「では先発する。」
システムを探り、ステーション内を家捜ししたところ、
上陸用舟艇がもう1隻でてきた。
そこで、現在、ATに搭乗できるキリコとボルク少佐が手分けしてことに当たると
計画を変更した。
ボルク少佐は、アルフィアを連れて、モラニア首都近郊のダムへ。
キリコはベティアを連れてヒュロス軍の救援に。
フィアナが2人の連絡と管制を担い、ガンミアが補佐。
“・・・今の組み分けでいいのね?”
「ステーションからダムを直接攻撃できない以上、これが最適だろう。
・・・・本当はステーション外壁の構造物を落下させるのが簡単だが・・・」
“・・・まぁ、そうね・・・。でもあれ、密度が高すぎて、ダムを壊すどころか”
“ダム湖だけじゃなく、周辺100kmが吹っ飛ぶ威力の『槍』になるわよね・・・・”
「それじゃ、こっちも行ってくる。」
「・・・キリコ、気をつけて。」
モラニア首都【ノーヴァヤ・セヴェーラ】近郊のダム
ここ数年の水不足を踏まえて、首都近郊のダム湖「ヴァダフラニーリシチェ
・セヴェールナヤ」は、ほぼ満水状態になっている。
とは言え、この季節では、貯水量は多すぎ、時に1~2時間、下流に放出している。
ヒュロスと戦争状態のこの国でも、戦火が降る地域からはかなり奥地であり、
警備隊はいても、大した戦力ではない。
また、警備兵も気が緩んでいる。
日頃は近隣の農民、稀に“国への奉仕活動”でダム湖の監視にかり出されている男。
ニコライ・モロソフ、通称コーリャは、いい気分で夢の世界にいた。
完全に寝込んでいるコーリャを上官のサーシャこと、アレクサンドル・エフゲニーが
たたき起こす。
「昼寝とはいいご身分だな、コーリャ」
「・・・あぁ、同志上官。ご苦労さまです。」
「・・・異常はないようだな」
「こんなところに誰が来るってんですかい。
夏は蚊だらけ、妙にじめじめして暑い、何にも変わらねぇ景色・・・
眠くもなりますぜ。」
2人はくだらない愚痴の応酬で気づいていないが、上空にステルス状態で
ボルク少佐搭乗の上陸用舟艇が停止している。
(アルフィア、気づかれた形跡は?)
(ないみたいだよぅ)
(よし、さっさと済ますぞ)
密かに艦の下面ハッチを開け、AT用手持ちミサイルを全弾斉射。
ミサイルは過たず、ダム前面に命中。
(あれ?壊れないよぅ)
(ひびを入れるだけでいい。圧力に耐えられなくなるからな。
・・・よし、撤退するぞ)
艦は結果を見ずに上昇、再び大気圏外へ。
その時、ダムに盛大にひび割れが起き、ついには決壊する。
水流は下流の街を飲み込みつつ、一路首都を目指して流れ始めた。
ネス山脈南側の平地
キリコとベティアを載せた艦はヒュロス軍もいない荒野に着陸。
猛攻をかけているモラニア軍へ横やりを入れるという計画だ。
『キリコ、敵はそこから北へ30kmのところに集結中よ』
「ありがとうフィアナ。行ってくる」
(キリコ、私は?)
「悪いが留守番で頼む。あとはこの艦を悟られないようにしておけよ」
(了解)
ベティアは艦のクローキング・デバイスを作動。
表面をごまかしてエンジンも静音化。
キリコは早速北上。
今回の装備は大型ソリッドシューター。
ハンディソリッドシューターも腰部にマウントしている。
ヒュロス軍拠点
1日空けて、モラニア軍の大攻勢が再開された。
今度は始めからエクルビスが3機、部隊の中に混じっている。
ただ、全開破損したらしい2機は、機体は復旧しているものの、
動きが奇妙だ。
敵は数がもとに戻り、味方は数が減っている。
いくら守備側といっても、これではいつか破綻する。
「中佐、自分があのデカいのを仕留めます」
レーン大尉は一言いって、自らのカスタム機を進めていく。
ゼトラ大尉とボックメッサー大尉は側面や陣地奥からの砲撃に徹している。
ノルデン少佐は左翼、フォークト中佐は正面と右翼の指揮をとっている。
遠距離射撃の2人は適確にATの数を減らしているものの、敵増援の勢いが勝り、
処理は追いついていない。
(これはいよいよ、年貢の納め時ってやつか?)
ゼトラ大尉は半ばロボットのように処理を続けながら、自分を妙に客観的に
見出していた。
(・・・いかんな。現実逃避だ)
ゼトラ大尉以外も疲労の色は濃い。
かなり危機的な状況は、一瞬にして変わった。
敵の後背で連続して大爆発。
陣地のポリマーリンゲル液のタンクが引火したようだ。
通信に敵の通信が混じる。
「おぉ・・あれ・・」
「守備隊はどうした!」
敵陣を横切って大きな青いATが通過。
フォークト中佐のATに通信が入る。
「待たせたな。こちらはこれから敵陣を潰しにかかる。援護は無用だ」
キリコはそう言って、敵ATの多いところに突入
縦横に動きながら、適確に排除していく。
その時、敵陣の赤いAT群が迫ってきた。
モラニア軍前線陣地
敵軍陥落まで間もなく。
陣地内の指揮所で、ボラス少佐は久しぶりに安堵していた。
(これでもう大丈夫だろう・・・)
強化兵とはいえど、損耗も多く、
機械は壊れている。十分な補充も必要だ。
ヒュロス軍を排除すれば、バララント陣営にかなりの得点をつけられる。
戦後を見据えて自らの栄達を信じて疑わなかった。
しかし、そこに凶兆。
遠くから爆発音と悲鳴。
伝令兵が入ってくる。
「どうした?」
「敵であります!たった1機、青のドッグタイプ、我が軍後衛を引き裂きながら
こちらに向かっています!」
「足止めせよ!陣地に近づけるなと言え!
たった1機だぞ!」
チェルニコワ少将は前線視察と暴走しがちな強化兵の指揮で不在。
指示を仰ぐべき上官がいない状況。
なんとか前線を支えなければならない。
そこに更なる知らせが入った。
「少佐、一大事です。
我が首都が、敵の攻撃で大打撃を受けたようです。
全軍に撤退命令がでております」
「何だと!
何が起きたのだ!」
参謀将校が示した画面、そこには、水浸しになっている首都と、
その原因と思われるダムの決壊が映像として収められている。
「参謀本部につなげ!」
「・・・命令伝達後、連絡が途絶しております・・・。」
「この連絡、少将閣下には伝えたか」
「・・そちらも繋がりません。」
突然の人生の暗転にボラス少佐は頭を抱える。
が、即座に決断する。
「即時撤収だ。機密文書を残さず焼却。
また物資をなるべく回収してここに残さないように。
新たな青いAT以外、敵は増えぬから、全機即座に撤収せよと伝えろ」
「承知しました。」
返事を聞いて、ボラス少佐はヘルメットとバイザーを掴み、
1機残った陸戦用ファッティーへ向かう。
「少将閣下を探して回収後、ここは廃棄する。
前線兵の撤退を急がせよ」
そう言って、自機を敵軍の方に向け、全速で進んでいった。
ボラス少佐はATを操り、黒い新型機「ポッドベリー」を探す。
無線を封鎖されている以上、目視以外の方法はない。
前線の中程、ようやく新型機を発見。
ATのマニュピレータで接触し、通信する。
「閣下、一大事です。首都が敵の直接攻撃を受けました。
参謀本部より撤退命令が下っております」
チェルニコワはしばらく沈黙の後に尋ねる。
「・・・・参謀本部のその後は」
「何もつかめておらぬようです。おそらく混乱中かと」
再びしばらくの沈黙
「ボラス少佐、強化人間はどいつが生き残った?」
「正常に稼働中なのは、28番以降の新型。
エクルビス3機は全機壊滅しました。」
「よし。では、28番以降は貴官が率いて即時撤退。
私は残りの始末をつける」
「・・・閣下、殿でしたら私が。」
チェルニコワは珍しく上機嫌で言う。
「なに、案ずるな。この機体なら、山越えも容易だ。
貴官は輸送艦で指示せよ」
そういって、ポッドベリーは重力を感じさせずに飛翔して去る。
(なかなか敵もやってくれるじゃないか。)
(それに、これでドーラのヤツも失脚だな。)
どうにも相性があわない上官の末路を思い浮かべて進む。
時折、敵ATに出会うが、ほぼ瞬殺。
武器がない場合は足止めしつつ、動かなくなった強化兵の位置を把握。
(うまい具合にバラけて倒れてくれた。)
そこに復讐にはやるヒュロス軍のトータス部隊。
短射程の武器のみなので、前進してこちらを撃とうとするが、回避。
微妙に後退しながら所定の距離を離したところで、
強化兵ATを起爆。
周辺一帯が火の海になった。
敵味方もわからない残骸の中、黒鳥は悠々と飛び去る。
(次はこうはいかんぞ)
悔しげに後ろを一瞥し、そのままモラニア領へ撤退していった。
<次回予告>
赤い旋風がひとしきり吹き抜け、
不吉を呼ぶ黒い鳥も去った。一時の平安。
しかし、今度は惑星の外が騒がしくなる。
次回 <宇宙軍>
キリコたちの明日は如何に。