丸はスーツのケースを受け取っている集団の中に交じり、ガンツの前で武器を何にするか悩んでいた。
「うーん……」
前回通りに行くなら、まずガンツソードは手に装備が確定だ。理由として、今まで丸が倒してきた敵はほぼガンツソードだから。反射神経が高い丸と相性がいいのだ。手に馴染むという理由もあった。
武器や道具を付けられるホルダーがガンツスーツには二つだけ付いている為、更に二つ武器を持てる。
ガンツソードがスペア用と合わせて二つ。片方は手に持ち、もう一つはホルダーに。残り一枠は射撃が出来るXガンだ。
しかし、前回の山梨で戦った敵は驚異的な再生持ちだった。ガンツソードで接近し、斬りまくっても敵は再生した。100点と交換できるZガンでも倒せなかったことを考えると、Xガンでも無理だった可能性が高い。
前回丸が戦ったポセイドン星人のボスは、水がある限り再生するという特性を持っていた。今回のモブ星人が似たような力を持っていても不思議じゃない。
そこで、丸は銃口の形がY字に見える銃を持ち、隣にいる華凛に声をかける。
「華凛? Yガンの事もう一回聞いてもいいか?」
「Yガンか。それは、三つの弾とワイヤーを発射し、星人を捕獲し転送することができる代物だ。Xガンと違ってタイムラグがなく、すぐに効果が発揮する。ただし、ワイヤーで巻き取って捕らえた後に、少しだけ転送まで時間が掛るから要注意だな」
「転送か……だったら、再生持ちにも効くってことか。一応保険の為に持っておくのもアリだな。ちなみにお前は持ってないのか?」
「私は基本的にガンツソード一本だな。少しでも装備重量を減らして、身軽になりたいという理由だ」
「それだと斬撃が効かない敵が出てきたら詰むじゃねーか。その時はどうすんだよ」
「その際は、他のメンバーが持ってきた武器を借りるか、落ちている武器を拾う。無い時は、終わりだが……それでも、私は飯田から剣術を学んだ。飯田が言っていた『お嬢さま、確かに複数の武器を扱い、数多の状況に対応できるというのも強さの一つです。しかし、一方で器用貧乏という言葉もある。複数に意識を割けば、その分一つが弱くなる。一つだけの武器、一つの刀を、ただそれだけに意識を割き、振るう。一つの強さというものもあるのですよ』とな。今となっては、その言葉がよく分かる。……まあ、私に射撃があまり向いていないのもガンツソードしか持っていない理由でもあるがな」
ガンツソード一本。確かに今まで丸が見てきた彼女はガンツソードでしか戦っていない。とはいえ近距離限定でしか戦えないのは困る状況があると思う。一つを極める。一つだけの武器、刀で戦うのが東森華凛の戦闘スタイル。
彼女がスライムに操られ、丸が彼女と戦った時のあの差は、それが理由なのだろう。付け焼刃の丸の剣術では、到底華凛の実力に及ばない。何せスライムに操られた状況であの強さだ。正常な時がどれほどの強さ皆目見当も付かない。
丸には一つだけの武器を極めるのは無理だ。おそらく性格的に。それよりも臨機応変な対応をその場その場でしていく。それが丸の強さだといえるかもしれない。勝つためには何でもする。それでいい。丸は華凛じゃなく、丸の戦い方があるのだ。
決めた。
丸はガンツソードを手に持ち、XガンとYガンを武器ホルダーに装備した。
中距離にも、再生持ちにも対応できる万能型を丸は選んだ。スペアのガンツソードがなくなるのは手痛いが、それよりも再生持ちに対応できないのが痛すぎる。であるならば、敵を転送できるYガンの方が必要だと判断する。
「決めたようだな、月川。確かに色々な状況に対応できる装備を選ぶというのも、正解の一つだ。今回の敵は、私と月川、二人が活躍しなければ危ないだろう。他は当てにするな。出来るだけ集団で固まるようにし、敵を殲滅する係が私と月川で担当する。それでいいか?」
「まぁ……いいけど、刈谷とかも意外に行けそうだぞ? それに射撃が上手いろっくも戦力になるはずだぜ」
「あぁ、それも考えていた。これからのミッションで生き残っていくには、メンバーの戦力強化が必要だ。刈谷と山田も今回のミッションで活躍してもらわねば。集団を引っ張っていくのを刈谷に、敵を射撃する火力担当を山田に任せている」
「もう言ってるのかよ。早えな。確かにその配置の方が良いな。刈谷は頭回って面倒見いいし、ろっくは多分射撃だけならこの中でトップだからな」
「悪くない。戦力的には。最悪じゃない、それが分かっているだけでも希望は見える。今回は、誰一人死なせない。そのために、月川に協力してほしい。——危険ではあるが、月川には一人で行動してもらう時が来るかもしれない……すまない、これはどうしても必要なんだ。敵を殲滅するというミッションな以上、殲滅は必須」
「いいぜ、別に。俺は一人でも生きていける、多分。それに他の奴面倒見ながらの方が正直怠いぜ。一人だったら、そっちの方が助かる」
「感謝する、月川。月川がいてくれて、良かった。本気でそう思う」
真面目な顔をして、そう言ってくる。
丸としてはそんな顔をされて、感謝されても困る。美少女が近距離で、しかも体のラインが丸わかりのエロいガンツスーツを着て、だ。感謝するんだったら、エロいことをしてくれと言いたくなる。マジでムラムラしてきた。あぁ、あの爆乳揉みたい。触ったら怒られるだろうか?
どうせ回避すると思い、丸は徐に華凛の右胸を触ろうと、手を伸ばし——触れてしまった。ついでに揉む。柔らかすぎず、ちゃんと張っていて弾力が素晴らしい。これは魔性のモノだ。もみもみ。なんだコレ! 気持ちよすぎる! 触ってるだけで勃起する。
おそらく一秒後に丸は華凛から投げられるのを覚悟し、どうせだったらたくさん揉んでやると開き直って胸をしごく。
「あれ?」
来ない。パンチもキックも、投げも来ない。おかしいと華凛を見たら、首を傾げていた。
顔も赤くない。この反応、女子として異常だ。おかしいだろ。何平気な顔してるんだ。
俺は今、お前の胸を、おっぱいを揉みしごいてるんだぞ!?
「何をしている? 月川? 胸を触って、何の気だ?」
「は? はあ? お、お前……いいのか? えっと、いいの? 合法ってこと?」
「合法? いいのかどうか聞かれても、別に構わないが、私の胸は特段傷もないし、健康だぞ。筋肉量の確認をしても、そこは乳部で脂肪が詰まっている。やはり改めて考えても、触る意味が分からないんだが……って、どうした? 月川」
「じゃ、じゃあキスもしていいか?」
「何を言っている。ダメに決まっているだろう。破廉恥な」
「な、なんか……お前、純粋すぎるだろ……性教育度が低すぎるッ。飯田のおっさん、お前執事だったんだろ!? ちゃんと仕事しろよ!?」
なんか興ざめしたと思いながらも、丸の手は華凛の胸を揉んでいた。こればかりは男の本能で夢でロマンでやめられないのだ。
そこで千春先生と佐里が丸がそんなことをしているのを発見し、強制的に中断される。
「なに、やってんのよ! 月川君! せ、生徒同士としてそんなこと許されないんだから!」
「丸くん!?????? 浮気? ねえ、浮気???? 東森さんもナニ許してるの? もうそういう仲なの???? 」
「わ、悪い……つい手が、ブラックホールに……」
「すまないが、胸を触ったところで何を騒いでいるんだ?」
「「「本当に知らない!?」」」華凛以外が三人同時で同じ反応をする。
「ちょっと来なさい!」と千春先生が廊下に華凛を引っ張っていき、佐里も付いていく。女性同士の話だ。丸は付いていけない。華凛に意味が伝わる前に隠れた方がいいだろう。
辺りを見回して、イケメン男神崎が一人の女性と話していた。まあまあ可愛い女だ。名前は知らない。
「ほ、本当に神崎くんだ! 何でこんなところにいるの? 握手していいですか? あ、私星乃ミユって言います」
「握手かい? いいよ。知っているでしょ、ミユちゃんと一緒で多分死んだんだ。ボクの場合は、タクシーで撮影現場に向かおうとして……その途中で別の車にぶつかって、死んだ……さっきの東森さんが言うには、そうらしい」
「で、でも……死ぬなんて、そんなの。生きてるし、あり得ないって……」
「お。ちょうど経験者の月川クンがいるじゃないか。聞いてみよう」
「学生? 女子?」
「いや、かれは男子だよ。高校生じゃないかな」
「えっ!? あの見た目で!? 女の子かと思った……」
最近言われないからその間違われ方が懐かしい。
高校に入学したときはよく間違われたが、何度も間違われるうちに男だということは定着する。
「俺はれっきとした男だ。星乃ミユちゃん」
「いきなり? ちゃん呼びって……キモイ」
「おい、神崎はちゃん呼びしてただろ!」
「神崎くんは良いのよ、だって神崎くんだし。別の男はダメ」
「なんだこの格差。この男と一体なんの違いが……世界は残酷だ」
「アハハ……まあまあ。月川クンはミッション経験者で今回が三回目なんだろう? 凄いよね」
正確には、四回目だが細かいことはどうでもいい。
正直、こいつらが生き残れるとは思えないのだ丸には。顔がいいだけで神崎も星乃も、戦闘能力がなさそうに見える。
あの元自衛隊はもしかしたら戦力になる可能性があるが……。
神崎と星乃は未だガンツスーツを着ていない。早くしないと転送が始まるというのに。
「お前ら、スーツ着ろよ。華凛に散々警告されただろ? ガンツスーツを着ない奴らは死ぬって」
「うん……まだこのコスプレスーツを着る勇気が出なくて。身体のラインが丸わかりじゃないか。本当にこんなので、生き残れるなんて懐疑的だけど……」
「無理、こんなドギツイ服着るなんて。頭おかしいよ、ここのみんな、何かの集団詐欺や、ドッキリでわたしたちを騙そうとしてるんじゃ……」
「別にいいぜ、着なくても。だけどな、ガンツスーツを着なかったら絶対に後で後悔するのはお前らだ。俺も前にガンツスーツを着なくて、苦労した。ま、着るかどうかはお前ら次第ってことだな。着るんだったら、早くした方がいい。もう少しで始まる。」
「……あの、モブ星人って奴を倒せば、それでいいんだよね? 月川クン」
神崎はガンツの前画面に映っているモブ星人を指さした。
見た目的には弱そうで、神崎達は全然怖がっていないし、顔に舐めた態度が見える。
ミッションを舐めている、こいつら。ミッションの怖さを知らないんだ。理不尽さを。
一見簡単に見えて、始まった途端理不尽を押し付けてくる。前回もそのまた前回も、そうだった。
今回も十中八九そうだろう。
だから丸は油断しない。油断したやつらから脱落していくのがガンツだ。
「そうだな、あの星人を倒せばここに帰れる。せいぜい頑張ることだな、イケメン男。顔が良くても、ここじゃ何も役に立たないぜ。あっ、やべ、華凛達戻ってきた。怖い顔してる……やばい、ミッションよりもこっちの方がやばいかも。ってことでじゃあな!」
「あっ、月川クン、行っちゃった。どこに行ったんだろう?」
「どこだろ。それよりさ、神崎くん電話番号交換しない?」
「電話番号は事務所NGで……」
丸はそこから逃亡し、机の下に隠れる。
息を殺し、恐ろしい魔の手(女たち)から逃れる。
早く来てくれ。ガンツ。殺される。化け物(華凛)に殺される。い、イヤだ。
転送はまだか。
一分、三分、どれぐらいの時間が経ったか分からないが、
神はいるのだろう。丸の転送が開始される。頭の天辺から徐々に顔が消え、
視界が教室から、別の場所に移っていく。
その場所は、広く、何かの建物の中だった。
一目でわかる。丸も知っていた。
どこかのショッピングモールだ。
その場所は広場のような空間で、中央の天井が繰りぬかれ、円状に吹き抜けた穴があった。その大きな穴から二階のエリアが見えた。
丸はその空間の、人混みの中にいた。
黒いガンツスーツを着た丸が、異様に集団の中で浮きだつ。
周囲にはお店や、何かのイベントをやっているのか。マイクを持って商品をセールしていた。
ミッションで初めて、一般人がいる。その状況に、丸が動揺する。汗が出る。
見えてるのか? ならなぜ、誰も反応しない。こんなに目立っているのに。
「……バレてない? 見えてないのか」
明らかに丸の方に周囲の人から目線だったり、意識が向かれないのが異常だ。
無視されているのではなく、周囲の人々から丸が認識されておらず、見えていないと言った方が正しい。
そんな中、隣に千春先生が転送されてくる。
足の先と頭から先に、胴体が、手が虚空から現れる。
丸と同じくスーツを着た千春先生が、驚いた目で辺りを見渡して、丸を見つけた。
「月川君? 良かった……後ここは……ショッピングモール?」
「しかも、普通に一般人がいる。ほらあそこにある時計を見ろ、18時だ」
「まだ閉店時間じゃない……たしか、大体19時か20時が閉店時間多いと思うけど……」
丸はスーツの機能であるコントローラー見る。
まず制限時間。
【01:58:57】
残りミッション終了まで、約二時間。
次にレーダー確認。
これで敵の位置を把握する。
どこだ。敵はどこにいる。
「何だコレ……? 故障か?」
「どうしたの? 月川君」
「見てみろよ、千春せんせー。これ」
「何これ? この光ってるの、周りの人たち?」
「いや、レーダーはターゲットした敵のみを表示する。だから……この数の光点は……」
「は、何……? 何なの、月川くん?」
「——全部敵だ」
このショッピングモールの中に、映ったレーダーの光点の数。
それは夥しいほどにあった。
少なくとも100以上。このエリアだけでも、何十体もいる。
まぎれている。この人混みに。
敵が。モブ星人が紛れ込んでいる。
そして、丸はその人混みから一人違和感のある顔を見つけた。
それは、ガンツに表示されたターゲットの画像とそっくりで。
地味そうな男。眉毛が整っておらず、太い。鼻は大きく、鼻毛が付いている。
短髪で、眼鏡。
「いた……、アイツだ……!」
「ちょっと! 月川君! 待って!」
丸は咄嗟に走る。見失う前に、倒す。
ガンツソードを展開し、構える。
だが、その男が振り返り、丸を目で捉える。
一般人に丸の事は認識できない。
あの男は丸を認識した。敵で間違いない。
「うぉw やばw」
モブ星人はそう発言し、逃げた。
手を大きく振るって、変なフォームの走り方。
特段速くなく、むしろ遅い。
「はあ!? 逃げた!」
丸は驚き、一瞬気を取られて動きが止まってしまう。
その隙に、逃げたモブ星人を見失う。
しかし、人混みの中、立っているモブ星人の姿をすぐに発見。
スーツの性能を発揮した素早い速度で床を蹴る。
景色が一瞬で通り過ぎ、追いつき、壁を蹴って、斜め上から黒い刀を振り下げた。
ずぱん、とモブ星人の身体が縦に半分に分かれ、臓器と血が飛び散る。
簡単に殺せた。弱い。何かするのかと思ったが、逃げるだけとは。予想外だが、敵が弱いことは良いことだ。
周囲の一般人はその血だまりを踏んでも、何かのゴミやただの水を踏んだのだと勘違いするだけ。
暫くして、後ろから千春先生が丸に追いついてきた。
「はぁ……はっ、もういきなり飛び出さないでよ、月川君」
「悪い。でも、やったぞ」
「ホントに? うわ……気持ち悪いわ……、でもやったのね? これで帰れる?」
「いや、さっきの光の点の数見ただろ、あれが全部敵だ」
「嘘でしょ……」
「嘘だったらいいんだけどな……やべ、囲まれた」
「え?」
丸は、360度辺りをぐるりと見渡す。
合計十体以上。
丸と千春先生を円状に囲む、短髪眼鏡の男、モブ星人。全員が無表情の同じ顔、同じ服装。グレーのチェックシャツにジーンズのパンツ。肩から紐を吊るしたオレンジのバッグ。
「「「「「「「「「「うぉw」」」」」」」」」