Dクラス「ドッ!ワハハ」 綾小路「wwww」 オリ主「あ、綾小路くんも笑ってるよw」 綾小路「」 作:ホモガキ
作者の性癖を詰め込んだだけの作品です。
人が笑う理由は一つじゃない。
本当に面白いと感じた時もあれば、周囲につられて笑うこともある。
場の空気を悪くしないために笑う人間もいるだろうし、相手との距離を縮めるために笑う人間もいる。
俺自身、笑うという行為に特別な意味を持たせたことはなかった。
必要なら笑えばいい。
必要がなければ笑わなくてもいい。
その程度のものだと思っていた。
「お前たちは、まだ学生だから実感がないのかもしれないが」
教壇に立つ茶柱先生が、教室全体を見渡す。
「社会に出れば、黙って座っているだけで誰かが自分の価値を見つけてくれる、なんて都合のいい話はない。自分から存在を示すことも必要になる」
入学してから、まだそれほど日は経っていない。
高度育成高等学校。
全国でも珍しい全寮制の学校で、入学した生徒には毎月多額のプライベートポイントが与えられる。
少なくとも表面的には、学生にとってこれ以上ないほど恵まれた環境だった。
当然、クラスメイトの多くもそう受け取っている。
現時点では。
「存在を示す、かぁ」
前の方から、池の声が聞こえた。
どうやら何か引っかかったらしい。
池は手を上げる。
「じゃあ先生! 俺みたいにめっちゃ喋る奴って、評価高いってことっすよね?」
茶柱先生は少しだけ間を置いた。
「なぜそうなる」
「だって存在感あるじゃないっすか。俺」
「存在感と高評価は同義じゃない」
「えー」
まあ、当然の返答だ。
むしろ池がなぜ自信満々だったのかは分からない。
その時だった。
「池くん」
少し離れた席から、女子の声が飛ぶ。
「ん?」
池が振り返る。
声をかけたのは黒瀬莉愛だった。
明るい髪色に、少し着崩した制服。
入学して数日しか経っていないにもかかわらず、既にかなりの人数と話している。
良く言えば社交的。
悪く言えば、距離感が近い。
少なくとも俺はそう認識している。
黒瀬は頬杖をついたまま、特に深く考えているようにも見えない顔で言った。
「マイナスも自己申告制になったん?w」
一瞬、教室が静かになった。
「ぶはっ!」
最初に吹き出したのは須藤だった。
そこから一気に広がる。
「おい黒瀬!」
「いや池くん、自分でアピールしてたじゃんw」
「プラスのアピールだよ!」
「先生、プラスなんて一言も言ってなくね?w」
「黒瀬ぇ!」
また笑いが起こった。
俺は黒瀬を見る。
茶柱先生が言ったのは、自ら存在を示す必要があるということだけだ。
存在を示せば高く評価される、とは言っていない。
池が積極的に自己主張した結果、欠点まで可視化される。
それもまた評価には違いない。
黒瀬の言葉は、単純な悪口として成立している。
同時に、茶柱先生の発言とも矛盾していない。
意図して言ったのか。
それとも偶然なのか。
黒瀬を見る限り、後者の可能性も高そうだった。
「……ふっ」
気づけば、僅かに声が漏れた。
「あ」
黒瀬と目が合う。
「あ、綾小路くんも笑ってるよw」
「…………」
「なんで真顔になんのw」
教室にもう一度笑いが起こった。
余計なことをした。
そう思った。
◇
数日前。
入学式当日の朝。
黒瀬莉愛は、高度育成高等学校の校門を見上げていた。
広い敷地。
綺麗に整備された校舎。
新入生とその保護者が絶えず門をくぐっていく。
一般的な高校とは規模からして違う。
もっとも、莉愛が最初に抱いた感想はずっと簡潔だった。
デカ。
「ここが高度育成高等学校ね」
隣に立つ母親が、校舎へ視線を向ける。
「へー」
「……莉愛」
「ん?」
「入学初日くらい、もう少し緊張感を持ちなさい」
「持ってるって」
「どこが?」
「心の奥深くに」
「見えないわね」
「心だからなw」
母親が小さく息を吐いた。
黒瀬家は裕福だった。
莉愛も幼い頃から、それなりの教育を受けている。
正式な場での振る舞い。
食事の作法。
言葉遣い。
必要なら、一通りこなすことはできた。
ただし、それを好んでやるかは別問題だった。
「学校では節度を持って行動しなさい」
「うい」
「莉愛」
「はい」
「問題を起こさないこと」
「俺の信用低くね?」
母親は否定しなかった。
「ひど」
「では、行ってらっしゃい」
「行ってきまーす」
莉愛は軽く手を振り、校舎へ向かう。
高校生活。
三年間。
新しい場所。
新しい人間。
面白ければ、それでいい。
先のことは。
今は別に考えなくていい。
◇
一年Dクラス。
扉を開けると、既に半分以上の生徒が集まっていた。
窓際では何人かが外を眺め、教室中央では早くも会話を始めている生徒もいる。
入学初日特有の、互いの様子を窺うような空気。
莉愛はざっと教室を見渡した。
美男美女多くね?
率直な感想はそれだった。
特殊な学校だから、そういうところまで選抜しているのかもしれない。
知らんけど。
近くにいた女子と目が合う。
柔らかい雰囲気の、小柄な女子だった。
「おはよー」
「あ、おはよう」
「黒瀬莉愛。よろしく」
「私は井の頭心。よろしくね」
「心ちゃんね」
「うん」
まず一人。
特に理由はない。
近くにいたから話した。
それだけだった。
自分の席を探して歩いていると、今度は背の高い男子が目に入る。
雰囲気からして、既に何人かと自然に会話を交わしていた。
「君もDクラス?」
向こうから声をかけてきた。
「そうそう」
「僕は平田洋介。よろしく」
「黒瀬莉愛。平田くん、めっちゃ陽キャそうだなw」
「え?」
「友達多そう」
「どうだろう。これからみんなと仲良くできればと思ってるけど」
「その発言でもう陽キャなんよw」
平田は困ったように笑った。
多分いい奴。
莉愛の中では既にその程度の分類が済んでいた。
少し先には、体格のいい男子。
明らかに運動部。
「何見てんだよ」
「デケーなと思って」
「は?」
「何センチ?」
「なんで初対面で聞かれなきゃなんねえんだよ」
「いいじゃんw」
「……須藤健」
「黒瀬莉愛。よろしく須藤くん」
「お、おう」
急に声音が弱くなった。
なんだこいつ。
そのまま教室を見渡していると、今度は黒髪の女子に目が止まる。
姿勢よく席に座り、誰かへ話しかける様子はない。
長い髪も制服も乱れがなく、周囲のざわめきから一人だけ切り離されているように見えた。
そして何より。
話しかけんなオーラがすごい。
莉愛は思った。
面白そう。
迷わず近づく。
「ねえ」
「……何?」
冷たい。
期待通りだった。
「名前なんていうの?」
「自己紹介の時に分かるでしょう」
「今聞いた方が早くね?」
「……堀北鈴音」
「鈴音ちゃんね」
「名字で呼んで」
「堀北ちゃん」
「……」
「よろしくw」
「あなた、人の話を聞かないのね」
「よく言われる」
本当によく言われる。
そのまま自分の席へ向かおうとして。
また一人、目に入った。
男子。
茶髪。
特に誰かと会話するでもなく、静かに席についている。
窓の外を見ているわけでもなければ、スマートフォンを触っているわけでもない。
ただいる。
なんか。
死んだ魚みてえな顔してんな。
莉愛は近づいた。
「よ」
男子がこちらを見る。
「……俺か?」
「他に誰いんの?」
男は一度周囲を確認した。
本当に自分だと思っていなかったらしい。
「黒瀬莉愛」
「綾小路清隆だ」
「綾小路くんね」
「ああ」
「…………」
「…………」
会話が終わった。
早い。
「静かだな」
「初対面で何を話せばいいか分からない」
「あー」
分からなくもない。
でも。
「じゃあ俺が喋るわ」
「なぜそうなる」
「沈黙気まずくね?」
「別に」
「強えなw」
なんかちょっと面白い。
「綾小路くん、友達いる?」
「入学初日だぞ」
「これから作る?」
「できれば」
「じゃ俺一号な」
「…………」
「何その顔w」
「友達は一方的に決められるものなのか?」
「そんなもんじゃね?」
「そうなのか」
「知らんけど」
「知らないのか」
ほんの少しだけ、綾小路の表情が変わった。
呆れたようにも見える。
笑ったわけではない。
けれど、さっきまでよりは人間っぽい。
「じゃーな」
「ああ」
莉愛は自分の席へ戻った。
この時点で綾小路清隆に抱いた印象は、それだけだった。
静か。
地味。
ちょっと面白い。
それ以上でも以下でもない。
◇
自己紹介が始まった。
平田は予想通り爽やかだった。
櫛田桔梗という女子も、かなり話しやすそうなタイプ。
須藤はバスケ。
池と山内は、だいたい同じカテゴリに見える。
そして。
「綾小路清隆です。えー……特技は特にありません。趣味も特に……よろしくお願いします」
着席。
短い沈黙。
莉愛は綾小路を見る。
さっきよりひどい。
葬式?
目が合った。
莉愛は声を出さず、口だけ動かした。
『死んでんじゃんw』
綾小路の眉が僅かに動いた。
読めたのか?
まあいい。
次は莉愛だった。
「黒瀬莉愛です」
立ち上がる。
「趣味は遊ぶこと。得意なのは……まあ、人と喋ること?」
教室を見渡す。
「勉強は期待しないでください。以上w」
「短っ」
池が口を挟む。
「池くんも大したこと言ってなかったじゃんw」
「俺はもっとあっただろ!」
「女子と仲良くしたいしか覚えてねえw」
「そこ大事だろ!」
教室に笑いが起きた。
どうやら、悪くないクラスらしい。
◇
入学初日に、一人十万ポイントが与えられた。
説明を聞いた教室は一気に騒がしくなった。
「毎月十万!?」
「マジかよ!」
莉愛も端末を見る。
表示されている数字は、確かに十万。
「やば」
素直に嬉しい。
校内にはコンビニも飲食店も娯楽施設もある。
これだけあれば、かなり遊べる。
「黒瀬!」
池が近寄ってきた。
「放課後どっか行こうぜ!」
「いいよ」
「マジ!?」
「須藤とか平田も誘おうぜ」
「え」
「何?」
「いや……なんでもない」
なんか残念そう。
知らん。
「黒瀬さん」
今度は櫛田だった。
「私も一緒に行っていい?」
「もちろん。みんなで行こーぜw」
「ありがと」
人数が増えていく。
ふと見ると、少し離れた席に綾小路がいた。
一人。
「綾小路くん」
「なんだ」
「お前も来る?」
「俺も?」
「うん」
「なぜ?」
「来ちゃダメなの?」
「いや」
「じゃ来ればよくね?」
綾小路は少し考える。
「分かった」
「うぇーい」
莉愛は軽く肩を叩いた。
「痛いんだが」
「ウソつけw」
「なぜ分かる」
「今ので痛かったら病院行け」
「それはそうだな」
普通に喋れるじゃん。
「黒瀬さんって」
櫛田が笑顔でこちらを見る。
「誰にでも話しかけるよね」
「そう?」
「うん。すごいなって」
「別にすごくなくね?」
莉愛には、いまいち褒められている理由が分からない。
「喋りたい奴と喋ってるだけだし」
「……そっか」
「うん」
櫛田が微笑む。
そのすぐ横で、綾小路がこちらを見ていた。
「何?」
「いや」
「顔なんかついてる?」
「顔はついてるな」
「お前そういう返しできるんじゃんw」
「普通だろ」
「さっき自己紹介で死んでた奴とは思えねえw」
「忘れてくれ」
「無理w」
莉愛は笑った。
綾小路は笑わなかった。
ただ、口元がほんの少しだけ動いた気がした。
◇
放課後。
校内のショッピングエリアを歩きながら、莉愛は周囲を見回した。
飲食店。
衣料品店。
コンビニ。
高校の敷地内とは思えないほど施設が充実している。
「やっば。普通に街じゃん」
「黒瀬テンション高えな」
須藤が言う。
「だって学校内だぞ?」
「まあすげえけど」
「ラーメン食おうぜ」
「急だな」
「十万あるし」
池が真っ先に賛成した。
平田も断らない。
櫛田も楽しそうについてくる。
綾小路は、少し後ろを歩いていた。
「綾小路くん」
「なんだ」
「何食う?」
「まだ決めてない」
「ラーメンでよくね?」
「お前が食べたいだけだろ」
「バレた?w」
「分かりやすい」
莉愛は笑う。
そのまましばらく歩いてから、端末を眺めた。
「でもさ」
「なんだ」
「毎月十万って普通にやばくね?」
「ああ」
「絶対なんかあるじゃん」
綾小路の視線が少しだけこちらへ向く。
「そう思うのか?」
「だってタダで毎月十万くれる学校とか怖くね?」
「なら、使わない方がいいんじゃないか」
「え?」
「何だ」
「それはそれ、これはこれだろ」
「…………」
「ラーメン食いたいし」
「制度を疑っている人間とは思えないな」
「来月も十万来たら問題ないじゃん」
「来なかったら?」
「その時考える」
「……」
「なんとかなるっしょw」
綾小路が莉愛を見る。
「何?」
「お前は、先のことをあまり考えないんだな」
「…………」
一瞬だけ。
莉愛の中で、その言葉が引っかかった。
先。
将来。
あまり好きな言葉ではない。
ほんの少しだけ、胸の奥が重くなる。
だから。
「先のこと考えすぎると禿げるぞw」
笑って流した。
「そうか」
「綾小路くん絶対考えすぎるタイプだろ」
「そう見えるか?」
「見える」
「どこが?」
「顔」
「顔だけで分かるのか」
「勘w」
「適当だな」
「うぇーい」
軽く笑って前へ進む。
今は高校一年生。
十万ポイントがある。
友達もできた。
変な奴もいる。
それで十分だった。
少なくとも今は。
「黒瀬」
「ん?」
「ラーメンは奢らないぞ」
「は?」
「さっきから何度かこっちを見てる」
「お前マジで察しいいな」
「自分で払え」
「十万持ってんじゃんw」
「お前もだろ」
「ケチ」
「当然だ」
「彼女できねーぞw」
「余計なお世話だ」
「大丈夫。俺が紹介してやるよ」
「必要ない」
「遠慮すんなって」
「本当に必要ない」
「照れんなよ清隆〜w」
「急に下の名前で呼ぶな」
「いいじゃんw」
「よくない」
「清隆」
「やめろ」
「清隆くーん」
「黒瀬」
「ぶはっw」
莉愛は笑いながら、仲間たちの後を追った。
この時の彼女にとって、綾小路清隆はまだ。
静かで。
地味で。
少しだけ話すと面白い。
それくらいの男子だった。
◇
黒瀬莉愛。
現時点での俺の評価は、社交性の高いクラスメイト。
それ以上ではない。
誰にでも声をかける。
相手によって態度を大きく変えることもない。
だからと言って、平田のようにクラス全体の調和を意識しているわけでもなさそうだ。
単純に、本人がそうしたいからそうしている。
少なくとも今のところは、そう見える。
「清隆ー、早く来いよ!」
少し先から黒瀬が俺を呼ぶ。
「だから急に名前で呼ぶな」
「もう呼んじゃったしよくね?w」
意味が分からない。
だが。
黒瀬相手に一つ一つ理由を求めること自体、あまり意味がないのかもしれない。
そう判断して、俺は歩く速度を少しだけ上げた。