陰キャ女の子をいじめから庇った男、魔法少女界のフィクサー扱いされる 作:魔獣という概念が地味な事を嘆く者
今日は少し早めです、5話目長いので夜遅くまで皆さん起こすのもアレなので…
放課後。
同じ高校に通う零士と隠花の二人は校門を出て近くの公園に呼び出されていた。
呼び出し主は神代麗奈。中学時代に隠花をいじめで孤立させ、高校では彼らとは別の魔法少女エリート育成校『国立魔導高等学院』へ進学したはずの元同級生。
「わざわざ呼び出してどうしたんだよ神代。」
零士はカバンを片手に下げ心底退屈そうに目の前の少女を見据えた。
同調圧力も神代家の権力も生まれつき一切通用しなかった合理的マイペースの瞳、幼馴染の神代にとっては見慣れた眼であった。
その隣では体を縮こまらせた隠花が大きな白い帽子の下でおどおどと指先を震わせていた。
「あら、冷たいのね東雲くん」
神代はエリート校の上品な制服の裾を翻し勝ち誇った笑みを浮かべている。
彼女の目的は一つ。
別々の学校に離れてもなお零士の隣に居座り続ける『あの陰キャ』が気に入らない……ただの嫉妬とマウンティングだった。
本日この場所に赴く際は周囲に不自然に止められたものの『ある精霊』と契約を交わした神代にとって今マウンティングしなければ意味が無い…つまり隠花に格の違いというものを思い知らせることが出来ないと飛び出してきたのである。
そして今、久々に彼らと相対している訳だ。
「ぁ………」
(相変わらず零士に金魚の糞みたいにつきまとって……こんな奴が)
それでも中学生時代当時に常に擦り寄るようにして零士についていた隠花が多少自分の足で立っているように見え、神代は眉を更に顰める。
(それで少しでも成長したつもり? あの頃みたいに依存しきってくれていれば私が零士を奪った時によりショックを与えられる算段だったけど…)
(まあそれならそれで心の底のアンタを引き出して惨めな泣き顔でぐしゃぐしゃにしてあげる…!)
神代は一歩踏み出し高らかに2人に宣言するように告げる。
「あなたたち! 相変わらず冴えない一般の高校に通っているみたいだけど私は違うの。見て頂戴!」
神代が自慢げに指先を鳴らす。
すると彼女の背後の足元から愛らしくも怪しい薄紫の光を放つ白狐の姿をした九尾のマスコット……『コクヨウ』が姿を現した。
「キュウゥゥン…!」
「エリート校の魔法少女推薦枠でも、並のA級魔法少女でさえも契約できない特級精霊よ。それに私は数日後の試験でA級魔法少女への昇格が確定しているの。一般人のあなたたちとはもう住む世界が違うのよ。ねえ東雲くん? 今なら私と……」
「そうか」
「でだ、神代……お前のその自慢話をいつまで続けるつもりだ?」
零士の声はどこまでも平坦だった。
気を引くどころか彼の瞳には神代の行動がいつも通りただ不快なノイズとしてしか映っていなかった様子である。
神代もなんとなく彼の反抗を予期はしていたものの、コクヨウを前にして何の躊躇いもなく初手から否定を入れられて頭に血が上ってしまった。
「な、何よ……! 私はただ事実を教えてあげて」
「自覚がないなら教えてやる。キャリア制度なんて俺たちには1ミリの利害関係もない、お前一人の安っぽい優越感のために俺たちの下校時間を無駄に消費させているんだ。」
「零士……っ、なんで分かってくれないのよ……!!」
神代の顔がプライドを傷つけられてピキピキと強張る。
「分かっていないのはお前だ。」
「幼い頃からお前の幼稚なやらかしを周囲が黙認してエリート校の推薦までレールが敷かれていた。お前の親が周囲に多額で収賄を行っている有力者な上に、お前自身その環境に感謝するでもなく自分の実力のように当然に振る舞っていた……だからこそお前は分かっていないんだ。」
「周囲はお前の親の金と権力に気を遣っているだけでお前自身は『笑いもの』になってるってな」
「な、何よそれ……っ! 私は実力で合格したの!! 墨染さんみたいな陰キャとは土台が違うのッ!」
神代は恥ずかしさを隠すように激しい口調で隠花へと矛先を向けた。
「あんたよッ!! あんたが零士に変な吹き込みをしたんでしょうッ!? 中学の頃からいつもオドオドして連絡網一つまともに回せない無能のくせに! 私に嫉妬して零士に泣きついたのね! 惨めったらしくて見ていられないわ!」
その神代の言葉が、隠花の過去のトラウマを刺激する。
その連絡網の遅れというのも本来は隠花をハブるためにわざわざクラスの連絡網を意図的に遅らせて回していた神代の仕業であるのだが、神代は完全に棚に上げて逆上している。
「あ、う………わた、し……っ」
隠花は大きな帽子の下で顔を真っ赤にし、どもりながら涙目を浮かべた。
その瞬間。
隠花の背後でベルゼが主人の感情を読み取りその涙を見て、自ずと怒りで全身を激しく脈動させた。
空間が物理的にミシミシと軋み、周囲の現実がドス黒い魔力で侵食されかける。
「クソアマがァ…! 主の御前で、不敬を働きおったなァァ……その白狐もろとも切り裂いて虚無に還してやる……!!」
ベルゼの放った殺気。
「キュウゥゥン……!?キュウゥゥ!?」
「う、嘘……!? 特級精霊が、おびえてる……!?」
流石の特級精霊であるコクヨウも恐怖のあまり情けない悲鳴を上げて神代の影に潜り込みガタガタと震えるばかり。その表情はベルゼの前に二度と出てきたくないという畏怖が確かに刻まれていた。
神代に関しては同じくガタガタと震えているものの、あまりのベルゼとの格の違いにその凄まじい魔力出力に気づいてさえいなかった。
しかし神代サイドが切り裂かれるよりも早く、零士が呆れたようにベルゼの頭をパシッと力強く叩く。
「おいベルゼ。無駄に威圧すんな。ただのペットをいじめるなんざみっともない、引っ込め。」
「れ、零士!? ヤツはペットではなく星霊郷でも滅多に生まれない希少種の精霊だぞ!! 一応神格さえ備えてるヤツなのに……」
ベルゼの注釈を意に介さず神代の前まで歩み寄って屈み込んでコクヨウに視線を落としながら零士は言い放つ。
「そいつ犬か狐か知らないけど動物を公共の公園で放し飼いにするのは条例違反の可能性アリだろ。」
「なに痴呆になってんのよ零士!!」
「本当に精霊なら俺に反論してみろ」
「キュウゥゥ……」
しかしコクヨウは怯えた鳴き声を発して震えるばかり。
確かにコクヨウは人語を介さず喋らないがその代わりに本来テレパシーを送ってあらゆる者達と交信を行う高度な能力を持つ。それが零士達の迫力の前に完全に萎縮して出来ないでいるのだ。
「全く見栄っ張りな神代の事だ……どこから拾ってきたか知らないけど、動物みたいに振る舞ってる以上は然るべき対処するからな」
「『然るべき対処』…?」
疑問に思うばかりの神代をよそに、零士はおもむろに立ち上がって腰のベルトを取り外して隠花やベルゼと何やら話し合い始める。
「出来る? ベルゼのぬいぐるみの身体見る限り出来そうだから頼みたいんだけど…」
「で……きる……けど……」
「主は零士くんのベルト使っていいのか心配、と伝えたいようだぞ」
「いいよ」
隠花から少量の呪詛の力を込めた魔力が送られ、自身の呪詛と掛け合わせて紫に発光するベルゼはそのツギハギの身体に爪を食い込ませて自身を構成する一部である糸を一本引き出した。
バシュシュッ!!
次に爪で零士のベルトの半分ほどを丁寧に細く切り裂き、先程の魔力の糸を縫い込ませ……
「完成だ!」
「やっぱり隠花は器用だな、ベルゼも隠花の考えてる事ちゃんとすぐに出力できるの流石だよ」
「うぇ…ふぇ…」
「主は役に立てて嬉しいと言っているぞ。我も主を通しての感謝の言葉なら大歓迎だぞ零士。」
そして完成した『それ』を意気揚々とするベルゼから受け取った零士はコクヨウの前に再び膝を下ろす。
「キュ、キュウゥゥ……ッ」
それは本能的な直感で動くコクヨウの鋭敏な勘だった。
コクヨウは零士を眼前にした瞬間、本能的に彼から放たれる魔力ゼロゆえの測り知れない絶対強者のオーラを感じ尻尾を丸めてなおも情けない声を上げてガタガタと震えだす。
一方。
さっきから零士の目にはそれがただの神代麗奈という迷惑高飛車お嬢様が無断で公共の場に連れ込んできた躾のなっていない動物にしか見えていなかった。
「神代……何度も言わせるなよ……昔から部屋でも庭でも何でもかんでもお前の家は動物を放し飼いにしやがって……」
「こんな得体のしれない動物をノーリードで連れ回すなんて飼い主としてのモラルが欠如しているだろ。万が一噛み付かれでもしたら泣くのはお前なんだぞ」
「え…?」
困惑する神代をよそに零士は深くため息をつくと、鞄からマジックを取り出して先程ベルゼに作ってもらったリード付きベルトの首輪に『ポチ』と名前を書いてからその国宝級特級守護精霊の首元へ迷いなくパチンと嵌め込んだ。
「大人しくしろ。ルールを守れない飼い主の代わりに俺が最低限の処置をしてやったから」
「っ!?」
その瞬間、神代の思考が停止する。突飛にしか見えない零士の行動に何もかもが理解できなかった。
首輪を付けられたコクヨウは零士の圧倒的な威圧に完全に怯えきって「キュウゥゥン……」と情けなく鳴いた。
傍目から見れば完全にただの犬である。
「よし大人しくなったな。神代、この『ポチ』はそこの電柱に繋いでおく……社会の最低限のルールや他者への配慮が守れないんならこれ以上お前と話す事は無い。俺達帰るから。」
「待ちなさいよッ!!」
去ろうとする零士達になおも食ってかかる神代。
「そんな社会にいてもいなくても分からないような陰気なゴミ虫なんて早く捨ててッ!! こっちにつきなさいよ零士ッ!!」
ベルゼは遂に堪えられずに赤紫の爪を神代に向けたが零士が直接ベルゼの首根っこを掴み制止した。
零士は息を荒らげる神代に向かって軽く溜息をつきながら言い放つ。
「親のコネという生まれつきの私的感情を一身に受けたお前を受け入れた事によって全体の生産性と倫理を落とすだろう組織……そしてそれを笠に着て自分が偉いと錯覚している今のお前。」
「この哀れさと滑稽さのどこが笑わずにいられるんだよ。」
放たれる零士の神代に対する容赦ない言葉、しかし隠花は静かに零士と神代の2人を見据えていた。
「麗奈。お前がやったいじめは周囲の配慮とやらと…」
「…そして隠花の本当の優しさで有耶無耶になってる。そんなスタンスを魔法少女になった今でも続けているなら……いずれお前が魔導院から淘汰されるぞ。」
「そん時、お前自身は笑っていられなくなるんだぞ」
「っっっ!!!」
そして神代は何か言い返そうとするも言葉に詰まり……最終的に公園は静まり返った。
「真っ当な魔法少女になれ」
「じゃあ隠花、帰るか」
「……う、ん……」
零士と隠花は公園から速やかに退出。ベルゼはフンと鼻を鳴らすように音を出して隠花の帽子の上に乗って共に去っていった。
しばらく公園の真ん中で立ち尽くす神代。
数分ほど公園は静寂に包まれていたものの、彼女は我に返り誰もいなくなった公園でやっと言葉を口にする。
「……な、何よ…!!…」
神代は激しく上下する呼吸を整えながら足元のコクヨウを凝視した。白狐の精霊は未だ恐怖でブルブルと震えている。
しかし神代の歪んだカースト意識、そして傲慢なプライドが数分前の恐怖を強引に都合の良い解釈へと書き換え始めた。
「……そうよ、あの黒い不気味なマスコット。一瞬だけ凄そうなオーラを出したけど結局零士の制止で引っ込んじゃったじゃない」
神代の口元にじわじわといつもの意地悪な笑みが戻ってくる。
「あは、あははは! なんだハッタリじゃない! あんなの! 零士ったらコクヨウをペット扱いしてあんな奇行に走るなんて、きっとアイツこそおちょくるように見せて私のコクヨウに内心震えながら逃げ出したんだわ! 結局墨染さんの持ってる趣味の悪いおもちゃマスコットなんて私の特級精霊の足元にも及ばない雑魚だったのね!」
彼女の中では零士がベルゼを『制止した』のではなく『私の特級精霊を遠回しにいじめるなと、私の味方をして墨染さんのおもちゃマスコットを叱り飛ばしてくれた』ということになっていた。
「零士ったら変な所で世話焼きだから、あんな気色悪いのを連れてオドオドしてる親の育てが悪い墨染さんに本当は心底呆れているんだわ。渋々世話をしてあげてるのよ! だから私の精霊を守る為にあの気持ち悪い陰キャを制裁してくれたの! 零士はやっぱり……」
『そん時、お前自身は笑っていられなくなるんだぞ』
「……」
その言葉を思い出さないようにしながら、優位に立ったと思い込んで無理に胸を張りながら神代は帰路についた。
自分のキャリアも、実家の神代家も、そして最終的に零士が此方側につくということも。このままエリート街道を突き進むのだと必死に思い込みながら。
しかし。
彼女はこことは違う場所で同時に起きていた致命的な事態を知らなかった。
ーーー
時は零士と隠花、そして神代の邂逅にまで遡る。
『緊急警報! 特務二課、全員直ちに配置につけ! 局長決裁レベルの事案が発生!』
魔導院・東京本部の地下4階。
最新鋭の電子モニターとホログラムが並ぶ本部シミュレーションルームは一瞬にして戦場と化した。
オペレーターは手元の端末の画面に表示された真っ赤に点滅するエラーコードを見て、椅子の背もたれを蹴り飛ばす如く立ち上がった。
「局長! 対象の防衛座標から測定不能な魔力圧力の余波が検出されました! 過敏な拒絶反応か、使い魔ベルゼの魔力波形が瞬間的にカラミティクラスに突入! 精神的ストレス値が急上昇しています!」
司令室の奥では青ざめながらも腹を括った顔の高峯局長が座していた。その手には半分中身の減った胃薬のボトルが握られている。
彼らが邂逅する前から既に司令室は稼働状態にあった。
今朝、大河原派閥内で神代家がザワついているとのリークが入り、それが東雲零士達を不遜にも呼び出すという内容である事が分かると、事態の悪化という名目で大河原派閥の隠蔽に対して情報を握れるかもしれないと予め予測した高峯が動き出していたのだ。
「現場の潜入魔法少女に繋げ。」
「はっ!」
現場にはA級魔法少女であり彼らを目撃している神楽。冬月しぐれという好敵手が実質的に大河原派閥の割を食ったことで彼女の元々良くなかった神代への印象が更に悪化し、零士に対する恐怖を差し置いて潜入任務を名乗り出た。
『こちら神楽……神代麗奈は東雲零士に対し煽り立てるような態度を取っています。』
「録音は出来ている。そのまま続けろ。」
そして案の定と言うべきか神代は零士に対して不遜な態度を取り続けている。
現在、彼への潜入任務の類は凍結の方針が出されていたもので最高幹部・臼倉が作戦の中止を勧告しに駆けつけたが、カラミティクラス引き上げまでに零士のストレスが上がっている様子が見られ、やむなく続行を認めている。
『エリート校の魔法少女推薦枠でも、並のA級魔法少女でさえも、契約できない特級精霊よ。それにね私は数日後の試験で『A級魔法少女への飛び級昇格』が確定しているの。一般人のあなたたちとはもう住む世界が違うのよ。』
「権威をひけらかす為にあのコクヨウを使うなんて…」
つい耐えられずにオペレーターの1人が呟く。高峯も、ひいては司令室にいるほぼ全員が気持ちを同じくして呆れ返っていた。
コクヨウは特級守護精霊の中でも適正者を選ばずに契約魔法少女の潜在能力を引き出す…つまりシンプルに強さを底上げ出来る汎用性を持つ。
(差別化が殆ど無い精霊達との契約において、唯一その中でも規格外の適用範囲の広さを持つコクヨウがこのような扱いを……)
(確かに適正者を選ばない点ではあんな神代麗奈相手にもあてがうことが出来るが、そんな皮肉を見たい為にコクヨウと契約するかなど言われた際には失笑ものだ。だが今実際に神代の手に渡っている……コクヨウ自体は納得したのか…?)
(こんな事では魔導院自体の沽券に関わ)
「た、高峯局長」
「どうした」
高峯は声を掛けられて初めて、モニター越しに起きている事態に自身の神経さえ疑うあまり浮かれている事に気づき、恥じてから即座に切り替える。
そして。
高峯の目に飛び込んで来たのは国家最高戦力の一角が、完全にただの怯える忠犬と化している姿だった。
「は…?」
「総魔導統括が……コクヨウにダイレクトで首輪を掛けました……」
司令室に戦慄が走る中で一人のオペレーターが自身の正気を疑うように叫ぶ。
「首輪には魔力反応がありますッ!」
「馬鹿な! 契約の媒介も無しに特級精霊が首輪を掛けられる事を許したというのか!?」
「嘘だろ…」
「正気とは思えない……」
「現地の神楽から伝達!! 見てください、首輪にマジックで『ポチ』と書かれています!」
「『ポチ』……!? まさか我々が特権として与えている国家最高戦力を『この程度は一般家畜と同等だ』とコクヨウの存在の格を底辺まで書き換えて精神を屈服させたというのか……!!!」
一連の流れにもはや一部のオペレーターは目眩を覚え眉間を抑えており、駆けつけていた上層部の幹部さえもがその場にへたり込んでガタガタと震える中……
『お前がやったいじめは周囲の配慮とやらと……そして隠花の本当の優しさで有耶無耶になってる。そんなスタンスを魔法少女になった今でも続けているなら……いずれお前が魔導院から淘汰されるぞ。そん時、お前自身は笑っていられなくなるんだぞ』
司令室がシン……と静まり返った。
高峯は自分の心臓がドクン、と大きく跳ね上がるのを感じ首筋から汗が流れ落ちる。
それはとても嫌なじめりとした汗だった。
「……やはり全て看破していたか」
高峯が掠れた声で呟く。
隣にいた最高幹部の臼倉は彼の目に、恐怖だけでなくどこか冷徹な執行者としての光を宿していた事を見抜き語りかけた。
「高峯、意図を話せ。」
「……監査管理局の常任理事大河原。奴は神代家と癒着があり、神代の者による墨染隠花のいじめを不都合として揉み消していた事を私は聞きつけていました。」
「私は恐らく存在していたであろういじめの報告書等……証拠を掴む為に奔走して参りましたが、未だに……」
「だろうな。大河原は上層部の重鎮で政治的パイプが太く、神代家も我が院の出資者。特務二課の権限でも、私も下手に手出しができなかったはず……」
「ええ。ですが東雲零士が今、神代家の不正を完全に看破し、名指しで『淘汰される』と仰られた…!」
高峯は手元の胃薬を口に放り込み鋭い目でモニターを見据えた。
「東雲零士の言った『淘汰』とは我々の『覚悟』を試されているんです。それはつまり「お前たちの中に癌がいるのは知っている。自分たちの手でその不条理を排除してみせろ」という総魔導統括からの……」
「最後の猶予通告です。」
「「「なんですって!?」」」
オペレーター達が一斉に絶叫した。その恐るべき意図を皆が理解したからだ。
「つまり高峯。我々が大河原を一刻も早く処断しなければ東雲零士…総魔導統括が痺れを切らして『我々を直接潰しにくる』という訳か。」
「その認識で間違っていないかと。」
高峯は突如として冷や汗を流しながら不敵に笑う。未だに大河原派閥の確たる証拠を掴みあぐねている自分への焦り……更に東雲零士からのタイムリミット宣言。
胃薬は既に底をつきそうだった。しかしここで自分がやらねば魔導院自体の存続に関わる。
魔法少女達の防衛網がズタズタになり回り回って東雲零士の平穏な一般人生活にも影響が出るのでは魔導院を潰すのは彼にとっても悪手だと高峯は考えていたが、彼ほどの人物であればその平穏を捨てる事を込みにしてもまだ自分だけは墨染隠花、ベルゼ共に絶対安泰である事を考慮していると考えつく。
東雲零士は最低限の余裕を捨てるだけだが、自分達は最大限の平穏が脅かされる。
「足切りに出来るラインの次元があまりにも違い過ぎる……」
珍しく弱音を吐く高峯に司令室に沈痛な雰囲気が重く漂う。
しかし臼倉はそんな高峯の肩をポンと叩いた。
「どこまで糾弾出来るか分からないが…私の最高権限を使え。」
「そんな…!」
臼倉は最高幹部のみに許される権限のキーを高峯の端末に差し込んだ。
「大河原の政治的権力など、初見のコクヨウを数分の内にいとも容易く手中に収める総魔導統括の『不機嫌という天災』に比べればそこらの石よりは軽いはずだろう。魔導院が滅びる前に彼が用意してくれた大義名分に乗り大河原派閥を淘汰しなければならん………まあ奴の事だ。政界含めて激しい抵抗は想像に難くないが。」
高峯はその言葉を受け、最大限の感謝を込めて臼倉に頭を下げようとした…その時。
ビービービービーッ!!
「今度は何だ!?」
「魔導院本部のメインサーバーが異常を検知しました!」
「これは…!?」
司令室のモニターに魔導院本部メインサーバーの警告灯が血のように真っ赤に点滅。やがて司令室内の全端末に強制ポップアップが乱舞した。
その正体は呪詛。
ベルゼが作り上げた首輪には『主を過去にいじめた神代麗奈が現在においても主への不敬を働いている事への呪詛』が無意識的に練り込まれていた。規模こそ小さいがベルゼの受けた苦痛と屈辱は呪詛を使う上で嫌でも無意識的に混ざってしまったのだ。
神代に嫌々付き合わされ、零士に首輪を嵌められて完全に従属させられたコクヨウはストレスからなんとか独断で契約を破棄しようと魔導院が管理していた『精霊契約のパス』を逆探知してしまう。
それに乗じたベルゼの呪詛が、その呪いのままに神代の『A級魔法少女昇格データ』の書き換えログへ侵入し、そこから伝って大河原派閥が過去に国家予算を投じて隠蔽していた『中学時代のいじめに関する全検閲データ』のプロテクトを一撃で破壊した。
「これは…! 全職員、確実に証拠を抑えておけ!!」
「「「はっ!!」」」
しかもそれだけでなく、呪詛から神代家の不正に関する証拠、大河原派閥の癒着に関するプロテクトを破壊しまくった結果、『神代に関する負のデータを逆探知しながら全て暴き回る』事態に発展。
「私が手を貸すまでも無かったな。恐ろしい男だ…!」
「ここまで計算づくだったとは…」
高峯も臼倉も眼前の事態に動揺しそうになっていたものの、即座に切り替えて粗方証拠を抑えたところで高峯が高らかに宣言する。
「かねてよりの院内の癌を淘汰する! 内閣情報調査室、魔導検察庁、全てへ同時に回線を開け! 大河原を即座に逮捕、そして神代一族を今この瞬間から社会的に抹殺せよ!!」
ーーー
同時刻、魔導院高級理事室。
大河原派閥も呑気に過ごしていた訳ではなく、神代麗奈の暴走によりリークを掴まれて頭を抱えながら司令室の様子を別室から窺っていた。
必要があれば妨害さえ厭わないつもりでいたものの、その前に大河原派閥の端末にも隠蔽の証拠が表示される。
『緊急警告:大河原派閥による隠蔽ログの強制開示。対象:神代麗奈による過去の陰湿ないじめ、および職権乱用による情報検閲、その他証拠一覧』
それを見た大河原派閥の技術幹部達はディスプレイを凝視したまま、脳貧血を起こしそうな絶望の声を上げた。
「あのベルトはただの首輪じゃない!! 特級精霊の魔力回路を中継局として踏み台にし、我々の防壁を内側から食い破るために最適化された超高度なハッキングデバイスだったんだ!!」
「何ということだ……! ポチという文字に見せかけた古代魔導文字術式を通じてコクヨウの所有権を魔導院から強制剥奪し、その接続パスをそのまま最高機密サーバーへのバックドアとして利用されたんだ!!」
「『外の電柱に繋いでおく』というのは『お前たちの電脳防衛網を我が庭の杭に繋ぎ止めた』という電脳空間を掌握した最後通告だったのか……!!」
「ああ、終わりだ。総魔導統括……我々が神代のノイズになる部分を必死に隠し祭り上げようとした事も全て見通していた……もう……もう終わりだッ! あの御方には何も隠せない…あぁあぁああァアァアッッッ!!」
発狂した大河原はそのまま口から泡を吹いて白目を剥き、豪快に大の字でぶっ倒れた。
こうして零士が躾のなっていない神代の契約マスコットを繋ぎ止めただけの首輪は魔導院の上層部にとって組織の電脳防壁を紙クズに変えて全ての膿を一撃で引きずり出した恐怖のハッキング呪物として永遠にトラウマに刻まれる事となった。
そしてほぼ同時に高級理事室へ突入したのは高峯局長直属の特殊制圧部隊。
大河原派閥は抵抗すら許されず一瞬で床に組み伏せられる。
「大河原常任理事。貴殿を国家反逆罪、国家安全保障違反、および収賄罪で即刻逮……もう終わっていたか。」
白目を剥いた大河原のを見て既に戦いが終わっていた事を悟る高峯。
(大河原が握っていた権力という強大なシステム……まさか総魔導統括の不快のラインに一瞬でも触れれば、ここまで徹底的に処理されるとはな)
今回は味方であったものの東雲零士を敵に回すとどうなるかという結果に高峯は心底肝を冷やした。
ーーー
そして同時刻。
零士と隠花が通う高校から離れた魔法少女エリート育成校『国立魔導高等学院』。
神代麗奈は数日後に控えたA級魔法少女への昇格試験の推薦枠を既に取得した優越感と零士の言葉を頭の隅から追いやる為に、自室で優雅にハーブティーを飲んでいた。
だが突如として部屋の大型モニターが自動的に起動。
「えっ、な、何…!?」
真っ黒な画面に【魔導院・緊急執行命令】の紋章が浮かび上がった。
『神代家当主、およびその親族一同へ告ぐ。貴一族は特例指定対象に対する重大な権利侵害、および大河原元理事との贈収賄罪により資産の全てを強制接収する』
神代家の不正も全てに芋づる式に開示され、神代のスマートフォンの画面に信じられない速度で現実の崩壊が通知されていった。
《警告:神代財閥の全銀行口座は凍結されました》
《通知:国立魔導高等学院からの退学処分、およびA級魔法少女昇格推薦は完全取り消しとなりました》
《警告:………
「嘘……でしょ? 私のキャリアが……」
神代は自分のスマホの画面を見つめたままガタガタと全身を震わせた。
親の権力と大河原の裏工作を笠に着て、魔法少女となってからも他者を見下し自分だけはエリート校で華々しい未来を歩むはずだった少女。
その将来が魔導院の必死の制裁により一瞬にして世界からデリートされたのだ。
『これより貴一族の身柄を指定地域へ強制移送する。現地での更生プログラムへの従事を義務付ける』
学生寮の外から何十台もの黒塗りの装甲車のサイレンが近づいてくる。
神代は床に崩れ落ち、頭を抱えて悲鳴を上げることしかできなかった。
ーーー
翌日の放課後。
いつもの喫茶店のバックヤードで東雲零士はエプロンを締めながらスマホのローカルニュースを眺めていた。
『都内の有力企業、神代グループは大規模な不正会計が発覚し事実上の倒産。また魔導院の上層部職員が同グループとの贈収賄の容疑で電撃逮捕』
零士は鼻を鳴らした。
「ふん……」
その隣で同じく喫茶店の制服を着た隠花が温かいココアを淹れながら零士の顔をのぞき込んだ。
「れ、れい……じくん……あの……かみしろ……さん……は……」
「主はあのクソアマについてどうなってしまうのか気になっているようだ。」
「神代はお引越しみたいだ。エリートの魔法少女の学校もやめた……」
「これは当然の帰結だ。隠花。」
零士はスマホをポケットにしまい再びマイペースな瞳で隠花を見つめた。
「昨日も言っただろ。親のコネという私的感情で全体の生産性を落とす組織も、それにぶら下がる奴も…真っ先に淘汰される。神代の親の会社も中身は裏で手引きしていた役人含めて不正だらけだったんだ。いくらエリート校に進学して小細工しようが土台が排除されるのは時間の問題だった。世の中の経済システムは真っ当に回っている事が分かって清々した。」
「れいじ、くん」
「……」
「はやくち…」
隠花は零士の異様に早い口ぶりから彼の動揺を感じ取った。
そして感じ取られて俯く零士。
零士にとっては自分の言った通りの事が行われただけの極めて納得のいく一連の流れであったはず。
しかし唯一の幼馴染であった神代麗奈がどん底まで落ちていってしまった事に、零士が複雑な心境を1ミリも抱かないとは隠花も思ってはいない。
「零士、くん……やさしいから」
「…」
「麗奈はお前をいじめた。いずれにせよアイツは痛い目見なきゃならないと思った気持ちはある。」
カランコロン…
その時、来客を告げる鐘が鳴る。
「これ以上話すこと無いし仕事に勤しむか」
再びエプロンを締め直す2人。しかし隠花は帽子を深く被り三白眼から様子を悟られないよう隠して逡巡する。
(神代さんが遠くに行ってしまって……正直ホッとしている自分がいる。)
(可哀想と思う気持ちはあるけれど………でも神代さんが零士くんに一番近しい存在だって思ってた。だからこそ今回で零士くんが神代さんの所へ行ってしまったら、また私一人ぼっちになってしまうんじゃないかってビクビクしてたから…)
(そんな私の気持ちを知ったら…零士くんは失望するのかな…)
「行こう」
「ぅ…ん…」
ベルゼは隠花の気持ちを代弁すること無く珍しく黙っていた。一応彼でも空気を読む事は覚えていたからだ。
ーーー
【悲報】大河原、JKの過去いじめ隠蔽で一発解体へ。神代麗奈も終了【ざまぁ】
1 :名無しの一般人
大河原常任理事が国家反逆容疑でガチ逮捕キターーー!!
そして魔導院の黒スーツさんが神代の豪邸に雪崩れ込んでお祭り騒ぎになってるぞ。
2 :名無しの一般人
スレ立て乙
ニュース見たわ。大河原が国家予算を私物化してたのはまあ黒い噂絶えなかったから予想通りなんだが、魔法少女よく知らなかったもんで神代麗奈ってJKの不祥事を隠蔽検閲してたらしいな。
マジで税金の無駄遣いすぎて笑うわ。
3:名無しの一般人
ネットに流出した大河原の裏データ見たけど隠蔽理由が『神代麗奈が中学時代にやってたいじめの揉み消し』ってマジ?
国家的エリートが隠したかった秘密が泥臭すぎて草。
4 :名無しの一般人
≫3
これマジ。そのいじめられてた子が今や魔導院が手を出せないレベルの特級扱い重要人物になったらしい。
神代家と癒着があった大河原は地雷踏み抜いたの隠すために今回までに至ったってこと。
5 :名無しの一般人
特級精霊コクヨウ引っ提げてA級魔法少女に昇格直前でデータ全開示されて一発退場食らったの芸術だろもう
6 :名無しの一般人
大河原派閥が一日で消し飛んでマジでスカッとしたわ。コクヨウが今の当代神代なんぞに与えられてるのホンマにありえんかったし。
7 :名無しの一般人
データが漏洩して一瞬で大河原が詰んだらしい。記事読んだ限り漏洩の仕方がおかしくないか?
8 :名無しの一般人
魔導院の鉄壁のサーバー防壁が一瞬で全部ハッキングされてログが開示されたんだろ?
魔導院セキュリティ大丈夫かと思ったけど(大河原みたいな扱う側の内部からはどうしようもないとして)本来は電子魔獣の侵入にも耐え得るからなぁ……裏で誰か別のバケモノが動いてるだろ。
9 :名無しの一般人
総魔導統括さんっすね多分、都市伝説じみてるけどほぼほぼ存在するのは事実。
そいつが大河原の裏金ルートと電脳防壁を完全経済封鎖したらしい。
10:名無しの一般人
もう東雲って打っちゃって良いかなぁ…まだダメ?
11 :名無しの一般人
>>10
もう打ってるじゃねーかw
そういや大河原派閥の技術幹部が連行されるとき「ポチの首輪がハッキングデバイスだったんだ……!」って狂ったように大声で泣き叫んでたソース有り
12 :名無しの一般人
ポチの首輪てwwww
どういうことwwww
13 :名無しの一般人
ポチ…?
14:名無しの魔法少女
通りすがりの現役だけど概ね報道通り。
大河原派閥、本当に終わったよ。高峯局長率いる二課が完全に証拠押さえてたから。
15 :名無しの一般人
>>14
うおガチ魔法少女
神代はどうなってんの!?
16 :名無しの魔法少女
神代麗奈は魔力回路を焼き切られて一生魔法を使えない完全な無能力者に転落。神代家の歴史を完全に終わらせることに少し揉めたらしいけど最終的には決行。これで神代家の魔法少女としてのお家断絶。
大河原の爺さんは総魔導統括への不敬罪と国家反逆、その他諸々で豚箱。
前線組は「大河原のいじめ隠蔽のせいで余計な情報規制敷かれてた」って知ってみんな神代家にガチギレしてたからこの結末はマジでスカッとしてる。
17 :名無しの一般人
魔力失って無能力者として零落か。
今までコネでイキってた分、一般社会に戻っても国を揺るがした不祥事の元凶として一生爪弾きやろなぁ
18 :名無しの一般人
昔から神代家追ってた身だから複雑な気分なんだけど最近はホントに酷かったから妥当っちゃ妥当。
なにより神代は歴史あったとはいえ、現場の魔法少女たちもこれでやっと真っ当に評価される事を考えると本当に仕方の無いこと。
19 :名無しの一般人
でもちょいまち
大河原が滅んだのはいいけど特級精霊コクヨウってどうなったの?
20 :名無しの魔法少女
それが一番の謎。
コクヨウって人間界と星霊郷との不可侵条約に基づいて前線のエースにのみ貸与されるべき国家最高戦力の特級精霊じゃん?
それが発見時なぜか『ポチ』って書かれた首輪をつけられている状態で保護されたらしい。
21 :名無しの一般人
は?
特級精霊が家畜扱い?
22 :名無しの一般人
ポチはもう実家の犬なんよwww
23 :名無しの一般人
おいおいおいさっきからその話上がってるけど笑い事じゃないぞ。
やったの神代ならお家断絶レベルじゃ済まない。
星霊郷は人間に力を貸す代わりに『精霊の尊厳を絶対条件』にしてるから、もし人間が一般精霊ならまだしも特級精霊を家畜扱いしたら条約破棄すら議論して人間界への魔力供給をストップするかもしれんって日本滅亡レベルの危ういバランスの上なんだぞ
24 :名無しの一般人
大河原が私物化しただけでも星霊郷は疑問を呈してたのに、今度はコクヨウが首輪でポチとして家畜扱いされてるとか星霊郷の王がブチ切れてもおかしくないぞこれ
25 :名無しの一般人
うわ……大河原ざまぁで喜んでる場合じゃないわ。
これからの星霊郷との外交関係、マジで終わったんじゃないか?
26 :名無しの精霊
それがなんだリン……星霊郷の外交精霊が血相変えて抗議しに行ったんだけどリン、コクヨウが完全に忠犬の目で律儀にお座りしてたらしいリン……
コクヨウとしては1度目は神代家で渋々仕方無く従ったけど、2度目は総魔導統括っていう人物が一方的な契約したらしくて一度契約パスを遡って抵抗しようとしたらしいけどそれすら出来なかったからホントに首輪をつけた相手と主従関係を認めたらしいリン。
それを聞いた外交精霊が「お前ほどの奴が一方的に調伏されたというのかッポ……」って泡吹いて卒倒して、その後王様にも伝えたら抗議白紙になって震えながら帰っていったらしいリン。
27 :名無しの一般人
精霊さんがレス飛ばしてきた!?
なんてことやってんだ総魔導統括……コクヨウを家畜同然に完全に従えた上で星霊郷の王すら恐怖させて抗議白紙にさせたのかよ
28 :名無しの一般人
外交問題すら首輪一つでねじ伏せてて草。
いや笑えるけど世界のパワーバランスが総魔導統括に握られてる事に関しては恐ろしくて笑えないんすけどね
29 :名無しの一般人
もう一つガチでヤバいニュースがあるだろ。
今回の大河原の隠蔽騒動の煽りを受けて前線のエースだった冬月しぐれが精神に異常をきたして無期限の活動休止に入った件。
30 :名無しの一般人
あーあれか…なんで休職してんの?
31 :名無しの一般人
噂だと大河原の隠蔽体質に不信感を抱いた冬月が単独で総魔導統括がいる喫茶店にスパイとして潜入したらしい。
ところが国家機密を没収されて、そのまま心を折られたって……
32 :名無しの一般人
これもマジで笑えないんじゃないか?
普段から趣味がてらやってるんだけど、ちょっと防衛白書の公開データと魔導災害のリアルタイム統計から冬月しぐれ離脱後の悪の組織討伐効率を数字で弾いてみたんだが結果が絶望的スグル
◯冬月しぐれ活動休止後の防衛データ推移
・氷属性の広域熱量感知魔法による敵拠点発見率:87% ⇒ 12%(ほぼ機能停止)
・敵集団に対する薄氷魔法での『広範囲制圧』の平均所要時間:15分 ⇒ 1時間30分(約10倍以上の遅延)
・対悪の組織前線魔法少女の平均負傷率:3.2% ⇒ 28.4%(霜魔法による敵の足止めを出来ないので前衛の負担が爆増)
・悪の組織の「観測アクティビティ(活発度)」:前週比+320%
観測アクティビティについては完全にナメられてるよなこれ
冬月しぐれが如何に悪の組織特攻だったかよく分かる
33 :名無しの一般人
うわぁ…マジでかぁ…
大河原のいじめ隠蔽のせいで情報が遮断されて、なんも知らない前線のエースが総魔導統括の地雷を踏み抜いて再起不能。
結果魔導院の防衛戦力が一気にガタ落ちと。何やっとんねん
34 :名無しの一般人
データさんがつ
大河原と神代のやらかし具合が天井知らずやな。
冬月しぐれが前線から離脱したってことは今まで彼女がいた事で優位に立ててた悪の組織の討伐に難が出て、活発化した組織が跋扈してくる不穏な前兆だぞこれ。
35 :名無しの一般人
おいおい急にディストピア感増してきたな…
大河原解体でスカッとしてたけど実戦派トップのエースが消えて誰が街を守るんだよ。悪の組織が調子に乗って攻めてくるぞ。S級呼び戻さんと。
36 :名無しの一般人
でも悪の組織が「今がチャンスだ!」って街に攻めてきたとして、その街には総魔導統括とその側近の魔法少女がいるわけだろ?
37 :名無しの一般人
あ。勝ったな。
38 :名無しの一般人
いやでも魔導院の味方かどうか分からんからな…彼の不快になるかどうかが1つの判断基準になりそう
39 :名無しの一般人
総魔導統括がこっち側に来てくれる事を祈るしかないわな
ーーー
魔法少女の資格を失い、魔力回路を焼き切られる形で没収。
実家の一族も役職を追われて社会的な後ろ盾をすべて失った神代麗奈。
その凋落は彼女の現実の生活を根底から破壊した。
実家の高級マンションは差し押さえられ親は過酷な一般労働へと左遷。
神代は遠方の不便な立地にある一般の公立高校へと着の身着のまま転校させられることになった。
神代にとっては新しい学校、しかし古びた教室。
お嬢様としての華やかな生活も特別扱いしてくれる大人たちも、もうどこにもいない。
毎日、安い型落ちの制服を着て経済的にも精神的にも限界まで追い詰められた生活が始まった。
「なんかヤバい不祥事起こして一瞬で没落したらしいよ」
「ははっ。綺麗事ごとだけ並べて実態はただのいじめっ子かよ」
「滑稽すぎてマジ笑えるけどあんま関わらないようにしよーぜ」
スマホの画面に並ぶSNSでの嘲笑、そして新しい教室での嘲笑。
入学当初はまだプライドの高さからか零士と隠花へ逆恨みする気力があった神代。
(全部…全部アイツらが悪いのよ…)
しかし。
数カ月経った今、ギリギリの状態が続きその気力はすっかり無くなっていた。
かつて自分が墨染隠花に浴びせていた冷酷な言葉、無視という隔絶、孤立して灰色になった世界、そして……寸分の狂いもない同様の嘲笑。
放課後、夕暮れの教室。
神代は一人で机に突っ伏しボロボロと大粒の涙をこぼしていた。
今や誰も自分の言葉を聞いてくれない。
誰も自分を助けてくれない。
世界から笑いものとして扱われる恐怖と寒さがこれほどまでに心を壊すものだとは知らなかった。
そんなある日。零士の言葉がふと頭を過る。
『このままじゃ、お前が本物の笑いものになるぞ』
「………」
「本当に…笑いものになっちゃった……」
彼は怒ってすらいなかった。ただただ幼馴染である自分の本質を見抜いて失望しており、自分が破滅に向かって突き進むのを止めるための最も残酷で最も正しい予言だったのだと今になって後悔の念が湧き上がる神代。
「私、本当に……笑えないやつだ……みんなから後ろ指刺されて笑われるような……安っぽい悪者だったのは私の方だったんだ……」
彼女は尚も涙が止まず胸が張り裂けそうだった。
魔法少女としてのプライドも零士に振り向いてほしいという歪んだ執着も今のどん底からして遥か昔の事にさえ思えた。
そんな今、彼女の心に残っているのは零士を奪い取ろうと自分が傷つけてた、あの腹立たしかったはずの少女の背中。
(私の勝手なプライドで世界を灰色に染めてしまったあの人が味わった絶望と……私は今同じ状況……)
そんな隠花への罪悪感が湧いても彼女達に会うことは国から既に禁じられている。
どうしようもなくなったのを自覚した神代は誰もいない教室で一人ただただ啜り泣き続けた。
個人的に神代が居ないと隠花の覚醒という人生の転換点もここまでの話の流れも無かったでしょう。なのでストーリー面では彼女に助けられて感謝してます。すまない神代
次は報告書みたいな文面で別の側面から掘り下げますが、この章のオマケみたいな感じです。