陰キャ女の子をいじめから庇った男、魔法少女界のフィクサー扱いされる 作:魔獣という概念が地味な事を嘆く者
はい。本来オマケみたいなのを投稿する予定だったのですが神代の反響が想定以上でしたので徹夜で考えた結果、掲載している別作品から一番合うプロット取ってきて設定擦り合わせながら作りました。突貫工事だから私にはこの内容が良いのかどうかも正常な判断が出来とらんですはい。掲示板は無しです。
喫茶シュノノメのカウンター席。
今日もバイトの東雲零士は目の前でちょこんと行儀よくお座りをしている純白の狐コクヨウを見下ろして軽くため息をついた。
数日前、零士からすれば黒服を着た怪しい役人っぽい男達…つまり魔導院の職員が厳重にケージに入れてこのコクヨウを連行していったはずだった。
しかしコクヨウにとっては今回ここまで初めて屈服させられたのは初めての経験であり、魔導院から精霊国に身柄を引き渡されたものの自身の中で主人は東雲零士であると認めて独りでに舞い戻って来たのだ。
休日の今朝「キュウゥゥン」としきりに鳴いていたところを早速発見した零士に保護されたという訳である。
未だに目の前の白い狐の首には零士が以前なんとなく付けてやったベルトの首輪がそのまま残っているのが渋々コクヨウが認めた忠誠の証であった。
「神代の奴も今は色々と大変だからな……実質やらかしがバレて自宅謹慎処分みたいなもんだし飼い主がそんな状態じゃペットの餌やりも満足にできないか。」
「これは俺の責任だな…」
零士の脳内では完全に飼い主のネグレクトにより腹を空かせて実家に逃げ帰ってきた迷子犬という認識で処理されていた。
一方、カウンターの奥の隠花はいつも以上に体を縮こまらせてエプロンの裾を指先でつまみ動揺していた。
(……神代さんのお狐様……どうしてここに……?)
もじもじと震える隠花の肩の上でベルゼがカサカサと生地状の身体を鳴らしながら囁く。
「主よ、これは落ちぶれた復権を賭けて零士の寝首を掻きにきたのでは…!? 神格を持つといえども今すぐ此奴の皮を剥いでスープの出汁に……」
「あ、あぅ……!? だ、だめ、だよベルゼ……ぶっ…そう…」
そんな二人の動揺など露知らず零士はポンとコクヨウの頭を叩いた。
「よし、改めてお前はポチだ。タダ飯は食わせられないからそこで客寄せパンダとしてお座りだ。」
ちょこんとおすわりするコクヨウ。
「おお…じゃあお手」
零士の差し出した掌にお手をするコクヨウ。
「マジかよ…じゃあちんちん」
「ち、ちん…ちん……!?」
顔を上げて反応した隠花をよそに両前足を上げて直立する体勢を取りちんちんの芸を披露するコクヨウ。
「嘘だろ!?…神代のやつこんなに芸を教え込んでやがったのか……」
素直に驚いた零士はコクヨウを頭をくしゃくしゃと撫でて彼としては珍しく愛でる。コクヨウにとってはこれぐらいの事は朝飯前でありお手製の首輪を揺らしながら遂に客寄せパンダとして認められ静かに床へ伏せるのだった。
ーーー
魔力回路の完全な損壊。
それが魔導院から神代に下された非情な現実であり神童と謳われた彼女の体内からは一滴の魔力も生成されない。そればかりか国家の最高方針により「東雲零士および喫茶シュノノメへの一切の接触禁止」という絶対遵守の命令が下されていた。
「私は……何を間違えたの……?」
薄暗い路地裏の片隅で神代は壁に背を預けてずるずると地面にへたり込んだ。
神代は今日「もしほんの少しでも希望があるのなら」と零士達のいる管区へと遥々やって来たのだが…魔力回路が焼き切られる代わりに刻まれた魔導院の管理刻印が近づくにつれてズキズキと痛んで敢え無く戻らざるを得なかった。
あれから自分の傲慢が招いた事態であると日夜神代麗奈は反省していた。
総魔導統括である東雲零士という正体を初めて知り、今まで頭の固い仕方の無いただの幼馴染だと見誤ってあまつさえ隠花をいじめてしまった事が明るみに出てしまった。
そして隠花をかつて笑いもの扱いしたのと今彼女が置かれた状況は同じ。
報いとして自らのプライドという名の誇りも家族も嘲笑に晒してしまったのだと。
(私は甘えっぱなしだった…だからお父さんもお母さんも私の我儘に関して何も言わなかった…今回の零士の事だって甘えさせるのに都合が悪かったから……)
(零士にも甘えてたんだ、私。それが全部アイツらへの皮肉になって最後にはいじめに走ってしまった……今思えば零士は私の甘えに対して全部きっぱりと言ってくれたのに…)
神代は今はカサカサになって荒れてしまった自分の掌を見て現状の己に涙をこぼした。
もう魔法少女になって
「もう…やり直せないのかな……うぅ…」
精神の境界線が摩耗しきったその時だった。
「え…?」
涙で視界が潤んだせいでは無かった。路地裏の影が不自然にぐにゃりと歪んでいたのだ。
『哀れな少女だなぁ。力を失って上位存在に捨てられた迷い仔さんよぉ。』
影の中から這い出てきたのはクラゲにも似た水色の身体を持つ触手をゆらゆらとさせる異形の精神生命体。
『俺さぁ寄生する事で生きてける生物なんだよね』
『つまり俺の手を取れってことでさ俺を受け入れれば魔力回路が無くてもお前にかつて以上の魔力を貸し与える事が出来るんだよ。』
『だって寄生出来るから。お前を貶めた全ての者に対して等しく絶望を撒き散らす力を得るんだよなぁこれが。』
「魔力を……私に……?」
それは魔導院の最警戒リストにのみその名が記される極めて人間に近い知性を持つクラスカラミティの寄生魔獣『アクアゼウラス』だった。
神代は失った力を取り戻せるという誘惑に壊れかけた精神が傾きかける……が目の前の魔獣が放つ圧倒的な悪意を今は反省しきっていた彼女の意識が感じ取り辛うじて現実に引き戻したのだ。
これは精霊などではなく世界を滅ぼす本物の化け物だと。
「違う……私はそんなものは望んでないのッ……! もう来ないで……嫌っ……!」
『じゃあ仕方ねーか』
逃げようともつれる足で立ち上がった瞬間だった。
影から伸びた触手が神代の細い足首を容赦なく掴み引き倒す。
『遅いんだよなぁ。肉体は素でも勿論、精神も一度開いた心の隙間でなら俺は幾らでも入っていけるんだよ。さあその肉体を寄越してくれや!』
「くっ……あ……ああっ!!」
路地裏に悲鳴が響き渡る。
魔獣は神代の頭に被るように接続すると彼女の脳から脊髄までそしてその神経系を瞬く間にジャックしていく。
神代の瞳から光が消えアクアゼウラスが浸透した後の髪の色も底無しの漆黒へと染まり上がった。
『うおお!! やはり精神的NTRくらってる奴の負のエネルギー魔力変換はすっげえなこれ!!』
かつては零士の隣に居た神代の記憶を読み取る事が出来、その負の感情で大幅なパワーアップを果たすアクアゼウラス……それは物理的な破壊を伴わない極めて繊細な技術の上に確立された精神の乗っ取りだった。
『さて…魔導院のS級共も邪魔だが今は『目の上のたんこぶ』を最も最優先に潰しておくか。その為にコイツも精神的揺さぶり掛けられると踏んで寄生したしな……!』
ーーー
それは魔導院にとって最悪のシナリオの幕開けだった。
「作戦本部より各局へ! 警戒区域D-3に特級反応! 寄生魔獣による適合個体の乗っ取りを確認!」
「クラスカラミティの寄生魔獣!? 該当する魔獣は一匹だけですよ!!」
「『アクアゼウラス』……S級さえ狩り切る事の出来なかったデータ上最悪クラスの寄生魔獣が再び姿を現したか…!!」
「高峯局長!! アクアゼウラスが寄生したのは神代麗奈と見られますッ!!」
「何っ!? よりにもよって……!!」
高峯は震える声でモニターに映し出された目の前の事態に冷や汗を流す。
「魔法少女第一部隊、現地に到着! 迎撃を開始します!」
現場に急行した魔導院の精鋭たるB級魔法少女達が戦術障壁を展開し一網打尽にするための包囲網が完成、一斉に各々の武器を構え寄生神代へと襲いかかる。
しかし神代の肉体を依り代とした魔獣の力は魔導院の予測を遥かに超えていた。
『流石にそれは舐めてるだろ』
寄生神代の口から放たれたのは人間のそれではない何重にも重なり合った不快な合成音声。
彼女が軽く声を出しただけで大気を切り裂くほどの漆黒の衝撃波が放たれる。展開された戦術障壁が薄いガラス細工の如く粉々に砕け散った。
「キャアアッ!?」
「う、嘘でしょ……一撃で部隊の結界が……!?」
次々と吹き飛ばされ地面に叩きつけられる魔法少女たち。彼女たちの精緻な魔法少女服は引き裂かれて戦線離脱を余儀なくされる。
「魔力回路を失っていたはずの神代からこれほどの出力が…!!」
A級魔法少女神楽は戦慄しながらも駆けつけた他2名のA級魔法少女と陣を形成。
A級魔法少女達は寄生神代の衝撃波を持ち前の戦闘経験でかわし抜けながら間合いに一気に入る。
「「神楽っ!!」」
魔力で出来た鎖状の拘束魔法を寄生神代に巻き付け縛り上げる2人A級魔法少女によるコンビネーション。神楽は雷属性魔法を槍に纏って貫通力を上げた一撃を放とうと寄生神代へ向け全力で突進する。
(そりゃ憎い奴だと思うよ…でもだからってしのびないと思わないほどじゃないから……!)
「ごめん…!!」
神楽が寄生神代の胴と右腕に目にも止まらぬ斬撃を入れた。
寄生神代の右手が宙を舞い、胴が泣き別れになる。
「っ……」
神楽にとってはかつて上層部のゴタゴタで苦渋を味わわされた相手とはいえ人間を手に掛けてどうとも思わない精神は持ち合わせておらず目を思いっきり瞑る。
ドンッ
「あ、え?」
宙を舞ったはずの寄生神代の右手が神楽の首筋に手刀を入れるように直撃。
神楽が目を遣ると泣き別れになったはずの寄生神代の胴はミチミチと音を立てながらすっかり完治、拘束魔法をかけていたA級魔法少女達2人は既に大の字に倒れ拘束が解かれてしまった。
アクアゼウラスの寄生元は再生能力さえ有するのだ。
「そん…な……」
神楽も地に伏して遂に気絶。寄生神代は右手をロケットパンチを戻すように魔力の遠隔操作で右腕に呼び戻して断たれた傷跡をすぐに完治し接続。
『S級じゃないと相手にしてる感覚ねぇな…』
『しかし思ったよりコイツ抵抗するなぁ、この魔法少女共始末しときたいんだが……』
神代の精神の乗っ取りには成功したがまだ時間を経ていなかった為か神代の残った精神性に抵抗され、攻撃の詰めに甘さが見られるのを危惧するアクアゼウラス。
『まあ『目の上のたんこぶ』のとこに着く頃には完全に制御下に入ってるだろ。』
そして魔導院の司令室ではオペレーターたちの悲鳴に似た報告が飛び交っていた。モニターに表示される数値は既に測定不能の領域を示している。
指揮官である高峯は冷や汗で全身を濡らしながら画面を凝視していた。
「……アクアゼウラスの固有能力、依り代の絶望をダイレクトに負の魔力へ変換している……! 現在の我々がすぐに稼働できる魔法少女部隊では荷が重すぎる。これは……S級案件だ……!! 彼女達をすぐに呼び戻」
「報告! 対象、なおも移動を継続中! 進行方向は…喫茶『シュノノメ』方面です!!」
「何だと……!?」
高峯の顔から完全に血の気が引く、向かっている先がこの世界の裏側を支配する絶対的な禁忌の領域であったから。
「予測不可能にも程がある…!!」
それは最悪の災厄が最悪の黒幕のテリトリーへ土足で踏み込む恐るべき事態だった。
ーーー
数分後。
カランカラン、喫茶店のドアベルがどこか不穏な音を立てて鳴り響いた。
店内に一歩足を踏み入れたその存在から放たれるのは空間そのものを腐らせるかのようなドロドロとした黒いオーラ。
遂に神代の精神と肉体を行きがけで乗っ取ったアクアゼウラスは捕食者の笑みを浮かべてカウンター席に目を遣った。
カウンターの一角では先ほどから激しく毛を逆立て始めたコクヨウを膝に抱きかかえてその毛並みを何とかブラッシングしようとしていた零士がいた。彼は動きを止めてパチパチと瞬きをする。
「ん? ……神代か、ペット引き受けに来たのか。さっきからすごい殺気立ってて大変でさ……」
「……ていうかなんかお前変な色のカラコン入れてるな。あとなんか後ろの背景がモヤモヤしてるし髪色もより黒くなってるしホントに気が参ってるみたいだな」
零士の目には「謹慎処分を食らって精神的に参った彼女がイメチェンして突撃してきた」ようにしか見えていなかった。
恐るべき魔力のプレッシャーも彼にとってはちょっと湿気ているので換気扇回すか程度の認識である。
しかし特級精霊であるコクヨウは既にとんでもない化け物がやって来た事を察知していた。
そして瞬間。
カウンターの奥から弾丸のように飛んできたベルゼが赤紫の爪を立て寄生神代に飛び掛ったのだ。
『おお。来たか呪詛の類。デカい面してテリトリー主張しやがって』
「零士ッ!! 隠花ッ!! コイツは本物だ! 我でも油断していればただでは済まん!!」
「ひ、う、あ……」
隠花はあまりの動揺にガチガチと歯を鳴らす。
よりにもよって神代が何らかの化け物に乗っ取られているという事実、そして自分の大切な居場所が圧倒的な暴力によって脅かされようとしている恐怖。
『安心しろ。すぐに呪詛って最高の負のエネルギーを食い散らかしてやるからよぉ』
神代の肉体を借りた寄生魔獣は歓喜にそのおぞましい合成音声を震わせ、神代の手を漆黒の触手状に形を変えた。
(……おいおい嘘だろ。カラコンどころじゃねえ。あの喋り方といい腕から生えてるウネウネした触手といいアイツ完全にネットとかで見るガチの魔獣に脳みそ乗っ取られて操られてるじゃないか…)
徹底的なマイペースである零士だが目の前で幼馴染の手が物理的に変形しているのを見て流石に事態を察知した。
(詰め過ぎた…のか…)
自分が過去のいじめに対して冷徹に詰め寄りすぎたせいで彼女は心を病みこんなバイオハザード的な化け物の苗床にされてしまったに違いないのでは……と尻込みする零士。
彼は居ても立ってもいられず声を張り上げた。
「おい魔獣! 人の身体で勝手に暴れてんじゃねえ! 臓器売買の闇組織か何かか!?」
『ノータリンが……こっちは既に臨戦態勢に入ってるってのに総魔導統括さんは本物の馬鹿かよ?』
しかし怒号を走らせる零士をよそにカウンターの奥で隠花は完全に硬直していた。それは恐怖からではない。
アクアゼウラスという最悪の魔獣が神代を乗っ取っている事実に対して『エゴ』が頭を過ぎり彼女を硬直させていたのだ。
(……神代さんが……完全に乗っ取られている……)
(神代さんを助ければ……心配した零士くんがまた……神代さんの元に行ってしまうかもしれない……)
隠花の脳裏に一瞬だけ濁った感情が鎌首をもたげた。
(……このまま撃退して……あの化け物に寄生されたまま神代さんは連れ去られて……全部見なかった事にして…)
神代がいなくなれば零士を悩ませる過去の女はいなくなりこの平穏な喫茶店で隠花だけの楽園を永遠に維持できるかもしれない。
この楽園が壊れてしまうかもしれないという恐怖から解放されるかもしれない。
まるで誘惑するかのようなエゴ。
しかしそれがアクアゼウラスに対する隙を生んでいた。
『まあここに来て舐めては掛からないから。こっからは俺の権能黒槍を十分に使わせてもらう。』
アクアゼウラスは神代の肉体を極限まで駆動させて触手状の手に魔力を瞬時に集め、そして何者をも貫く黒魔法を5本の指先を口に咥える事で付与して其々に集中させる。
「あっ…ダメぇッ……!!」
彼女の鋭敏すぎる陰陽呪詛の視覚は起きていた事への真実を克明に捉えており次のアクアゼウラスの一撃が致命的なものであると知覚させた。
零士のに向けて、寄生神代の指先からスライムが伸びるように至近距離で放たれた5本の黒槍。
かつてS級魔法少女相手でさえも致命傷を与えた魔力を持つ者へ追尾するアクアゼウラスの絶招である。
隠花の絶叫を受けてベルゼが零士の前に飛び出て庇うものの…
ドシュシュシュシュシュッ!!!
「ぎ、がっ!?」
それはベルゼの並の攻撃すら通さない防御でさえも貫いてしまった。
ーーー
しかし黒槍が放たれる前。一方で零士の脳は別の最悪の事態を想定してフル回転していた。
(あいつ指を口の中に入れやがった……)
(!!!……まさかこれから店内でゲロをぶちまける気か!? ガチの不審者が限界を迎えた時の前兆だろう!!)
零士にとって何よりの危機は「店内で嫌がらせ混じりにゲロをぶちまけられ床の絨毯を全取り替えになる大損害」の方が遥かに恐ろしかった。
「させるかよ!! 絨毯のクリーニング代はクソ高いんだッ!!」
洗練とは程遠いドタ足の一般人全力ダッシュ。
零士はゲロの直撃コースを直感的に避けるためカウンターのお盆と膝上のコクヨウを瞬時に取り替えそのお盆構えるような姿勢で猛烈に身をよじった。
信じられないことにこの絨毯を守るための必死の泥臭いステップがアクアゼウラスの計算を狂わせた。
零士の身体には魔力が宿っていない。つまりアクアゼウラスが放った魔力を追尾する自動必中のレーダーに零士の肉体が全く引っかからなかったのだ。
魔獣からすれば相手が完全なステルス状態で物理法則を無視した超不規則なジグザグ移動をしているようにしか見えない。
ビガガガガガッ!!!
ベルゼを貫いた絶対不回避の黒槍は激しく身をよじった零士の脇の下、股下と其々の箇所を虚しく通り抜けて背後のカウンター壁へと突き刺さり霧散した。
『え』
「えっ」
「えぅ…!?」
…………
予想外の事態に各々が戦慄し静寂が訪れる。
(おかしいぞ…確かにコイツからは魔力を感じないが俺が手に入れた情報じゃあ総魔導統括ってのは魔力を隠してるはずだ)
(なんで外れた…!?)
アクアゼウラスはなおも戦慄した。
更に恐ろしいことに素で黒槍の軌道を見抜いて躱したともなれば魔獣の中ではやる事は1つだった。
(S級魔法少女ですら食らわせたこの一撃を魔力すら完全に消して軌道も見抜き躱す異常な素質……)
(……ならば依り代を乗り換える手は無いよなぁ!!)
アクアゼウラスは判断を変えて神代の肉体で零士に突撃。
「神代っ!!」
立ち上がった零士は身を投げ打つように飛び掛かってきた神代を怪我をしないよう受け止める。
「!!」
しかしその隙を突いてアクアゼウラスは零士の体内へとドロドロの精神体となって飛び込んでしまった。
「冷たっ!?」
体内へアクアゼウラスが侵入するが零士は認識する間もなく氷水でも掛けられたのかと錯覚して身体を瞬時に乗っ取られてしまった。
『さて…コイツの身体の仕組みはどうなってる…?』
『!?』
零士は正真正銘の魔力ゼロ。アクアゼウラスがどれほど探知しようとも魔力回路は彼の体内には存在しない。
『な、なんだこれ……!? 魔力の伝達経路がどこにも繋がらん遮断されているのではなく最初から無いのか……!?』
想定外の事態にアクアゼウラスは取り乱す。
一方魔獣のパスが一時的に零士と繋がったその一瞬、魔獣の記憶の澱みを通じて零士の脳内にあるビジョンが浮かんで来た。
(なんだ……これ……)
それは神代が誰もいない教室でボロ雑巾のように泣いて自分を責め続けていたビジョン。
安物のパンを口に食んで必死に新しい食生活に慣れようとするビジョン。
何かしようと、自分達に会いに行こうとしていたビジョン。
(……)
(あいつ、マジで化け物に目をつけられるくらい精神的に追い詰められてたのか)
それを見た零士は頭の片隅で封じていたはずの罪悪感を覚えた。
(確かにあいつは昔からクソガキで俺に色々といらん皮肉をぶつけてきて、その度に俺も大人げなく詰めていた)
(それが隠花に向かって行ってから……俺は徹底的に詰めるようになってった。それが正しい行いだと信じてたから。)
自分なりの合理的倫理観に基づいた思考で零士は自問自答を繰り返す。
(でもまさか本物の魔獣の苗床にされるまでメンタルをぶっ壊してしまうなんて……)
(俺のやってきたことは死体蹴りに等しかったのか?)
精神世界で零士は俯き……そして顔を上げる。
「なら、これは俺の罪だ。」
ーーー
『はぁっ……はぁっ……よぉし……少しは動揺したが……』
『どうだ! 粗方侵食は終わったぞ。まだ強い魔法は使えんがこの身体ごと俺を攻撃すれば密接に繋がった総魔導統括はタダじゃ済まないだろうなぁ!』
「……零士くん、が……」
隠花は己の不甲斐なさと恐怖に涙を流していた。
視線の先ではアクアゼウラスが零士の身体とほぼ一体になった事を主張し彼に対して陰陽呪詛の攻撃も容易に出来なくなってしまった。
(私の……せいだ……私が……臆病で……一瞬でも躊躇して、醜いエゴで隙を晒してしまったから……!)
(私……何も変わっていない…!!)
現状維持の為に一瞬でも神代を見捨てようと考えた自分の独占欲。
その一瞬の迷いが零士を洗脳の渦中に叩き込んだのだと激しい後悔が彼女の胸を抉る。
その時だった。
「主っ!! いや隠花ッ!!」
「ッ!?」
そんな彼女の今もなお続く躊躇をいつもは肩の上でちょこんとしていたはずのマスコットが怒号と共に粉砕した。
「何を色気づいてジレンマに陥ってるんだッ!! 全部我の頭の中に入って着てるんだこのド陰キャッ!! 今回は流石に我も空気は読まぬぞッ!!」
主従を叩き込まれているはずのベルゼが黒槍で貫かれた身体で床に伏しながらも鼓膜が破れんばかりの大声で、主である彼女に汚く荒い口ぶりでリンクしてしまっている隠花の今の脳内限界思考を暴露し始める。
「零士が薄汚い魔獣の身代わりになりその寄生虫の如き魔獣に体内を汚されてんだぞ!? それを今!! 何が神代さんが消えれば独り占めできるだッ! その考え自体がお前にとって最大の不敬だろうがッ! 今すぐその安っぽい嫉妬心と独占欲を切り捨てろおおッ!!」
「ベルゼ……!!」
隠花は真っ赤になって泣き腫らした顔を上げて己の頬を両手でペシペシと激しく叩いた。ベルゼの激昂と激励が彼女の心の迷いを完全に消し飛ばした。
(そうだ……!! さっきだって神代さんが向かって来た時に零士くんは彼女に怪我をさせない為に身体を受け止めた…!!)
(もし零士くんなら、どんな不都合があったって迷いなく神代さんを助けたはず!!)
「倒すべきは私の醜い心ッ!!……ここで皆を助けるんだッ……!!」
隠花の瞳からいつもの弱気な光が消え失せた。
彼女は涙を拭うとモジモジとした歩調のままだが確固たる意志を持って一歩前へと踏み出した。
これまでの隠花の呪詛はただベルゼ伝いであったものだが今の彼女がやろうとしているのは至上の難易度を誇る魂の超精密外科手術である。
「……私のエゴなんてどうでもいい……お願い来てっ…!!」
隠花は涙を拭い去り両手を天井へと掲げた。
彼女の足元からこの世の光を全て吸い尽くすかのような濃密な陰陽呪詛の影が爆発的に広がり空間を歪めながら世界を隔てる次元の壁……位相を強引にこじ開けた。
隠花が深淵の位相から引きずり出したのはアクアゼウラスを芯から剥離・分解・浄化するために必要な固有の性質を持つ3体の異形の神獣。
「キョオオォオンッ!!」
空間の分子さえも焼き裂く白炎を纏う朱き霊鳥。
「ビシャアァアアッ!!」
魂の因果そのものを絶対零度で凍り付かせる蒼き大蛇。
「グオオォォオンッ!!」
あらゆる魔導障壁を物質ごと噛み砕く漆黒の魔虎。
喫茶店の狭い空間に顕現した3体の神獣が放つ圧は建物の窓ガラスをビリビリと震わせる。
しかしここからが難題であった。
呪詛の天才である隠花でさえ神獣たちはそれぞれが国家崩壊級の破壊力を持つが故、そのままでは超精密ではなく雑な即席の攻撃になってしまい零士の肉体ごと魔獣を粉砕してしまう。
隠花が深層心理から呼び出した彼らは適した性質は持つものの本来強大すぎる広域破壊兵器であり零士の魂の隙間に潜む魔獣だけを取り除くような超精密な外科手術には厳しい。
(ここからだ……どうすれば……3つの歪な力を零士くんを傷つけずに一つに集中させられる……!? 考えろ……考えろ……!!)
隠花の精神が焦燥に焼き切れそうになったその時。
『ん?』
ピクピクとアクアゼウラスに寄生された零士の人差し指が動きピンと床で小さくなっているコクヨウの姿をピンと指した。
『ははっ最後の抵抗かよ』
「……」
しかし隠花には分かった。
その首に巻かれたベルゼの作ったベルトの首輪。
零士が何気なく施したあの処置、それこそが荒れ狂う神獣達を完璧に縛り一定の指向性と制御を与える絶対の檻のシステムであることを隠花は直感的に理解した。
(零士くん…!! ありがとう…!!)
「おいで、ベルゼ」
「……首輪になって……3体を繋いでッ……!!」
「応!! 最高のアイデアだ隠花ッ!」
ベルゼが叫びながら穴の空いたその肉体を漆黒の棘付きの鎖首輪へと変貌させた。
隠花が練り上げた極限の魔力によって編まれたベルゼの鎖は3体の神獣の首へと同時に巻き付きそれらをトライアングルの陣形で強固に連結。
朱き霊鳥の炎、蒼き大蛇の氷、漆黒の魔虎のエネルギーがベルゼの鎖を媒介にして中央の一点へと超精密に収束していく。
零士の魂を傷つけずアクアゼウラスの核だけを正確に消滅させる三位一体の精密呪詛陣が完成した。
『化け物が!! なんて奴だ…だがなぁ……!!』
零士に寄生したアクアゼウラスもただ消滅を待つだけの存在ではなく体内から黒魔法の質量を指先に密かに集めて両腕に鋭利な二条の黒槍を潜めさせた。先程の強力な魔法など使えないなど真っ赤な嘘であった。
その黒槍は1度両手をパンと叩き出し合わせれば陣形の要であるベルゼの鎖を貫通粉砕せんと凄まじい速度で突き出される。
この一撃を受ければ陣形が崩壊するだけでなく鎖となっているベルゼも、崩壊の余波で隠花自身もただでは済まないだろう。
ーーー
ペロペロ…
生温かい感触に気を失っていた神代は目を開けると、その目の前にいたのは彼女から取り上げられた筈のコクヨウがいた。
「どうして……?」
「キュウゥン」
「……!!」
目の前で起こっていた事態に神代は目を見開く。
恐らく寄生されて髪が漆黒に染まった零士、そして対峙していたのはとてつもない魔法を放とうとしている隠花。
以前の神代であれば事態を把握出来ずに狼狽えていただろうが今は違う。零士が自分を庇ったことと隠花が面と向かって対峙していること。戦士の意図を彼女は汲み取った。
そこにコクヨウが身体を奮い立たせて寄り添い神代はコクヨウを強く抱きしめた。
本来彼女の魔力回路は完全に焼き切れており一滴の魔法も放てない無能の身であったが最高戦力たるコクヨウの本質は対象の魔力を底上げ・増幅する性質だった。魔力回路という魔力生成器官が死んでいてもコクヨウが神代の魂と直接リンクし一時的に外付けの補助心臓として機能すればかつてのような戦術級の大魔法は使えずとも更に焼き切れる激痛と引き換えに微弱な一撃を放つことだけは可能。
『あばよぉ…!』
にやりと嗤うアクアゼウラス。
両腕を素早く動かし黒槍を放とうとした。
その瞬間。
バチィィィンッ!!
コクヨウから供給された純白の霊力が神代の手のひらから一筋の細い光の矢となって放たれる。
その威力は他の魔法少女と比べても雀の涙も同然の威力。アクアゼウラスを倒すことなど到底不可能なあまりにも弱く儚い攻撃。
しかしそれで十分だ。
神代の放った執念の光の矢はベルゼの鎖を貫こうとしていたアクアゼウラスの合わせた両手の側面へとピンポイントで着弾。
あまりにも威力が弱いからこそアクアゼウラスに勘付かれる事無くその絶妙な着弾の衝撃によって両手の攻撃軌道がほんの数センチだけ逸らされたのだ。
『え……』
『……な、何やってんのお前ぇぇぇエエェエッッ!?!?』
「私の誇りを……犯した罪を……ここで贖うんだぁッ!!」
神代の全身の毛細血管から血が噴き出し視界が赤く染まるものの彼女は怯まなかった。
神代の決死のアシストによって隠花の結界は一瞬の隙も生じず完璧に維持された。
「……ありがとう、神代さん…!」
「……これで、終わりッ!!」
隠花の指先が冷徹に振り下ろされる。
トライアングルに繋がれた3体の神獣の力がベルゼの鎖を媒介にして極限の細さの因果消滅レーザーとなり零士の胸元へと突き刺さった。
零士の肉体や魂を傷つけることなくその内部で完全に身動きを封じられていたアクアゼウラスの魂のコアだけを正確に根元から消滅させていく。
『いやいやいやいやちょっまっホントにこれはシャレになr』
『あぁぁあぁんんぁああぁあッッッ!?!?』
遺伝子レベルから存在を消去させアクアゼウラスは断末魔の悲鳴を上げながらその声の響きすらも空間ごと完全に消滅させた。
塵一つ、魔力の残滓一つも残さない完全なる無への帰還。
魔導院がS級案件として総力を挙げても駆除困難とされたクラスカラミティ寄生魔獣はこの世から無くなって消えた。
ーーー
意識を取り戻した零士は喉の奥のピリピリ感が綺麗さっぱり消え去ったのを感じて小さく息を漏らした。
「なんか今、胃のあたりから炭酸が抜けたみたいにスッキリしたよ。」
「隠花、神代、ありがとうな。」
「……ふ、ふええぇぇ……よ、よかった……ぅう」
極限の緊張から解放された隠花はその場にへたり込んでいつものもじもじとした陰キャ少女に戻り真っ赤になりながらエプロンで顔を隠した。
神代も弱々しくコクヨウと共に身を起こすと瞳の漆黒は消え去り元の綺麗な瞳に戻っていた。
彼女の脳内には自分が魔獣に乗っ取られ暴走し、そして……零士が魔力を持たないはずの自分の身体を危険から泥臭く庇って飛び込んできてくれた記憶が鮮明に残っていた。
「零士……私は貴方にまた……」
「おい神代、立てるか?」
零士は神代に手を差し伸べた。
「っ……でも……私は………!!」
そして先ほどアクアゼウラスから神代の記憶を見たことを踏まえて、静かにしかし優しい声で語りかけた。
「もう十分に報いは受けただろ」
「ッ!!」
「お前が裏で色々と大変だったのはさっきなんとなく分かったよ。過去の悪ガキ時代のやらかしについては俺も悪かったよ。だからもうそんな変な化け物に脳みそ乗っ取られるまで引きこもって自分を追い詰めるな。」
「今まで俺が不器用ですまなかったな」
「れ、零士……!!」
そこに全てを終えた隠花がおどおどと歩み寄って震える口ぶりで神代に語りかける。
「かみ、しろ……さん……」
「隠花……」
「わたし……怖くて……この状況を維持したくて、誰かを蔑ろにしてたのは寧ろ私の方だったん…です……」
「今回それが分かって……だからごめ…」
「謝らないで…!」
「…!?」
謝罪の拒否に驚く隠花だが神代は言葉を続ける。
「安易にいじめに走っちゃったのは…私の方だから。」
「それは…今になって思えば許されない事だと思うの…もう魔力回路は無いから魔法少女としての奉仕は出来ないけど…貴女にしてしまった事に対して何かやれる事があるなら……」
「…かみしろ、さん…なら……」
「私達…もう一度、やり直したいです…!」
「隠花…!!…うぅ……」
神代の目から大粒の涙が溢れ出た。
零士と隠花からの直々の罪の赦し。自分のこれまでの不遜を全て水に流してもう一度人間として生きる機会を与えてくれたその慈悲の深さに彼女は声もなく震えた。
「あとそれお前のペットだろ。勝手にうちに逃げ込んできて客寄せパンダになるところだったからちゃんとケージに入れて飼えよな」
零士は神代の足元で大人しく丸くなっていたコクヨウの首についたベルトの首輪を外して改めて神代への譲渡を認めた。
「キュゥゥン……」
コクヨウは完全に牙を抜かれた子犬のような甘ったるい声を上げ神代の足元にすり寄った。ベルトの首輪という最強の封印具から解放された事と零士の直々の許し、そしてアクアゼウラスとの戦闘を経て神代の覚悟と改心を悟り調伏を認めた。
「零士…でも流石にこれは……」
しかし神代には魔導院から言い渡された数々の制限がある。だが零士は続ける。
「これは俺の罪だ。」
「「「!!」」」
「だから俺達の間での問題に異議を唱える外野がいたら何時でも呼んでくれ。」
「というか俺が察したらお前が呼ばなくても俺が行く。プライドが許さん」
「ホントに…不器用なんだから。」
神代はコクヨウを抱きしめると一応は礼儀として何度も何度も頭を下げながら喫茶店を後にした。
その足取りは先ほどまでの絶望に満ちたものとは違いどこか救われたような軽やかさがあった。
ーーー
戦闘が終わってからの一連の様子は全て魔導院も把握していた。
「……バカな、あり得ん……こんなことが人間の範疇で許されていいのか…!!?」
S級案件のカラミティクラス寄生魔獣アクアゼウラスがあの喫茶店に侵入した直後に魔力の衝突……つまり碌な戦闘すら発生せず無と化したのだ。
まるで最初からそんな化け物は存在していなかったかのように消滅させられた。
そして高峯を最も戦慄させたのはその後の事。
「『俺達の間での問題に異議を唱える外野がいたら何時でも呼んでくれ』だと!? つまり総魔導統括は神代家を完全に自分の私有物として組み込んだと宣言したとでもいうのか…!? 我々魔導院が神代家にこれ以上の行動制限や制裁を加えることは彼に対する直接の敵対行為と見なすという意味だ……!」
さらに高峯を絶望させたのは神代の手へと完全譲渡された国家最高戦力たるコクヨウの所有権だった。
「それに精霊国から独りでに脱出してまであの男の元へ自発的に調伏されにいったコクヨウの所有権をあえて神代に突き返すだなどと…!!」
凄まじく苦悩の様相を見せる高峯にオペレーターの一人が挙手をし起立しながら意見を唱えた。
「失礼ながら……これは……これは……『国家の切り札など私にとってはいつでも奪えるしいつでも返せる程度の玩具に過ぎなく、譲渡権をこちらで完全にコントロールしている事自体がお前たちの生殺与奪を握っている証拠だ』という警告の意味では…!?」
「まさか…! そんな…!!」
そして更に後ろに控えていた最高幹部の臼倉が高峯に耳打ちをする。
「先程の総魔導統括の発言……『というか俺が察したらお前が呼ばなくても俺が行く。プライドが許さん』……これは明確な警告だ。もし我が魔導院が裏で神代家に不穏な動きをすれば神代が助けを呼ばずとも総魔導統括自らが我々を滅ぼすために魔導院の本部に直接潰しにかかるという脅迫。彼のプライドに賭けて国家の要たる存在を消去するという絶対的な宣告だ……!!」
作戦指令室のモニターには依然としてS級案件だったはずのアクアゼウラスが魔力の衝突すら発生せず、圧倒的な魔力の蹂躙で一瞬にしてデリートされたデータが無慈悲に表示されている。
あんな怪物をノーモーション消滅させる男が呼ばれなくても直接やってくるのだ。
そんなことをされればこの組織は間違いなく一日で跡形も無くなる事を今回高峯は再確認した。
「……神代家をこれ以上刺激するな。今すぐ彼女たちを『超重要国家保護対象』に指定しろ……」
高峯は恐怖で顔を真っ青にしながら無線通信に向かって力無く指令を下した。
「作戦本部より各局へ命じる! 神代家に対するこれ以上の行動制限および監視処分を全面解除! 彼女たちの周囲に国家規模での社会復帰と経済支援を配置せよ! コクヨウの譲渡権ごと総魔導統括の庭になった神代家に決して不自由をさせるなとの事!!」
オペレーター達が一斉にその文言を繰り返し伝える。
高峯はドサッと司令席に座り呆然としていた。
「臼倉さん……俺、局長の座を降ります…」
「高峯……」
「不甲斐ないながら俺は大河原とは違うと思っておりました。彼の事をリソースを食い潰す豚だと思った事さえあります。」
「しかしその豚すら手中に収めて上手く調理し最高の料理に仕上げられるのが総魔導統括。キッチンに居ない時でさえそれが出来る。」
「俺は…豚の事をただ見下してキッチンに立っていながらふんぞり返り碌に料理すらせず右往左往して邪魔になる無能だったみたいです。それが今ハッキリと分かりました。」
ここに来て高峯は自分の今回の不振の結果を重く受け止めたようで局長辞退の旨を申し出た。臼倉は眉間に指を当ててきつく目を瞑りながら真剣にその言葉を受け止める。
「でもそれならせめて現場に出てみたい。彼をもっと近くで観察してみたいんです。」
「高峯…!? という事は…」
「専属監視委員を新たに設けたいです。俺の『新進気鋭の後輩』もそこにつかせ共に総魔導統括の監視へ動きます。」
こうして神代家は監視を受けながらも社会復帰することが確定。
神代麗奈本人は国家規模あまりのサポートに少し戸惑ったそうだが快く受け入れた。
ーーー
「……あ、あの……零士……くん……!」
いつものカウンターの奥でエプロンを握りしめて顔を真っ赤に染めた隠花が蚊の鳴くような声で零士を呼び止めた。その瞳はまだ涙で潤んでおり今にも消え入りそうなほどに震えている。
「私、は……神代さんが、消えればいいって、一瞬……本当に、最低……ことを、思っちゃって……なのに、零士くんは、私を……私の、お祈りの……おかげだって……私、そんな、真っ当な人間じゃ、ない、です……っ!」
それは隠花が初めて零士にさらけ出した自身の本音だった。
急に涙ながらに告白された零士はコーヒーミルに差し出していた手を引っ込めパチパチと瞬きをしながら完全に困惑した。
マイペース一辺倒の零士には隠花の抱える「ライバルに対するジェラシー」が理解出来ていなかった。
そんな零士の困惑を見透かしたように隠花の肩の上でベルゼがやれやれと首を振り翻訳し始めた。
「零士。主はな……神代さんが消えれば零士くんを独り占めできると思った私のドロドロした醜いエゴはあまりにもおぞましく、そんな最低な邪念を抱きながらお祈りを捧げた私なんて清らかな零士くんの隣にいる資格なんてないから私のエゴなんて今すぐ断捨離して聖域たる零士くんの平穏な生活を死守し、自分は今すぐこの世の底に引きこもりた」
「べ、ベル……ゼ…!!」
あまりにも身も蓋もない暴露に隠花はカウンターの床に崩れ落ち頭を抱えて完全に丸くなってしまった。
その様を特等席で見せつけられた零士はようやく事の全貌を彼なりのフィルターを通して理解した。
隠花は神代がこのまま怪しいあの寄生魔獣に連れ去られてこの店に二度と来なくなれば自分の大好きな空間を誰にも邪魔されずに独り占めできると、一瞬だけ不謹慎なことを考えてしまったのだと。
そしてその一瞬の不謹慎な心の迷いを律儀にも「私は真っ当な人間じゃない」と大真面目に反省しているのだと。
(どこが最低なんだよ。むしろ自分の都合より誰かの平穏を優先してくれた結果じゃないか)
いつもなら軽く受け流すところだが本日は少しだけ優しく寛大になっていた。
自分の大好きな居場所の為に涙を流して殻を破ってくれた少女の想い。
それを今度は素直に受け入れることに決めた。
「なんだ、そんなことで悩んでたのかよ……隠花」
零士は床で丸くなっている隠花の前にしゃがみ込んでその大きな帽子に優しく手を置いた。
「お前が一瞬でもそう思ったならそれがお前の本音なんだろ。だったら別に無理して真っ当な人間になんてなろうとしなくていいよ。」
「へっ……?」
「実は魔法少女だっていう自分の殻を破ってまでこの店を守ろうとしてくれたお前のそのエゴ、俺は嫌いじゃないぞ」
あまりにも優しく自分の歪んだ独占欲ごと全てを肯定してくれる慈悲のような言葉。
「よかったな隠花! 零士はそのエゴにお墨付きをくださったようだ。今後はもっと堂々と零士の隣に居れるではないか!」
「う、うう……零士くん……私、もっと……もっと頑張って、この場所を……守ります……ぅ」
真っ赤な顔のまま、今度は嬉し涙をボロボロとこぼしてコクコクと何度も頷く隠花。
カランコロン…
来客の鐘が鳴り響き、店員モードに切り替えた彼らは今日も元気にブレンドコーヒーを淹れるのだった。
お疲れ様でした。
以下書いていて自分でも感じたQ&Aです。
Q.なんか作風変わった?
A.多分別作品のプロットから取ってきたせいかもしれないです。自分の中では最も合うプロットを見つけてキャラの整合性をつけたつもりですが、現時点最速で出来る限りやれる事の範囲内を目指し焦った結果かもしれません…
Q.1日でこれはAI使用
A.タグ隠しの怖さは後でどうなるか知っております。
ハーメルン内外でも掲載してる別作品から予定していたプロットを取ってきて急遽組み立てました、ご容赦お願い申し上げます。
Q.色々なクオリティがこんなんじゃ満足できねぇぜ…
A.申し訳ございません、それはもう私の未熟次第です…そもそもこの作品見切り発車で始めましたので(暴露)
現時点では手は尽くしてしまった……1章目終了!! 本来のオマケ投稿は反響見てからにします
やはりちょっと受けなかったみたいか…すまんなみんな…