狼、ネズミ、虎の三体の着ぐるみ星人は風船を持って、男子小学生の近くに寄った。
カラフルな色の風船を子供に上げるつもりのようだ。
男子小学生は先ほどの光景を知っているため、恐ろしい怪物に見えているのか、涙目を浮かべながら立ち尽くしている。
「「「ハッピーになろう♪」」」
「ろっく、千春せんせー、安川さん、同時に一体ずつ撃て……」
「月川君、でも近くに子供が……もし当たったら……」
「大丈夫だ……、最悪スーツは着てる」
「月川くん、私はう、撃てないよ……」
「よし、キター」
丸の静かな指示に、三人は各々反応を示しながらも、結果的にXガンを敵に向けた。
ろっく以外、Xガンを持つ手が震えている。
三人は上のトリガーを引き、Xガンがロックオンし、その銃身が展開。後は下のトリガーを引くだけだが……、千春先生と安川修の呼吸が荒い。
――流石にろっく以外の二人は期待しないほうがいいな。命中しない可能性も考慮しとくべきだ。
握っていた黒い得だけのグリップを丸はボタンを操作し、刀身を出しておく。これは先ほどの飯田が扱っていたのを見様見真似で出来た。
「やだよ、ボク……怖い! いらない! 風船なんかいらない!」
「ハッピーになろう♪」と三体の着ぐるみが、風船を差し出した瞬間に「今だ! 撃て!」と丸が合図を出す。
「あ、当たってッ!」
「もう何も知りませんよっ!」
「バン! 当たれぇ~」
三人が同時に下のトリガーを引き、展開されたXガンが青く光る。
ギュイン! ギュイン! ギュイン!
少しの時間の後、まず虎の頭が吹き飛ぶ。次に狼の肩が、最後にねずみの足に当たる。
虎は死んだようだが、ねずみは足が吹き飛び転んだだけである。狼なんて肩が削れた程度だ。
少し体制が崩れただけの狼の視線が、こちらに向く。
ぎろりと、体ごと丸達に向けて、次の瞬間走り出す狼の着ぐるみ。
狼のくせに二足歩行で走ってくるそれに得体のしれない怖さを感じる。狼の狙いは、千春先生だった。
「い、イヤ……」
千春先生の体はXガンを撃った体制で固まっている。次に死ぬのは、自分? 千春先生の中で嫌な想像と恐怖が高まって、動けないでいた。
誰もが千春先生が殺される瞬間を想像してる中、一人が走り出す。
それは月川丸だった。
「千春せんせー!」
「つ、きかわ君?」
「千春せんせーは殺させない!」
丸が低く飛び出し、黒い刀身の武器を構える。
走り寄ってくる狼に向けて、両手で握ったその剣を真横に振るった。
刃が敵の肉を、臓器を裂く感触がした後、丸の斬撃が狼の着ぐるみを胸から下にかけて斬り飛ばす。
分かたれた2つの体が、べちゃりと地面にまき散らされる。
結果、丸は無傷でその場を凌ぎ切った。スーツなしで。
敵を一刀両断したのだ。
「はぁ……はぁ、なんとかなった、か?」
「凄い月川君……」
「丸っち、すげぇ~」
初めてキルをした感触。
敵の肉を引き裂く感覚。敵を初めて殺した丸は、無意識のうちに笑っていた。
命のやり取りはなんて面白いんだろうと。こんなもの日常で味わえなかった。
丸は敵の迎撃されたパンチを避けながら、敵を斬った。避けることに成功しなければ、死んでいたのは丸の方だっただろう。
心臓がばくばくと高鳴る。全身に鳥肌が立ち、自分が死んだかもしれないのを想像して、ぶるぶると震えた。
だが、勝ったのは丸だ。スーツなしで勝ったのだ。この黒い剣のおかげではあるが、結果として勝った。それ以上でもそれ以下でもない。
「まだだ! ろっく、倒れている残りの一体をヤれ!」
「そうだったお! りょ!」
ろっくが冷静にXガンを構え、片足を失って寝転んでいるねずみの着ぐるみに追撃をかけた。
ギュイーン。Xガンが放たれ、ねずみの頭部が爆散。
三体全部、これで倒したことになる。
難所を乗り越えたのだ。丸達は。
一人の犠牲もなく。
そこに、飯田が走ってくる。
どうやら彼は生きていたみたいだ。
「すみません、皆様遅れまして……これは――」
「飯田のおっさん。遅かったな。もう終わったぜ」
「倒したのですか?」
「三体をやったのはろっくだ」
「残りの一体は斬られて死んでいる様子ですが、これは貴方が?」
「まあな」
丸がそういうと、飯田は驚いたような顔をした。
スーツなしで敵を撃破したのが、飯田からしてみれば凄いことだったらしい。
そして更に、足音が聞こえた。
――敵か? と丸は剣を構え、警戒するが、無駄に終わる。
なぜなら、足音の正体は黒いスーツを全身血濡れで染めた生徒会長の華凛だったからだ。
「遅くなって済まない、全ての敵は撃破した。これで元の部屋に転移できるはずだ。飯田、私が来るまでの間、よく耐えてくれた」
「いえ、それが……」
「? 四体の敵反応が消えたから、それを倒したのは飯田だろう?」
「華凛様、四体を倒したのは、ここにいる方達です。私の注意ミスで二名を失いましたが」
「何だと……。そうか二名を失ったか……だが、六名生き残っただけでも幸いだな」
華凛と飯田が話し終え、華凛が丸達の方へ歩んでくる。
全身が血濡れということでなんだか魔性の女に見える。その血の量から察するに一体何体殺したのか、丸には見当がつかなかった。一人でそれを成し遂げた彼女は相当の実力者だ。
「誰が四体倒したのかは分からないが、よく生き残ってくれた。君たちは初回を乗り越えたのだ。これから君たちは元の教室に転移することになる」
「か、帰れるの!? あたしたち?」ここまでまともに喋らなかった佐里がそう言った。帰れることが嬉しいのだろう。
「あぁ。敵星人は全て撃破したので、帰れる」
「よ、良かったぁ。死んじゃうのかと思った……」
「良かった……月川君もお疲れ」
「千春せんせーも。あとろっくも3キル、凄かったぜ」
「うお~なんかちょっと自信ついたおいらなのであった。でもスーツなしで敵倒した丸っちのが凄いんだけどな」
「運が良かった」
そんな会話をした後、丸の転移が始まった。
三度目の転移。三度目ともなれば転移に少し慣れてくる。
「丸っち!」
「安心しろ、帰れるんだ、またあとでな」
「分かったお! また後で会おうぜ」
そう言って、丸はその場から掻き消えた。
次に丸の視界は元居た教室を映し、壇上の黒い球――ガンツに目を移す。
「ガンツ、助かったぜ」
丸はそう言って、他の人たちの帰還を待つことにした。