GANTZ〇(マル)R15版   作:闇の戦士

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6「採点」

 丸の他にも、次々と教室に転移して戻ってくる。

 結局大学生二人組は戻ってこなかった。ミッション中に死亡したら、戻ってこれない。華凛が言っていた通りだ。

 最後に生徒会長が転移してきて、これで全員だ。

 

「みんな良かったぜ、俺一人先に来たから心配したぞ」

「本当に良かったですね、皆さん生き残って……二人は残念でしたが」

「安川さん、あいつらは生徒会長を撃ったんすよ。死んで当然の奴らだ」

「確かに……罰が当たったのかもしれないですね。それでも、人が死ぬなんて悲しいと私は思うんだ」

「優しいっすね、安川さんは」

 

 丸が笑みを浮かべると、安川さんは「月川くんには叶わないな」と言って笑う。

 その時、ちーんという音が鳴った。それは黒い球ガンツから聞こえてきた音だ。

 

【それでは、採点を始めます。】

 

「採点? ガンツが? さっきので終わりじゃないのか?」

「あれで終わりじゃない。そして、ガンツはミッション後に生還した者へ一人ずつ採点を与える」

「報酬ってことか」

「その通りだ」

 

 丸の質問に、経験者である華凛が答える。

 ゲームをクリアしたら、報酬が出るのは当然。ゲーム脳の丸には、親しみやすい構造だった。

 

【上村圭介:0点。足手まとい、しょんべん小僧、囮】

 その記載と共に、男子小学生上村圭介の写真がガンツに映る。

 

「0点だ……しょんべん小僧って、まあ無理もないか」

「あ……ボク、ちが」

「気にすんな、俺たちもちびりそうだったからな」

「う、うん……」

 

 女性陣は少し笑っているが、当の本人は顔が真っ赤になって涙を浮かべている。

 

【宮崎佐里:0点。見学者、ビッチ】

 

「な、なにビッチって! ち、違うわ! てゆーか、関係ないじゃない!?」

「ふ」

「わ、笑うな! 丸ちゃん」

「ビッチだったのか、佐里ちゃん……」

「ち、違う!」

 

 佐里は全力で否定しているが、本当にビッチだったら嬉しい丸であった。

 もしかしたら、何かしてくれるかも……と下卑た目で佐里のことを見る。

 

【荒井千春:0点。ただの教師。足に当たりましたが、もう少しちゃんと狙ってください】

 

「ただの教師……」

「なんか罵倒されないだけましだよ、千春せんせー」

「これ、助言? なんで私だけ……」

「ふ」

「わ、笑わないで、月川君……」

 

【安川修:0点。48歳独身。ビビりすぎです】

 

「何で私が独身だと知っているんだろうか……」

「ガンツ、多分プライベート全部知ってるんじゃないか?」

「月川くん、それって……怖いことだね……」

「そうっすね……、俺が昨日見たエロ本のことも知ってるのかな?」

 

【山田弥勒:6点。後、94点で終了です】

 

「おっ、ろっく点数あるじゃん。あと94点で終わり?」

「100点取ったら、何か貰えるんじゃない~? えぇ、なんでも叶えるとかかなあ、う~んおいら美少女になりたい」

「100点の報酬そんなのに使うのかよ……てか、本当にそうなのか? 生徒会長」

「――何でも叶えるわけではないが、100点を得ることができれば、3つの報酬から選べる」

「3つの報酬?」

「1、ガンツからの解放。2、強い装備がもらえる。3、死亡者の復活」

「マジかよ……」

 

 華凛が語った3つの報酬。

 1つ目がガンツからの解放……これは元の生活に戻れるということだろうか? 自由の身になれるのは、魅力的な選択の1つだ。

 2つ目が強い装備をもらえる……これは説明するまでもない。文字通り強い装備が入手できるのだ。ミッションを行うにあたって、有利になるようなアイテムや武器がもらえるのは有難い。

 3つ目が死亡者の復活……これはどこまでを指しているのか。現実で死んだ人も復活できるという線と、ガンツのミッションによって死んだ者のみ復活できるという線がある。

 

「詳しくは後で説明しよう」

「そうだな、お願いする」

 

【飯田勇三:0点。TOTAL86点。後、14点で終了。今回は残念でしたね】

 

「…………」

「飯田、気にするな」

「はい、お嬢様。次は必ずや点数を獲得します」

「86点? もうそんなに稼いでるのか、飯田のおっさん」

「す、すごいですね……」

 

 丸と安川が驚きの声を上げる。

 86点。その点数に丸は数字以上の重みを感じた。

 その点数を稼ぐのに、今までどれほどの犠牲を払ってきたのか。何人死んだんだ。――あの強さにも頷けるぜ。

 

【月川丸:2点。後、98点で終了です。スーツ着てたらもっと活躍できたのでは?】

 

「2点か。一体につき、2点の計算みたいだな」

「月川君、褒められているじゃない」

「これ、褒められてんのかな?」

「私よりはいいわよ、少なくても」

「千春せんせーも惜しかったぜ」

 

 あの時、丸が敵の攻撃を回避できたのはギリギリだった。あと一秒判断が遅れていれば、丸の頭は潰れていただろう。それほど奇跡的な回避だったのだ。

 流石に次はスーツを着ていこうと考える丸。

 

【東森華凛:12点。TOTAL98点。後、2点です。もう少しですね】

 

「届かなかったか……すまない、次で必ず」

「華凛様後、二点です。気を落とさぬように」

「分かっている。それに次で終わりじゃない、始まりなんだ」

 

 この場所にいない誰かへ向けているような華凛の言葉。

 その言葉から、丸は華凛が狙っている報酬は死亡者の復活だろうと目星を付ける。

 今回のことで丸は東森華凛が重度のお人好しだと判断する。

 面倒見良くガンツの生き残り方を説明し、自分がXガンで狙われてもそれでも相手を説得しようとする高潔さ。自分一人で最大限ミッションをクリアさせようと単独行動をとり、実際に貢献した強さ。彼女は今まで誰を守ろうとし、失ってきたのか。

 ――でも、優しすぎるのは、この場所で本当に利点なのか?

 丸が感じた彼女の危うさ。いつかその優しさのせいで、自分の身を滅ぼすのではないか。

 

「これで全員終わったか。この後はまだ何かあるの?」

「もうこれで一旦終わりだ。外にも出れる」

「てか、ここどこ?」

「この場所は東森学園の旧校舎だ。現在は使われていない」

「意外に身近な場所だな……まあ、窓の外の景色で大体わかってたけど」

 

 東森学園の旧校舎は建築年数が大分経っていたという理由で、現在の丸が通っている新校舎に移行した。

 その使われていない旧校舎に何故ガンツがあるのか。疑問が絶えないが、一先ずは知っている華凛に聞くのが早いだろう。

 

「で、知ってることを話してもらおうか。生徒会長」

「華凛でいい。月川」

「じゃあ、華凛。教えてくれ、ガンツのことを」

「分かった。君達には話さなければいけないだろう」

 

 そうして東森華凛はゆっくりと語り始めた。ガンツとは何か。

 

「私達は現実で死ぬことで、ガンツに呼ばれる。ガンツというのはあの黒い球の事だ。どうしてガンツと呼ばれるのかは私も分からない。私がここに来た時には既に呼ばれていた」

「ふーん。なあ、俺たちが死んだってのは分かるけどさ、今の俺たちはどうなるんだ? 普通に生きてるし」

「その答えは明確に分かってない。だが、私がかつて聞いた限りでは、元のオリジナルのコピー――クローンが今の私達、だと言っていた。元のオリジナル体は死んでいる事になる」

 

 オリジナル体のコピー。クローン。

 オリジナルは既に死んでいる。

 そんなSF的なことを急に言われても、信じ難いというのが丸の率直な感想だった。

 

「まあそこを深く考えると泥沼だし、やめておくぜ。ガンツは何で俺たちを呼ぶ?」

「宇宙からやってくる星人を倒す為、だと私は考えている。ガンツの設計者は未だ不明だが、おそらくその外敵から人類を守る為、なのだと。ガンツからすれば死んだ人間を都合よく利用しているのだろう」

「なるほどな……」

 

  今回丸達が倒した着ぐるみ星人も宇宙からやってきた星人の一つということだ。

 その地球を侵略する宇宙人から人類を守る兵士が、丸達オリジナルのクローン。これだけ見ると、正義の味方に見えるが、現実は理不尽に許可なく戦いを強いられ命の取り合いをさせられる奴隷だった。

 華凛はガンツの前に立つと、何かしらのスイッチを押し、ガンツが展開する。

 

「見てみろ、これがガンツの知性を担っている」

「こいつは……エロいな」

 

 ガンツの展開された内部には、裸姿の銀髪の女性が丸まった体勢で居た。

 丸はエロい、としか感想が出てこなかったが、なぜこんなところに女性がいるのだろうと次第に思考が回ってくる。

 

「月川に見せるのは失敗だったか……」

「いやいや、冗談冗談。なんでガンツの中に女性が?」

「不明だ。何故ここに彼女がいるのか、誰も分かっていない。しかし、私が思うに、彼女がこのガンツの脳に当たる部分なのではないかと」

「ガンツの脳……さっきの採点の時に書いてあった文字や言葉は彼女がしているってことか」

「おそらく、な。私は彼女を含めてガンツと呼んでいる」

「ガンツ……ちゃんと呼ぼう」

「いや、丸っち……ガンツ様じゃねぇ? おいらガンツ様に惚れたっつーか、信者になりそうだお」

「君たち……変わっているな」

「変態とも呼ぶ」

「紳士だお」

 

 呆れた顔で丸とろっくを見る華凛。

 ごほん、とわざとらしい咳をした後に、華凛はその女性の白磁を思わせる肌の耳の中に指を突っ込んだ。

 いきなり何してるの!? と丸がツッコミを入れる。

 

「見ておけ。今から出るのは、過去にミッションで死んだ者たちだ」

「過去に……死んだ」

「見たくなければ見なくていい。あまり見ていて気持ちの良いものではないからな」

「見るよ」

「分かった。ガンツの前画面を見ろ」

 

 黒い球の前画面に表示されたのは、何十人以上に及ぶ顔写真の列だった。

 その列は10を超えていて、数えることは難しい。

 これが、過去に死んだ者の数。

 何十人、何百人……と並ぶ死亡者の顔写真がリアルに鮮明に映し出されている。

 千春先生や佐里が口に手を当て、悲鳴を漏らす。

 

「一番下の列を見ろ。今回死亡した彼ら二名が載っている」

「井内亮太……三ツ木正大……あいつら、そんな名前してたのか」

「ミッションで死んだ彼らは、100点の報酬で引き換えることができる死亡者の復活――で一人蘇らせることが可能だ」

「華凛。お前は、報酬をそれに使おうとしてるんだな」

「……あぁ、私は彼らを全員復活させることを目指している」

「――ッ、全員」

 

 ガンツのミッションをクリアすることで貰える点数。その100点で交換できる報酬の1つ、死亡者を一人復活できる。

 それを全員だと? 狂っている、馬鹿げている。

 100点を稼ぐだけでも、大変。命懸けなのだ。その途中で命果てる可能性がある。なのにもかかわらず、全員を復活させるのが華凛の目標。――不可能だと断定するのは容易い。一言彼女に言えばいいだけだからだ。だが……彼女の想いを、ここまで戦ってきた彼女の想いをその一言で一蹴してもいいものなのか? 彼女の想いや強さは本物だ。彼女は本気で過去に死んだ者たちを全員復活させようと考えている。

 狂気か、はたまた妄執か。

 生き返らせる数よりも、死んでいく奴らのほうが圧倒的に多い。そんな世界で、彼女は実現に向かって歩み続けている。

 丸はそんな彼女を、否定することができなかった。

 

「さっき死んだ奴らも、か?」

「当然だ……生き返らせるのに優先順位は私の中であるが……それでも、最終的に全員を復活させるのには変わらない。そう、変わらないんだ」

「なぁ、華凛。俺も死んだら生き返らせてくれるか?」

「――と、当然だ……月川もそこに含まれている。勿論、そこにいる全員も、これからやってくる見知らぬ誰かも、だ」

「ハハ、華凛、お前バカだよ! ハハハハハ!」

「月川君! それは酷い言い方よ……」

 

 千春先生が酷いことを言った丸を注意する。

 それでも、丸は笑うのを辞めない。

 だって、こんなに愚直な生き方があるのか。不可能だと分かっているくせに、それに目をつぶって可能だと言い張っている。

 誰もかれも、自分を傷つける敵かもしれない奴も全員、生き返らせる。

 それは愚直で、無謀で、夢想家だ。

 いくら強くても実現することが難しい、否不可能な道のり。

 それを成し遂げる、と言い切っている。

 これを笑わずにいられるものか。

 

 東森華凛は愚者だ。

 すべてを巻き込んで過去と未来の死亡者を復活させる。

 自身はガンツから解放される気などないのだろう。自分を考えない、自己犠牲の塊。それはエゴだ。彼女の歪んだエゴ。

 だが、彼女は英雄だ。

 彼女がいれば自分がもし死んでも復活してもらえる、そう信じることができる。期待できる。

 それは丸も含まれていて、だからこそ丸は笑った。

 ――お前、まじかよ。と。

 

「ハハハハっ! ハハ、はぁ……笑った笑った。こんなに笑ったの久しぶり」

「笑うのも無理はない……私の語っていることが無謀甚だしいことは理解している」

「それでも、辞める気なんてないだろ? 東森華凛は、大馬鹿野郎だ。だけど……美しいといえる」

「――――」

「面白いやり方だ。俺が一生取らない選択肢だよそれは。だからこそ、俺にも協力させてくれ。華凛。俺が強い武器をとって、戦う。そんで、華凛はすべてを生き返らせる。こんなのはどうだ?」

「月川……君は――」

 

 月川丸は言う。

 東森華凛が全てを生き返らせ、月川丸が全ての敵を倒す、と。

 丸は自分が強いなんて思っていない。

 今回のミッションでスーツなしで敵を一体撃破したが、それはたまたまだと丸自身思っている。

 それでも、月川丸が本気になる、と迂遠に言っているのだ。

 これまで人生で一度も本気になった試しがない彼が。

 月川丸が本気になったところで、東森華凛の無謀な道のりが変わるわけじゃない。

 ただの一人間が加わったところで、その険しい道のりに変化はない。

 しかし、そんなことを言われたのは、初めてで、東森華凛の目には一筋の涙が零れていた。

 その背に乗っている重荷が減ったわけではない。少しだけ軽くなったように感じたのだ。

 

「何で泣いてるんだ?」

「わ、私は……泣いてなどいない。い、いくぞ飯田」

「はい、華凛お嬢様。それでは、私たちはこれで。皆さんもご自由におかえりください。ただ一点、スーツはいつも装着するように」

 

 急に後ろを振り返り、逃げるように去っていく華凛。と追従する飯田。

 飯田の最後の台詞に、丸はスーツを日常にも持っていけるのか、と考えていなかった可能性を言われて気づく。

 そして、教室を去り際、東森華凛は背を向けたまま、誰かに向けて言葉を残した。

 

「ありがとう」と。

 

「素直じゃねえ奴」と丸は笑う。

「華凛様、ツンデレ属性持ち!? これは大発見だお」

「ろっく、帰りにラーメンでも食っていこうぜ。腹減った」

「丸っち、賛成~。おいらも腹減ったなぁ」

「じゃ、お前ら次はいつになるかしらないけど、またな」

 

 丸は忘れていたスーツケースを拾って、残りのメンバーに挨拶をした後、学校を去る。

 東森学園旧校舎。

 そこが丸の生きていく世界に変わったのだった。

 ――こんな非日常を、求めていたのだ。

 

「ガンツ、俺を呼んでくれてありがとう」

 

 ガンツに感謝する人間がいる、とはガンツも想定外の言葉をつぶやいて丸は歩きだした。

 

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