陰キャ女の子をいじめから庇った男、魔法少女界のフィクサー扱いされる 作:魔獣という概念が地味な事を嘆く者
多くの反響ありがとうございます。誤字報告も助かっております。見返す時間より完成させるのを優先させてる故に誤字りまくってるかもしれませんのでドシドシ報告してきてください(演出と意図してる所は誤字報告でも変えないかもしれませんごめんね)
「ねえ聞いた? あの『コクヨウ』が神代麗奈の契約に回されたらしいよ。ホントにあり得んわ。」
東京戦線の第七結界拠点、ハザードクラスとの激闘を終えて帰還した魔法少女部隊。
激しい戦闘により血や泥で汚れた魔法少女服の一部を破り、脱ぎ捨てながらまず武闘派の魔法少女が刺々しく吐き捨てた。
『コクヨウ』。
本来精霊達の契約と魔法少女の覚醒については少女本来の素質から来るものであり精霊ごとの差別化点は性格以外ほぼほぼ存在しない。
しかしコクヨウは星霊郷にも数体しか存在しない特級守護精霊の内の一体。契約した魔法少女の潜在能力をより引き出す事に長けている、9本の尾を持つ狐型の精霊だ。
本来であれば前線で命を削り続けるA級以上の実戦派魔法少女へ元のマスコットと共に二重契約や、基準以上に才能ある魔力の素質を持った少女との契約にこそ貸与されるべき国家最高戦力に指定された一つの精霊であるのだが……
「はあ!? 『コクヨウ』って次期エースの冬月先輩に配備されるって話じゃなかったの!? なんでろくに前で戦ってもないあの温室育ちのお嬢様のペットになってるわけ!?」
「上層部……まあ主に大河原派閥への裏金とコネだろうね。」
「あー…そのお駄賃として特級精霊が不当に与えられたってこと…」
「ウチの母の頃は正義に根ざした組織だったのに…これじゃあ真面目に命を張るのが馬鹿馬鹿しくなるってもんだよ。早く不正の証拠とか掴んで締め出してくんないかな…」
更衣室の影でその会話を黙って聞いていた少女がいた。
それこそ当人の『冬月しぐれ』。
氷結魔法の天才であり、若干高めのプライドに見合うだけの実績を積んできた魔導院エリートA級魔法少女である。
彼女は固く拳を握り締めて組織の不条理と神代麗奈への憤怒に胸を焦がしていた。
(神代麗奈……! 身内の権力にモノを言わせてコクヨウを横取りするなんて……上層部も上層部、あの女を持て囃すために一体どれだけの情報を歪めているのよ)
上層部の中で幅を利かせている大河原派閥。彼らは何故ゆえか東雲零士の情報が漏洩するのを恐れ前線の魔法少女たちに対して徹底的な情報統制を敷いていた。
しかし、しぐれの耳にはいくつかの断片的な噂が届いている。
柏市のある寂れた喫茶店。そこに世界を裏から支配する最高権力者『総魔導統括』……もとい東雲零士が潜伏しているという不気味な噂だ。
彼女のマスコットであるキリネリは、しぐれの決意を感じ取って入っていた鞄から顔を覗かせた。
「しぐれ、絶対にコクヨウは逃しちゃだめなんだリン。僕らの国でも彼と契約出来ることは名誉なんだリン…!」
「わかっているわ…必ずものにしてみせる…!」
(上層部がひた隠しにするその『総魔導統括』の鼻を明かせば彼らと神代の不正をまとめて公に引きずり下ろせるはず。見てなさいコネだけのお嬢様。私は実力で真実を掴み取ってみせるわ……!)
ーーー
ちなみに、その総魔導統括の機嫌を損ねないためだけに魔導院が極秘裏に国家予算を投じてその潜伏先である喫茶店『シュノノメ』に『環境維持特例給付金』という名目の裏予算を毎月強制注入していることなどしぐれは知る由もなかった。
経営難だった喫茶店の気弱なオーナーはある日突然、魔導院から『彼を繋ぎ止めるため時給を二千五百円に設定。シフトは彼の望む通りに…これは国家命令です。』という通達に驚愕し言われるがままに破格の待遇を用意していた。
そして当の本人である東雲零士はその破格の時給をただの『人手不足による経営者の必死の引き留め』および『オーナーの異常なまでの人の良さ』と完全に誤解していた。
「オーナーは本当に人が良すぎるよなぁ……ただの学生バイトに必死で高い時給を払ってくれるなんて」
「いぃ……ひと……」
「主は店主が零士を好待遇していてくれることに嬉しさを覚えているぞ。」
同じく働いている隠花と共にバイト用のエプロンを締めながら、零士は鏡の前で申し訳なさそうにしかし真摯に呟く。
自分をここまで高く評価してくれる店主の優しさに零士は強い恩義を感じていたのだ。
「ただでさえこの店は経営が苦しそうなのにこんな高時給を貰い続けるのは心が痛むけど……俺ができる恩返しなんて限られている。だったらせめて店を黒字にするために徹底的なコストカットと経営健全化を施さなきゃ嘘だよな」
この店を絶対に潰させない。お人好しな店主の財布を少しでも守るため、その時給に見合うだけの徹底的なコストカットと経営健全化を施してこの店を黒字にせねばならぬと誓った。
カランコロン、と寂れた喫茶店のドアベルが鳴った。
入り口から入ってきたのは私服姿の若い女性……冬月しぐれだった。
しぐれは店内の様子を油断なく観察しながら最も死角になりやすい壁際の席へと腰を下ろした。
もちろん零士としぐれには一切の面識はない。零士の目にはただの『初めて見る若い女性客』としか映っていなかった。
(……彼が東雲零士……ただの一般人の青年に見えるけど上層部があれほど怯え情報を遮断している男なんだから絶対に何かある。その東雲零士って名前だって仮のものかもしれないし、まずはその底を測らせてもらうわ。)
しぐれは注文を取りに来た零士に対し、その冷徹な視線を隠して「アイスコーヒーを」とだけ告げた。
零士が「かしこまりました」と至って普通の接客対応で厨房へと引っ込むのを見届けしぐれは不敵に微笑む。
(私の『氷結魔法』を侮らないことね。店内の空気さえ魔力共々完全に私の支配下に置いて彼の体内の魔力を魂の根幹の熱さまで計測してあげる。どんなに隠蔽していようと滾る魂の出力までは偽れないもの…!)
しぐれは静かに息を吸い極小の魔力を空間に放った。
それは室内の熱を奪いその跳ね返りで対象の魔力を含むエネルギー実態を魂レベルまで立体的に描き出す上位隠密魔法。
彼女に掛かれば極大の氷結魔法でハザードクラス魔獣さえ瞬時に動きを奪い、対人戦である悪の組織の際に関しては相手はいつの間にか繊細な氷結を吸い込み内臓からなす術もなく機能不全になる究極の特攻持ち。
神楽でさえ彼女とサシで勝負する際は圧倒的不利だと認めざるを得ない……そんな彼女が放つ隠密魔法なのだから一般人には決して感知できない領域の魔法であり店内の温度が数度ずつ低下していく。
同時に彼女の胸元に仕込まれたスパイ用の隠し特殊魔法加工カメラが氷属性魔力を吸収して起動。
一方、厨房。
零士はアイスコーヒーを準備しながらふと呟く。
「さむっ」
(ホールのエアコンの温度設定間違っているんじゃないか……)
零士の脳内で時給二千五百円の男としてのコストカットセンサーが激しくアラートを鳴らした。
この経営の苦しい店において不要な電気代を垂れ流すなど断じて許容できることではなかった。
零士はスタッフルームへと歩を進め壁に設置された古いエアコンのスイッチに目を遣る。そしてここは時給分の仕事をさせてもらうとばかりにエアコンのスイッチに手を掛け……
「うちの店はそんなエネルギーを垂れ流す余裕はないんだ。今すぐ完全に遮断してやる」
零士はエアコンスイッチを人差し指でポチッと落とした。
その瞬間に店内のエアコン。
ただそれだけの日常的な節電の光景。
しかし壁際の席で魔法を展開していたしぐれにとってはそれはにナイフをいつの間にか喉元に突きつけられるに等しい衝撃だった。
「っ!?」
しぐれは氷結魔法の使い手でありながら背筋に氷水を流し込まれたかのように硬直した。
彼女の耳には氷結魔法と同時に使用していた探知魔法を通して聞こえてしまっていたのだ。
零士が吐き捨てた「そんな無駄なエネルギーを垂れ流す余裕はないんだ。今すぐ完全に遮断してやる」という独り言を。
そしてこのジャストタイミング。
(な、何ですって……!? 私が熱量を操作して隠密魔法を開始したまさにその瞬間に……完全にこちらの魔法を見抜いて独り言に見せかけて「無駄なエネルギーだ」と吐き捨てた……!?)
驚愕はそれだけで終わらなかった。
零士がエアコンのスイッチを落とした正にその一瞬、コーヒー豆の仕分けを楽しそうに手伝っていた隠花がしぐれのいる方向を優しく見つめていた。
(うん、確かにちょっと冷え過ぎだよね…このままじゃ零士くんが体調を崩しちゃう…意図的か分からないけどあの人から漂ってる魔力を封じなきゃ)
バチンッ
純粋な陰キャ魔法少女の『陰陽呪詛』が零士の『ブレーカーオフ』の挙動とシンクロして発動。
しぐれが展開していた隠密術魔法の構成を完全にねじ切った。
(ひっ……!? ま、魔法が……私の氷結魔法が強制解体された……!? 嘘、それだけじゃない……探知魔法まで……いや、私の体内の魔力回路が……完全にロックされて微動だにしない……!?)
「き、キリネリ…! あなたは……ッ!?」
「うぎゅう……」
精霊は例外なく、ベルゼのプレッシャーにあてられる。
しぐれは自身の胸元に手を当て絶望に顔を白く染めた。
魔導院が誇る最高級のスパイカメラは完全に機能停止して相棒マスコットは気絶。何より彼女自身の体内の魔力がまるでセメントを流し込まれたかのように完全に固まり魔法すら練れなくなっていた。
(彼、本当に指一本動かさずに……ただスイッチを一つ押しただけで国家最高峰の私の全能力を剥奪したの……!? これが……これが上層部のひた隠しにする総魔導統括の絶大なる力……!?)
ガタガタとしぐれの膝が恐怖で震え始めた。
面識すらないただ入店しただけの自分の正体から能力、果ては目的をこの男は最初から全て見抜いていたのだ。
一方、席で顔を真っ青にし震えているしぐれを見て戻って来た零士は厨房の影から怪訝そうに視線を向けた。
「おい隠花。あのお客様なんだか異常に震えてないか? 顔色も最悪だぞ」
「です……ね…」
「主は彼女の漏れ出る魔力を抑えた故の弊害かもしれんと推察しているぞ。」
「魔力…? 魔法少女とかの設定ってこと…?」
「それと封じる際に冷たい感覚を覚えたとも主は言っているぞ。」
「そりゃそうだろ。さっきエアコンの温度設定低めだったからな。一瞬とはいえ冷えすぎて風邪でもひきそうになったのが原因だろ。」
「せっかく店に来てくれたんだし予算の範囲内で何か温かいものでもサービスして体調を整えさせないとな。」
客への親切心を働かせた彼は棚の奥から、先日コストカットの為に二束三文で買い叩いてきた海外製ハーブティーパッケージを取り出した。
同じく海外で採水された硬水でお湯を注ぐと禍々しいほどにドス黒い紫がかった液体が完成する。
匂いもどこか漢方薬のようにツンと鼻を突く。
「あーやっぱ海外の硬水使うと濁っちゃうな。茶に合うのはやっぱ富士山の軟水か……まぁこれを飲めば一発で温まるし胃腸の不調も吹き飛ぶだろう」
零士はそのドス黒いカップをトレイに載せてしぐれのテーブルへと歩み寄った。
コツン、とカップが置かれる。
しぐれはその液体を一目見た瞬間に心臓が停止する気分に襲われた。
「お客様、顔色が悪いですよ…?」
「あ、ええと…」
零士は接客業としての定型句を至って真面目なトーンで投げかけた。
しかし体内の魔力を奪われ精神的に追い詰められているしぐれの耳には地獄の底から響く尋問にしか聞こえない。
「………」
しぐれの挙動不審さに零士の眉が俄に吊り上がる。『ある予感』が彼の頭を過ったから。
「……もしかして何か後ろめたい隠し事でもあるんじゃないですか?」
「ッッッ!?!?!?」
零士としては最近多発しているという他店のスパイあるいは動画サイトに上げるための無許可の動画撮影でもしているのではないか…と、店員としての軽い牽制あるいは世間話のつもりだった。
時給分の働きとして不審な客への警戒は怠らない。
だがしぐれの脳内では最悪の形で変換されていく。
(『後ろめたい隠し事』……私が個人的極秘調査員として潜入したことを完全に確実に把握してる……!!)
「うちの店はそういうのを紛れ込ませる人は歓迎出来ません。」
零士はマイペースさもここで発動、店の和を乱す不純な存在には毅然と対応する。
「本当に後ろめたいことが無いのであれば謝ります、この特別な一杯でまずは息を整えてはいかがですか?」
零士はとりあえず親切な笑顔を浮かべてドス黒いハーブティーを勧めてその様子を見る。
だがしぐれは視界が恐怖でぐにゃりと歪み、目眩さえ感じてきている。
(ああ、そうか……! 上層部がこの男の情報を隠蔽していたのは彼を守るためなんかじゃない……逆らったら組織ごと……存在ごと消されるからだ……!)
(あのカップの中身もハーブティーなんかじゃない。私の魔法少女としての魂と魔力回路を根元から完全に腐食させて消滅させる禁忌のダークマター……闇属性魔法だわ……! 見た目からそうだし!! 飲んだら私、存在ごと消される……!!!)
しぐれが過呼吸気味に息を荒くする中、さらに追い打ちをかけるようにスタッフである隠花が背後に音もなくスゥ……と現れた。
隠花の三白眼は珍しく警戒モード。
彼女の目から見てもあまりにも挙動不審にガタガタと震えるしぐれを他店のスパイだと解釈したのだ。
彼女の周囲から黒い呪詛のプレッシャーがしぐれだけにピンポイントで指向性を持って降り注ぐ。
「お客様……それ、残さず……飲んで、ください……」
更に珍しく彼女としてはハッキリと言葉を口にして微笑む。隠花も内心ビクビクしていたがしっかり業務をこなす零士に倣い自身も勇気を振り絞ってしぐれに言いつけた。
そんな迫真の三白眼少女の後ろに無数の怨霊の幻影を見た気がして、しぐれのプライドは完全に消し飛んだ。
「ひッ……!!!」
「お、お会計を……! お会計をお願いします……! 帰ります、帰らせてください……!」
しぐれはガタガタと歯を鳴らしながらレジへ全力で向かい半狂乱でバッグから財布を取り出そうとした。
彼女は一刻も早くこの精神的極刑に晒されるような空間から脱出しなければ本当に魂ごと消去されるという焦燥に駆られていた。
ハーブティーの代金はメニュー表によれば五百円。しぐれが慌てて千円札を引き抜こうとした………その時。
「あっ!!」
指先が激しく震え財布の中から『別のカード』を床にポロリと落としてしまった。
それは魔導院の幹部およびA級以上の魔法少女等の特権エリートにしか支給されない国家機密の『ブラック・カード』だった。
これ一枚で国家シークレットサービスを動かせるほどの絶対的な権威の象徴。
彼はもうしぐれの事をヤバいほど情緒不安定な客と見做して早く会計を済ませて欲しかったのでそのカードを拾い上げた……が、それを見た零士はフッとため息をついた。
「ずいぶんと真っ黒なカードをお持ちですね」
零士はその如何にもなカードを提示したしぐれから「お前これでタダにしろよ」と脅迫する意図として受け取った。
どちらにせよマイペースさを貫く零士にとってそのカードは一顧だに値しない。
零士はその黒いカードをしぐれに突き返して毅然と告げた。
「そんな権威を誇示されても困ります、店主からも提携先としての話を聞いた事がありませんし。ここでは『現金のやり取り』だけが全てです。」
零士はしぐれにカードを突き返すのと同時に放心するばかりの彼女の手元にある千円札の提示を勧める。
少しだけ正気を取り戻したしぐれは千円札をすぐさま置き、零士は五百円玉のお釣りを取り出し彼女の前に置いた。
「お釣りです。お会計はこれで終了なんで……お引き取りお願い申し上げます」
零士としては「うちは電子マネーや怪しいカードは使えないから現金で頼む。さあ早く帰ってくれ」という意味の至って普通の業務連絡のつもりだった。
だがしぐれの脳内ではその言葉が『宣告』として超翻訳される。
(ひ、ひいいいいいっ!!! 私が魔導院のエリートであることも全てお見通しの上で煽られてる……!! 魔導院の権威をペラペラな紙クズ扱いして現金のやり取りだけが全てって……!!)
しぐれの精神はここで完全に臨界点を突破した。
プライドの塊だったエリート魔法少女は転げ落ちるようにして床に五体投地した。
「ご、ごめんなさいぃぃぃ!! 悪気はなかったんです! 私の実力不足です! 二度と、二度と生意気な調査はしません!! 命だけは、命だけは助けてくださあぁぁいぃ!!!」
涙と鼻水で顔をグシャグシャにしながら床に額を擦り付けるしぐれ。
そんな彼女の背後からしぐれを完全に不審者認定した隠花が声を掛けた。
「お客…様……怪しい思想…は……おうちに持って…帰って……ください」
「ひえええええええん!!!」
しぐれはお釣りも財布にすら仕舞えず再び自身の機密カードも落として、脱兎の如き勢いで店のドアを蹴破って号泣しながら夕暮れの街へと飛び出していった。
カランコロン、とドアベルが虚しく鳴り響く。
静まり返った店内で零士は千円札と黒いプラスチックカードが残されたテーブルを見つめて深いため息をついた。
「やべーやつだったな…急に寝そべり土下座してお釣りとカードを忘れて走っていったぞ。エアコンの温度が急に下がったせいで本当に脳の血管でも縮んで情緒がおかしくなったのか? いや元々ヤバそうだったけど輪にかけてるだろ」
零士は呆れたように首を振るうと残された五百円玉とブラック・カードを回収した。
「まあいいか。後でマスターに言っとくとして……エアコンの無駄な電気代もカットできたし差し引きでトントンだ。隠花もすごいじゃないか。今日はしっかり喋れてお客様対応出来てたし。」
「うぁ…!? ふへへ……」
「うむ! 主は今、零士くんを不審者から少しでも守ることができて五臓六腑が歓喜に打ち震えているところだ! 零士くんに褒められ脳内に大量のエンドルフィンが分泌されて気絶しそうなほど愛おしさが爆発している! 傍若無人な不審者を『ただのルール違反の客』として一蹴した零士くんの毅然としたお裁きは大正解の神対応だなぁと思いながら早く私を優秀な看板娘として抱き締め時給2500円以上の永遠の愛を報酬として支払」
「ひゃ、ひゃうあぁぁぁぁぁぁーーーーっ!?」
「ま、まあ今回の対応は我から見ても正解だったぞ思うぞ零士。」
「はは。ありがと」
ベルゼは手放しで零士の行動を評価し、隠花は再び恥ずかしさから上がりきってしまったが喫茶店は再び平穏を取り戻した。
ーーー
同刻。
上層部…所謂幹部達が至急集まった本部会議室。呼び出されていたのは冬月しぐれだ。
彼との意図的な接触、そこまではまだ良かったのだが状況的に彼を刺激したと判断した二課により呼び集められた錚々たる面子。
頭を抱える幹部達だったが、それが一変。
過酷な前線から帰還した時以上のボロ雑巾のような姿になって涙で顔を腫らした冬月しぐれの姿があった。
大河原派閥の重鎮達含めた幹部達が青ざめた顔で彼女のトラウマ報告を聴取している。
「そ、総魔導統括は…東雲零士は本物の化け物です……!! 私が潜入して隠密魔法を始めた出会い頭の時点で彼は指一本動かさずにスイッチを一つ押しただけで私の全魔力を封じたんですぅぅぅ!!」
「な、何だと……!? お前の魔法がスイッチ一つで……!?」
プライドが高いと専ら悩みのタネだったしぐれだが、その実力だけは組織内でも手放しに評価されていた故にその衝撃はより一層大きい。
ざわめく幹部達の喧騒の中、しぐれはさらにガタガタと震えながら言葉を続けた。
「それだけじゃありません! 彼は私が魔導院のエリート証を落としたのを見て『そんなペラペラな権威はうちでは一円の価値もない』って床に叩きつけたんです……! 全て見抜いた上で、『お前たちの隠蔽工作など私の前では無意味だから五百円でその軽い命を買い取ってやる、それで失せろ』って笑顔で脅されたんですぅぅぅ!!! もう二度と彼とは相対したくありませぇぇぇんッッッ!!」
しぐれはそのまま精神的限界を迎え、机に突っ伏して号泣した。
会議室を耐え難いほどの沈黙と圧倒的な戦慄が支配する。
「迂闊に正体をバラすなど…!」
「彼が明確に我が魔導院の存在を認知した……」
「ブラックカードというこれ以上無い物的証拠も彼の手元にあるのは非常にまずいですよこれは」
「早急に対策を…!!」
幹部達は冷や汗を流し心の底から恐怖を深める。
その中で二課局長高峯は若干目を鋭くして大河原派閥が固まる席へ言葉を投げかけた。
「今回は特に深刻ですね、大河原さん」
「……」
当の大河原は沈黙を貫いて高峯から視線を反らした。
(大河原達め…! 今回しぐれが独断潜入した理由に端を発するのは彼の情報を隠蔽している事もあるんだぞ…!! これでもまだ魔法少女達の情報共有を認めないつもりか…!!)
高峯以外の幹部達も既に魔法少女達に可及的速やかに情報を共有するべきだという思いで一杯だ。
しかし独断潜入したしぐれが魔導院所属魔法少女であると明確な証拠を東雲零士に与えた以上、糾弾よりも優先すべき事があった。
「直ちに東雲零士の監視・潜入任務を一時全面凍結とする。また彼の機嫌を損ねないよう付け焼き刃ではあるが喫茶店への裏予算の追加と周辺地域の再クリーン化をさらに徹底……我々は二度と彼の聖域に不浄な意図を持ち込んではならない。」
最高幹部の悲痛な命令に高峯含む幹部たちは一同に了承し、会議は一旦の落ち着きを見せた。
そんな裏社会の絶望など露知らず時給二千五百円の男・東雲零士はバイト終わりに今夜も売上簿をパチパチと叩きながら「よし、次は水道代の基本料金の見直しだな」とさらなる健全なコストカットへの野望を燃やすのだった。
ーーー
【悲報】魔導院の『聖域』で何かあったらしいが誰も情報を持っていない件【隠蔽】
サーバー: 関東支部・情報統括サーバー/外部一般・準所属者向け専用回線
1 :名無しの魔導見習い
なんか今日魔導院の本部がめちゃくちゃピリピリしてない?
いつもはうるさい大河原派閥の職員も全員死んだ魚の目をしてるんだが…?
また例の一般人ごっこをしてるっていう総魔導統括の琴線に触れたのか?
2 :名無しの防衛結界警備員
あの喫茶店がある区画だろ?
さっき非番で近く通ったら結界の密度が普段の3倍くらいになってて草枯れた。
何があったかは知らんがお触れが出てるみたいだし
3:名無しの非実戦派魔導師
一般人のフリしてる総魔導統括ってマジで実在するの?
都市伝説だと思ってたんだが最近どうも上層部のビビり方が尋常じゃないんだよね。
4:名無しの魔導見習い
>>3
マジもマジ。前にハザードクラスの魔獣が一瞬で『✕印』にねじ切られた事件も統括がノートに✕印を書いた瞬間にシンクロしたらしい。
俺ら一般の構成員には名前すら隠蔽されてるけどもう本名まで知ってるヤツはちらほらいるんよなぁ…なんで公にしないのやら。
5:名無しの呪詛解析班
魔導院の情報隠蔽も意味成してないどころか大いに業務面で足引っ張ってるんよ…はぁ……
というか前線で命張ってる実戦派の魔法少女たちにすら隠してるのがヤバい。
今日なんかその情報格差のせいでとんでもない事故が起きたし
6 :名無しの防衛結界警備員
事故? kwsk
7 :名無しの魔導見習い
あ、それ俺もちょっと聞いた。
なんか前線組の魔法少女が統括のシマに偵察を仕掛けたらしい。
8 :名無しの非実戦派魔導師
は?
自殺志願者かな?
9 :名無しの結界施工士
おいおいおい手遅れだろそれ。
あの御方、こっちじゃ自分の一般人おままごとを邪魔する奴は笑顔で概念ごと消し炭にするって噂だぞ? ✕印で異界門ごとぶった斬ったりもするし……誰だよその命知らず
10 :現役前線魔法少女(休職中)
ちょっと小耳に挟んだんだけど……。
やらかしたのってあの冬月しぐれ先輩らしい。
11 :名無しの魔導見習い
冬月しぐれ!?
なんであんな実力派エリートが特大地雷を踏み抜いてんの…!?
12 :名無しの防衛結界警備員
マジかよ……冬月さん前線から帰ってきたばかりだろ。
何でまたわざわざ統括の喫茶店なんか行ったんだ?
13 :現役前線魔法少女(休職中)
詳しい内容までは誰も知らないの。上層部が速攻で情報規制敷いたから。
ただ泣きながら本部に帰還してそのまま精神に異常をきたして面談室に引きこもりながらガタガタ震えてるって……
「お茶が黒い」「五百円で命を買われた」ってうわ言のように繰り返してるらしい。
14 :名無しの呪詛解析班
五百円で命を買われたwww
……マジ? 一応最高戦力候補だぞ
15 :名無しの非実戦派魔導師
これは笑えねえなぁ…統括からすれば「お前の価値などワンコイン程度だ」っていう舐めプだろそれ。
16 :名無しの結界施工士
冬月って氷結の精密操作が売りだろ? たぶん自分の魔法に絶対の自信があったから統括に魔力測定でも仕掛けたんじゃないか?
一般人に見える統括の底を測って上層部の鼻を明かそうと図ったんじゃ…
17 :名無しの魔導見習い
結界施工士さん流石の考察助かる、それめちゃくちゃありそう。
それに冬月先輩はプライド高いし最近の魔導院の不条理にブチ切れてたから…でも統括に魔力スキャン仕掛けに行くとか自爆ボタンを連打してるようなもんだろ
18 :名無しの呪詛解析班
で、スキャンを仕掛けた結果は指一本触れられずに謎の黒い液体を飲まされそうになった……と。
脳内再生余裕でした
19 :名無しの防衛結界警備員
さらに不穏な噂を拾ったんだが……冬月先輩、本部に帰ってきたとき魔法少女の機密身分証明書を持ってなかったらしいぞ。
20 :名無しの非実戦派魔導師
は? あのカードって紛失したら一発で会議モノの国家機密だろ? それを落としたってこと? 嘘やんwww
21 :名無しの結界施工士
いや……『落とした』んじゃなくて『置いていくしかなかった』んじゃないか?
だって相手は総魔導統括だぞ。
22 :名無しの魔導見習い
あー……
23 :名無しの呪詛解析班
なるほど。
「魔導院の権威など私の前では一円の価値もない。そんなペラペラな紙クズは置いていけ。代わりにこの五百円でお前たちの命を買い取ってやる」
ってコト……!?
24 :名無しの非実戦派魔導師
うわあああ完全なる上下関係の証明じゃん。魔導院そのものを全否定されてる。
そりゃエリートの冬月先輩も取り乱して泣き叫ぶわ。
25 :名無しの防衛結界警備員
しかしさ、そもそも何で冬月先輩はそんな無茶な偵察をしたんだ?
普通は総魔導統括の危険性を知ってたら初見の一般の客のフリして入店したとしても魔力スキャンなんて絶対に仕掛けないだろ。
26 :名無しの魔導見習い
これはもうさっき>>5が言ってた「魔法少女への情報隠蔽」が原因なんすわ。
上層部、前線組の魔法少女たちに東雲零士の情報をこれっぽっちも開示してないんだよ。
27 :名無しの結界施工士
あー本名出しちゃった…まあスレの内容的に検閲くるのも時間の問題か
つーかなんでそこまで頑なに隠すんだろうね
前線組に「あの喫茶店の店員はヤバいから近づくな」って一言言っておけば、今回の冬月先輩の悲劇は防げたわけじゃん。
国家最重要危険人物の情報を味方の主力にすらひた隠しにする理由が分からん。
28 :名無しの非実戦派魔導師
確かに。
統括が一般人ごっこをしたいからって理由なら魔導院側が魔法少女たちに「絶対にあの男の前で魔力を使うな、一般人として扱え」って厳命した方が安全だし合理的なんだよなぁ…
それをせずに存在そのものを『いないもの』として徹底隠蔽してる。これって何か理由が別にあるだろ。
29 :名無しの呪詛解析班
つまり上層部……特に黒い噂が絶えない大河原派閥にとって『前線組に東雲零士の存在を知られると絶対にマズい不都合な真実』が裏にあるってことか?
30 :名無しの防衛結界警備員
なんだろうな。国費を時給二千五百円として統括のバイト先に横流ししてるのだって日本のための防衛費って説明すれば前線組だってギリ納得するはずだし。つーか時給二千五百円で世界救えるんなら安いでしょ
もっとこう上層部や癒着してる身内の『致命的な汚職』とか『大規模な裏金ルート』が統括に直結してるとか?
31:役職非公開(ごめん)
……なあ。ちょっと突飛な説を唱えていいか?
俺、統括が観測された時の一般スレのログをたまたま保存してた者なんだけど…
32 :名無しの結界施工士
ほう…興味深そうな考察になりそうだ。聞いてやるぞ。
33 :役職非公開(ごめん)
魔導院の上層部が何としてでも隠したいものってさ、魔導的な不祥事じゃなくてもっと泥臭くて人間的な…でも事情的に絶対に公にできない『いじめの隠蔽』だったらどうする?
34 :名無しの非実戦派魔導師
は? いじめ?
魔導院の上層部が世界の支配者に関する情報を隠蔽してる理由がいじめの隠蔽?
国家予算動かせる組織だぞ? そんな個人的理由で隠蔽するか?
35 :名無しの呪詛解析班
流言飛語の類な希ガス、裏金とか魔導兵器の横流しを隠したいなら分かるけど流石にいじめって個人的な隠蔽のために総魔導統括の情報を検閲するのは論理が飛躍しすぎ。
いやまてよそれって誰と誰のいじめ…?
36 :名無しの防衛結界警備員
>>31
誰が相手にもよる、ちょっと嫌な予感がして気になるから一応説明だけkwsk
37 :役職非公開(ごめん)
おけ、順を追って話すぞ。
まず総魔導統括の隣にいつも影のようにいる魔法少女いるだろ?
彼女は禁忌の陰陽呪詛を操る未知数の力を持つ魔法少女なわけだ。
でも彼女の経歴は魔導院のデータバンクだと中学時代まで『無能力の一般人』として登録されてたんだよ。なおそれも今は消されてる。
38 :名無しの結界施工士
あ、それは聞いたことある。
ある日突然覚醒して魔導院側からスカウトされたって。多分総魔導統括の存在が明らかになって魔導院も手を引いたんだろうけど
39 :役職非公開(ごめん)
そう、その『ある日突然覚醒した理由』が重要なんだ。
噂によると彼女は中学時代とあるグループから陰湿なハブりといじめを受けていた。
そのいじめっ子グループの主犯が神代麗奈だったとしたら?
40 :名無しの魔導見習い
……え?
41 :名無しの非実戦派魔導師
待て待て、神代麗奈?
大河原派閥が今めちゃくちゃ優遇してるあのお嬢様か?
42 :名無しの呪詛解析班
いやでも仮に神代が昔いじめをしてたとしてそれがなんで総魔導統括の存在を隠す理由になるん? まだ俺の中では繋がらないぞ。
43 :役職非公開(ごめん)
そのいじめの現場に当時の東雲零士が真っ正面から介入したんだよ。
零士が神代からいじめを庇ったからこそ隣にいた当時の少女がどんな感情持ったか分からないけど魔法少女の素質として覚醒、未知のマスコットと契約して云々……みたいな流れ。
俺の憶測も入ってるけど中学生時代に同じ学校にいたらしい学生がソース。
44 :名無しの結界施工士
……あ。
結構繋がるぞこれ。
45 :名無しの非実戦派魔導師
おいちょっと待て
もしそれが本当なら全てのパズルが噛み合うんじゃないか……?
46 :名無しの呪詛解析班
大河原派閥が前線組の魔法少女たちに東雲零士の情報を絶対に隠したかった理由。
国家予算の横流しとかじゃなくて、統括の存在が公になる=過去のいじめの件まで芋づる式に調査が入る可能性が高くなるからか……!
47 :名無しの防衛結界警備員
最初は鼻で笑ってたけど普通に筋通ってきてて怖いんだが……
前線の魔法少女たちは真面目で正義感が強い者が多いからもし「神代が昔、統括の側近である魔法少女をいじめていた。それが原因で総魔導統括という怪物を社会に引きずり出してしまい魔導院は今そのご機嫌取りで国費を浪費している」なんて知ったら前線組は確実にブチ切れて上層部を弾劾する。
48 :名無しの魔導見習い
だから大河原派閥は神代の過去の醜聞を隠蔽するために自分達に関する情報を『一切存在しないもの』として前線から遮断したのか……!
49 :名無しの結界施工士
これがいじめ説が最有力だわ。
じゃあ何かい? 今回の冬月さんの悲劇って元を正せば神代が過去にやらかしたいじめが大河原派閥による隠蔽のせいで情報が遮断された結果起きた二次災害ってことじゃん。
50 :名無しの呪詛解析班
そういう事になるよねぇ……冬月さんは大河原のコネで『コクヨウ』を不当に奪った神代への怒りから上層部の秘密および統括の正体を暴こうとした。
でも上層部が隠していたのは魔導的な最高機密なんかじゃなく『身内の学生時代のいじめ』という致命的な不祥事だった。
それを知らずに突撃した冬月先輩はとばっちりで分からせられたわけだ、仮説で立てたけど自分の身に置き換えた場合やるせなさ過ぎる
51 :名無しの防衛結界警備員
もしそうならやらかし具合ヤバいだろ大河原派閥と神代麗奈
身内のいじめを隠すための情報隠蔽のせいで前線のエースが一人無自覚に消し飛ばされたの組織として末期じゃね? 冬月さんいないと悪の組織の討伐効率マジで下がるぞ
52 :名無しの魔導見習い
最初は冬月先輩やらかしたな…って思ってたのに総魔導統括が今回の一件で『魔導院の権威など一円の価値もない』って切り捨てた上に、それが神代絡みの上層部のいじめ隠蔽によるものだとしたら全職員憤慨もんですよこれ
53 :現役前線魔法少女(休職中)
……ねえ、今臨時の全体通知が入ったんだけど。
54 :名無しの非実戦派魔導師
ん?
55 :現役前線魔法少女(休職中)
『神代麗奈、特級精霊コクヨウとの同調実績に基づき、次期A級魔法少女へ昇格の見込みあり』
って後輩から連絡来た。
56 :名無しの結界施工士
は?????????????
57 :名無しの呪詛解析班
このタイミングでかよ……(絶句)
58 :名無しの防衛結界警備員
おいおいおい冬月さんが面談室でがたがた震えてる正にその日に、元凶の神代がのうのうとA級昇格濃厚ってマジかよ。
大河原派閥、必死に隠蔽して神代を祭り上げようとしてるのが見え見えすぎて本当に辟易するわ。
59 :名無しの魔導見習い
これ総魔導統括への最大の煽りになってないか?
大河原派閥の意図はどうあれ統括から見れば冬月さん追い返した最終宣告を無視してノイズの元凶をさらに出世させた形にしか見えないだろ。
60 :名無しの非実戦派魔導師
死刑台への階段を全速力で駆け上がってて草、近いうちにこの街ごと吹き飛ぶ未来がミエル…ミエル…
もう神代がどうなろうと知らんので俺は明日から有給取って別の管区に避難する。
すまんがスレは今すぐ抜けるわ。
ーーー
「高峯さん…私、通信管理AIの精度を下げるなんて正直疑問でしたが…」
「これって…!!」
「大丈夫だ。もう戻して良いぞ。」
「は、はいっ!」
高峯は画面に映った掲示板を鋭く睨み、気を引き締めるようにネクタイを締め直した。
(確たる証拠ではない。ただの噂話に過ぎんが……)
(やはり此方で集めていた情報と照合してみても、いじめの説が最も近い……)
「俺は好機を逃さんぞ、大河原め…!」
申し訳ないのですが2話先ぐらいで章を区切るかもしれないです。
個人的に「ここでぶつ切りにしたらキリが悪い」とか「伝わりにくいんじゃないか」など考えて他話に使う予定だったプロットを安易に流用したり、アイデアを掲示板に使った結果、一話ごとに全部ぶち込んでしまって次の章でやるストックが無くなりました何やってんだ
こちらの未熟による勝手な都合で申し訳ないです。その分次回は一番長いお話になるのでお付き合い頂けたら幸いです。