ジャン・ポール・ロッチナ
またの名をコッタ・ルスケ
ワイズマンのエージェントであった男。
彼は今、バララントに籍を置いている。
当初はギルガメス軍の機密情報である、パーフェクト・ソルジャー計画を
バララントにもたらすなど、大きな貢献をしたが、
次第に本星の作戦計画とは異なる行動が目立ち始める。
惑星クエントからどうにか生き延びた後も、ひたすらキリコを追い続けている。
すでにワイズマンからは見放されたはずだが。
しかし、惑星クエントの消失により、風向きは大きく変わった。
バララントにせよ、ギルガメスにせよ、キリコという異能者の存在よりも、
クエントから宇宙のあちらこちらに散ったであろう物資や、
各地に点在していたクエント傭兵、そしてクエント素子を用いたデバイス開発など
実利的な方面に関心に移ったからである。
そのため、ロッチナのバララントにおける地位も相対的に低下している。
以前は参謀本部でも彼の意見は重きをおかれていたが、
今やどのようなルートを介そうとも、対話すらできない。
それだけに先日の惑星デゲンでのモラニア軍の敗退、
近隣のギルガメス艦隊の消滅
これらは明らかにキリコの仕業としか思えない彼には非常に忸怩たる思いである。
そのロッチナが珍しく軍司令部の人事局から呼び出された。
「ロッチナ大佐、参りました」
人事局の無駄に広い会議室で、参謀本部長以下の軍幹部、人事局長が座っている。
「ご苦労。本日付で貴官を本星の軍務から外し、外部出向とする。
これが辞令だ。」
突然のことで言葉もでないロッチナ。
「・・・・何か小官がいたしましたでしょうか。」
「・・いいや。」
「ではなぜ!」
居並ぶ幹部が続々と発言する。
「貴官は敵陣営から貴重な情報をもたらし、それを実現する手はずを整えた。
成果の一部は貴官の貢献が大きい」
「しかし、貴官がもたらした情報により不可侵の惑星クエントへ侵入。
最後には彼らの古代超技術を狙って、ワイズマンと名乗る勢力と大規模戦闘。
結果として派遣した艦隊は消滅している。」
「また、クエント消滅後も、その原因と思われるキリコ・キュービィーを
追い回し、結果として、最も高性能の機械化兵を失っている。」
「さらには、先般の惑星デゲンでの騒動を聞きつけ、
再び軍の大規模介入を訴えるなど、越権行為が過ぎておるだろう」
「よって、本来、貴官はこの場で粛清すべきではあるが、功一等を減じ、
貴官が興味を抱くであろう出向先を用意したのだ。」
「お待ちください!!
キリコ・キュービィーこそ、クエント文明の秘密を解く鍵であります!
そこから“目”を離すなど、愚の骨頂!」
「・・・おや、貴官は、AT開発局がお望みか。」
AT開発局。
名前だけ見れば、花形部署のように見える。
しかし、この国家においては、ATは“下々の使う鉄の棺桶”という認識。
それゆえ、体制に反抗する学者や技術者をその部署に集めて開発を行っている。
集める先は特殊な刑務所。
この国のATは、獄中にいる反体制派の科学者が開発したのである。
つまり、「貴官も刑務所を望んでいるのか」と問うている。
「くっ!」
ロッチナは拳を握りしめる。
だが、ここで反抗しては、いずれ本当に粛清されるだろう。
ワイズマンの権能がなくなった今、彼を救うものはいないのだ。
「・・・・辞令、ありがたくお受けします。」
「そうか。
短い期間だったが、ご苦労だった。
以後は出向先での活躍を祈っておる。」
一礼したロッチナが引き揚げようとすると、背中にひとこと。
「あぁ、そうだった。
今度の出向先は、国家を超越した権限をもっておる。
先方にはギルガメス出身の者も多い。
貴官も旧交を暖めるとよいのでは」
斯くして、ロッチナはバララントを去った。
目指す先はマーティアル本部。記録係としての雇用だ。
何度も主を乗り換えてきた男としては穏当な終わり方であろう。
・・・出向先に、彼に煮え湯を飲まされてきたギルガメス軍関係者がいなければ。
<次回予告>
闇夜を這う者(ナイトストーカー)は表舞台から去った。
身体を改造された乙女は神の奇跡により蘇った。
愛しい者と共に歩むために。
次回 <再生>
クエント超古代技術はその真価を発揮する。