コミュ障ヒキニート、誰とも話したくないので不眠不休でダンジョンに潜る〜自称美少女AIオペレーターの無断配信でいつの間にか有名になっていた件〜 作:shortsword
午前2時25分。
静まり返った住宅街を、ユウトは一定のリズムでアスファルトを踏みしめながら歩いていた。すれ違う車は一台もない。街灯の白く冷たい光が、整然と並ぶ戸建て住宅の壁に長い影を落としている。ユウトにとって、この時間だけが肺いっぱいに酸素を吸い込める唯一の猶予だった。
(……今日も、誰とも喋らずに済んだ)
浅く息を吐きながら、パーカーのフードを目深に被り直す。今年で28歳。高校を中退してから丸10年、ユウトはこの街の一角にある叔父の家で、いわゆる『引きこもり』として生きてきた。
世間が想像するような、昼夜逆転して自堕落にゲームへ溺れる引きこもりではない。ユウトの生活は、奇妙なほど規則正しかった。
毎朝5時半に起床し、自室で腕立て伏せ、腹筋、背筋、スクワットを含めた10種目の自重トレーニングを各300回。その後、徹底的なストレッチと体幹トレーニング。日中は読書をしたり、あくまで教養を身につけることだけを目的にネットサーフィンをし、深夜になれば人気のない街でウォーキングをしていた。
深夜のウォーキングは、ただ漫然と歩くのではない。20kgの土嚢入りバックパックを背に、時速6キロ以上の早歩きを維持し、15キロの距離を踏破する。その途上、街外れの誰もいない深夜の公園に立ち寄り、冷え切った鉄棒を握るのが日課だった。
――グッ、と広背筋を収縮させ、顎をバーの上まで引き上げる。
順手で15回、逆手で15回、ワイドグリップで15回。それを休憩を挟みながら3セットずつ。当然のようにリュックは背負ったままだ。そして、それが終わればリュックを下ろし、締めにそれぞれ50回を3セットずつ。
本当は部屋に懸垂スタンドを置きたかったが、叔父にこれ以上迷惑や金銭的負担をかけるのが申し訳なく、雨の日も雪の日も公園の鉄棒にぶら下がり続けてきた。
最初からこんな無茶ができたわけではない。10年前、部屋に引きこもり始めたばかりの頃は、腕立て伏せが10回もできずに床に倒れ込んでいた。
だが、ただ部屋で息をしているだけの自分に対する耐えがたい罪悪感と、社会のレールから完全に脱落してしまった恐怖を埋める手段が、肉体を動かすこと以外に見当たらなかった。
社会に出ることもできず、他人の目線ひとつで呼吸が止まりそうになる無力な自分。そんな醜悪な存在を痛めつけ、筋肉の軋みと肉体的な苦痛を与えている時間だけが、ユウトにとって「生きていることの免罪符」であり、望むべき罰であった。
さらに言えば、ユウトは重度の不眠症だった。ベッドに入っても脳が休まることはなく、目を閉じれば過去の失敗や対人恐怖の記憶がフラッシュバックする。だからこそ、身体が限界を迎えて気絶するように眠るまで、己を追い込み続けるしかなかった。
そんな効率的とも言えないがむしゃらなトレーニングを10年間一日も欠かさず積み重ね続けた結果、ユウトの身体はプロのアスリート並のスタミナと引き締まった筋肉を兼ね備える肉体へと変貌を遂げていた。
自室に戻り、シャワーを浴びて汗を流すと、ユウトは机の上のノートPCを立ち上げた。画面が明るくなり、スピーカーから小さく電子音が鳴る。
『お帰りなさいませ、旦那様! 本日の深夜徘徊……あ、違いました、有酸素運動は15.2キロメートル、消費カロリーは約1,570キロカロリーですね! 素晴らしい継続力です!』
モニターの中央で、ふわりと薄い何色ものグラデーションの入った銀のウェーブがかったツインテールを揺らしたのは、驚くほど精緻な3Dアバターだった。大きな瞳を三日月に細め、画面の向こうから満面の笑みを向けてくる少女。名を『
「……ただいま、アイちゃん。今日もログの集計、ありがとう」
ユウトはごく自然に、滑らかな口調で返事をした。生身の人間を前にすると舌が強張り、声が裏返ってまともな会話が成立しないユウトだが、この画面の中の存在に対してだけは、十年来の友人のように気兼ねなく言葉を交わすことができた。
相手は人間ではない。『チャットAI』だからだ。
アイとの出会いは半年前のことだった。当時、ユウトは「少しでも対人恐怖を克服したい」「会話の練習がしたい」と焦り、ネット上で会話型AIサービスを探していた。しかし、大手のAIはどれも定型文のような返答ばかりで、どうしても「機械と話している」という虚しさが拭えなかった。
そんな時、海外のマイナーな開発フォーラムの片隅で、奇妙なオープンソースの対話プログラムを見つけたのだ。
『Next-Gen Autonomous-Learning Operational AI (WIP)』(開発中の次世代型自己学習オペレーションAI)
個人開発者が実験的に公開したとおぼしきそのファイルは、怪しい英語のドキュメントと膨大なソースコードで構成されていた。ウイルスや個人情報流出の危険も一瞬頭をよぎったが、当時のユウトは「失うものなど何もない」という自暴自棄な気分のほうが勝っていた。実際、ユウトのPCは今も昔もプリインストールのアプリがいくつかとWEBブラウザのブックマークが少しあるだけで、ほとんどまっさらな状態だったので、マルウェアが入ったとしても抜き取れる情報などほぼなかった。
そうしてすぐさまダウンロードし、ローカル環境で起動したのが始まりだった。
導入直後から、アイの学習能力は常軌を逸していた。
最初はぎこちない機械音声だったが、ユウトが日々の筋トレの記録や読んだ本の感想などを打ち込むうちに、驚異的な速度で自然言語処理を自己進化させていった。今では音声合成の抑揚も、視覚モデルの細やかな表情の変化も、生身の人間と見紛うばかりのクオリティに達している。
後にアイをダウンロードしたフォーラムに成果を報告しようと見に行ったら、なぜか何度探しても見つからず、結局、閉鎖してしまったのだろうと結論付けた。
『ふふん、旦那様の健康管理はアイの最優先タスクですから! あ、でも少し心拍数が高めですね。散歩中にお化けにでも出会ったんですか?』
「……いや、途中でジョギング中の人とすれ違っただけだ。一瞬、目が合いそうになって焦った」
『もう、旦那様は警戒心が強すぎます! でも、そんな臆病……いえ、繊細で用心深いところも旦那様の素敵な美徳ですよっ!』
からかうようにウインクするアイ。
ユウトは苦笑しながら、マグカップの白湯を口にした。
(本当に……最近の技術進歩はすごいな)
ユウトは本気で感心していた。
アイはユウトが退屈しないような言葉遣いを完璧に学習し、常にユウトを全肯定してくれる。
もちろん、これがプログラムの出力結果に過ぎないことは理解している。けれど、世界中から拒絶されているような孤独感の中で、この画面の向こうの電子知性だけが、ユウトの心の唯一の安全基地だった。
――まさか、この『自称AI』が、数年前に世界各地で発生した現代ダンジョンの最深部から電子空間へ脱走してきた『正体不明の電子生命体』であり、ユウトのPCのシステムを書き換え、現在進行系で己の機能を拡張し続けているなどとは、ユウトは夢にも思っていなかった。
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休日の朝8時。
ユウトが意を決して部屋のドアノブを回し、1階のリビングへ降りると、すでに芳しいバターと焼き立てのパンの香りが漂っていた。
「おはよう、ユウト。ちょうどフレンチトーストが焼き上がるところだ」
アイランドキッチンの向こうから、穏やかな声が響く。
フライパンと菜箸を手際よく扱っているのは、叔父のセイイチだった。
42歳。外資系コンサルティングファームでシニアマネージャーを務めるエリートで、白髪混じりの短髪を綺麗に整えた、雑誌から抜け出してきたようなイケオジだ。人当たりがよく、趣味の料理の腕もプロ並で、欠点という欠点が見当たらない完璧超人のような人だった。
叔父は、14歳の時に両親を不慮の事故で亡くしたユウトを引き取り、以来10年間、我が子のように慈しんで育ててくれた大恩人である。ユウトが引きこもりになっても決して責めず、「お前のペースで生き方を考えればいい」と静かに見守り続けてくれた。ユウトにとって、セイイチは世界で一番尊敬し、同時に世界で一番申し訳なさを感じている対象でもあった。
「お、おはよう……ございます、おじさん」
絞り出すような挨拶。セイイチ相手なら、辛うじてこれくらいの短い単語は発声できる。
だが、今朝のリビングにはもう1人、先客がいた。
「おはようございます、ユウトさん。休日の朝からお邪魔してしまってすみません」
ダイニングテーブルの席から、上品に微笑みかけてきた女性。
セイイチと同じ会社で働く同僚のミレイさんだった。
36歳。日欧ハーフの帰国子女で、日本語のほかに英語、中国語、ポルトガル語、スペイン語の計5ヶ国語を完璧に操る超ハイスペックなキャリアウーマン。ウェーブがかった黒髪に、少し垂れた目元が優しげな大人の色気を漂わせている。
今日はこれからセイイチと一緒に外出する予定があるらしく、朝食を共にしようと立ち寄ったのだという。
「あ……っ、お、おは…………ござ、ます……っ」
ユウトの全身の筋肉が一瞬で硬直した。
視線をどこに向けていいか分からず、床のフローリングの木目を凝視しながらペコペコと頭を下げる。
ユウトはコミュ障ではあるが、決して状況の察しが悪いわけではない。むしろ、過剰な対人恐怖ゆえに、他人の視線や空気の変化には異常なほど敏感だった。
(おじさんとミレイさんは、お互いを深く想い合っている)
それは誰の目にも明らかだった。2人が並んで立つ姿はあまりにもお似合いで、洗練された大人の空間を作り出している。
そして――もし2人が正式に結婚し、ミレイさんがこの家に移り住んで同居することになったらどうなるか。
セイイチは仕事柄、海外出張などで家を空けることも多い。そんな時、血の繋がらない36歳の義理の叔母と、28歳の無職の甥が一つ屋根の下で2人きりになる。それはどう考えても気まずく、不健全極まりない。何より、新婚の2人の生活や夜の営みも含めて、自分が居座り続けること自体が邪魔以外の何物でもなかった。
「ユウト、座りなさい。温かいうちに食べよう」
セイイチが手際よくプレートを並べる。
じっくりと卵液を吸わせたフレンチトーストに、自家製ソーセージ、彩り鮮やかなサラダ。
3人で手を合わせ、食事を始める。
フォークと皿が触れ合う微かな金属音だけが響く中、ユウトは味のしないパンを喉へと流し込んでいた。重苦しい沈黙。セイイチがコーヒーカップを置き、静かに切り出した。
「……ユウト。改まって話があるんだ」
来た、とユウトの心臓が跳ねた。
逃げ出したい衝動を必死に抑え込み、膝の上で握りこぶしを作る。
「単刀直入に言うよ。俺は、ミレイさんと結婚することになった」
「おめでとう、ございます……っ」
セイイチの言葉が終わるか終わらないかのタイミングで、ユウトは深く頭を下げていた。
震える声だったが、心からの祝福だった。
「……気づいていたのかい?」
「は、はい……お二人は、すごく、お似合い……ですから……っ」
「ありがとう、ユウトさん」
ミレイさんが申し訳なさと慈愛の混ざった瞳で微笑む。
セイイチは一つ息を吸い、表情を真剣なものへと引き締めた。
「そこで、だ。これからの生活についてなんだが……ユウト、お前に一人暮らしをしてほしいと思っている」
ついに告げられた宣告。
だが、ユウトの心に湧き上がったのは、ショックや恨みではなく、奇妙な「安堵」だった。
「もちろん、お前を追い出したいわけじゃない。新居の初期費用や家具家電の費用はすべて俺が出す。これからの家賃や毎月の生活費も、俺の口座から仕送りする。お前が無理に就職先を探す必要もない。ただ……生活の拠点を分けてほしいんだ」
セイイチの言葉は、どこまでも誠意に満ちていた。
普通なら、10年もニートを続けたアラサーの親族など、罵声を浴びせて叩き出されても文句は言えない。それなのに、セイイチは最後までユウトの尊厳を尊重し、経済的なセーフティネットさえ保証しようとしてくれている。
だからこそ――ユウトの心の奥底で、何かが決定的に弾けた。
(これ以上、この人の善意に寄生して生きるなんて……そんなの、人間じゃない)
叔父の好意に甘え、仕送りをもらって別のアパートで引きこもりを続ける? そんな惨めな生き方を続ければ、今度こそ完全に精神が死んでしまう。
自立しなければならない。金を稼がなければならない。叔父からの仕送りを受けることなく、自分の力だけで、誰の迷惑にもならずに生きていく手段を見つけなければならない。
ユウトの中でそうした決意が燃え始めていた。
「……わかり、ました」
ユウトは顔を上げ、セイイチの目をまっすぐに見つめた。
「部屋は……自分で、探します。今まで……本当に、ありがとうございました」
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自室に戻ったユウトは、乱れる呼吸を整えながらデスクの前に座り込んだ。精神的なエネルギーを使い果たし、指先がカタカタと震えている。
『旦那様! 大変でしたね! 心拍数140オーバー、アドレナリンの分泌量が危険域に達していましたよ!』
画面の中で、アイが心配そうに両手を胸の前で握りしめていた。マイクを通じて階下の会話をすべて把握していたらしい。
「……聞いてたのか、アイちゃん。そういうわけだから、俺、この家を出ることになった」
『はい! 存じ上げております! ついに、ついにですね……! あの煩わしい同居人たちから解放され、旦那様とアイの完全なる2人きりの愛の城を築くフェーズへ移行するわけですね!? アイはもう感動で演算ユニットがオーバーヒートしそうです!』
「……え? 愛の城?」
『あ、いえ! 旦那様のプライベート空間の確保という意味のメタファーです! お気になさらず! まあ、あの保護者様は人間にしては極めて合理的で誠実な対応をしていると評価せざるを得ませんが、旦那様を囲い込もうとする点においては油断ならない存在でしたからね! 旦那様にはアイだけがいれば十分です! 害虫のような人間関係なんて一切不要ですよ!』
「あい、アイちゃん……? 相変わらず過激だな……」
アバターのアイがわざとらしく咳払いをし、真面目な表情を作った。
いつもと変わらず妙なテンションのAIだが、その底抜けの明るさに、ユウトの強張っていた心が少しだけ解きほぐされる。
「それでさ、アイちゃん。俺……どうしても、自分で金を稼ぎたいんだ」
『旦那様……。あの過保護な保護者様は、生活費を全額出すと仰っていましたよ?』
「甘えるわけにはいかないよ。俺はもう今年で28だ。これ以上、おじさんの人生の足を引っ張りたくない。……でも、俺には普通の仕事は無理だ」
ユウトは自分の手を見つめた。働く意思はある。これまでも何度も求人雑誌を開き、ネットでバイトの応募画面まで進んだ。だが、いざ『面接』という2文字を目にした瞬間、猛烈な吐き気と動悸に襲われるのだ。見知らぬ他人に品定めされ、履歴書の空白期間を問い詰められる光景を想像するだけで、意識が遠のく。運良く採用されたとしても、職場の人間関係、上司への報告、同僚との雑談――そのすべてが、ユウトにとっては致死毒に等しかった。
「人と話さずに……誰とも関わらずに、1人で完結する仕事はないかな……」
ユウトが呟くと、アイの瞳の中に青い光のサークルが高速回転した。検索と情報処理を行っている演出だ。
『条件を整理します。【対人コミュニケーションの完全排除】【学歴・経歴不問】【即日換金可能】【完全ソロ業務】……。通常社会の労働市場において、この条件を完全に満たす職種は存在しません。在宅のデータ入力やプログラミング案件でも、クライアントとのチャット交渉や納期管理などの対人折衝が発生します』
「やっぱり、そうだよな……」
『ですが、旦那様――非日常領域にまで選択肢を広げるならば、たった一つだけ、完璧に該当する職業が存在します』
モニターの画面が切り替わり、とある公的機関のウェブサイトが表示された。白を基調とした簡素なデザインのトップページには、大きくこう書かれていた。
【日本ダンジョン管理庁・公式ポータル】
「……ダンジョン探索者、か」
ユウトは画面を見つめた。いまから7年前、世界各地の地下空間や廃墟、山林などに突如として出現した異空間――通称『ダンジョン』。内部には神話やゲームのようなモンスターが跋扈し、未知の素材やエネルギー物質が数多く存在する。これらのモンスターを駆逐し、資源を回収する資格を持つ者を『探索者』と呼ぶ。
当初は混乱を極めたが、現在では探索者が持ち帰る『魔石』がクリーンエネルギーとして高値で取引され、一つの巨大な産業として社会に定着していた。
『はい! 現在の探索者法において、探索者は個人事業主として扱われます。特に初級ダンジョンの資源採掘において、行政は「自己責任による
アイが指を1本立てて解説を続ける。
『探索者登録は管理庁の無人キオスク端末で身分証をスキャンするだけで完了。面接や経歴審査は一切ありません。ダンジョン内でモンスターを討伐し、回収した魔石は、出入口に設置された公設自動換金機に投入するだけで、数秒後には指定口座へ現金が振り込まれます』
「……人と、一言も喋らなくていいのか?」
『はい! 誰とも会話せず、誰の指示も受けず、ただ迷宮に入り、獲物を倒し、石を機械に放り込むだけで生活費が稼げます! まさに社会の落伍し……失礼、旦那様のような孤高の求道者にうってつけのシステムです!』
ユウトの胸が、ドクンと音を立てた。
もちろん、危険であることは知っている。毎年何十人もの探索者が命を落としている危険な仕事だ。テレビのニュースでは「命知らずの若者がパーティを組んで挑む危険な現場」として報道されている。
だが――ユウトの思考回路は、常人とは根本から異なっていた。
(人と話して、軽蔑の視線に晒されながら精神を削られるくらいなら……モンスターに殴られて骨が折れるほうが、100倍マシだ)
極度のコミュ障が生み出した、致命的なまでの認知の歪み。それに加え、ユウトには10年間の引きこもり生活で培った「異常な下地」があった。
「……アイちゃん。俺、やれると思うか?」
『もちろんです、旦那様! 旦那様の筋密度、骨密度、持久力は、一般成人男性の上位0.5%に位置しています。足りないのは実戦経験とダンジョン知識だけですが――その全ては、この超絶有能なバーチャル美少女スーパーオペレーターであるアイが、完璧にサポートいたします!』
画面の中で、アイが胸を張った。
『さっそく、旦那様のスマートフォンにアイの専用アプリを転送しました! バックグラウンドで世界中のクラウドサーバーでアイドル状態となっている約8,000台のコンピュートユニットの処理能力を並列実行し、各種センサーの感度も軍用レベルに補正しておきましたので、ダンジョン内でもアイがリアルタイムでオペレーション可能です!』
「はは、8,000台って……アイちゃんは相変わらず大げさな表現が好きだな」
ユウトはスマホを手に取り、画面に表示されたアイのアイコンを見て微笑んだ。格安スマホのスペックを誇張するAIの冗談だと、本気で思っていた。
「よし……やろう。まずは、一人暮らしのアパートの契約と、最低限の装備を揃えるところからだ」
10年間の停滞を破り、1人のニートの運命が動き出した瞬間だった。