『それ♪ 一 二 三 ♪』
東森学園のガンツと同様にラジオ体操の曲が流されるラジオ体操の曲が流れる。
……またこれか。。
ち〜ん、と高い音が黒い球から流れ、ガンツ前画面の光が付く。
【おまんらの命はもうねえ。
新しい命をどうしようと、俺の勝手じゃんけ。 そういう理屈だわ。】
丸の知っている丁寧な文のガンツとは違い、今回のガンツは方言を使っている。やはり、ガンツによって色が違うようだ。
俺、という一人称だから男かもしれない。後でガンツが展開したら中の人物をのぞいてみよう。エロいお姉さんだと最高だ。
【おまんらには今からこの方を殺しに行ってもらうじゃん。
ポセイドン星人:特徴水泳が上手い。好きなもの:魚 口癖『オヨギナサイ』】
ガンツに映し出されるポセイドン星人の胸まで表示されている顔写真は、顔が甲殻で覆われていてある種の兜になっている。それ以外も胸までしか映っていないが、薄青い鎧に覆われていて、中世の騎士のようだ。
これがポセイドン星人……今回のターゲット。見た目は、強そうだ。水泳が上手い。
……ろくな予感がしない。
丸はこれまでガンツのミッション説明をよく確認してこなかったが、これだけでも取れる情報が沢山あることに気づく。ミッションが始まってからどう作戦をとるか、もうすでに始まっている。そう考えられるようになったのは、一回死んだからだ。
「水中か……厄介かもな」
「問題ないわ、水中という不利な戦いをそもそもしなければいいだけだもの。それより丸、貴方何回ほど経験したことがあるの?」
「ミッションか? 今回で3回目だな、前回は結構強かった……俺、死んだし」
「生き返らせてもらったのね、運がいいこと。ふ~ん、大したことないのね丸は」
丸が前回ミッションで生還できなかったことを絵理沙に伝えると露骨に失望したような顔をした。絵理沙の中で丸は戦闘ができない奴だと今ので思われたらしい。
……否定は、できなかった。
強いというのは華凛や死んでしまったが飯田さんのような奴らのことを言う。
とはいえ、1回目2回目共にガンツスーツを装着していないというハンデを抱えたまま戦った丸の実力は、スーツを着た今回で決まると言っていい。
ガンツスーツの大切さは身に染みて理解した。あれはミッションにおいて基本といっていいし、なければ運がかなり良くなければ生還が難しくなる。スーツがあるから、戦える。それを丸は誰よりも感じている。
楽しみだ。ガンツスーツを着た自分がどこまで通用するのか、しないのか。
山梨県チームメンバーの中に強い戦闘力を持つ者がいるのか、丸は気になり、近くにいたピンクツインテールの桃に話しかける。
「なあ、お前……桃っていったか? 戦えるのかお前」
「いきなりもものこと聞いてきてこわーイ。どう思うの? つっきーは」
「つっきー? 変な呼び方だな……まあいいか。そうだな、弱そう」
「……結構直球なんだネ、女の子だからって甘く見たら痛い目みるゾ! ももはこれでも何回も生き延びてきてるんだかラ」
「へー、じゃあ苺ってやつも?」
「うん、いちごもももと一緒の時にきたシ。つっきーよりかは戦えると思うヨ。だからいきなり襲ったりしても、無駄ってこト。いくらももたちが魅力的でも本当に襲っちゃダメだから……ネ?」
「俺のことレイプ魔みたいに言うのやめろよ、俺だってヤるときの場所とタイミングは考える。それにこう見えて童貞だ――」
「きっしょ、桃、そいつと話すのやめて。臭いし、キモイの移ったらどうするの」
「えぇ~なんでヨ~別に暇だしいいじゃン……!」
「だって、どうせすぐ――死ぬし」
「たしかに、ネ……ここで話しても後で後悔するだけ、か……せいぜい生き延びてね、童貞のつっきー」
「へいへい、俺は童貞だよ……今だけな、今だけ……いつか必ず、俺は必ず……童貞を卒業して見せる! それまでは、死ねねえ」
旅館の天井に向かって、丸は手を握りしめてそう誓う。
童貞を卒業するまでは死なないと。もうすでに二回死んだ身ではあるが、あれは仕方がなかった。
好きな女の前でカッコつけるためだ。そのために死ぬんだったら、そう悪くない。いや、でももう死にたくない。最後のそれが本音だった。
死にたい人間がいるとは思わない。どんな人間だって出来れば生きていたい。それが生物としての当たり前だと丸は思っている。
これからは生き続け、ミッションをクリアし続け、いつかは最強となる。華凛を助けるためにも、丸が立てた目標。
100点を取れば、強い武器と交換できる。どんな武器か知らないが、それがひとまずの目標だ。
「何が起きるって言うんだ……?」
「誰かこの状況を説明してください……」
「フフ……、今回はどうなるか楽しみだわ」
状況を理解していない男の二人は、ガンツスーツを着ることなく、戸惑っている。
ガンツの説明がされていないのか、と今更ながらに思う。
そうか、これまでは華凛が全て説明してくれていたのだ。少しでも生存確率を上げるために、誰も失わないために。
華凛がいない今、説明をする経験者はここに誰一人といない。
何故、しないんだ? と考え、丸自身も説明をしていないことに気づく。
ガンツスーツなしではとてもじゃないが、生きていけない。一回ミッションを生還した丸が奇跡だったのだ。
あいつらは、十中八九今回のミッションで死ぬ。それが現段階で分かってしまう。だからこそ、丸は、その男達の前に行く。
「細かいことはいい。黒い球の中の白い箱を取れ。名前が書いてある。黒い服を着ろ。
それだけ守れ。後……できればXガン……あー、黒い銃を持っておけ、俺からは終わりだ」
「……ガンツスーツ? Xガン? よく分かんないけど、なんで着る必要があるの? なんかのゲームか?」
「……ちっ、めんどくせえ。華凛の奴、こんなのずっとやってたのかよ。やっぱり向いてねえ、やめとけばよかった……ゲームじゃねえよ、殺し合いだマジの……もう終わりだ! 俺の説明は! とりあえずガンツスーツとXガンを持て! 終わり!」
「あっ、おい……これを着れば良いのか?」
「ちょっと……何がなんだか、君……教えてくれるかな……?」
「はい……えっと……とりあえず自分の名前が付いた箱を――」
丸は説明の途中で逃げるようにして、男達から離れる。最低限の説明だけして。
これでいい、少しは義務を果たしたぞ……これでいいんだな? 華凛。
後は、あいつら次第。生き残るかどうかはもう関係ない。
丸にそこまでの余裕はない。もう死ねない。死んでもまた生き返らせてくれそうな人物はここにいないのだから。
華凛……俺は、今回生き残る。絶対に。点数も稼ぐ。
ラスボスが一番点数が高いそうだ、華凛曰く。ラスボスを狙って、倒せば丸は100点に近づける。
サイドが展開した黒い球の武器ケースから、Xガンを腰のホルダーに身に着ける。これも教わったこと。
ガンツソードを手に取り、念のため2つ目のガンツソードをスーツのホルダーに付けとく。
丸の基本戦術ガンツソードで近距離を戦い、中距離以降はXガンで対応する。
Yガンは相手を強度の固いワイヤーで捕まえ、どこかに転送するという武器。ワイヤーで相手の行動を阻害できるのは強いが、即興性が低いこと理由で持つのはやめた。中距離以上を対応できるXガンが最適解だと感じた。
Xガン一丁と、二個のガンツソード。それが丸の装備。
更にガンツスーツの中に機能としてあるコントローラーという、敵の位置を把握できるレーダーと、スーツの周波数を変えることで透明化ができること、ミッションの制限時間を確認できる便利な道具の使い方を華凛から習った。
射撃能力がろっくみたいに高くないため、Xガンでの戦い方を上手くなりたい。ガンツソードに頼り過ぎた戦闘方法は、危険だと華凛が言っていた。
丸が深く色々と考えていると、いつの間にか目の前に立っていた小柄なフードコートを着た少女に驚く。彼女はフードコートを着ているが、その下にガンツスーツを着ているみたいだ。
近くで見ると、案外可愛い顔をしている。フードで顔隠さなければいいのに。
「わっ、いきなりなんだ?」
「――どうして、あの男達に説明なんかしたの?」
「説明? あぁ……いや、俺も自分でなんでしたのか分からなくてさ……」
「でも、してた。説明下手だったけど……」
「まあな。多分、アイツに影響されたんだ」
「アイツ? 誰?」
「華凛……埼玉の方のメンバーでさ、俺のこと生き返らせてくれた奴。ソイツ、全員死ぬの嫌な奴でさ、一人でも死ぬの見たくないって言う奴なんだ。だからなのか知らないけど、アイツらに説明しておいた方がいいなって、思ったんだ」
「説明しても、死ぬかもしれないよ」
「それでも、アイツだったら言うかなって」
「……分からない……私には……」
「おい、どこに行くんだ?」
「隣の部屋」
「そっか」
フードコートを着た少女は丸と話した後、隣の部屋に向かう。
その少女の表情が理解できないものを見るようなものだった。
彼女は何回も経験しているのだろうか、ガンツを。あの達観している目は、丸よりもミッションをしてきた奴の目だ。
その少女が隣の部屋の扉に手をかける寸前で、絵理沙が声をかけた。
「牛尾、貴方が最初に行きなさい」
「……分かった」
一言そう簡単な会話をして、牛尾と呼ばれた少女が隣の部屋に移った。
最初に行く? おそらくミッションの転送の話だろうか? 転送する順番を決められるのか? と初めて丸は知る。
「牛尾……って名前なんだなアイツ」
「気になるの? 丸、牛尾が」
「なんかアイツ、寂しそうだなって思って」
「牛尾が? 丸、牛尾にだけは関わらない方がいいわ。あいつはね、狂ってるし、感情なんてないわ。よく覚えておきなさい、牛尾に近づかない方がいい、死にたくなければ、ね。敵も味方も見境なく殺す……
「バーサーカー? なんだそれ、中二病?」
「フフ、忠告はしたわよ。ねえ、丸……貴方可愛いし、私のペットになる気はない?」
「!? ペット!?」
いきなりなんだと言い出すかと思えば、ペットになる?
あの魅力的な女体様のペットになれるのなら、最高の気分なんだろう。気持ちいいことをいっぱいしてくれるに違いない。童貞だって卒業できるかもしれない。
自分の胴体が消え、転送が始まりながら、丸は笑って口を開く。
「やめとくぜ、スゲー魅力的だけどな」
「……助けてあげるわよ、ミッションで。私、何回もガンツをクリアして強い装備を持ってるの。どうかしら?」
「マジか……強い装備か、めっちゃ気になるなそれ。でも……やっぱやめとく」
「何故断るのかしら? 貴方にとってとても魅力的な話だと思うけれど、エッチなことをできるし、命も助かるのよ? これ以上の話がある?」
「たしかにな……エッチな方はまじで普通にしてほしいぜ、関係なく。だけどペットは……なんつーか、アンタの物になるってことだろ? それはちょっとな」
「いいじゃない、美しい私の物になるのよ。喜んで受け入れなさいよ、最後のチャンスよ、私の物になりなさい、丸」
「――俺、手伝わないといけない奴がいるんだ。だから悪い。じゃ、またな」
そう言って、丸の身体がガンツの光によって消される。
その場に取り残された側の絵理沙は、それまで見せたことのない表情をしていた。
呆気ともいえるし、唖然ともいえるし、額に青筋を立てて怒っている表情。
絵理沙は、歯を食いしばって、
「絶対に……懇願させるわ……アイツに……助けてくださいって……それまでは絶対に助けないわ……」
片手で殴り壁に大穴を開け、起動する。
ガンツスーツよりも巨大で歪な重厚な鎧――ハードスーツと呼ばれる特典装備を身に着けて、その顔が見えなくなった。
===
転送されている丸の目に移ったのは、旅館の一室から広く見渡せる暗い湖だった。
ここは、電車から見た河口湖か?
湖=水……今回のポセイドン星人という敵と関係しているのだろう。
この広い湖の中に、水泳が得意な敵がいるなら厄介極まりない。
砂浜に立っている丸は警戒を始めて、辺りに視野を広げる。
五感を鋭くさせ、集中するが敵の姿が見えない。
静寂だ。水音一つしない。
風が穏やかだ。物音一つしてもいいのではないか。
そこに、物音がした。
着地するような足音。
そちらを急いで振り向けば、短髪赤髪の少女、苺が立っていた。
丸が見ていると、睨み返された。見るなということらしい。
更に数秒後に、ピンクツインテールの桃が転送されてきた。
「つっきー、早いネ。いちごと二人っきりでナニしてたノ?」
「何って……何も、してねーよ」
「そうよ、この男が私の身体を舐めまわすように見てきたから、Xガンで撃ち殺そうと考えていただけ」
「おい! そんなの考えてたのかよ!?」
「まだ出会ったばかりなのに仲いいじゃン二人とも」
「「それはない!!」ねえよ!」
同時に否定する丸と苺。
その二人をみて、ニヤニヤする桃。
そこに転送してきた、髪を一つに結んだ黒い大弓を背負った大学生くらいの女性。
次に伏し目がちで影がある女性ママと、和服を着た女性が来る。どちらもガンツスーツを着ている。
男達三人もその場に加わっていた。一人は倒れている裸の男――甲州弁の女性とセックスしていた男だ。羨ましけしからん。と、丸が説明した二人はなんとかスーツを着ている。丸のことを一先ず信じたのだ。
甲州弁の女性もそこに加わって、静まり返る。
「なんだ、まだ誰も死んでねえじゃんけ」
「……戦力が減らないことは、良いことではなくて?」
「驚いただけじゃん、そう怒るな」
「直子……貴方、その男どうするのスーツ着てないですけど」
「艶子気絶してるからいいじゃん、もう」
「はぁ……まあ、守っても負担、なだけね……」
甲州弁の女性直子と、和服の女性艶子。どちらも子という女性の名前が付いた二人がそんな会話をする。
どちらも丸からしてみればエロい女性であり、エッチなことがしたい二人だ。
というか、ここにいる女と全員エッチがしたい。
早く敵を倒して、エッチなことをしよう。
そうだった、と思い出すように丸は手首についているボタンを押す。
コントローラー――敵のいる位置が分かるレーダーを起動する。
手首の上に投影された円型の光に、かなりの数の点が付いている。
これが敵の数……多いな。それも目の前。
広い範囲を持つ河口湖の中に無数に存在する光の点。
その一つが、丸達の近くに急速に接近してくる。
「来る……お前ら……」
「分かってるわよ」
「おまんに言われなくても、知ってるじゃん」
直子がH字型の黒い大型銃――丸の見たことのない武器を構え、艶子がガンツソードを構える。
大弓を構えた女性が、弦を引き、湖の中へ狙いを付ける。
他のメンバーは特に立つだけで何もしない。慌てるそぶりをしているのは、状況が理解できていない男達だけ。
苺と桃に至っては、しゃがみ込んで遊んでいる。
糸目のママは、静かに立っている。
湖の水面、そこから巨大な影が現れ、物凄い速度で浮上してくる。
デカい。魚影にしては大きすぎる。船のサイズだ。それも巨大戦艦。
それが浮き上がり、水面を突破して飛び跳ねる――巨大な鮫のような生き物は、鋭利な大型歯を生え揃えた口を開けて丸達を飲み込もうと現れる。
盛大な水飛沫が上がり、丸はガンツスーツの足部分に力を込める。
ジェル状の筋肉繊維が固まり、ギギギと高音が鳴り、いつでも飛べるように準備する。
丸は回避を取ろうとして、唖然とする。
その巨大鮫が、白目を向き、
丸達の上空、砂浜を通り越して木々の生えている場所に落下していく。
轟音と何本もの木が折れる音。
圧倒され、丸が陸に上がった巨大鮫を見る。
白い大きな腹の部分が切り裂かれ、大穴が空き、赤い血が陸に流出。
「何だよ……死んでる、のか?」
丸が困惑したようにつぶやき、キュウウウウンという聞いたこともない金切り音がして、巨大鮫が飛び出した水面上空を仰ぎ見た。
黒色の金属光沢を帯びた機械翼。
生物の翼ではなく、飛行機のような翼。
黒いガンツスーツに黒い翼を生やした、丸が見たことのないスーツ。
右手には、赤く光っているガンツソード? なのか? 丸の持っているガンツソードとは違う。
もっと大型だ。大型ガンツソードともいえる。
それを身に着けているのは、丸が転送する前に言葉を交わしたフードコートの少女……牛尾だった。
「――まずは、一匹……」
そう作業的に呟き、上空に飛んでいく。その速度があまりにも速く空気が爆ぜる。
丸が、次元の超えた少女の戦い方に、自然と口が笑っていた。
「やべえ、ほしい、俺もアレ……」
――