陰キャ女の子をいじめから庇った男、魔法少女界のフィクサー扱いされる 作:魔獣という概念が地味な事を嘆く者
『魔法少女』が確立されたこの世界において、かつてほど社会の平穏は脅かされるものではなくなっていた。
世界の裏側、次元の歪み『位相』から這い出ずる異形の怪物……『魔獣』。
それらに対抗できるのは清浄なる魔力の故郷『星霊郷』の精霊たちと契約を交わし超常の力を授かった選ばれし少女たち、すなわち『魔法少女』だけであった。
国家は彼女たちを管理・統括すべく公的組織『魔導院』を設立。
魔獣の脅威を退け、世界の平穏を守るための絶対的な防衛ネットワークを構築した。
『一般魔法少女』のエリートであるA級を筆頭に、中堅のB級、実戦レベルのC級、そして見習いの初級。
華やかな衣装に身を包み愛らしいマスコットと共に戦う少女たちが階級社会を形成する。
それこそがこの世界における完成された正義の数式だった。
「クソッ、なんて硬さだ……! こちらの物理障壁を紙切れみたいに引き裂いてくるぞ!」
「神楽! 東部第三セクターの防衛線が突破されたポ! 魔獣はそのまま、市街地方面の公園へ向かっていくポ!」
深夜の住宅街。降りしきる雨のなか魔導院のA級魔法少女、神楽は毒づいていた。
対峙しているのは全長十メートルを超えるハザード〜カラミティのクラスに位置する強力な魔獣。
神楽はA級という魔法少女全体でも上位数パーセントに位置するエリート、一般の範疇では最高峰の実力者だ。
だが相手のヘドロ状の魔獣は、そんな彼女たちが一個小隊で満身創痍になりながら挑んでもじりじりと後退を余儀なくされるほどの歩く天災だった。
ゆっくりとではある。だが魔獣は咆哮を上げ周囲の空間を捻じ曲げる。
そして。
鬱蒼とした木々に囲まれた『いつもの公園』へとその巨体を踏み入れようとしていた。
「マズい、あそこは一般の居住区に近い……! 結界を展開して足止めを」
神楽が叫び、魔導の杖を掲げたその瞬間だった。
パキリ。
世界がガラスが、いや薄氷が割れるかのように背筋が凍りつくような音がした。
それは魔獣が公園の敷地内に右足を一歩、踏み入れた瞬間の出来事だった。
次の瞬間、何の前触れも、呪文の詠唱も、魔法陣の顕現すらもなく。
先ほどまで神楽たちの総攻撃を物ともしなかった魔獣の巨体が踏み入れた足の先から音もなく灰へと変わっていったのだ。
「え……?」
咆哮を上げることすら許されなかった。
ドサリ、という砂の崩れるような音と共に十メートルを超える魔獣の肉体がまるで最初からそこに存在しなかったかのように、一瞬にして分子レベルで分解され夜の闇へと溶けて消えた。
あとに残されたのは、降りしきる雨に濡れるアスファルトとほんのわずかな、悍ましいほどに冷たい魔力の残滓だけ。
「な、何が起きたの……?」
「魔導院の迎撃結界じゃないかポ?」
「いや、でもそんな反応は……無いポね……」
神楽の契約マスコットである精霊『ポイチ』も小動物のような聞き耳を立てて魔力の反応を確かめるが手応えがない様子だった。
神楽は自身の端末を確認するが画面には【魔力反応:0】の文字が表示されているだけ。機材の故障を疑うほどの無反応。
神楽の勘。全身の毛穴が開くほどの恐怖で警鐘を鳴らしている。
「あそこに……何かいる」
「い、行くのかポ…!?」
神楽は息を呑み、その息を殺しながら魔獣が一瞬で塵となった公園の奥へと泥に塗れながら進んだ。
木々の隙間から街灯の下のベンチを覗き込む。
そこで彼女が目撃したのはこの世の如何なる神話にも登録されていない怪異の具現だった。
ーーー
街灯の淡い光の下。
そこに佇んでいたのは白色のどこか修道女を思わせる、おっとりとした落ち着きのあるロングドレス風の衣装に、活発そうなショートパンツを履いた意外な組合せを身に纏う少女だった。
しかしそのおっとりとした雰囲気とは裏腹に彼女の放つオーラは底なしの深淵だった。
頭部には通常時でさえ彼女の顔を完全に隠せるほどに深い、巨大な白のキャペリンとベレー帽の特徴を合わせたような帽子が被せられている。
さらに彼女の肩の上にはツギハギだらけの布地で編まれ、ボタン状の赤と紫の瞳、赤紫の鋭い三つの爪を両手に持つ『異形の呪物』のようなマスコットが鎮座していた。
(な、何よあの魔法少女……!? 魔導院のデータベースに登録されてなかったから……フリーの魔法少女…のハズだけど……それにあのマスコットは星霊郷の生き物なんかじゃない、世界を呪い殺すために生まれた本物の『怪物』……!!)
「はっ…はっ…はっ…はっはっはっ」
「ちょっと…!? ポイチ…!?」
神楽は戦慄する。普段ならばいつでもどこでも語尾を崩さず戦況を整理してくれるポイチが怪物を近くにしてなりふり構わず冷や汗を垂らしながら過呼吸になっていることを。
神楽は異例のスピードでA級魔法少女にのし上がった魔導院内でも生粋のエリート。それを支えるのは彼女の鋭敏な勘であったが今回は悪い方向に作用したと言って良い。神楽は歯の根がガタガタと鳴るのを必死に抑えた。
魔法少女『墨染隠花』。
そしてその怪物じみた力で魔獣を灰にした自作マスコット『ベルゼ』。
彼女達がそこに佇んでいる、ただそれだけで周囲の雨脚さえも恐怖で歪んでいるように見えた。
先ほどの魔獣はこの魔法少女の『テリトリー』に無断で侵入したからこそマスコットのベルゼの力により一瞬で消滅させられたのだ。
だが神楽の背筋を本当の意味で凍り付かせたのはその魔法少女の対面にまで駆け寄って来た存在だった。
「お待たせー。遅くなって悪いな」
草むらからフラリと現れたのは、ごく普通のどこにでもいるようなパーカー姿の少年……『東雲零士』だった。
魔力反応は完全にゼロ。
近代魔法科学の粋を集めた測定器が示す通りどこからどう見てもただの一般人の少年。
少年が近づいた瞬間に白色の魔法少女はびくついたように肉付きのいい身体を硬直させ、帽子のツバをこれでもかと深く引っ張って顔を隠した。
彼女は極度の上がり症故に気になる少年の前では喉が引き裂かれたように「あ、ぅ」としかどもれなくなる。だからこそ普段の対話は肩の上のマスコットが代弁する。
「あ、ぅ……あ、ひ、ぅ……」
身を縮こませて指先をもじもじと動かす隠花に代わり、ベルゼが地を這うようなステレオ重低音で零士を威嚇するように吠えた。
「フン、遅いぞ零士! 我が主をこのような夜中に呼び出し雨の中で待たせるとは何事か! 貴様、少しは主への敬意というものを」
その瞬間。
深く被った帽子の隙間から、隠花の三白眼がベルゼを一瞥した。
「ぎ、ひぃっ……!?」
それまで尊大に吠えていたツギハギの怪物が、一瞬にして主の一瞥に震え上がり、魂まで凍りついたようにガタガタとガワを震わせて口を噤んだ。
「だ…だめ……ベルゼ……それは…だめ」
「ひゃ、ひゃいっ!!」
ベルゼは自身の首を絞めるような主の無言のプレッシャーを必死に中和し、不気味なぬいぐるみのような見た目ながらも大粒の冷汗を流しながら直立不動になった。
しかし東雲零士という男は徹底的にマイペースだった。そんな主従の絶対的な空気の変転にそもそも1ミリも気づいていない。
「お前ら相変わらず仲良いよな。ほらココア。いくら服が厚手の生地でもショートパンツじゃ夜は冷えるぞ。」
「あ、ぅう……! あ、りが、と……ご、ざ……ぃ……」
少年が差し出した缶ココアを隠花はまるで最大の恩賞を受け取るかのように震える手でおずおずと受け取る。
言葉にならない感謝を胸に秘めて。
さらに少年は何の躊躇もなく、通常は触れただけでプレッシャーにより魂が腐り果てるツギハギの怪物ベルゼを隠花の腕からそっと取り出して抱き寄せる。
「お前も相変わらずいいスピーカー積んでるなー。隠花の代弁者さながらだな。」
「う、うむ……! ボ、ボイスチェンジャーの音質が良いのは我が主の天才的な調整の賜物だからな……!」
(お、おのれ零士……! 貴様に少し文句を言っただけで、我が主が感情を膨れさせたではないか……! 恐ろしい、主の零士に対する感情はあまりにも重すぎる……!)
怪物は主の視線に怯え、そして少年の恐れを知らぬ態度に気圧されながら小さくなって応答している。
その光景は隠れて息を潜めていた神楽の目にはあまりにも完成された【絶対的な支配関係】にしか見えなかった。
(馬鹿な……あんな化け物じみた呪物を一瞥で完全に従える魔法少女が、あの魔力ゼロの少年の前では借りてきた猫のようになり……少年は何の恐怖もなく怪物の頭を叩いて支配権を誇示している……)
その一部始終を見ていた神楽、彼女の脳と勘が超高速で駆動し考察分析を開始する。
(いや違う……!)
(あの少年、魔力ゼロなんかじゃない……! 観測できないほど深すぎる深淵だと仮定すれば……!! ただの一般人の皮を被って魔導院の目を欺き、裏で最強の特異点をチェスの駒のように動かしている……何かの組織のボスの可能性もある……!!)
ーーー
数時間後、魔導院の関東支部・報告室。
戦闘から生還したA級魔法少女の神楽はポイチを精霊回復装置に預けてから憔悴しきった顔で担当の窓口職員である中堅職員の男性の前に立っていた。
「神楽さん、お疲れ様です。東部第三セクターの魔獣処理報告ですが……機材のログが『魔力反応:0』のまま魔獣の消滅が記録されているんですが、これは一体?」
職員は測定器の初期不良か、あるいは神楽が何か特殊な魔導具でも使ったのだろうか、それとも…というおずおずと優柔不断な弱腰姿勢で尋ねる。
一方、神楽は机を両手で勢い良く叩き身を乗り出して叫んだ。
「不備じゃないわ! 機材は正常よ! あの魔獣は一瞬で灰にされたの! 攻撃魔術じゃない……ただそこに…そのテリトリーに侵入しただけで分子レベルで消滅したのよ!」
「は、はい……!? 分子レベル…? まさか神楽さん、いくらA級の貴女でも、そんな大魔術は……」
「私じゃない!!」
神楽の悲鳴のような絶叫に報告室の空気が凍りつく。周囲の職員たちも一斉にこちらを向いた。
神楽はガタガタと震える手で隠し撮りした公園の映像端末を職員の前に突きつけた。
そこには白色のドレスとショートパンツを着た深い帽子の魔法少女。
その肩に乗るツギハギの怪物の姿。
そしてパーカー姿の少年が映っていた。
「原因はコイツら…! 魔獣が一瞬で消滅したのよ…! ポイチだってこれまでにないぐらい取り乱しちゃったし、これでも機材の初期不良か何かだなんて言わせませんから!」
A級という一般最高峰のエリート魔法少女であるプライドが神楽を突き動かしていた。
だが対面するやつれた中堅職員の男性は焦るでもなく、ただひどく観念したように疲れた溜息を吐きながら、眼鏡をくいっと動かして手元の暗号化端末を操作する。
「神楽さん。声を落としてください……機材の故障でも貴女の処理ミスでもありません。寧ろ今回の件を素直に報告してくださりありがとうございました…」
「は…?」
「して…あのエリアは最初から『そうなって当然』の場所なんです。」
「それってどういう意味よ」
職員のどこか諦観の混じった態度に神楽は眉をひそめる。
この中堅職員はまるで最初から今回の『魔力反応が0』であるその真の意味を知っていたかのように感じたから。
中堅職員は周囲の他職員達と目を合わせる。
職員達は渋々と男性の目線に対して深刻そうな面持ちで軽く頷いた。
「本来なら全ての魔法少女に知らせておくべき事なのですが、ここ数年は上層部の態勢の変化もあり広く知られていません……しかし『あれ』をA級である貴女が見つけた今、共有しておかない理由は無いでしょう」
彼はその場の総意を確認するとデスクにホログラムの暗号化ファイルを展開した。
そこに映し出されたのは、白色のドレスを着た深い帽子の魔法少女、その肩に乗るツギハギの怪物。そして、ただのパーカー姿の少年の姿。
神楽が見たものと一致し、彼女は目を見開く。
「……ここから先は現場の管理責任者しか閲覧を許されない要項です。貴女が見たのはこれですね?」
「っ、そうよ! この女……魔力の測定器のカンスト値をぶち抜いてエラーを起こすバケモノだって推察してるわ。私の目に狂いは無いはず!」
神楽は自分が掴んだ衝撃の事実をまくし立てた。だが職員の顔は驚くどころか更に深く沈み込んでいく。
「ええ。彼女の名は『墨染隠花』。魔導院が把握している日本国内最高危険度のフリーランス魔法少女の特異点です」
「やっぱり知ってるのね……? ならなんでこんな化け物を放置してるのよ! 即座にS級を派遣して拘束するか処分すべきでしょ!」
「神楽さん…」
職員は首を横に振った。その目は、本物の恐怖を知る者のそれだった。
「彼女の魔力出力は本気になれば日本列島のインフラを一日で機能停止状態にまで追い込めます。下手に触れれば彼女の防衛本能そのものであるマスコットが自動的に魔導院を更地にするでしょう。」
「え」
「だから我々は、彼女を一般人として『泳がせる』しかない。S級を呼び戻して彼女を制御に動けないかという提案も過去にありましたが彼女自身の戦闘は未だに確認されていません。」
「……つまりもし未知数の戦闘力で無闇にS級を負傷させて魔導院を機能不全に陥らせるワケにはいかないって事ね…」
「迅速な理解助かります…」
「……ですが我々が本当に恐れ、絶対に迂闊に触れてはならないと定めているのは彼女の後ろにいる『その少年』です。」
職員の指が、ホログラムの中の東雲零士を指し示した。
「……え? その少年ってただの一般人でしょ? データベースでも魔力適性ゼロの一般人って……」
「正直、データベースについても更新して欲しいものです…」
「神楽さん、貴女はあの二人の序列をどう見ましたか?」
職員の静かな問いかけに神楽はハッと息を呑んだ。昨夜の光景が脳裏にフラッシュバックする。
「……あの魔法少女が少年の前で怯えるように直立不動になっていた。あの悍ましいマスコットが少年に意見しようとした瞬間に魔女が一瞥しただけで、怪物が魂まで震え上がって制止されたわ……」
「その通りです」
職員は重々しく頷いた。
「あの魔法少女にとって少年の言葉は絶対なんです。」
「少年の前でだけあの少女は借りてきた猫になる。少年への不敬は彼女のマスコットである怪物であっても許さない……」
「そして肝心の少年は怪物を抱きかかえスピーカーの音質を評価するような余裕を持っている……」
神楽はゴクリと息を呑む。相棒の契約マスコットの状態からその『少年の正体』を予見したから。
そして中堅職員は震える手で眼鏡のフレームを抑え、『それ』を口にする。
「その少年、東雲零士こそが歴史の闇に葬られた墨染家の禁忌の血脈を見つけ出し、彼女を自分専用の最強の兵器へと調教・覚醒させたフィクサー。」
「やっぱり…」
只者ではないと感じてはいたものの、神楽は自身の勘が正しかったと悟る。
しかし続く中堅職員の言葉。
「そして我々が導き出した結論は一つ。彼は魔導院の管理システムを完全にハッキングし、自らのデータを『魔力適性ゼロの一般人』として偽装している。近代魔法科学の盲点を突き、一般人の皮を被って裏で全てをコントロールしているんです。
「魔導院の創設にすら関わっている裏の支配者……『総魔導統括』。それが彼のプロファイルです」
「っ!?」
神楽の背筋を強烈な戦慄が駆け抜けた。
自分が想定していたよりも遥か格上の存在の示唆に膝が震えそうになるのをしっかり抑えようとする。
「そんな……じゃあ、昨夜の魔獣が一瞬で灰になったのも……」
「ええ。少年が『俺の静かな日常を邪魔するな』という無言の圧力を下した結果です。」
「神楽さん、貴女が昨夜無事だったのはただの偶然です。もし貴女が少年の一般人ごっこの邪魔になると判断されていたら、今頃貴女もあの魔獣と同じように砂になって風に舞っていましたよ」
職員の口から淡々と語られる真実に、神楽は完全に言葉を失った。
自分がただの一般人だと思って見ていた少年が実は世界の勢力図を裏から牛耳る深淵の王。
そして魔導院という国家組織すらも彼のおままごとのような日常を守るために国力を挙げて全力で保護せざるを得ないという絶対的な力関係。
「……この事は不可侵機密として処理すべき守秘義務があります。なのでここまで言ってしまったら私も処分されるかもしれません……今は周りには理解のある職員の方々がいるのでタイミング良く貴女に伝えられましたが」
中堅職員はホログラムを消去すると「こんなの組織内魔法少女だけでも留意しておくべき事なのに…」と非常に掠れた声で呟き軽く頭を抱える。
何やら『上』で揉めているのかと察した神楽だったが、すぐさま彼は神楽の目を真っ直ぐに見つめて最大級の警告を告げた。
「いいですか、神楽さん。絶対に東雲零士には如何なる理由があろうとも迂闊に触れてはなりません。彼がゲームをして帰りたいだけの平穏な日常を我々は国力を挙げて全力で死守する……もし彼の逆鱗に触れたら、この組織は終わります」
「あ……は、はい……」
神楽は素直にコクコクと何度も頷くことしかできなかった。
自分がとんでもない世界の深淵の前に立っていた恐怖にエリート魔法少女としてのプライドは粉々に砕け散り、ただただ圧倒的な戦慄の中に置き去りにされるだけだった。
ーーー
「れい、じくん……あ、ぅ、え、と……お、おは、よう……ござ、ぃ……ます……」
翌朝の登校路。
大きな白い帽子を深く被りこれもまた魔法少女服に近く白色のおっとりとした私服を着た隠花が零士の前に現れた。
彼女は極度の上がり症のせいでやはり零士の前ではどもってしまい、まともに喋れない。
彼女の通学鞄の中には一回り小さくなってぬいぐるみのフリをしたベルゼが潜んでおり、主の心中をスピーカーを絞った音声合成のような声で代弁する。
「おお! 零士、今我が主は尊き貴様と同じ制服を身に纏い、同じ地平を歩み、同じ学び舎へ通えるという宇宙規模の奇跡に、胸の肉を躍らせて歓喜の涙を流しているところだ! 今日も貴様の隣という、この地球上で最も価値のある特等席を歩く絶対の栄誉を、五体投地する勢いで噛み締めておる! 早くその神聖な右手を握りたく、出席日数などという不条理な概念を二人で踏み越えていくと共に学校へ通えるという奇跡に」
「ふぇぇ!? ぇぇあ…!?」
「はは、大袈裟だなぁ」
クソデカ感情を読み取ったベルゼは遠慮なく事細かに詳細まで言い放つ。当の彼女はそこまで言ってないよとばかりに深く帽子を被って赤面するが、ベルゼの代弁こそ実際隠花の胸中に近い。
「今日も響くような声してんなベルゼ……おはよー隠花、前見えてるか?」
「は、ひ、ぅ…………」
彼女はガタガタと震えながらも大丈夫だとばかりに体を少しだけ零士の側にすり寄せた。
その様子を数キロメートル先から高性能望遠鏡で決死の監視を続けていた神楽。冷や汗を流しながらインカムに報告していた。
「こちら神楽。対象は従属させている魔法少女、怪物と共に移動を開始。彼女の魔力が幸福感でパチパチと周囲の空間を放電させていますが、対象はそれをただの静電気として完全に無視しています……」
「やはり『あれ』の精神耐性は至高の領域にあるな。繰り返す、決して誰も近づくな。彼らの逢瀬を国力を挙げて全力で見守れよ……!!」
守秘義務により対象者の名前は伏せ、本日は特殊任務として彼らを監視するミッションを課せられた神楽。
しかしその真の意味をもう彼女は知っている。だからこそ体が震えて仕方なかった。
世界を裏から操っていると勝手に思われている少年と。
彼への感情を機に理を書き換える程の挙動不審な陰キャ魔法少女。
二人のいつもの日常は、二人が全く知らない波乱の上で成り立っていた。
ーーー
【都市伝説】柏市XX(管理)区の『不可侵領域』について語るスレ Part14
68:名無しの魔導市民
神代のB級魔法少女昇格の話題のとこ悪いけど、近年XX区だけ実は魔獣の被害件数がゼロって件について新しい情報ある奴いる?
69:名無しの魔導市民
おつ。
昨日も隣の区でメジャークラス魔獣が出て大騒ぎだったのにXX区に入った瞬間に魔獣が鳴き声一つ上げず霧になった目撃談、マジで鳥肌立ったわ。
70:名無しの魔導市民
どうせ魔導院が新型の結界でもテストしてんだろ。公務員の実験場だよ。
71:名無しの魔導市民
>>70
いや魔導院の公式マップだとXX区は警戒レベルEの最低値だぞ? 予算なんか降りるわけない。
でも毎日特務の黒塗り高級車がパトロールしてるのはなんでなんだろうなーチラッチラッ
72:名無しの現地民
現地民なんすけど、マジで魔獣に襲われたことないです。
被害件数ゼロだと逆に不自然だから書き換えられてるんだと思う。
というわけで現地民の自分から言わして貰うとね、XX区で男子高校生見かけたら『その人』と思って不用意に近寄よらないように。
73:名無しの魔導市民
>>72
やっぱ都市伝説通りなんやな……高校生に擬態してるってのも初見じゃ分かりにくいし下手したら噂にすらなってなかったかもなぁ
74:名無しの元同期生
それ、神代の元地元じゃん。あいつ中学時代、そのXX区の学校だったんだよな。
75:名無しの魔導市民
ちょいと初耳。
彼女の実家があのエリアなの?
76:名無しの元同期生
そう。ただあいつ中学時代はかなり性格キツめの女王様気質でさ。クラスの陰キャ同級生をいじめて笑ってたもんだよ…
77:名無しの魔導市民
うわ、可愛い顔して陰湿。でもまあよくある女子の小競り合いじゃん。
78:名無しの元同期生
いや、ある日神代がその子をいつものようにいじめてるのを遠巻きに見つけたんだけど隣のクラスの東雲ってやつがお前ら邪魔って跳ね除けてた。
79:名無しの魔導市民
あっ…名前出しちゃったぁ、消されるかもよこのスレ
それはそれとして普通の正論で草。
80:名無しの元同期生
えっマジかすまん。とりま出来るだけ情報提供したいけどあの後は雰囲気ヤバかったから離れたんだよなぁ……それ以上分からん。役立たずでスマン、でも神代はその日以降あんまその2人に干渉しないようになったな。
81:名無しの魔導市民
待て。その東雲って男、今もXX区に住んでるよな……?
82:名無しの魔導市民
繋がったわ。魔導院がXX区を異常なまでに無菌室状態にしてるのは、その東雲って男を怒らせないために国家組織が総出で過剰接待してるからってことか……!?
83:名無しの魔導市民
てか神代、今でもSNSでそのエリアの愚痴や昔いじめてた推定被害者の悪口たまに匂わせてるんすけど…
84:名無しの現地民
神代の話題はもういいわ、アイツ良い意味でも悪い意味でも話題に事欠かないからよくトレンドに上がるけど好きじゃないし……それより東雲の最新の神託による魔導院の動きがヤバい。
85:名無しの魔導市民
なんかあったの現地民さん?
86:名無しの現地民
一昨日、推定東雲氏が登校中に「最近うちの周り、歩きにくいな」ってボソッと言ったらしいのよ。
そしたら昨日から、魔導院が時給2000円の『XX区限定・雑草抜き&小石拾いバイト』を国家予算で緊急募集し始めた。
87:名無しの魔導市民
>>86
時給2000円wwww国家予算で男子高校生のレッドカーペット作ってて草。
88:名無しのエリア住民
そんな草むしりはちいかわ達が泣いて喜びそうなんよなぁ…
現地民だけど、さっき私服の特務部隊が数十人体制で、東雲氏の通学路のひび割れたアスファルトをピンセットで綺麗に掃除してたぞ。
89:名無しの魔導市民
プロの国家公務員が何やってんだよwww
特務二課の高峯局長、最近ハゲ散らかしてるらしいけど絶対この男のせいだろ。
90:名無しの魔導市民
そりゃ推定フィクサーの機嫌一つで国家が滅ぶかもしれないんだから、胃薬が主食になるレベルでハゲるわ。
91:名無しの魔導市民
やっぱ噂は本当か…
92:名無しの魔導市民
まさかねぇ……
93:名無しの魔導市民
今日発表された全国統一模試の難易度、なぜか全部マークシート形式の超ヌルゲー仕様に変更されてるの、絶対偶然じゃないだろこれ。
94:名無しの魔導市民
魔導院が文部科学省の首根っこ掴んで書き換えさせたな。あのお方にストレスを与えないために、国を挙げてカンニングさせてるようなもんで草。
95:名無しの魔導市民
世界のルールを私情で書き換えるのやめろw
東雲、一般人のフリをして平穏に暮らしたいだけのくせにやってることが独裁者すぎるw
96:名無しの魔法少女
しかも、本人の魔力測定値は「0」のエラーみたいです。
魔法っていうシステム自体を超越してる証拠です。
魔導院内で権力争い?やってるみたいでなんか世間どころか魔法少女内でも知られてないけど、全員が知っておくべき事だと思います。
あそこには近づかないで
97:名無しの魔法少女
てか、東雲氏の隣にいつもいる彼女も相当ヤバい。
先週、東雲氏の部屋の模様替えがあったらしいんだけど彼女が手伝いに来た瞬間にXX区周辺3キロの魔獣が完全消滅したらしい。
今、魔導院の上層部がなんか理由分からないけど揉めてるみたいだから組織内でも情報規制されてるけど、職員さん達の胃に穴が空くから近づかないで欲しい。
98:名無しの魔導市民
現役魔法少女さん達お出ましで草。
フィクサーの側近も化け物かよ……お似合いだな。
99:名無しの魔導市民
このスレ、なんか規制厳しくない? さっきから「東*」って実名打とうとするとプロキシ蹴られるんだけど。
100:名無しの魔導市民
祝・100レス目。
あ、俺も名前打てないわ。過去ログもごっそり消え始めてる。
魔導院の魔法少女さん?分かんないけど勇気あるレス感謝。
101:名無しの魔導市民
本格的に国家の電脳検閲が入ってるぞ。
これ以上喋ったら俺たちも「最初から存在しなかったこと」にされる。
102:名無しの魔導市民
おい、96.97の書き込みが消えた。
103:名無しの魔導市民
えっ?
104:名無しの魔導市民
96.97どころか他のレスのIPアドレス、直轄サーバーから破壊されてる。マジで電脳領域ごと消されたぞ。
105:名無しの魔導市民
ひえっ……
106:名無しの魔導市民
警告。このスレを見ているな? 魔導院特務二課ァーーー!!!
俺たちはすべてを知っているぞ! 裏で世界を操る存在をな!
107:名無しの魔導市民
煽るなバカwww巻き添えにするなwwww
108:名無しの魔導市民
shiのの目、恐ろしい男……
本人は今日も涼しい顔して、すごしてるんだろうな…
109:名無しの魔法少女
これが最後の書き込みになると思う。
みんな、もうXX区には近づくな。一般人の皮を被った化け物の平穏を乱してはいけない。
110:名無しの魔導市民
こんなすぐ対応されてんのに神代よく制裁されないな…
あっ、『神代家』は有名家系…あっ、ふーん
111:名無しの魔導市民
了解。お疲れ様でした。世界に平和を。
112:システム管理者
本スレッドは国家安全保障上の特級魔導機密に該当する有害なデマが含まれるため、これより電脳領域ごと無菌化します。
住民の皆様は速やかにログアウトしてください。
113:名無しの魔導市民
ほら来たアアアアアアア!!!高峯局長ーーー!胃を大事にしろよーーー!!!
─── 【このサーバーは存在しません】 ───
魔獣のクラスはマイナー(初級複数〜C級)→メジャー(C級〜B級)→ハザード(C級チーム〜B級複数〜A級)→カラミティ(A級複数〜S級)ぐらいかな? もう一つ上のランクあるけどまたそれは後で