モラニアの地上攻撃軍は脆かった。
事実、同じく寄り合い所帯のヒュロス軍に歯が立たないのだから、
それはその通りなのだろう。
しかし、今回は戦略的により大きな網を張っていた。
「敵がどこにいるか」
「これからどこに進むのか」
これをほぼ確実に言えるのは、衛星や宇宙ステーションからの観測である。
もし、これを奪ってしまえば、戦略は大きく変化することになる。
マーティアル軍は虚実入り交じった情報を操ることで、まずは一手先に行った。
このステーションの攻略には、マーティアル本軍が当たる。
これはマーティアル自体が言い出したことで、
参加を半ば強制されたギルガメスもバララントも異議がなかった。
とは言え、実力未知の軍と兵器である。
「護衛」を名目に、監視するAT小隊がそれぞれ1個小隊、随伴している。
マーティアル本星 教皇親衛隊旗艦 フィリウス・ウニゲニトゥス・デイ
新たな教皇、モンテウェルズが選定した親衛隊。
その隊長は優れた軍人でもあり、敬虔なマーティアルの信徒でもあった。
元ギルガメス軍中将 オットー・フォン・ヘルツベルクである。
(みな、物事を大げさに考えすぎなのだ。
「神の子」と言えど個人。一人に過ぎぬ。
どのように優れたAT乗りでも、集団の力では押し流されるだろう)
旗艦の将官席で瞑目して時を待つ。
少し時を置いて指令。
「旗艦より艦隊に指令。全艦ミサイル発射。
目標:ヒュロス軍宇宙ステーション」
ATは全く展開せず、ひたすらミサイルの物量で圧倒する策である。
ミサイルは時過たず、ステーションに全弾命中。
あっさりとステーションは爆砕した。
「旗艦より指令。周辺を警戒せよ。
爆発に際してデブリに隠れて逃亡しようとする者がいるやもしれん。
できる限り拿捕、困難なら撃墜せよ。」
しかし、周辺警戒したギルガメスもバララントも何も発見できず。
宇宙の「目」は消えた・・・はずだった。
ダニエルの宇宙ステーション
“間一髪だったわ~”
ステーションのシステムパワーを全力で使い、
以前、こっそりとルッカ曹長の協力を得て設置した
「亜空間ポータル」
移動距離範囲ギリギリにステーションを移動し、ひっそりと
重要データと人員全員を転移させることに成功したのだった。
ダニエルとともに、装置稼働に走り回っていたルッカ曹長は
疲れ切って床に敷いたマットに倒れ込み、寝息を立てている。
「ステーションの人たちが無事で何よりね。」とフィアナ。
「今すぐは無理だが、後で地上に送ろう。」とキリコ。
ステーションの統括官、ハリス少佐はここ1時間ばかりの出来事に
全く頭がついていかない感じで、きょろきょろとあたりを見回している。
「ゴッペル曹長から話は聞いていたが、本当に「技術の粋」の城だな。」
“そう?そこまで大層な技術はないと思うけど・・・”
「いや、あの新型ATだって、あんたの技術じゃないのか?」
指さした先にあるのは、レーン大尉が使っている「メタルバック級」の2番機。
“あれは、ここにあるデータも使ったけど、アイディアの多くはボルク少佐”
“材料探しはヒュロスにいる人たちからもたらされたものも多い”
“その意味ではハイブリッド機とは言えるかしら”
すっかりここの工房の主になっているゴッペル曹長も言う。
「ま、そうだな。この嬢ちゃんの貢献が大きいのは確かだがな。
・・・おい、ベティア、そいつはこっちだ。
ガンミア!アライメントをいじりすぎるなって何度いやぁわかる!」
(え~、わかるようにちゃんと印をつけておくべき)
(このくらいなら大丈夫だよ!)
最早ライト級ATなのか、ここの作業員なのかわからない3機の常駐AT。
いちいち説明しないので、ハリス少佐にはわからない。
「・・・それで、あのステーションが持っていた衛星と、その制御だが・・」
“あ、それも大丈夫。今でもデータは取れるわ。”
「そうなのか!?」
“えぇ、大丈夫よ。”
「・・・大切なのは、敵はヒュロス側には衛星データがない、
と思い込んでいるところだ。」
とキリコ。
「この状況を利用させてもらう。」
「それともう一つ、こちらからも情報戦といきましょう。」
とボルク少佐。
マーティアル援護艦隊(バララント軍派遣)旗艦 シーラ・ナローダ
ヒュロス側宇宙ステーションの爆砕はこの艦でも確認した。
マーティアルとギルガメス側はなんら疑わなかったが、
チェルニコワ少将は妙な違和感をもっていた。
(おかしい。脆すぎる)
(奴らにとっては虎の子のデータのはずだ。
それを簡単に捨てるなど・・・)
だが、その違和感は形にならない。
(それにこれは我々の戦ではない。
ムダに損耗する必要がどこにある?)
「よし、モラニア側宇宙ステーションへ。
すっきりしない情勢だが、データをみれば案外簡単かもな。」
マーティアル援護艦隊(ギルガメス軍派遣)旗艦 オール・アドナイ
ギルガメス側も実はステーションがどうなろうと無関係であった。
必要な情報は自分で収集できるからである。
そしてこの派遣軍の特性は、機械化重視、データリンク重視のFS部隊。
“その場”で優れた判断が可能であった。
「よし。上陸準備よし。
目標地点を指示願います。」
その時、宙域全体に一瞬だが強いノイズが走った。
「周辺のAT部隊と連絡がとれません」
「マーティアル/バララント艦隊とも連絡とれず。」
が、しばらくするとノイズは収まる。
「なんだったのでしょうな」
「おそらく、先のステーション爆砕の影響かと。」
指揮官の号令一下、上陸用舟艇200機が整然とヒュロスに向かって突入していく。
本命はヒュロス軍首都ブラヴェ。
今こそ、我が国の軍に武威が輝きますように!
<次回予告>
嘘には嘘を。見えたものが全て正しいとは限らない。
右は左か、前は後ろか。
基準を持たぬものは生きていけない世界。
次回 <欺瞞>
昔話のように正直者は得をするのか?