競争至上主義を掲げるマーティアルでは、
それが適用されるのは下部組織ではではない。
むしろ上位の幹部にこそその本質が現れる。
- 「神」の威光を世に知らしめるには何が最も適切か
- 聖庁は何をするべきか
- そのための最良な手段は何か
これをテーマとして、幹部も考え方が別れている。
特に惑星クエントが消滅した後では。
一時、「神」たるワイズマンが消失したと思われたからである。
ある者はクエントが消滅した宙域に何かないか、艦船を派遣して捜索
ある者は祈りが足りぬとばかり聖堂に籠もり、ひたすら祈りを捧げる。
そしたある者は、「競争に勝ち残った者こそ新たなる『神』である」とした。
新たなる『神』を見出した幹部、ヴィアチェスラフ・ダ・モンテウエルズ枢機卿は
これをさらに発展させて考えた。
- 新たなる『神』も人の子であった。
- その人の子が試練を勝ち抜き、「神の座」に手をかけた。だが、それを放棄した。
- なれば、その者を排除できれば、まさに新たなる『神』となれる。
この考えはギルガメス・バララントの両陣営において、
主としてクエント事変の中身を詳しく知らない多数の者から支持されている。
それは聖庁の討議場での彼の側にいる司祭の数が物語っている。
他方、これを真っ向から否定する側
古くから聖庁におり、微かながらワイズマンの声を聞くことができた
グラスノスチ・デ・グノー枢機卿率いる一派。
彼が最後に受け取ったメッセージ
「キリコには絶対に触れるな。銀河が崩壊する」を忠実に守るべきとする立場。
こちらは、クエント事変と、その後のキリコについて詳しく知る者が支持し、
上級の司祭が数多くこちら側についている。
今後のマーティアルの方向性を決める教皇選挙(コンクラーベ)。
2人の最終演説の後、投票。
投票結果はモンテウェルズの圧勝であった。
とは言え、すぐに聖戦の軍を起こすほど、モンテウェルズも無能ではない。
しっかりと準備を整えようとした。
コンクラーベの翌日、モンテウェルズはAT工廠に赴く。
マーティアルのAT開発局はギルガメスともバララントとも異なる。
大本のアイディアがワイズマンから提供されているためである。
クエント崩壊以前に蓄積された膨大なデータ、
ギルガメス・バララント双方の戦闘データ
クエントから提供されていた高性能センサや装甲材、
これらを組み合わせてどちらにも属さない高性能機が開発されている。
現時点の最新機が陳列されている。
X-AT-HXX エルドスピーネ
形はドック系と思われるが大きさが大分異なっている。
教皇の視察とあって、開発局の職員はここぞとばかり、売り込みに必死である。
「これは猊下。わざわざのお運び、恐縮です。」
モンテウェルズは最新型を見て問う。
「君、この機体は現在、何機が実働できそうかね?」
「はい。現時点では5機、予算をいただければ増産は容易です。」
「5機か・・・・」
教皇の様子に慌てた職員が取り繕う。
「・・・メンテナンスや故障時の予備がございますので、
そこを調整すれば2~3機はいけますが。」
ところが暗に反して、モンテウェルズは慎重だった。
「いや、共食い整備はダメだ。
そうか、では予算を増やして、実働機を20機にするにはいくらかかる?」
「現状の10倍ほどいただければ」
「期間は?」
「およそ1ヶ月」
モンテウェルズは同行していた職員からデータ端末を局員に渡し、
「これで足りるか」
「はい。確かに」
「よし、それでは、もう一つ、このデータの機体をその20機で破壊することが
できるよう、訓練せよ」
その機体とは、キリコのラビドリードック(改)。
惑星デゲンでモラニア軍を粉砕した時の映像だった。
「! 猊下、これは!!」
「我らは全銀河の中で、秩序を保つものでなくてはならぬ。
このような異分子が世界を引っかき回してはならんのだ!」
そういってAT開発局を出て行った。
さらに教皇はギルガメス/バララント双方の指導者との対話に入る。
双方とも汎銀河的宗教の権威の前に、頭は下げる。
しかし、モラニアからデータを得ているバララント、
近隣惑星が侵攻を試みて、あえなく全滅したという情報を握るギルガメス、
双方とも協力は誓うが、最低限の物資提供に留まっている。
もっとも、現時点の自信満々のモンテウェルズには、
双方を使おうとか、彼らを楯にしようという考えはない。
むしろ、「黙っていていろ」という心地である。
どちらの陣営もモンテウェルズがあえなく敗北し、
結果として権威を落とすであろうことを強く強く期待していたのだった。
<次回予告>
“武は万物の調和なり 戦いこそ平和なり”
神の座が空いたと見て、欲深き者が新たな戦いを求めて蠢動を始める。
しかし時は流れ、人の心は移ろい続ける。
「神」に抗い、人の世を守らんとする漢たちが立ち上がる。
次回 <流れ者たち>
「神」の軍団を止めるものは何処に。