【急募】高育のAクラスで快適に過ごす方法 作:人生谷あり罠あり
ミシェル・ド・モンテーニュ
──────無人島試験開始から6日目、夜。
綾小路清隆は、体調不良により意識を失った堀北鈴音を抱え、仮設本部へと向かっていた。
「先生」
仮設本部につくと、椅子に座りタブレットを操作していた茶柱に声をかける。オレが抱きかかえている堀北に気付き、驚いたような顔をした。
「堀北? 何があった」
「高熱を出しています。すぐに安全な場所で休ませてやってください」
「………リタイア、ということでいいんだな?」
「はい」
これでいい。堀北の限界がくるタイミングを見極め、リーダーを交代させる。伊吹を誘導したのもすべてこのためだ。
Dクラスのリーダーは交代し、Cクラス、そして通じているであろうAクラスのポイントを減らすことができる。秋月には悪いが、こちらにも事情があるからな。
「分かった。リーダーはどうする」
「オレがなります」
「分かった。少し待ってろ」
リーダー専用のキーカードを用意してもらう間、オレは少しだけ待機を命じられた。そして十秒程度経とうとしたとき──────
「──────すみませ~ん、少しいいですか?」
オレの、友人の声が聞こえた。
「秋月?」
「あれ、綾小路くん。2日目以来だね」
「どうして、ここにいる」
「真嶋先生、というか教師の誰かに質問しに来たんだよ」
少しの疑念も抱かせないほど、噓偽りのない言葉。オレの目から見ても、コイツは真実を言っている。オレをつけてきた、という可能性は低いだろう。
「そうか」
「綾小路くんはどうしてここに?」
「堀北が熱を出して倒れた。だからリタイアさせるためにな」
「そっかそっか。大変だね、お大事に」
そう言って運ばれていく堀北を心配そうに見つめる秋月を見て、オレの心はなぜか少しだけ動いた。そして、脳内で疑問が広がっていく。
本当に、このままでいいのか。
嘘かもしれない茶柱の要求に従い、夢にまで見た『自由』と『普通』を諦めていいのか。
たまたま実力の一端を知られた程度の堀北のために、Aクラスを目指してこき使われていいのか。
秋月なら、いや、彼と以前一緒に遊んでくれた彼の友人の神室らとなら、目指せるんじゃないのか。
「…………ねえ、綾小路くん。何かあった?」
「どういう意味だ?」
「なんか、難しそうな顔してたし。何か悩みとかあるなら聞くけど」
ああ、秋月。どうしておまえはいつも、オレの欲しい言葉をくれるんだ? まるでエスパーだ。やっぱり、おまえが友人でよかった。
「10分後、2人で話がしたいんだが、いいか?」
「お悩み相談、聞くよ。分かった、場所はどこがいいの?」
「適当な森の中がいいな。聞きたいことがあるんだろ、離れたところで待ってる」
「了解」
「っていうか、俺もまずは離れとくね。何かやってたんでしょ?」
「あ、ああ。そうだな、ありがとう」
絶対に何かある、そう分かっているだろうにそれでも退いてくれる秋月はやっぱり普通じゃないのかもしれない。それでも、オレはコイツを信じたいと思ってしまう。
◆
「──────それで、話って何かな?」
夜の森の中、点呼を済ませてから走って仮設本部に向かった俺は綾小路に2人で話がしたいと言われた。大体の内容は察しているけど、
「秋月、オレは、少し悩みがあるんだ」
「どうしたの?」
「前にも言ったと思うが、オレは堀北にこき使われている。断っても、あまり意味をなさいんだ」
「そりゃ酷い話だね」
「最初オレは、これが『普通』だと思った。あまり詳しくは言えないが、オレの家は少々特殊なんだ。だから、人と接したこともあまりなかった。だが、秋月と関わっていくうちにおかしいと気付いた」
「そう、だったんだ………」
ホワイトルーム出身です、なんて他人には言えないしね。そもそもホワイトルームって何だよってなるし。
「担任の茶柱先生にも、ちょっとした脅しをされていてな。だから、無理な頼みだということは重々承知した上で、聞いてもらいたい」
「うん」
「──────オレを、おまえのクラスに加えてくれないか」
坂柳を封じる第一の手段でもあり、綾小路の機械化を止めるための策でもある『綾小路の勧誘』を早々に突破できたのは正直ありがたい。
こっちから誘うよりも格段にいいし、向こうに対する言い分にも使えるかもしれない。無人島試験で一番嬉しかったことが決定されたな。
「綾小路くん………」
「無理な頼みというのは分かっている。だからこそ、オレにできることはしよう。何でも言って欲しい」
「それじゃあ、堀北さんと変わらないじゃん」
「いや、それは違うぞ。今回はオレから提案しているんだ、オレのためにオレが動く。秋月が何かを気にする必要はない」
ま、綾小路の意思さえ確認できれば仲間に引き込むことは難しくない。船上試験でポイントを荒稼ぎする方法は既に考案済みだし、葛城に関しても問題はない。坂柳については………議論の余地もない。
「えーと、それじゃあ葛城くんにだけ相談してみる。でも、何か、こう綾小路くんを仲間に入れたいって思えるようなメリットがないとあの堅物リーダーの説得は難しいかも」
「──────そうだろうな。もちろん、ただでAクラスに入れてもらおうなんて言うつもりは更々ない。メリットと言えるかは分からないが、オレは勉強ができる」
やっぱり、そうくるか。綾小路側から提案された以上何かしらの能力の開示がされるだろうことは察していた。
「綾小路くんって頭いいの?」
「自分で言うのも何だが、学年でも頭脳でオレに勝る相手は存在しないと言い切って良い。いや、学年じゃなく学校でも。教師含めてだ」
明確な自身の武器の提示、本気ってことだね。何が綾小路をこの行動に突き動かしたのかは分からないけど、引き返す必要はない。
「なるほど。それじゃあ、葛城くんには伝えておく」
「ああ、助かる。それと、当然Dクラスの情報もAクラスに流すつもりだ」
「それは魅力的だね」
「先程リタイアした堀北はDクラスのリーダーだった、交代した今はオレがリーダーだ」
「指名していいの?」
「ああ」
それから少しだけ話をして、俺たちは別れた。葛城はリーダーの証拠がないと指名しないという理由で一応預かってきたけど、どうせ必要ないし明日の早朝同じ場所で返す約束も済ませた。
夜にはもう一個予定が入ってるけど、今回の試験は上手く行きそうだ。イレギュラーはあったけど、いい方向に転がってくれたしね。
綾小路だけで1話分使ってしまった………