「ひやああぁぁっ!? もうダメ、ノウゼン! 前が……前が全然見えないよ〜〜っ!」
「マチエール、俺の手を離すな! あっちの木立ちの奥に小屋が見える、走れ!」
クノエシティへと続く山道を進んでいたマチエールとノウゼン、そしてもこおたちを襲ったのは、前方の視界すら黒く押し潰すほどの突発的な猛烈な豪雨だった。雨粒というよりは滝のような水の塊が叩きつけてくる悪天候の中、二人は命からがら山奥にひっそりと佇む木こりの小屋へと飛び込んだ。
バタンッ!
重い木製扉を閉め切ると、激しい雨音が少しだけ遠のく。
「はぁ……はぁ……すごかったね……死ぬかと思った……」
「……ああ。だが、なんとか雨は凌げそうだ」
ノウゼンは乱れた黒髪をかき上げ、荒い息を整えながらカバンのファスナーに手をかけた。濡れたマチエールに渡すタオルを取り出そうとした——が、その長身を硬直させ、指先をピタリと止める。
「……ノウゼン? どうしたの?」
「……マチエール。絶望的な報告がある」
「え?」
「カバンの防水ファスナーが壊れていたらしい。……着替えも、タオルも、全て水没した」
「ええええええっ!?」
マチエールが自分のカバンを開けると、そこには無残にもたっぷりと水分を含んだ洋服たちの姿があった。持ち上げるとぽたぽたと水滴が滴り落ちる。
「ニャ〜〜〜ン……」
もこおが呆然と濡れた服を見つめ、耳を力無く垂らした。
「このまま濡れた衣服を着用していれば、あっという間に体温を奪われて体調を崩す。……マチエール、服を脱げ」
「ふぇっ!?」
「勘違いするな。暖炉に火を熾す。服は乾くまで干しておき、俺たちは毛布を被って暖をとるぞ」
ノウゼンは一切の雑念を振り払うかのようにテキパキと動いた。手際よく暖炉に薪をくべると、モンスターボールから出したゾロアークに頼んで『かえんほうしゃ』を利用して暖かな火を熾させた。火が燃え広がると、マチエールの方へ熱がしっかり届くよう薪の配置を微調整し、少しでも冷気が入らないようドアの隙間に古い布を詰める。無意識のうちにマチエールを寒がらせないよう配慮する、ノウゼン本来の誠実で細やかな紳士さが随所に溢れていた。
「……よし。俺は背を向けている。着替えが終わったら声をかけろ」
◇
「……よし、着替え終わったぞ」
「あたしも……おわった……」
濡れた衣服を暖炉の前のロープに干し、下着の上に一枚の大きな毛布を羽織ったマチエール。
「……暖炉の前へ来い。冷える」
「あ……うん……」
ノウゼンの隣に、マチエールはおそるおそる座り込んだ。ノウゼンはマチエールの肩が冷えないよう、毛布の端をそっと引き寄せて優しく被せてやる。
暖炉のパチパチという薪のはぜる音。そして、毛布越しに伝わってくるノウゼンの熱量。
(ひええぇぇぇっ!? 近いっ!! 近すぎるよおぉぉっ!?)
16歳の年頃の少女であるマチエールにとって、この状況はあまりにも刺激が強すぎた。 毛布越しとはいえ、少し動くだけでノウゼンの服の下に隠された引き締まった体の温度や硬さが伝わってくる。ノウゼンから漂うほのかな雨と柑橘の香りに、マチエールの頭は一瞬でキャパオーバーを起こし、顔はリンゴのように真っ赤に染まっていた。
(ど、どうしようどうしよう! ノウゼンの息遣いまで聞こえるよ……っ! あたし、心臓の音がうるさすぎて爆発しそう……っ!!)
パニックを起こし、毛布の中でカチコチに固まるマチエール。
しかし——隣に座るノウゼンは、静かに目を閉じ、暖炉の炎のぬくもりを受けたまままま、恐ろしいほど無表情だった。その中性的で端整な顔立ちには、動揺の「ど」の字も見当たらない。
(……このような緊急事態において、年上の俺が少しでも狼狽えを見せれば、あいつを余計に不安にさせてしまう。ちゃんと『頼れるパートナー』として振る舞わないとな……)
ノウゼンの頭の中では、冷徹な思考と年長者としての責任感が完璧な防壁を築いていた。
「……ねえ、ノウゼン」
「なんだ」
「……なんとも思わないの?」
「何がだ」
「何がだ、じゃないよ! こんな……こんなに近くにいるのに!」
マチエールが小さく抗議するが、ノウゼンは銀の瞳をちらりと向けただけで、淡々と答えた。
「無駄な取り乱しは体力を消耗するだけだ。お前は子供なんだから、余計なことを考えずに静かにして体温を保て」
「〜〜〜〜〜っ!!」
『お前は子供なんだから』
——その一言が、マチエールの胸に突き刺さった。
(歳だって3つしか違わないのに……!な、なんか……あたし一人でドキドキしてバカみたいじゃん!! 釈然としない……すっごく釈然としないよーっ!!)
マチエールは決意した。
(絶対に……絶対にノウゼンのそのおすまし顔を崩してやるんだから! 少しはあたしのこと、女の子として意識させてやるっ!)
マチエールは作戦を開始した。
まずは「うっかり」倒れ、ノウゼンに寄りかかってみる。
「あ、ごめんねノウゼン〜! ちょっと滑っちゃった〜!」
「……気にするな。もっと中央寄りに座れ」
(ノーダメージ!?)
次は、上目遣いでノウゼンの顔を覗き込み、しなだれかかってみる。
「ノウゼン……あたし、寒くて震えちゃいそう……(チラッ)」
「そうか。なら薪を増やしてもう少し火を強くするか。毛布も巻き直してやる」
(手際よく毛布をロール状に巻かれて身動きを封じられた!?)
最後は、禁断の距離まで顔を近づけ、ノウゼンの耳元で小さく囁いてみる。
「……ねえ、ノウゼン。あたしのこと、本当に『ただの家族』としか思ってないの……?」
(……っ!? この、馬鹿が……。 自分が何を言っているのか分かっているのか?)
その発言がわずかにノウゼンの一定だった心の波長を乱す。しかし、彼の誠実な精神が、それを表に出すことを拒んだ。ノウゼンは奥歯を噛み締め、ピクリとも表情を変えずに冷たく言い放った。
「くだらない冗談を言っていないで、早く寝ろ」
バタバタと右往左往しながら仕掛けたマチエールの「色仕掛け(?)」は、完全に不発に終わった。 その様子を、暖炉の横で毛布にくるまっていたもこお、ゾロアークたちが並んで見つめていた。
「ニャ〜〜〜パ……(半目で盛大な溜め息をつくもこお)」
「クァ……(呆れたように鬣で顔を覆うゾロアーク)」
ポケモンたちの冷ややかで温かい「何やってんだあいつら」という視線が痛いほど突き刺さる中、マチエールは不完全燃焼のまま眠りにつくのだった。
◇
翌朝。雨が上がり、服を乾かした二人が向かったのはクノエシティのジム——ファンタジックな巨大樹の中に広がるクノエジムであった。
「……マチエール、観客席で見ていろ」
「うん! ノウゼン、がんばってね!!」
妖精のように華やかな振袖を纏い、ふんわりとした京言葉を話すジムリーダー・マーシュ。だが、繰り出されるフェアリータイプのポケモンたちの攻撃は実に繊細かつ強力だった。
バシィィィンッ!
「クノエジムの『はんなり』した舞、受けておくれやす!」
「クロバット、『クロスポイズン』!!」
ノウゼンは一瞬の隙も見さず、無駄のない流麗な指示で相手のペースを崩していく。完璧な指示を出し、銀の瞳を鋭く光らせて勝利を引き寄せるその佇まいは、観客席のマチエールを魅了して止まなかった。
「ノウゼンーッ!良いよ!そのまま行けーっ!!」
観客席の最前列で、相棒のもこおと一緒に身を乗り出し、顔を輝かせて大声で応援するマチエール。
(……ふふふ。あちらの可愛いお嬢さん、ええお顔をしてはりますなぁ)
激しい攻防の最中、マーシュの視線はノウゼンだけでなく、観客席で彼を一心に信じ、弾けるような笑顔で声を張り上げるマチエールへ注がれていた。
見事なコンビネーションでクノエジムを攻略したノウゼン。バッジを受け取り、マチエールの元へ戻ろうとしたその時、マーシュがはんなりと微笑みながら歩み寄ってきた。
「ノウゼンさん、見事な戦いぶりどした。……ところでそちらの可愛らしいお嬢さん、うちで近々開かれるファッションショーで、モデルとしてランウェイを歩いてみはらへん?」
「ええええええっ!? あ、あたしがモデル!?」
驚くマチエールに対し、ノウゼンはすぐさま彼女を背中に庇うように前に出た。
「‥‥‥あいにくマチエールには、そのような華やかな場に立つ趣味も関心もありませんが‥‥‥」
ノウゼンにとって、それは当然の判断だった。ハンサムに保護される前、ミアレの路地裏で明日の食べ物にも困るような生活を送ってきたマチエールだ。服といえば動きやすさと頑丈さ重視で、それまで「おしゃれ」や「ファッション」といった華やかな世界には、一切の関心を示したことがなかったのだから。
しかし——。
「ちょっとノウゼン! 勝手に決めないでよ! ……あたし、出たい! モデル、やってみたいっ!」
「……えっ?」
ノウゼンは思わず素の声を漏らし、目を見開いてマチエールを振り返った。
(……マチエールが……ファッションショー……?)
「マチエール、何を考えているかは知らんが、遊び半分で引き受けるような仕事じゃないぞ」
「遊び半分なんかじゃないよ!」
マチエールはノウゼンの前に歩み出ると、まっすぐにノウゼンの銀の瞳を見つめ返した。その瞳には、かつて路地裏で怯えていた少女の面影はなく、凛とした強い光が宿っていた。
「あたし……ハンサムハウスの2代目所長なんだよ。ハンサムさんに拾ってもらって、温かい場所をもらって……ノウゼンとも出会えた。だからこそ、いつまでも『守られるだけの妹』でいたくないの!ノウゼンに支えられてばかりじゃなくて、いつか、ノウゼンを引っ張っていけるような立派な所長になりたいんだよ……っ!」
「マチエール……」
(もちろん……昨日の夜、あたしのこと子供扱いしたノウゼンをギャフンと言わせてやりたいのもあるけど! でも……綺麗になって、変われるチャンスがあるなら、あたし挑戦してみたいっ!)
マチエールの言葉を聞いていたマーシュの瞳が、ふんわりと和らいだ。
「ふふふ……『探偵』としての誇りと、大好きな人の隣に並びたいという健気な決意。……そんな素敵なお覚悟、応援せんワケにはいきませんなぁ」
マーシュはパチンと扇子を閉じると、ノウゼンに向かってしなやかに微笑んだ。
「ノウゼンさん。マチエールちゃんは本番までうちがお預かりします。びっっっくりするくらい綺麗になったお姿をお見せしますさかい、黙って待っておくれやす」
「ちょっ……!」
ノウゼンの制止も虚しく、マチエールはマーシュの手によってアトリエの奥へと連れ去られてしまったのだった。
◇
アトリエの奥。大きな姿見の前に座らされたマチエール。 マーシュはマチエールの長く、少し癖のある髪にそっと細い指を通した。
「じゃあ、マチエールちゃん。この髪……路地裏で必死に生きてきた頃から、ずっと伸びたまんまなんどすな?」
「……え? あ、はい。髪を整える余裕なんてなかったから……ハンサムおじさんに拾われてからも、そのまま伸ばしっぱなしで……」
マーシュは鏡越しにマチエールの瞳を優しく覗き込んだ。着物の仕立て屋として、数多くの人間の生き様や繊細な機微を見抜いてきたマーシュには、その髪に残された「彼女が必死に生き抜いてきた過去」が手に取るように分かっていた。
「髪の毛にはね、その人が歩んできた過去や、知らず知らずに縛られている『自分らしさ』が残るものどす。……路地裏で必死に守ってきた自分も愛おしいけれど、今のマチエールちゃんは、もう一人やありません」
マーシュは銀色の大きな裁ちハサミを手に取り、はんなりと微笑んだ。
「長かった髪を切るんはね……過去の自分にお別れをして、新しい自分へと一歩踏み出す『魔法』どす。ノウゼンさんの横に並ぶにふさわしい、凛とした自分に生まれ変わる準備……よろしおすか?」
マチエールは胸に手を当て、深く息を吐き出すと、力強く頷いた。
「はい……! マーシュさん、あたしを……新しいあたしにしてください!」
「ええ心意気どす」
サクッ……サクッ……
アトリエに心地よいハサミの音が響く。 一筋、また一筋と髪が床に落ちていくたび、胸の奥で燻っていた迷いが消え去り、新しく生まれ変わっていく高揚感が体を満たしていく。
カットが終わり、洗練されたメイクを施され、マーシュが特別に仕立てたスタイリッシュで動きやすいショート丈の衣装に身を包んだマチエール。
鏡の中に立っていたのは、路地裏で空腹に喘いでいたかつてのストリートチルドレンでも、誰かに守られているだけの少女でもない。自分の足で立ち、眩しい光を放つ、一人の美しい「女性」の姿だった。
◇
ファッションショー当日。会場は立ち見が出るほどの熱気に包まれていた。
会場の壁際で、腕を組みながら舞台を眺めるノウゼン。
だが、その胸の内は困惑にあふれていた。「なぜあいつは急にショーに出ると言い出したのか」という疑問と「本当に大丈夫なのか」という心配が、ぐるぐると頭を巡っていたのだ。
『——続きまして!デザイナー・マーシュの新作です!』
華やかな音楽とともに、ステージ中央のスポットライトが眩しく灯る。
自然とその光に照らされた人物に視線を向けたノウゼン。だが——ステージの上に現れた影を見た瞬間、世界の時間がスローモーションへと巻き戻り、ノウゼンの思考に大きなバグが生じた。
(‥‥‥マーシュさんの新作か‥‥‥。綺麗な衣装だな‥‥‥)
眩しいスポットライトが、ステージ中央に立つモデルをドラマチックに照らし出す。露わになった繊細で美しいショートカットのうなじ、そして観客に向けて弾けさせた、太陽のように眩しい笑顔。
ランウェイを滑らかに歩いてくるモデルを前に、ノウゼンは無意識に銀の瞳を細めた。その立ち振る舞い、その堂々とした佇まい。
(いや……待て……あの顔立ちは……まさか……)
モデルがランウェイの先端に立ち、客席に向かって眩しい笑顔を弾けさせた。
その瞬間、ノウゼンの中でパズルのピースが完璧に合致した。
(……マ……チ……エール……!?)
ノウゼンの頭の中で、衝撃のグラデーションが駆け抜けた。
『あいつがマチエールであるはずがない』という拒絶。
『いや、間違いなくマチエールだ』という認識。
そして——『あいつは、こんなにも息を呑むほど綺麗だったのか』という、突絶的な理解。
「……っ!?」
普段の冷徹な思考回路が一瞬で完璧にフリーズし、ただの19歳の男としての素の動揺が剥き出しになった。山小屋でどんな挑発を受けてもピクリとも動かなかったノウゼンの鉄壁の表情が——ガラガラと音を立てて完全に崩壊する。
銀の瞳を限界まで見開き、絶句したまま立ち尽くすノウゼン。 これまで「少し生意気な年下の少女」「守るべき妹」として見ていたフィルターが木っ端微塵に砕け散り、目の前で光を浴びる「一人の魅力的な女性」としてマチエールが脳内に焼き付けられる。
そして、ノウゼンの脳裏には、昨日の山小屋での出来事が鮮明にリフレインしていた。
急激に押し寄せた猛烈な意識と熱量に、ノウゼンの瞳は瞠目したまま動かなくなった。心臓が胸を乱打し、ノウゼンはたまらず片手で口を覆って一歩後ずさった。
「……ッ、……ッ……!?」
その横で、ノウゼンの足元にいたもこおが、ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべながらノウゼンの服の裾をグイグイと引っ張った。
「ニャ〜〜〜パ!ふにゃあ!!(ほら見ろノウゼン! マチエールすごいだろ! 綺麗だろ!)」
さらに、モンスターボールから勝手に出てきたゾロアークが、ノウゼンの動揺した顔を横から覗き込み、「クァッ……クックック……」と肩を揺らして意地悪く笑っている。
「……やめろ、お前ら……見せるな……俺に……あいつを……」
完璧だった探偵助手の威厳は、どこにも残っていなかった。
◇
ファッションショーは大盛況のうちに幕を閉じた。 楽屋で私服に着替えたマチエールは、胸を躍らせながら会場の裏手へと走った。
「ノ〜〜ゼンっ! どうかな!? 髪、切っちゃったんだけど……似合ってる……?」
マチエールが前に回り込み、嬉しそうに顔を覗き込む。 そこには、片手で口元を覆い、顔を耳まで真っ赤にしているノウゼンの姿があった。
「……っ、……ああ。……悪くは……ない……」
顔を少し逸らし、声もいつもと比べて小さくなっているノウゼン。出会って初めて見せた動揺に、マチエールは心の中で大きくガッツポーズを決めた。
(勝った……!! 勝ったよ!! あの鉄壁のノウゼンが、あたしを見て照れてる……っ! ギャフンと言わせてやったぞーっ!)
満足感と勝利の余韻に酔いしれるマチエール。
しかし——。
ノウゼンは深く、長く息を吐き出すと、顔を覆っていた手をゆっくりと下ろした。 まだ耳の赤さは完全に引いていなかったが、その真剣で切ない銀の瞳が、まっすぐにマチエールを捉えた。
「……マチエール」
「ふぇ? あ、はい……!」
ノウゼンはおもむろにマチエールとの距離を一歩詰めると、少し低く、本音の声で呟いた。
「……よく似合っている。……綺麗だ、マチエール」
「っっっっっっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!??!?」
直撃だった。
まさかノウゼンから、そんなストレートな言葉が返ってくるとは夢にも思っていなかったマチエールは、脳許を殴られたような衝撃を受けた。 顔が一瞬で爆発したように熱くなり、頭から湯気が吹き出しそうなほど真っ赤になる。
「き、き、き、きれ……っ!? あ、あた、あたし……っ!?」
「……よし行くぞ」
逆襲に成功したノウゼンは、どこかすっきりとした表情で背を向け、歩き出した。
「あ、ちょっと待ってよノウゼン〜〜〜っ!!」
真っ赤な顔のまま、慌ててノウゼンの後ろを追いかけるマチエール。その背中をもこおがポンと前足で後押しするように軽く叩き、ゾロアークは「やれやれ」と微笑ましく見守っている。
少し前を歩くノウゼンの背中は相変わらず頼もしいが、二人の間の空気は、昨日までとは確実に、決定的に変わっていた。
アトリエの窓辺からその甘酸っぱい二人を見送っていたマーシュとその助手の少女たちは、満足そうに微笑み合い、新しい一歩を踏み出した二人を温かく見送るのだった。