キリコたちの思わぬ加勢によって、ヒュロスはしばらく小康状態を得た。
この戦果に半ば有頂天になった政治家と軍上層部が、更なる成果を求めても
不思議ではない。
現に大統領は、
- この際、モラニアを壊滅させてはどうか。
- “彼ら”協力の下、AT技術はアップデートするべきだ。
- 少なくとも国境線を押し上げるべきである。
というような主張を繰り返しており、これを頻繁に聞かされる
フォークト中佐は本気で呆れていた。
同じ話題が出る度、同じ回答を繰り返している。
- 壊滅させたところで、今度は別の勢力が我々に動揺の戦争をしかけるでしょう。
- 彼らのATをマネはできますが、材料がたりず、結局ハリボテになります。
- モラニアの軍事力は落ちておらず、むしろ無能な上層部が粛清されて
精鋭ぞろいになっている。兵力差は以前と同じで迂闊な侵攻は逆効果である。
現在は、軍情報部が力を取り戻しているので、正確な情勢を把握できることから
少なくとも軍上層部が無茶は言わなくなったのは不幸中の幸いである。
とは言え、何もしないのも愚策であるのは確かである。
妥協線として生み出したのは、「惑星極地、赤道下の都市開拓」に必要となるATの
開発であった。
こうした提案をもってステーションにフォークト総監が
現れたのは1週間後のことだった。
ステーションの中も、全く人がいなかった時期から比べれば
モノが増え、打ち合わせを行う部屋、机、椅子などもできている。
部屋はボルグ少佐が画面を見ていて、オプションの設定に気づき、
パーティションができたことで完成。
机・椅子は食料搬入のついでにゴッペルの要望で持ち込まれた。
「総監に戻られたのですね。」
「私はどうでもよかったのだが、政府と軍上層部の都合だそうだ。
ただ、チームは私の扱いなので、そこは心配しないでくれ」
「今日のお話はなんですか」フィアナが尋ねる。
キリコは植物採集中であるため不在。
「君たちのおかげでモラニアとの戦争は一時停止している。
向こうは首都を回復させるまでしばらくかかると思われるので
その隙に、この惑星の支配区域を拡大しようというわけだ。」
“未開拓地が多かったのね・・・”
「もとが他の惑星の余剰人員が居住するための惑星で、
開発は最低限だったからな。」
“どのあたりを開拓するの?”
「まずは極点に近いところからだ。
寒冷地で大変厳しい天候のところだが、惑星全体の防衛や通信を考えると
必要なところだ。」
「・・・農産ができるところじゃないんですね。」
「農産なら、今のヒュロスの後背地を拡張すればいいので、
これも並行して実施する。
それで諸君にお願いしたいのは、そうした場所で使うATの開発だ」
“作業用にほしいということ?”
「あぁ、彼らのように、自律しなくてもいいが、彼らの拡張性や応用性は
必要だな。どうだろう?開発できるかね。」
“ゴッペルさんから聞かれているのでは?”
「材料については、オリジナルと同じでなくても構わない。
もし、デゲンにあるものだったら、こちらで材料を入手できると思う。
その辺は融通が利くから言ってほしい。」
ダニエルは声に出さず考える。
(・・・音声はともかく、自律AIはまずいわね・・・。)
(ライト級ということなら、いいのかな・・・)
立体映像がフィアナを見る。
「キリコが戻ってきてから相談したいので、その後回答でよろしいですか」
「無論だ。待たせてもらおう。」
そういってフォークトは、輸送艇で持ってきたコンテナを示す。
「キリコ向けに、もう少しまともなコーヒーを運んできた。
あとは食料だ。保管場所があるなら言ってくれ。運ばせる。」
“あ、それはアルフィアにやってもらうからいいわ。”
少し離れたところでゴッペルを手伝っていたアルフィアがこちらに手を振る。
それを聞いていたベティアが一つ提案。
<もし、承諾するなら、交換条件を一つ追加してほしい>
“何が必要なの?”
<キリコたちの食料の一部を生産する工場を作る>
<その元になる種がほしい>
「野菜工場というわけね。」フィアナが意味を翻訳して理解する。
“・・・まぁ、場所はあるからね・・いいんじゃないかしら”
程なく戻ってきたキリコとも相談するが、特に問題なく賛成。
・・・キリコにとっては、フィアナがよければ、おそらくそれでよいのだろう。
これを機に合同計画「極地仕様新型ATの開発」が開始された。
<次回予告>
ボトムズ乗りにとってATとは己の半身。
その機械は自らの手足の延長。操縦能力は自らの実力の最大値。
それ故、ATとATの勝負は男のプライドをかけた真剣勝負。
次回 <誇り>
キリコは迷えるエースの心を解きほぐせるか