リムル【無ずけ前】視点
俺は目の前の少女を見る。
……でも。
俺とこの子が、本当に同じなのかは分からない。
この子は「さっき転生した」と言っていた。
俺も転生したばかりだけど、彼女の場合は少し違う気がする。
角がある。
聞いたことのない種族。
そして、《戦術演算》という意思を持つようなスキル。
「……なんか」
「ん?」
「……俺たち、結構似てるな」
「…………」
少女は少し考えてから。
「……うん」
と、小さく頷いた。
「クハハハ!」
突然、ヴェルドラが笑い出す。
「何だ?」
「いやな! 我から見れば、お主ら二人は実に似たようなものだと思っておったのでな!」
「……ヴェルドラもそう思う?」
「うむ!」
ヴェルドラは楽しそうに笑う。
「異世界から来た、二人の珍しい転生者!」
「…………」
「…………」
俺と少女は、少しだけ顔を見合わせた。
……珍しい。
そう言われると、何だか変な感じだ。
俺はただの会社員だった。
この子も、普通の世界から来たらしい。
そんな二人が。
まったく知らない世界で。
偶然、同じ洞窟にいる。
「……偶然って、すごいな」
俺がそう呟くと。
少女は少しだけ考えて。
「……うん」
と答えた。
「ところで、ヴェルドラさんは封印された……とか言ってましたよね?」
「む? まあな」
ヴェルドラが少しだけ胸を張る。
「ちょびっと相手を舐めていたのは間違いないが……途中から本気を出したぞ!」
「それで?」
「負けた!」
「…………」
なぜか誇らしげに言い切った。
いや。
負けたんだよな?
実際、魔法ならともかく。
剣や槍なんて、この竜に通用するとは思えない。
「……相手は、そんなに強かったんですか?」
「うむ!」
ヴェルドラは即答した。
こんな化け物より強い存在がいるのか?
外の世界は、思ったより危険がいっぱいなのかもしれない。
「ああ。強かったぞ」
ヴェルドラが楽しそうに笑う。
「ああ。強かったよ。“加護”持ちで、人間の“勇者”と呼ばれる存在だ。」
「……勇者」
少女が小さく呟いた。
勇者。
色々なゲームで馴染み深い存在だ。
最近は、かませみたいな勇者をモチーフにした作品も多かったから、そこまで圧倒的なイメージはなかった。
でも、この世界では違うらしい。
こんな化け物みたいな竜を封印できるほど、本当に強い存在。
「……すごいんですね」
少女がヴェルドラを見る。
「うむ!」
ヴェルドラは満足そうに頷いた。
「我を相手にして封印まで成し遂げたのだからな!」
……やっぱり、負けたことを少し誇らしげに言っている気がする。
「そういえば」
ヴェルドラが、何かを思い出したように言った。
「その勇者は、自分のことを“召喚者”だと言っておったぞ」
「召喚者?」
俺は首を傾げる。
「お前と同郷かもしれぬな」
「え?」
俺は思わず少女を見る。
同郷?
つまり、日本から来たってことか?
「いやいや、自分と同郷なら、そんなに強いはずないですよ?」
俺がそう言うと、少女も少しだけ首を傾げた。
「……日本から?」
「まあ、そういうことだ」
「この世界に来た“異世界人”は、特殊能力を持つことが多い」
ヴェルドラが説明を始める。
「世界を渡る際、その力が魂に刻まれるのだろう」
……特殊能力。
俺の《大賢者》や《捕食者》も、そうなのか?
「“召喚者”ならば、ほぼ確実に特殊能力を持つ」
「それも、世界で唯一つの“ユニークスキル”をな」
「ユニークスキル……」
少女が小さく呟く。
「召喚に耐えられるほど強い魂を持つからこそ、強大な力を得るのだろう」
「召喚というと……魔法か何かで呼び出した、とか?」
「その通りだ」
ヴェルドラが答える。
「多数の魔法使いが儀式を行い、異世界から人を呼び出す」
「成功率は非常に低い」
「だが、成功すれば強力な戦力を得られる」
「……戦力」
「兵器としての役割を期待されておるのだ」
「……は?」
思わず声が出た。
兵器?
人を?
「召喚された者は、召喚主に逆らえぬよう、魂に呪いを刻まれることもある」
「なんじゃそりゃ!?」
「召喚される人の意思は無視かよ!?」
思わず声を上げる。
その横で。
「…………」
少女が黙った。
「?」
俺は少女を見る。
俯いている。
「……どうした?」
「…………」
返事がない。
一瞬だけ。
何かを思い出しているように見えた。
「……何でもない」
「そうか?」
「……うん」
俺は少し気になった。
でも、初対面の相手にこれ以上踏み込むのもよくない。
「人権というものか?」
ヴェルドラが俺の言葉を拾った。
「……そう」
「異世界人が時折口にする言葉だな」
「だが、この世界では幻想に近い」
「弱肉強食こそ、この世界の理なのだからな」
……なるほど。
どうやら、この世界で召喚されるというのは。
俺の元いた世界の感覚からすれば、かなり受け入れがたいものらしい。
「じゃあ」
俺は尋ねる。
「異世界人も、奴隷みたいな扱いを受けるんですかね?」
「いや、人によるな」
ヴェルドラは首を振った。
「偶然こちらへ来た異世界人なら、普通に暮らしている者もいる」
「冒険者になった者もいるぞ」
「実際、我を討伐しに来た異世界人の冒険者も何度か撃退しておる!」
「フハハハハ!!!」
「……つまり」
俺は少し考える。
「召喚された場合だけ、強制的に働かされる可能性が高いってことか」
「労働ではないだろうが、まあ、そんな感じじゃないか?」
「我は人間に詳しい方だが、全てを知っているわけではないからな」
「それもそうか……竜ですもんね」
「うむ!」
「…………」
俺がヴェルドラと話している間も。
少女は、時々何かを考えるように黙っていた。
……さっきの反応。
少しだけ、気になるな。
変になるヨー(どうしよ〜