱した頭で必死に返事をした。
「月川、丸? 可愛らしい名前ねえ、丸……♡ 私のこと、気に入ってくれたかしら?」
「……すごく、綺麗です……」
「ふふ、素直で偉いわね、丸♡」
絵理沙は満足そうに目を細めると、丸の額に優しく口づけを落とし、ゆっくりと身体を離した。
「はぁ……はぁ……びくびくした……」
「いい反応してくれるわねぇ、若いってやっぱりいいわ……♡ 女の子みたいで可愛いし、これは良い物を手に入れてしまったわね……」
「なんでこんなことしてくれるんだ……? ありがとう……名前はなんていうんだ、お姉さん」
「私は、梶原絵理沙よ。ここのリーダーをやってるの。ようこそ――ガンツへ」
絵理沙はそう言って、丸に手を差し伸べた。少し気恥ずかしさを覚えつつも、丸はその手を取った。
「ガンツ……あれ……、ていうか、華凛達いないのか? 教室じゃない? 旅館? 別のところなのか? どうなってるんだ? こういうのもあるのか、他のところにも行くっていうか……分からねえ」
「何を言っているのか分からないけど、もしかして他の県の所から来たの? 珍しいわね、どこからきたの丸」
「俺は……、埼玉県から来た」
「埼玉チームねぇ、あそこは強いのが死んだって噂で聞いたけど……まだ続いてたのねえ」
「強いの? 飯田さんのことか? 確かに飯田さんは強かったけど……ていうか、他の県にもガンツはあるんだな」
「あるわよ、全国にいっぱい。世界中にも」
「へぇ、詳しいな」
「それはもう、ずっとここにいるから、私。山梨チームのリーダーをずっとやってるの」
「山梨県の……、そういうことか」
もしかしたら山梨県内の電車に乗っていたから、山梨県のガンツに呼ばれてしまったのかもしれない。東森学園のガンツとここのガンツが同じなのかは分からないが、大方ガンツと同じだと考える。
ミッションの敵を全部倒し、生還すること。それがガンツのルール。
ふと隣の部屋から、話し声や足音が聞こえてきて、丸はそちらに行こうとして、
「きっしょ」
「まじ、もも生理的に無理なんだけド-」
丸が来てからこの部屋にいる赤髪の少女と、桃色髪の少女が丸のことを罵倒してきて、足を止める。二人ともガンツスーツを着ていた。
赤髪、苺色といったほうが近い色の少女は慎ましい胸のサイズで、桃色のほうはかなり大きい。
JKだろうか? 見た目から予想して。中学生にしては発達がある。
「何だ、お前ら」
「さっき鼻下伸ばしてデレデレしてたよね? キモイ」
「梶原さんに簡単に迫られてパニックになってさー? お兄さんなさけなーい」
「うるさい! いきなりあんなことされたら驚くだろ! 高校生かお前ら?」
「いきなり歳確認してくるなんてキモイ」
「JKだったらどうするノ? 襲っちゃうのかな? ももたちを」
「そうしたら殺す。桃、こんな奴と会話なんてやめよう」
「いいじゃん、同じくらいの男の子なんて初めてなんだシ、いちご」
「苺……桃……名前の通りだな……髪色……染めてるのか?」
「だったら? キモイから詮索してくんな」
「そうだヨーいいでしょう、可愛いでしょうキュートでしょう!」
「うん、可愛い」
「きっしょ」
「へぇ、結構素直なんダ」
苺の方は丸のことを睨んで不快そうにしているが、ももの方がニヤニヤと微笑んでいる。仲いいのかな? 二人と丸は思う。
更にその後ろで窓の近くで座っているのは、伏し目がちで影がある女性だ。大人の雰囲気があるので、30代はいっているかもしれない。なんというか人妻、未亡人というオーラを醸し出している。個人的に丸の好みだ。ママ、と呼ぶことにしよう。
その傍に立っているのが、背中に黒い大型の弓を背負った背の高い少女。こちらは大学生くらいか? あんな武器もあるんだな。
そして一番奥の壁際にいるのが、ガンツスーツを着た上にフードコートを羽織った背の低い少女。何やら触れにくい雰囲気を纏っている。ボッチというか、こっちに来たら攻撃するぞというオーラがある。
他には、20代を過ぎた青年とスーツを着たサラリーマンがいるが、この状況に混乱している様子だ。この二人はガンツ初心者か。後は先ほど隣の部屋に連れていかれた男性だが、隣からは相変わらず強引に引っ張られていく物音が聞こえている。
そっと襖の隙間を見やり、丸は改めて黒い球のある大部屋を確認する。
『新しい朝が来た♪ 希望の朝~が♪』
黒い球からかなり煩い音楽が流れ、ラジオ体操の曲が始まる。
「ガンツ、今回はスーツを持ってきたからな」