古びた教室、そして壇上にある黒い球——ガンツ。
周囲には、複数の人影。知っている面子も勿論いる。前回のミッションを生き残ったメンバー達。
千春先生、先日エッチをしたばっかの佐里、親友のろっく、貧乏探偵の刈谷、小学生の圭介、有名配信者のぺっとぼとる、白髪赤目の夏目、そして華凛の全員で八名。前回死んだガンツ経験者の飯田のおっさんがいないのは、手痛い戦力損失だ。この中で戦力だと数えていいのは正直、華凛、ろっく、刈谷、と丸である。たったの四人しかいない……それが現実だった。
更に知らない顔が五人いた。
一人は明らかに芸能人オーラがある青年。丸は芸能人に明るくないが、イケメン度から推察するにかなりの人気がありそうだ。まだ売れていない可能性もあるが、どちらにせよイケメンは死んだ方が良いと丸は思う。その男と丸は目が合って、丸の方が目をそらす。何だ気持ち悪いな、ホモか? イケメンホモが笑った。笑うな。笑顔を向けるな。輝く白い歯がムカつく。
二人目はまあまあ可愛い若い女だ。歳は大学生の佐里よりも年上に見える。佐里ちゃんの方が可愛い。胸が大きいのでエッチはしたい。これぐらいの可愛さがちょうどいいという意見も分かるような気がした。教室を見渡して動揺しているよう。無理もない、初めてなんだしな。
三人目は大柄でガタイが良く、顎鬚が特徴的な男だ。仏頂面で周囲を睨みつけている。怖い。顎鬚おっさん。
四人目は髪がぼさぼさの根暗な男だ。猫背でおどおどしていることから明らかに陰キャラだ。
最後に五人目はビジネススーツ姿で目に隈が付いている中年男。特に言うことない。弱そう。明確に戦力外だ。
それ以降、教室に新たな転送者が来ない。丸が最後の転送者で、これで全員と言ったところか。
総勢14人。今回のミッションの役者が揃う。
場を異様な緊張感が支配している中、顎鬚おっさんが手を挙げる。
「聞いてもいいか、お前らは誰だ? それにこの場所……学校の教室、だろうか? 私はこんな場所に来た覚えはないし、お前たちの中に顔見知りもいない。この中に知っている者は? あぁ……、名乗るのが遅れたな。私は、藤堂誠司だ。一応元自衛隊で、今は施設警備をしている」
「へぇ、元自衛隊か……使えるかもな」
「そこの少女……いや、少年か。何か言ったか?」
「いや、気にすんな。独り言」
丸は思ったことがうっかり口に出てしまい、顎鬚おっさん、自称元自衛官の藤堂に目を付けられた。男とはあまり会話をしたくないというのに。女は歓迎する。
それにしても、この藤堂という男……大体の奴に女子と間違われる丸を見て、即座に男だと訂正して見せた。筋肉量や喉仏や骨格から判断したのか? だとすると、元自衛隊というのも真実味が出てきた。
「そうか。ちなみに少年は何か知っているか?」
「……はあ……、まあ知ってるっつーか……うーん……」
「知っているのか。教えてくれ。私は何故ここに……」
「めんどくせえ……まじで説明するのだるい。華凛! どうにかしてくれ! どうせ説明するんだろ!?」
丸は縋るような目で、壁際に立っている華凛を見る。こんな時間帯なのに制服姿だ。確か17時以降……だった気がする。まあ、平日ならまだ学校にいてもおかしくない時間帯だ。制服の下には当然、ガンツスーツが見え隠れしている。
丸投げされた華凛は、丸の事を怖い顔で睨んでいる。どうやら説明を放棄したことに文句があるみたいだ。丸にだって、反論の余地がある。『お前の役目だろうが』と。役目も何もそんなもの存在しないのだが、いつも華凛が初めて組に説明しているから役目だと思ってしまっているのだ。
「いつか私がいなくなった時に備えて、月川にも説明する練習が必要だと思ったのだが……」
「イヤ。絶対イヤだね。それにもう看板とか置いとけよ。ルールとか説明の文まとめたさあ、それでもう勝手にしろって感じだぜ」
「おぅ、丸っち頭いいお」
「そうだろ、ろっく! てか、五日ぶりだなろっく」
「そうだねぇ……丸っち、休日もどっか行ってたし、三日間も学校サボって……もしかして新しいエロゲでもしてた?」
「してねえよ……俺はなあ、大人の階段を……あ、悪い華凛、説明していいぞ! 早く!」
話の途中にろっくと熱い抱擁を交わして(汗臭い)、華凛に交代する。
やれやれ、と首を振るって、前に歩み出た華凛が華麗に制服の上着を地面に脱ぎ捨てる。黒く、全身隙間なく覆われたスーツ。巨乳巨尻でナイスバディの華凛が着ると、より一層妖艶に映った。丸は直視しているだけで勃起するほどだ。揉みたい、あのケツを鷲づかみにして。胸もいい。あぁ、触りたい。
その黒スーツを見た五人はコスプレイヤーか新手の痴女のどちらかだと思って、怪しげな視線を向けている。そりゃそうだ。イケメンがスケベな目で見ている……! いや、意外に見てない? 胸とか尻とか、普通見るだろ。あの格好されたら普通。スーツのおっさんは見てるし、藤堂も見ている。まさか紳士的な性格まで完璧なのか!?
「何というか……月川らしいと言うべきか。
では、早速で悪いが、単刀直入に言わせてもらおう。私は東森華凛。この部屋に
いつもの。丸が一回目の時とあまり台詞が変わっていない。
説明を固定化することで、効率化を図る狙いだろう。こんな説明を、後何回続ければ彼女は救われるのだろうか。彼女の死亡者を全員復活させるという目標は、彼女自身を縛り付ける杭。不治の病。永遠と蝕み続ける猛毒。いつか死ぬまで、彼女がその目標から救われることはない。何故ならミッションで誰も死なないことは不可能だと言っていいし、今までの数えきれないほどの死亡者を全員復活させるというのも後得点がどれだけ必要なんだという話だ。有り得ない机上の空論。それでもあの時、丸はそんな彼女の綺麗な絵空事を手伝うと言ってしまった。
少しだけ後悔している自分もいる。不可能なことに努力するのも嫌だし、無駄だとすら思う。なのに、丸が手伝おうと思うのは、人間は感情で生きているからだ。理論だけで行動出来たら、人はきっと戦争もしていないし、今のように技術が発達していないだろう。感情から奇跡のような何かが生まれると、誰かが言っていたのをうっすらと丸は覚えている。誰だったか。偉人の誰か、いやネットの掲示板で匿名の誰かがそんなことを言っていたんだ。
——それに、世界で一人くらいはアイツの無謀な賭けに乗ったっていいと思うんだ。そんなバカが必要だ。今のアイツには。
一人そんなことを考えていると、隣に佐里が立っていた。
「丸くん、三日ぶりだね」
「おう。佐里ちゃん。今日も可愛いな」
「ありがと。丸くんも可愛いよ。寝癖とか」
「可愛いって、いいか、佐里ちゃん。男ってのはな、可愛いって言われるより、カッコいいって言われるほうが嬉しんだぞ」
「そうなの? 知らなかった。そっか……カッコいいよ、丸くん」
「へへへ、まあそうかもな」
そんな会話をしている二人の所に、千春先生がいつの間にか接近していた。
その表情は訝し気で、少しばかり丸に対して何かを感じる。
「千春せんせー、何だ? その顔」
「月川君、宮崎さん、付き合ったの?」
「はあ?」
「え、えっと……? つ、付き合う……」
千春先生のその質問に、丸と佐里が否定する。
丸はきっぱりと、佐里の方は少しだけもごもごしている。
「その様子だと……なるほどね。まだ、ということかしら……? な、なるほどね! まあ、教え子が付き合ったところで、教師には関係ないことだけどね! ね、月川君!」
「な、なんだよ、千春せんせー。怒ってるのか? 機嫌悪いのか? あっ、もしかして生理か?」
「デリカシーないのね、月川君……? やっぱり、こんな男辞めたら? 宮崎さん」
「……それが丸くんだし、ある程度は良いのかなって」
「ダメだこりゃ……盲目は罪よ……宮崎さん」
丸から離れて女二人でこそこそと話し始めた。何故女という生き物はあんなに喋るのが好きなんだろうか。丸にはそれが全く理解できない。しゃべるよりおっぱい触ったり、エッチなことしてたほうが得なのに。
あぁ、今もセックスしてえ。前回は正常位だったから、次はバックか……。個人的にはバックが好きだ。騎乗位も悪くないか。
エロいことを考えたら、ろっく、刈谷、夏目、という男三人組が丸に近づいてきた。
「刈谷! 夏目! また会えてうれしいぜ」
「月川、オレもだよ。元気そうで良かった」
「月川君……僕も会いたかった、です」
「おう! 何だよ、夏目、敬語はやめろよな。死闘を生き残った仲じゃねえか。まあ俺、死んで一回生き返ったんだけどな、ハハハ!」
「あんまりおもしろくないブラックジョーク流石だお、丸っちぃ」
「変わってないな、月川は」
ネクタイの紐を緩めて、刈谷が笑う。
その下にガンツスーツを着ていることから、準備はもう整っているようだ。
「高い依頼はきたか?」
「あまり来ないな。お金持ちの飼い猫探しが報酬額が少し高くて、それで今月は凌げる。一日一食で!」
「刈谷も変わってないな……あ、この前は場所特定してくれてありがとな」
「役に立ったなら良かった。それで、お目当てのものは?」
「見つけてきた。ついに生まれた……内緒だけどな。華凛にも、だぞ」
「分かっている。オレとの秘密だな」
「何、秘密ってえ? 丸っち」
「男同士の秘密だ、ろっく」
「えぇう、それはこの大親友と書いてダチと読むおいらにも言えない秘密なのかあっ」
「まあ、後で教える。今はちょっと、華凛とかが近いし」
「分かったお。それでこそ大親友(ダチ)」
「僕にも教えてほしいかな……?」
「夏目、ちょっと言いそうだしなあ……ま、考えとくぜ。そろそろだろ」
「まだ二回目だし、緊張するな流石に。月川はもう慣れたか?」
「いや、全然。毎回新鮮で楽しいぜ」
「楽しいって、月川はやっぱり変わってるな」
その会話を最後に、丸は黒い球の方を向く。
丸もパジャマを脱ぎ捨て、黒いスーツだけの姿になる。刈谷、ろっく、夏目も同じようにして。
そして、鳴った。いつものリズム、音楽、ガンツが動き出した。
『新しい朝が来た♪ 希望の朝~が♪』
ただのラジオ体操の曲。だけど、やけにリズムよく、完璧な調子で、美しい歌声。
誰かの女性の声。聞くものをうっとりさせる鈴のような音色。
それはどこか悲し気に歌って、機械的に歌う。
『それ♪ 一 二 三 ♪』
ラジオ体操の曲が終わり、静寂が訪れる。誰かの息を呑む音が聞こえた。
ち〜〜〜〜ん、と高い音が黒い球から流れ、ガンツ前画面の光が付く。
【貴方達の命は無くなりました。
新しい命をどう使おうと私の勝手です。
という理屈な訳です。】
その黒い球からのメッセージに、見ている者は直感的に理解させられる。自分たちは死んだのだと。これから何かが始まるのだと。
それは四回目の丸であっても、同様に。
今回は必ず、生き抜いて見せる。
【貴方達には今からこの方を殺しに行って来てください。
モブ星人:特徴地味。好きなもの:チーズ牛丼。 口癖『うぉw』】