装甲騎兵ボトムズ 惑星デゲンの奇跡   作:黒猫アプロ

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お悩み相談するフォークトというのもどうかと思いましたが、
外部の人(?)で気安いのは彼女たちだけかも。


第22話 誇り

レーン大尉は悩んでいた。

先の防衛戦でもかなり中核的な活躍はしている。

特に、強化人間が操るエクルビスを1対1で撃破したのは特筆すべき成果である。

本人は気づいていないが、遠距離支援のトータス隊、機体の手足の破損だけで済んだ

スコープドックの乗員は、早めにレーン大尉が大物を仕留めてくれたために

本当の意味で命拾いしていたのだから。

 

しかし、スコアという意味では、比較にならない例を見てしまった。

キリコである。

 

敵陣地近くに着陸後、高速で目的地に移動。

遠距離射撃で適確にポリマーリンゲル液のタンクを破壊。

その後、モラニア/バララントのAT群をほぼ瞬殺。

(実際は、移動できない程度に壊しているだけで、撃破しているわけではない)

 

大暴れしたところで、敵残骸が爆弾込みということに気づいて

ヒュロス軍を退去させている。

 

この例を見てしまったがため、「エースとは何か」がレーン大尉の中で

歪みだしているようだった。

 

戦後、一週間ほど経ってもこの“スランプ”は収まっていない。

 

健康診断しようとしたカナワは、レーン大尉が全く応答せず、

どうしたものかとフォークト総監に相談したことで、解決策が編み出された。

 

ステーションで極地仕様ATの開発について議論し、

先日治療した膝の定期健診でダニエルとフィアナが集まっていた時、

フォークトから、「最近の悩み」ということで話が出たのだった。

 

「たぶん、キリコは一番効率的な方法を選んでいるだけなのと、

 今の彼には「敵を倒す」という意識さえないかもしれません」とフィアナ。

「と、いうと?」興味深く思ったフォークトが尋ねる。

“敵のATでさえ、目的の前には、ちょっと敵対反応で撃ってくるという

 程度の障害物としか思ってないかもしれないわね。”

「そういうものなのか?」

「キリコは軍にいたことはあっても、私と出会った頃は、常に一人か、

 傭兵だった。組織の中で役割を果たすというような戦い方はしていませんから」

「なるほど」

 これはちょっと大変だなと思い直したフォークト。

 

だが、解決策は、あっさりとキリコから示された。

「別に俺はそんなに強いわけじゃない。

 しかも俺は個人の目的さえ達成すればいいのに、

 レーン大尉は部下を守らないといけない。

 単純に比較できないだろう。」

“そうね・・・でも、随分あなたを意識しているみたいよ”

「なら、俺と戦ってみればいい。

 ヒュロスにもバトリングできる場所はあるのだろう?

 そこで模擬戦をすればいいんだ。」

 

この話はフォークトがデゲンに戻る時に伝達された。

 

「レーン大尉、どうだ。やってみるか。」

 

連日の猛訓練で調子を取り戻そうとしていたレーンに、

軽い調子で提案してみた。

 

「自分でよいのですか」

「キリコによれば、「『戦闘スタイル』は自分と随分似ている気がする。

 お互いに役に立つのではないか」とのことだ。」

「どういう勝敗条件なのですか」

「互いに模擬弾。ペイント弾なので損傷が多い方が負け、だな。

 旧スタジアム跡での戦いになる。」

「承知しました。腕試しですね、やります。」

 

その日のうちに、キリコが降りてきた。

ATはヒュロス側で用意するというので、両者に全く同一のスコープドックとする。

レーン機もいつものアサルトカスタムではない。

キリコ機も単なるスコープドッグである。

 

武器のみ選択制としたのだが、

レーン;短銃身タイプアサルトライフル

キリコ:標準アサルトライフル(長銃身)

 

と、好みが分かれた。

 

審判はフォークトが努める。

「用意はよいか。それでは演習開始!」

 

レーン機はスタジアム左側、キリコ機は右側が初期配置。

興業バトリングと同様、内部には構造物があり、これをうまく利用しながら

相手を撃破するのが目的である。

 

キリコ機は相手より距離をとって、コクピットなどの致命的部位に当てる作戦、

レーン機は積極的に前にでて、速度と速さで圧倒することを狙っていた。

 

始めのうちはキリコ機がレーン機にいくつか弾丸をかすらせるが、

いずれも致命傷ではなく、決め手がない模様。

レーン機はキリコ機に接近しようとするが、うまく遮蔽物を使われ命中すら困難。

 

キリコ機は重要部位への適確な射撃を狙おうとするが、

しばらく様子をみていたレーン機が、遮蔽物越しに命中弾を与え始める。

 

そして、最後は、遮蔽物の天井を射貫いてそこから追い出し、

脚部に命中弾。

 

これが決め手となった。

 

「勝負あり。レーン機の勝利!」

勝負を見つめていた隊員の大歓声。

 

 

キリコはハッチを開けてレーン大尉に話しかける。

「さすがはヒュロス軍のエースだな。脱帽だよ」

レーン大尉はまだ、狐につままれたような表情。

「これで、本当に勝ったのか・・・」

「もちろん、勝ちだろう。

 俺の機体は片足が機能不全、立ち上がれないという判定だ。

 無論、俺はATに執着しないから、なんらか抵抗して、

 機体は捨ててから逃げ出すが、それはAT戦ではない勝負だな。」

「・・・そうなのか?」

「戦場で生き残るなら、ATに固執する理由がないな。

 耐圧服は宇宙空間でもある程度大丈夫だし、水中でも問題ない。」

 

キリコはさらに続ける。

「前の戦いで見たのは、攻撃相手がそれほど強くなかったし、

 目的は連中の妨害で、こちらは積極的に撃破は狙っていない。

 拠点と後ろの兵員を守らなければいけないあんたとは

 そもそも戦いの重みが違うんだ。」

レーン大尉は言葉もない。

 

「あえて言わせてもらえるなら、あんたはこれまで戦った相手の中で

 もっともタフだった。

 ・・・そうだな、かつて戦ったPSよりも上かもしれない。」

「それは誰なんだ?」

「イプシロン。哀しい運命を背負っていたヤツだったな。

 レーン大尉、俺からみてもアンタはPS級だよ。

 あいつが搭乗していたトータス級で、湿地帯が舞台なら、

 ほぼ瞬殺されていたな」

 

予想外のキリコの高評価に驚くレーン大尉とフォークト。

「キリコ、レーンはそこまでなのか。」

「あぁ」

 

「もし、いつか湿地帯で護衛に使うATを開発するなら、

 彼にはイプシロンの乗機でも乗りこなせる、俺はそう見た。」

 

今後多用途展開されていくAT開発に一石を投じた今回の模擬戦。

ヒュロスのスーパーエースがさらに覚醒したのかもしれなかった。

 




<次回予告>
鋼鉄の巨人が新たに生まれる。
極北の地を活躍の場に。この惑星の覇権を握らんと立ち上がる。
しかし、そこに黒の凶鳥が襲いかかる。
次回 <氷結点>
復讐に猛るモラニアの女傑が立ちはだかる。
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