オリキャラとオリ街が出ます。
旅を続けるマチエールとノウゼンは、古代の情緒が色濃く残る歴史の街・オーリムシティを訪れていた。
午後の陽光が射し込む石畳の路地には、羊皮紙や古い書物を扱う古書店やアンティークショップが整然と並び、街全体がどこか落ち着いた香木と古い紙の香りに包まれている。
「ノウゼン、見て見て! あっちのお店、変な形したガラス瓶がいっぱいあるよ!」
マチエールが目を輝かせてショーウィンドウを覗き込んでいた、その時だった。
「——あれ? もしかして……ノウゼン!?」
通りを歩いていた一人の女性が足を止め、思いがけないといった様子で声を上げた。
シックな学芸員風のジャケットを身に纏い、知的で洗練された雰囲気を漂わせた女性——アカデミーでカロス神話や考古学の研究をしているカティアだった。
「カティア……!?」
ノウゼンが珍しく目を丸くする。カティアは彼の顔を見るなり、気取らない天真爛漫とした笑顔を弾けさせ、迷いなくノウゼンの元へ歩み寄ると、その高い肩を親しげにぽんと叩いた。
「すごい!電話ではやり取りしてたけど、実際に会うの何年ぶり? 14歳の時に一緒にカロスを回って以来じゃない!?」
「ああ……そうだな」
一瞬だけ、ノウゼンの鋭い目元が和らぎ、どこか穏やかな表情になったマチエールは見逃さなかった。 カフェのテラス席に移動すると、カティアはマチエールに向き直り、ニッと気さくに微笑んだ。
「初めまして! 私はカティア・グレイス。こう見えてノウゼンの『許嫁』で、昔一緒にカロスを旅した幼馴染なんだよね!」
「い、いいい、許嫁ーーーっ!?!?」
「ニャーーーッ!?!?」
マチエールは弾かれたように椅子から立ち上がり、持っていたジュースのストローを跳ね上げた。隣にいたもこおも全く同じタイミングで立ち上がり、両耳をパッと逆立て、紫色の大きな瞳を限界まで見開いている。二人の息の合った大ショックのリアクションに、周りの客が思わず振り返るほどだった。
「カ、いいいい許嫁って……ノウゼン!? ホントなのっ!?」
「……カティア、紛らわしい言い方をするな。昔、実家同士が勝手に決めただけの話だ。それに、ミラー家が潰れた時点でその話は白紙になっている」
ノウゼンは頭が痛そうに片手で端正な顔を覆い、深々と溜息をついた。カティアはそんな二人の反応がおかしくてたまらないといった様子で、手を叩いて豪快に笑う。
「あはは! ごめんごめん、リアクションが良すぎてつい! でも嘘じゃないでしょ? 昔くれた手紙だって私、全部大事に残してるんだから。『拝啓 カティア様、向暑の候いかがお過ごしでしょうか。貴殿の健勝を祈り云々……』って、カロスでの旅が終わってあなたが別の地方へ行った後、次の街に着くたびにお固い手紙おくってくるんだから!」
「……頼むからやめてくれ。思い出すだけで頭が痛くなる」
ノウゼンは本気で困り果てたように顔を背けた。
名門・ミラー家の跡取りとして完璧を求められていた当時のノウゼンは、許嫁であるカティアへの手紙一つすら気を抜けず、ガチガチに固い文章を書いていた。結局、ミラー家の没落とともに婚約は解消されたのだが、二人の間には気心の知れた特別な空気が流れていた。
「でもさ、あの頃のノウゼンってホント凄かったよね! 勉強は学年トップでバトルも強くて、ついでに足もめちゃくちゃ速くってさ」
「昔の話だ。今の俺はただの探偵の助手だよ」
「なーに言っちゃってんの。相変わらず固いなぁ」
マチエールの紹介も行われ、軽快なテンポで思い出話に花を咲かせる二人。 カティアの発する話題の一つ一つには知識と知性が滲み出ており、ノウゼンもまた、古代神話の話題になると自然と対等で論理的な言葉を返していた。
ふっと、カティアの笑い声が収まり、その瞳に少しだけ申し訳なさそうな色が混ざった。
「……でもさ。あの時、ミラー家があんなことになって、あなたが一人になった時……私、実家から『関わるな』って猛反対されて、直接会いに行ってあげられなくて。力になれなくて、本当にごめんね」
「気にするな。お前の家がおかれた立場を考えれば当然だ。……むしろ、感謝している」
ノウゼンは静かに首を振り、まっすぐにカティアを見つめた。
「あの頃、お前だけが俺に何度も電話をくれた。……あの声に、どれだけ元気づけられたか。まだ、お礼を直接言えていなかったな。……ありがとう、カティア」
「もう、やめてよ。改まって感謝されると照れるじゃない」
カティアは少し照れくさそうに頭をかき、照れ隠しのようにまた笑った。 ノウゼンが見せた、心からの深い感謝と信頼の表情。二人の間に流れる、誰にも割り込めない温かな空気。
(なにか……胸が、ちくちくする……)
マチエールは、二人の洗練された会話の中に一歩も踏み込むことができず、テーブルの下で膝の生地をギュッと握りしめていた。 ミアレの暗い路地裏で、明日生き延びることだけを考えて泥にまみれてきた自分。難しい本も読めず、歴史の言葉もわからない。ノウゼンがどんな子供時代を過ごし、どんな景色を見てきたのか、自分は何も知らないのだ。
グラスの中で溶けていく氷が、ストローに当たってカチカチと虚しい音を立てる。ジュースの甘さが、喉の奥で酷く苦く感じられた。
(元許嫁……年上で、綺麗で、ノウゼンの過去を知ってて、対等に話せる人……。あたしなんて、ただの『おしかけ』なのに……。あたしが弱くて馬鹿だから、いつかノウゼンに捨てられて、またあの暗い路地裏で一人になっちゃうのかな……)
路地裏時代に骨の髄まで刻まれた「恐怖」と「孤独感」が蘇る。そして、これまで感じたことのない、胸を刺すような冷たい痛み。それが「嫉妬」という感情だと気づくことすらできず、マチエールはきつく唇をかみしめた。
その時、足元で「ふにゃ〜……」と優しい鳴き声がした。 ニャスパーのもこおが、マチエールの服の裾を小さな手でギュッと引っ張り、心配そうに大きな紫色の瞳で見上げていたのだ。もこおは彼女の疎外感と揺れる感情を誰よりも敏く察し、静かに温もりを分け与えるように体を擦り寄せていた。
「……ありがと、もこお」
マチエールが小さく呟いたその時、カティアがニッと悪戯っぽく口角を上げた。
「ねえ、ノウゼン。また私のパートナーになってよ!」
「「……えっ!?」」
ノウゼンとマチエールの声が思わず重なる。カティアはノウゼンを覗き込んだ。
「今度、新しく見つかったカロス神話の古代遺跡に調査に行くんだよね。ノウゼンのバトルの腕なら安心して潜れるしさ。昔から神話とか歴史、好きだったでしょ?」
「せっかくだが断る。今の俺には、この旅と……他に支えたい奴がいる」
ノウゼンは静かに、だが明確に拒絶した。けれど、マチエールの胸の中の焦燥感は消えなかった。「あたしが弱くて足手まといだから、ノウゼンは気を使っているんじゃないか」
——その不安が彼女を突き動かす。
「絶対にダメっ!! ノウゼンは渡さないんだから!」
立ち上がって叫んだマチエールに、カティアは興味深そうに目を輝かせた。
「へえ、威勢がいいね、マチエールちゃん。……ならさ、私とバトルしようよ! 私が勝ったら、ノウゼンは次の遺跡調査に連れて行く! ……どう?」
「勝手に決めるなカティア、それに、やめろ。マチエールのポケモンはまだお前のポケモンたちほど成熟していない」
ノウゼンが諫めるが、マチエールはもこおの頭を優しく撫で、自分の胸を強く叩いた。
「やる! あたし、逃げない! ノウゼンを連れて行かせたりしないもん!」
助けられるだけの存在から抜け出すため、そして何よりハンサムハウス所長としての自分の居場所を守るため、マチエールは拳を握りしめた。
◇
ポケモンセンターに隣接するバトルフィールド。
カティアが豪快に投じたボールから現れたのは、太古の空を統べた猛禽——強力な古代ポケモン『アーケオス』だった。その巨大な翼と鋭い眼光が放つ威圧感に、フィールドの空気が一瞬で凍りつく。
「いけっ、メリープ!」
「メェ〜〜ッ!」
マチエールが繰り出したのはメリープ。 ひこう・いわタイプを持つアーケオスに対し、でんきタイプのメリープはタイプ相性の上では極めて有利だ。
「相性はバッチリ! いけるよ、メリープ!『でんきショック』!」
黄色い電撃がアーケオスを襲う。
しかし——。
「アーケオス、『がんせきふうじ』!」
ズズズドンッ!!
アーケオスが放った巨大な岩の群れが電撃をあっけなく粉砕し、そのままメリープの小さな身体を押しつぶした。明確なレベル差、蓄積された経験の違い。タイプ相性などという生半可な知識を、圧倒的な力量差が打ち砕く。
「メ、メリープ……っ!?」
「一気に決めるよ!『ドラゴンクロー』!」
急降下するアーケオスの鋭い爪が、ボロボロになったメリープを容赦なく引き裂く。悲鳴を上げて吹き飛ぶメリープ。泥と石屑にまみれ、今にも倒れ伏しそうな相棒の姿に、マチエールの視界が溢れる涙でぐにゃりと歪んだ。
フィールドの脇では、もこおが小さな拳を強く握りしめ、「フニャーッ! フニャーッ!」と声が枯れるほど必死に声を張り上げている。
観客席でそれを見つめるノウゼンは、静かに拳を握りしめていた。
目に見えて理解させられる圧倒的な実力の差。そして目の前に見える敗北の光景。
————しかし。
(嫌だ……! 負けたくない……! ノウゼンを取られたくない……っ! あたしが弱くて頼りないからって、ノウゼンを奪われるなんて……そんなの絶対に嫌だっ!!)
「助けてもらうだけなんて、もう嫌なんだ……! あたしがノウゼンの隣にいたいんだっ!! 立って……お願い、立ってメリープ!! あたしたちの力を見せてあげようよっ!!」
マチエールが泥で汚れた膝を伸ばし、魂を絞り出すように絶叫した。 その声に呼応するように、泥まみれのメリープが震える脚で力強く立ち上がる。次の瞬間——メリープの全身から、視界を覆い尽くすほどの眩い純白の光が溢れ出した。
「!? これって……!」
カティアが目を見張る。 光の中で羊毛が解け、二足で力強く大地を踏みしめるシルエットへと変化していく。光が収まったそこに立っていたのは、尻尾の球体を蒼色に輝かせた——『モココ』だった。
「モココ……! 進化したんだね……っ!」
「モーッ!!」
「押し切るよ! アーケオス、『アクロバット』!」
アーケオスが再び急降下し、モココを激しく叩きつける。しかし、攻撃が直撃した瞬間——アーケオスの全身にバチバチと黄色い火花が散り、その身体が金縛りに遭ったように硬直した。
「うわ、動きが止まった!?」
「『せいでんき』……!」
ノウゼンが息をのむ。これまでの激しい攻防で何度も直接触れていたことが、土壇場でアーケオスの足を奪った。
「今だよ、モココ!……『10まんボルト』ーッ!!」
バリバリバリバリッ——!!
モココの全身から解き放たれた激しい黄金の雷光が、麻痺で動けないアーケオスを直撃した。激しい爆煙。いける、勝てる——! マチエールが勝利を確信し、全身の血が熱くなったその瞬間。
「……あちゃー、効いた! でも、こっちのほうが強いよ!『もろはのずつき』!」
爆煙を強引に切り裂き、捨て身の覚悟で突っ込んできたアーケオスの硬質な頭部が、モココの小さな身体を完璧に捉えた。
ズドォォォンッ!!
激しい衝撃波とともに、モココが力なく空中へ吹き飛び、地面に倒れ込む。瞳はグルグルと渦を巻き、完全に戦闘不能となっていた。
「モココ戦闘不能! 勝者は私ね!」
「あ……あ……」
マチエールの膝から一気に力が抜け、地面にがくりと崩れ落ちた。初めて本気で「勝ちたい」と願ったバトル。初めて目の当たりにした相棒の進化。そのすべてを懸けても、届かなかった非情な現実。
マチエールは少しよろめきながら倒れたモココの元へ駆け寄り、その身体をぎゅっと抱きしめた。
かき抱いたモココの身体は、ふわふわと柔らかかったメリープの時に比べて、進化を経て少しだけ固く筋肉質になっていた。けれど、内側から伝わってくる体温は、今までのどんな時よりもずっと、熱く、力強く、温かい。
(強くなったんだね……モココ。あたしのために、こんなに頑張ってくれたんだね……)
相棒が見せてくれた成長と温もりが、敗北の悔しさを超えて胸に押し寄せる。 地面にぽたぽたと、大きな涙の粒がいくつも落ちて、乾いた土に暗い染みを作っていった。
◇
「ちょっとマチエールちゃん、こっち来て!」
涙を拭う間もなく、カティアはマチエールの手首を掴むと、ノウゼンに向かって叫んだ。
「ノウゼンはそこにいて!」
「えっ……カティア、何のつもりだ!?」
制止するノウゼンを置き去りにし、カティアはマチエールと手負いのモココ、アーケオス、そして心配そうに後を追ってくるもこおを連れて、ポケモンセンターの処置室へと駆け込んだ。
消毒液の匂いが充満する処置室で、カティアの手つきは驚くほど手慣れていた。
「アーケオス、痛かったね。じっとしてて」
カティアはアーケオスの硬い羽鱗の間に詰まった岩くずをピンセットで丁寧に取り除き、激しい『もろはのずつき』の反動で痛んだ頭部に冷却スプレーを吹き付け、「マヒなおし」の薬液を飲ませていく。
一方、モココの側にはマチエールが付き添っていた。進化直後で体温が上がり、電気袋が熱を帯びているモココの胸元に、カティアから渡された冷却シートを貼る。
「モココ……ごめんね……あたしが弱いから……」
マチエールは自ら濡らしたタオルを手にとり、モココの身体に付いた泥とスプレーの痕を、涙を零しながら一枚一枚優しく拭っていった。モココは「モー……」と弱々しく声を上げ、マチエールの手に温かい頬を寄せる。
手当てを一段落させたカティアは、スプレーを置くとふっと柔らかく笑い、マチエールの頭をポツンと優しく撫でた。
「ごめんね? 今のノウゼンの隣にいる人がどんな人か知りたくて、わざと挑発しちゃった。言葉で聞くより、バトルをした方がその人の人となりや覚悟ってダイレクトに伝わってくるでしょ?」
「え……?」
「マチエールちゃん。ノウゼン……すごく明るくなったよね。すごくすっきりした顔してる」
カティアは椅子に深く腰掛け、懐かしそうに遠くを見つめた。
「ノウゼンは昔さ、いつも何かにおびえてたんだ。完璧なミラー家の跡取りとして、周りからの期待に応えなきゃいけないって……息もできないくらい自分を追い詰めててね。勉強もできて優しくて、運動神経も良かったけど……いつもどこか暗くて、諦めたような顔をしてた。私、何年も彼と付き合ってたけど、結局一度も彼の『本当の笑顔』を見ることができなかったんだよね」
カティアは温かい眼差しでマチエールの目をまっすぐに見つめた。
「でも今は違う。自分の本当の居場所を見つけてる。あんなに穏やかで、誰かを信じ切っているノウゼンの顔……私、初めて見たよ。……そして多分、それってあなたのおかげだね。ありがとう、マチエールちゃん!」
マチエールは、拭いていた手を止めて呆然と固まった。 ノウゼンが過去に抱えていた孤独と重圧。そして、自分が彼にとって「救い」になっていたという事実。カティアの言葉が、胸の奥で凍りついていた痛みを温かく溶かしていく。
「あ、甘いもの好き?」
処置を終えたポケモンたちをジョーイさんに預け、カティアはマチエールを連れて近くの人気のクレープ屋さんへ向かった。そして香ばしい匂いの漂う焼き立てのイチゴクレープを二つ買い、一つをマチエールに手渡した。
「ほら、食べよ!」
「う、うん……」
一口かぶりつくと、甘酸っぱいイチゴと温かい生クリームの味が口いっぱいに広がった。鼻の奥に残る涙のしょっぱさと、クレープの甘さ。マチエールは夢中でかじりつき、あっという間に完食してしまった。
ふと横を見ると、カティアはまだ半分も食べていないクレープの包み紙を指で丁寧に折りたたみながら、満足そうに笑っていた。
「あ〜あ、負けちゃった。クレープの早食いバトル」
「えっ!?」
カティアはマチエールに優しくウインクしてみせた。そして、少しだけ表情を引き締めると、マチエールの目をじっと見つめて言った。
「でも私、ノウゼンのこと好きだから。家同士の決め事だとかミラー家が没落したなんて関係ない。あなたがノウゼンのことどう思っているかは知らないけど、もし彼が今の居場所が嫌だと思ったその時は、容赦なく連れ去っちゃうからね?」
「っ……!?」
マチエールは驚愕の表情で息を呑み、カティアを見つめた。 カティアの瞳の奥には、冗談なんかではない本気の意思と、まっすぐな好意が宿っていた。
この時のマチエールには、自分がノウゼンに対して抱いているこの感情が何かだなんて、まだまるで分らなかった。 けれど、自分の目の前に初めて現れた、ノウゼンの過去を知り、彼と深く深く関わってきた魅力的な年上の女性。カティアの存在とまっすぐな宣戦布告と相対したことで、マチエールは今まで自分を優しく支えてくれる「仲間」でしかなかったノウゼンのことを、ひとりの男の人として、初めて烈しく強く意識させられたのだった。
胸の奥が再びドキン、ドキンと熱く跳ね上がる。さっきまでの迷いや嫉妬は消え去っていた。「ノウゼンの隣」を誰にも渡したくないという、初めて自覚した自分の気持ち。
「……言われなくたって、絶対そんな風にさせないんだから!」
マチエールが拳を握りしめて強く言い返すと、カティアは「うん、その顔!」と嬉しそうに満足げな笑顔を浮かべたのだった。
◇
バトルフィールドで待たされていたノウゼンの元へ、二人が戻ってきた。
「カティア……一体マチエールをどこへ——」
「ノウゼン! 勝負は私の負け!」
カティアはノウゼンの言葉を遮り、あっけらかんと笑ってみせた。
「は……? 勝ったのはお前だろう?」
「ううん、クレープの早食いバトルに負けちゃったから、ノウゼンは連れて行かない! マチエールちゃん、ノウゼンをこれからもよろしくね!」
首をかしげるノウゼンをよそに、カティアはマチエールの背中をポンと優しく叩き、爽やかな秋風のように颯爽と歩き出した。
「じゃあね二人とも! 調査頑張ってくるね〜!」
手を振りながら遠ざかっていくカティアの後ろ姿を見送りながら、ノウゼンは心底わけが分からんというように腕を組む。
「……結局、何だったんだあいつは?」
マチエールは涙の痕を袖でゴシゴシと力強く拭うと、ノウゼンの隣にしっかりと立ち、彼を見上げて宣言する。
「ノウゼン! あたし、ノウゼンにも負けないくらい、もっともっと強くなるね!」
「ニャパッ!」
マチエールともこおが誇らしげに胸を張った。
ノウゼンは一瞬あっけにとられたが、やがて呆れたような、けれど優しく温かな表情を浮かべると、マチエールの頭をぽんぽんと撫でた。
「……そうか。楽しみにしているよ、所長」
夕日に染まるカロスの空に、羊雲がふわりと浮かんでいた。 二人の歩幅は、ほんの少しだけ、けれど確かに縮まっていた。