「「「「「「「「「うぉwビーム」」」」」」」」」
身構える隙も、逃げる時間すら与えられなかった。
目に見えない強烈な質量兵器のような衝撃が、佐里たちの肉体を襲う。黒いスーツがダメージを軽減しているはずだが、衝撃波そのものを完全に殺すことはできない。肉体を巨大な鉄槌で強打されたような激痛が走る。
佐里たちの身体は宙へ跳ね飛ばされ、床や壁へと容赦なく叩きつけられた。
激しく頭を強打したせいか、佐里の視界がぐにゃぐにゃと歪む。全身のあちこちから悲鳴のような痛みが上がっていた。這いつくばった体勢のまま、彼女は必死に目を開き、状況を確認しようとする。
全員が倒れていた。
神崎も、藤堂も、田中も、床に転がったままピクリとも動けない。
モブ星人たちは、同胞の無惨な死体に一瞬だけ視線を落とした後、ショーウィンドウの破片にまみれて呻いている黒木へとその冷徹な眼差しを向けた。
ロックオンされたのだ。同胞を殺した、明確な『敵』として。
黒木は立ち上がることもできず、ただ苦しげに身体を震わせるしかない。
星人たちが再び一斉に指先を突きつけ、黒木に狙いを定める。
「黒木! 逃げろ、早くっ!」
藤堂が血を吐きながら叫び、床に手を伸ばす。
「う、うう……痛い……身体が痛いよ……助けて……」
「「「「「「「「「うぉwビーム」」」」」」」」」
「え?」
幾重にも重なる目に見えない衝撃が、黒木の肉体を正確に貫いた。
十体からの同時攻撃。その致命的な負荷にガンツスーツが耐えきれず、各部の丸いジョイントからブシュゥゥッと不気味な透明の液体が激しく噴出する。黒木は何が起きたのか 理解できず、ただ本能的な恐怖に目を見開いた。だが、容赦のない処刑はそれで終わらない。
「や、やだ……やめて」
「「「「「「「「「うぉwビーム」」」」」」」」」
次の瞬間。
黒木の肉体は内側から凄まじい圧力で爆散し、ショーウィンドウの内部を一瞬にして鮮血の赤一色へと染め上げた。
肉片すら残らない、完全な血の液体と化した凄惨な死。
一人目の確実な『死』。その圧倒的な現実が、生存者たちの胸に底なしの絶望を叩きつける。だが、絶望に浸る時間すら与えられない。次は、自分たちだ。
この場に、この破滅的な状況を打開できる人間など誰もいない。
修羅場を潜ってきた『経験者』は佐里だけだった。しかし――。
(無理……無理だよ私には……丸くんみたいに動けない……!)
(丸くん……丸くん、どこにいるの? 助けて、早く来てよ……!)
心の中でどれほど叫び、涙を流して願っても、少年の姿がそこに現れることはなかった。
「「「「「「「「「うぉwビーム」」」」」」」」」
――ズドンッ!
鈍く重苦しい破裂音が、激しく重なって鼓膜を揺らす。
「「「「「「「「「うぉwビーム」」」」」」」」」
無機質に連呼される、モブ星人たちの奇妙な発声。
佐里の身体には衝撃が来なかった。ということは、他の誰かが標的にされたのだ。
神崎? 違う、彼はまだ息がある。
藤堂? 違う。
じゃあ――佐里が血の凍る思いで田中を探した瞬間、視界に入ったのは、先ほどまで彼が倒れていた場所に広がる、どす黒い巨大な血溜まりだけだった。
嫌。嫌だ。こんなの嫌だ。
二人目の死。信じられないスピードで、仲間たちがただの肉塊へと変えられていく。
モブ星人たちの首が、ギチギチと音を立てるように一斉に動いた。
佐里は固く目を閉じた。どうか自分じゃありませんように、と無駄な祈りを捧げる。しかし、そんな幸運はとっくに底を突いていた。敵の冷酷な矛先は、明確に佐里へと定められる。
星人たちが一斉にその細い指先を彼女へ突きつける。
今度こそ、死ぬ。この不可避の衝撃を身代わりに受けてくれる者は、もう――。
藤堂も満身創痍で動けない。死へのカウントダウンが頭の中で鳴り響く。死。死。死。死死死死死死死死死――
「だ、ダメだあああああっ!」
「丸く、神崎くん?」
響き渡ったのは、丸の声ではなく、神崎の必死の咆哮だった。
佐里がカッと目を開けると、いつの間にか床のXガンを拾い上げた神崎が、狂ったようにトリガーを連射している姿が映った。
――ギョーン! ギョーン! ギョーン! ギョーン! ギョーン!
一定のリズムを刻みながら、銃口から青い光が点滅する。
数秒のタイムラグを経て、前列にいたモブ星人たちの肉体が次々と激しく爆発した。
神崎の決死の猛射により、モブ星人たちの佐里への攻撃シークエンスが強制中断される。奴らの冷徹な視線が一斉に神崎へと切り替わり、五、六体の指先が彼を捉えた。
「「「「「うぉwビーム」」」」」
「ぐ、はあぁっ!?」
神崎は咄嗟に回避を試みたが、衝撃波の不可視の余波がその身体を捉えた。床へと激しく叩きつけられ、口から鮮血が飛び散る。
それでも、彼は執念だけで膝を立て、ふらつきながらも銃を構え直した。
「状況がやばいね……だけど、ここで死んだら……、母さんが泣く」
「神崎くん——!」
しかし、非情にも死んだ個体を踏み越えて、後列のモブ星人たちが機械的に前へと進み出る。瞬く間に、再び十体の強固な前衛が形成された。
そのすべての指先が、満身創痍の神崎へと突きつけられる。
「「「「「「「「「うぉwビーム」」」」」」」」」
「が、はあぁっっ!」
神崎がトリガーを引くよりも早く、無慈悲な衝撃波の塊が彼の肉体を粉砕せんと襲いかかった。
斜め上方へと凄まじい勢いで吹き飛ばされた神崎の身体は、背後のガラスフェンスを派手に突き破り、そのまま吹き抜けの空中へと投げ出された。落下していく神崎の姿が見えなくなる。
この場に残されたのは、恐怖に身をすくませる佐里と、動けない藤堂のみ。
一時的に逸れていたモブ星人たちの無機質な視線が、ゆっくりと、確実に佐里へと戻ってくる。
数十体の星人が、一斉にその呪わしい指先を佐里へと突きつけた。
今度こそ終わりだ。盾になってくれる者は誰もいない。藤堂も激しいダメージで完全に沈黙している。
絶対的な死。
逃れようのない、完全な詰み。
脳内が恐怖で白く染まろうとした――その瞬間。
モブ星人たちの遥か後方から、鼓膜を裂くような重低音の轟音が轟いた。
何かが壁に凄まじい質量で激突したような破壊音。そして、ギュイーンという何かの稼働音。
何者かが、重力を無視して壁面を高速で疾走していた。
通常の人間には到底不可能な、圧倒的な三次元起動。
佐里が驚愕に目を見開く間にも、その影は壁を蹴り、モブ星人の大集団の頭上を鮮やかに飛び越えた。空中で鋭く一回転し、金属的な音を立てて佐里の目の前へと着地する。
眼前に立つその背中は、美しい黒い長髪を揺らしていた。
その右手には、不気味な輝きを放つ一本の『黒い剣』が握りしめられている。
「——待たせた。これ以上、もう誰も殺させない」
モブ星人たちは一切の動揺も見せず、新たな脅威である彼女へと無機質に指先を向ける。
対する東森は、黒い剣を低く構え、両手でしっかりと柄を握りしめた。完璧な迎撃の構え。
「「「「「「「「「「うぉwビーム」」」」」」」」」」
放たれる、幾重もの不可視の衝撃波。
目に見えず、避けることすら許されない絶望の広範囲攻撃。
――キィィィンッ!
東森が目にも留まらぬ速さで剣を一閃させた。空気が激しく衝突する金属音が響き渡り、驚くべきことに、彼女は何のダメージを負うこともなく、涼然とそこに立ち尽くしていた。
斬ったのだ。あの目に見えない、触れられもしないはずの衝撃波を、ガンツソードで。
佐里の理解を遥かに超えていた。その圧倒的な、暴力的とすら言える強さ。
目の前にいるのは、自分たちと同じ人間などではない――別の生物なのだと錯覚してしまうほどの差。
圧倒的な強者が、そこにいた。
----
一方、刈谷は転送直後の混乱に呑まれることなく、冷徹に周囲の状況を把握すべく視線を走らせていた。
辺りは薄暗い。天井に等間隔に配置された蛍光灯が、白い頼りない光を無機質に落としているだけの通路。
すぐ隣には、小学生の圭介が怯えた様子で立っていた。その小さな身体にも、ぴったりとしたガンツスーツが着用されている。
それだけだ。周囲に他のメンバーの姿は一切ない。
どうやらこのエリアに飛ばされたのは、自分と圭介の二人だけなのだと、刈谷は瞬時に理解した。
「圭介、大丈夫か?」
「うん……なんとか。刈谷兄ちゃんは? 大丈夫?」
「あぁ、問題ない。それにしても、ここは……地下か?」
肌を刺すようなひんやりとした空気、そしてこの独特の閉塞感と暗がり。どこかの地下施設であることは間違いなさそうだ。
これ以上の情報は、この足で進んで確かめるほかない。それが刈谷の導き出した結論だった。
「どうしよう、刈谷兄ちゃん」
「とにかく進んでみよう。月川たちも、この先に転送されているかもしれない」
「うん、分かった。……あのさ、怖いから、手、握っててくれる?」
「いいぞ。オレの手、汗まみれだけどな」
「えっ、それはやだ」
「圭介が握ってくれって言ったんだろ?」
「う……。うん、じゃあ、汗まみれでもいいよ」
「しょうがないな」
クスリと小さく笑い合い、二人は互いの手をしっかりと握り締め、暗い地下通路の奥へと歩を進めた。
しばらく進むと、急激に視界が開けた。通路の先は、巨大な大部屋――広大な倉庫のような空間へと繋がっていた。何かの物流拠点か、あるいは放棄された地下工場だろうか。
一見すると、これといって不審な点はないように思えた。――いや、違った。決定的な、悍ましい「違和感」が空間を満たしている。
暗がりのせいで、はっきりとは見えない。
だが、聞こえるのだ。暗闇の奥から、ザワザワ、サワサワと、無数の布地が擦れ合うような不気味な音が。
刈谷が一歩、慎重に足を踏み出す。
その瞬間、見えてしまった。見たくもない、脳が理解を拒絶するような光景が、闇の向こうから浮かび上がってきた。
広大な倉庫の床を、隙間なく埋め尽くす黒い無数の影。
それは数十や数百などという生易しいレベルを遥かに超越していた。一瞬、コミックマーケットの凄まじい入場待機列を連想させるほどの、圧倒的な「人間の群れ」に見えた。
刈谷はその中の一体の『顔』を凝視した。
黒い短髪に、眼鏡。どこかで見た記憶があるはずなのに、脳がその答えを引き出すことを激しく拒絶する。服装は、グレーのチェックシャツにジーンズ。肩からはオレンジ色のショルダーバッグを提げている。
違う。思い出せないのではない。頭ではとっくに理解しているのに、心がその絶望的な現実を受け入れたくないのだ。
繋いだ手の先で、圭介が引き攣った声で呟いた。
「モブ星人だ……」
その一言が、刈谷の脳内に冷酷な現実を突きつける。
視界を埋め尽くす、狂気的な質量。
優に千体を超えるであろう、大軍勢。彼らは隙間なくびっしりと敷き詰められたように、そこに佇んでいた。
全員が、全く同じ顔。
全員が、全く同じ服装。
全員が、全く同じ、死んだような無表情――。
その異様な大群が、音もなくそこに存在していた。
「――っ、急いで月川に知らせないと……」