ダニエルのステーション
惑星デゲンから到着したシャトル便
出口から一際大柄な男が降りてくる。
「キリコ、元気だったか」
「あぁ、シャッコ、お前も無事で何よりだ」
「・・・・フィアナは元気になったようだな」
「えぇ。もう大丈夫よ」
「・・・・よかった。」
相変わらず必要以外のことは話さない。
だが温かみのある態度。
キリコとフィアナが冷凍カプセルで脱出するまでずっと一緒だった。
大柄な正義漢。
「相手は誰なんだ」
「マーティアルという宗教組織だ」
「あぁ。ワイズマン教か」
「? そうなのか」
「そうだ。クエントで『神』を名乗っていただろう。
それを全銀河規模でやっているのがマーティアルだ。
だが、おかしい気がする」
「どういう点がおかしいの」
「・・・今回、ワイズマンはクエント消滅で大打撃を受けた。
実際はヌルゲラントという兄弟星にヒトとモノを転送して逃れたのだが、
一度負けたキリコにわざわざ挑む理由がないと思った。」
「確かに言われてみれば奇妙だな。
・・・・だが、挑まれた方としては、準備はしないといけないだろう。」
「・・・そうだな」
話が終わるタイミングで、フィアナの後ろからダニエルの立体映像が登場。
「・・・お前、古代クエント人か」
“さすがにわかっちゃうか~。そうよ。”
“私はダニエル。生物学者よ。”
「・・・機械には詳しくないのか」
“いっぱしの知識はあると思っているけど。どうなのかしらね。”
キリコとフィアナがシャッコを案内しながら会話している。
「ところでATはどうした。持参しているのか」
「・・・今はない。ベルゼルガはクエント本星で配分先が決まっているからな」
“じゃあ、こちらで作ってみる?”
「・・・できるのか?」
“できるわよ。ちょっとオリジナルと違うかもしれないけど。
「では頼もうか。今回は宇宙戦だからな。そのつもりだと助かる”。」
一方の惑星デゲン。
フォークト総監とレーン大尉が出迎える。
一同は滞在先やATの整備、部品や補給体制を聞いた上で
一旦解散になる。
だが、そこに一人、若いAT乗りが残る。
アズライト・フィクス。
カスタム化したスコープドックターボカスタムの機体
左肩の大型クローが特徴。
「何か聞きたいことがあるのか」レーン大尉が応じる。
「あぁ。あんた達はFSという言葉を聞いたことはないか」
「さぁ?」フォークト総監を見るレーン大尉。
「・・・ギルガメス陣営の一部では知っている。
“誠実なる兵士”の略称だそうだな。
聞く限りでは、PSの一種だと思うが。
詳しいことまではわからない。」
「そうか。
今回、ギルガメスもバララントも積極的に介入はしないようだが、
どうも体のいい実験場所だとは思っているようだ。
FSは投入してくるかもしれんぞ」
「・・・・察するに、君もFSのナゾを追いかけているクチか。」
「そうだ。もし、戦場でFSに当たることがあったら、俺たちに優先的に
回してくれないか。対策があるんだ。」
「戦況によるが、心しておこう。」
「すまない。助かる。」
それきり、アズライトは彼のチームの方へ向かっていった。
フォークトは耳に付けたデバイスでダニエルと通信。
<君はFSについて何か知っているかね。>
“・・・PSの内実がお粗末だったことからすると、”
“ろくなことじゃなさそうだけどね・・・。”
しばらくの沈黙の後、ダニエルが回答する。
“彼らの健康診断のためのデータを見ていたのだけど”
“神経系に人の手を加えた形跡があるわね”
デバイスが目の前に画像を投射。
“これがさっきの人の頭部透視画像だけど”
“運動や反射を司る神経のコア部分に何か特殊な機械をかませているみたい”
“理由はわからないけど、キリコがもともと持っているような”
“あるいはあなたたちのような優れたAT乗りがもっている資質を”
“人工的に再現し、必要なところで、スイッチをもつ人が操作できる技術かしら”
<つまりは、戦場で劣勢になった際、特定のパイロットだけ、能力を底上げして
勝ちを拾わせるということか>
<だが、神経系を操作するということは、下手をすれば、その人間が死んでしまうぞ>
“これを開発した人は、それで構わないと思ったのでしょうね。”
“AT乗りがATになってしまうみたいな皮肉ね。”
<このコネクタを取り外して、その人間を“再生”することは可能なのか>
“正直、わからない。”
“その人の生命力の強さによるし、生きる意思の強さにもよるかも”
FS技術について、「再生」は前途多難なようであった。
そしてここにもう一組。
最近の戦場ではお目にかからない兵種と、同行者がいる。
メロウリンク・アリティ。機甲猟兵。
ATを持たず、生身で大型の対ATライフルやパイルバンカーといった武器で
ATを仕留めるプロ。
しかし、一般には、それは建前で、懲罰部隊に与えられる役目。
普通はその部隊は一度の戦場投入で壊滅する。
しかし、彼は生き延びた。
生き延び続けたのだった。
最後に、彼の小隊、全員の敵をとった上、
行きがかり上、同道したルルシーをも救い出して、
惑星メルキアを脱出したのだった。
彼が懲罰部隊に転落するきっかけは、上官が仕掛けたウソのスキャンダル。
後にPSに必要となるヂヂリウムの大量紛失だった。
PS計画自体はそれなりの成果を挙げたのだが、その実行部隊である
キリィ少将が裏切って秘密結社を結成。実態はワイズマン直轄の軍隊として活動して
成果を横取りされたのだった。
その首謀者である男は既にこの世になく、メロウリンクの復讐も終わっている。
だが、戦場しか生きる場がない男は再び戦場に呼び寄せられたのだった。
「ねぇ、メロウ。無理して戦場に立つことないよ。
私が札まきやるからさ、今度はあんたがマネージャー兼護衛ってことでどう?」
「いや、ルルシー。
君こそ、無理しちゃいけないよ。
行きがかりとは言え、君のお城、壊しちゃったし。」
「それこそ不可抗力だし、気にしなくていいのに・・・」
2人で睦まじく話している様子は、整備兵のルッカ曹長、衛生兵から軍医に格上げに
なったカナワは先ほどから目を離せない。
戦場や軍隊ではお目にかかれないシーンだから。
彼ら個別の事情は互いにわからないが、
運命が結びつけたように、全て「PS技術」が導いた縁とも言える。
この個性ある人間の集まりが、マーティアルの野望に打ち勝つことができるか
今の時点ではわからない。
<次回予告>
“強く願うものは既に半ば実現している”
“情熱は運命さえ変える”と人が言う。
しかし機械の技を用いて人の意思を塗り潰さんと試みる者がいる。
次回 <意思>
人の心は肉体の強制を乗り越えることができるか。