フォークト隊が観測していた映像は即座に参謀本部、そして大統領へ転送された。
もはや主な戦力が払底しつつあるヒュロスでは、
頼りになるものを探しており、しかも敵主力AT隊を壊滅させたとなれば
「どうにか味方に」という声が出るのもやむを得ない状態ではあった、
「フォークト中佐、あれは何者かね。」画像通信で大統領が直に問う。
「わかりません。ATについてはギルガメス系の技術を使ったもののようでは
ありますが。」
「あれだけの戦闘力を持っているのだ。なんとか味方にできないかね。」
「難しいのでは。戦闘後の映像を見ていると、何やら土か何かを採取して
上陸用舟艇に持ち込み、そのまま大気圏外へ出ているようですから。」
「・・・彼らが欲しているモノ次第では取引もあり得るかもしれんぞ」
「可能性はありますが・・・それより閣下、ギルガメス軍の援助はどうなったのですか」
「あらゆる経路を通じて連絡を試みているが、望み薄だろうな」
フォークトは一応、尋ねてはみたが、望みが薄いことは十分わかっていた。
「とにかく、手がかりを探って、彼らと交渉してみてはくれないか」
「我が隊が直接、で、ありますか?」
「・・・本来、現場の一部隊に依頼する内容でないことは、私もよくわかっている。
だが、頼む。」
「わかりました。交渉の全権をいただけると考えてよろしいでしょうか。」
「頼む。」
それで映像は切れた。
大統領からの依頼ということで、参謀本部、情報部にも必要な情報を提供するよう、
強く要請する。
その結果得られた情報は、軍歴が長いフォークトでも信じがたいものだった。
フォークトは隊員全員と整備兵長に呼集をかけた。
一部は防衛拠点からのビデオ参加である。
「諸君、緊急事態だ。」
会議はフォークトの緊張感あふれる発言から始まった。
「モラニア軍は、わが軍の北の擁壁とも言えるネス山脈に拠点を形成しようと
している。
そこに部隊を集結し、一気に首都ブラヴェを制圧しようと試みている。」
会議室にいる一同とは別に、他の拠点にいる参加者は驚きを隠せない。
「隊長、それは事実でありますか?」南部に派遣されているノルデン少佐が問う。
「事実だ。衛星画像を見たまえ。」
先ほどゼトラ大尉が抜き出す映像より前の段階、
すなわち、モラニア軍が先遣隊を山脈に登らせる状況を示した映像だった。
「ATが登りやすいように道を拓き、かつ、臨時舗装をして、山の中腹に集結。
そこからハーケンを使って登頂。
こちら側に降りてきて拠点を形成している部隊がいた。
だが、何者かによって、彼らは排除された。」
その部隊こそが、先ほど撃破された部隊であった。
均衡状態を保ってきた戦線だったが、モラニア側はかなり焦っている様子が見える。
「奴らはなぜ急侵攻を始めたのでしょうね。」
北部平原を担当するボックメッサー大尉。
「情報部が把握しているところでは、どうもこの100年戦争も終わりが近いことが
理由のようだ。」
「・・! 本当ですか。」
「それ故、和平協定を締結するにあたって、少しでも有利なところまで戦線を進めて
おきたいのだろう。」
会議室の別のモニタで、先ほどの「5分戦闘」をじっと見ていたボルク少佐が尋ねる。
「それは、先年、惑星クエントが消滅した戦闘と関わりがあるのでしょうか。」
「・・・なぜそう思う。」
「このドッグタイプのATは、ギルガメス・バララントの双方から追われ、ついには
『ワイズマン』と呼ばれているクエント古代文明の中枢部にたどり着いた新型ATに
見えるからです。
それから、この後ろに移っている小型のATも同様で、
ギルガメス系の機体に見えますが、記録はなく、
形状からバララントのものでもありません。」
全員が疑問を抱える中、フォークトは別の質問を投げかけた。
「ボルク少佐、貴官がこのATと戦闘するとして、何分持ちこたえられる?」
「・・・・単騎なら1分もたないでしょうね。」
「戦闘スタイルが似ているレーン大尉ならどうだと思う?」
「・・・・・・柔軟に対応はできるでしょうが、機体の性能が隔絶しています。
機体を壊さずに対応するのは不可能でしょう。」
名指しされたレーン大尉も同調する。
「相手が早すぎます。それにこのATが持つ武器を一発でも食らったら大穴が空きます。
30秒もつかどうか。」
同感なのか、誰一人反論しない。
フォークトは情報部から得たカードをもう一枚表に出す。
「ボルク少佐が言った通り、このATの操縦者は、おそらくクエント事変の当事者で
クエント崩壊後も生き延びた者と思われる。
ギルガメス側の情報を信じるなら、
名前はキリコ・キュービィー。
元レッドショルダー隊員。
そして、パーフェクト・ソルジャーを打倒した<異能者>だ。」
一呼吸おいて、フォークトは本題を告げる。
「参謀本部、および大統領からの依頼だ。
なんとか、彼を味方につけられないか、とのことだ。
諸君らの考えを聞きたい。」
今日の夜は長くなりそうだった。
<次回予告>
一陣の風は赤い悪魔を薙ぎ払って去って行った。
それは全てを奪い去る暴風雨か
アイオロスが司る神の息吹か
次回「生存戦略」
風はきまぐれ、今日は東か、明日は西か。