【急募】高育のAクラスで快適に過ごす方法 作:人生谷あり罠あり
『──────みなさんにお尋ねしたいのですが、クラス内で本当に信用できる人間って、どれくらいいます?』
画面の向こうから発せられた言葉を聞いて一之瀬帆波は硬直した。理由はクラスメイトが信用ならないからでも、言葉の意味を理解できなかったからでもない。
その質問の意図が理解できなかったからだ。
「そんなの、みんなに決まってる! 私はクラスメイトのみんなを信じてるっ!」
「そうだよ。少なくとも僕も、クラスメイトを信じてる」
「俺は、数名はいるかもしれないな。それで、その質問に何の意味があるんだ?」
「ハッ、笑わせんな。信用できるヤツなんざ、いるわけねえ」
龍園くんは想像通り、だけど葛城くんは………自分の派閥にいる人は信用してる人だと思ったんだけどな。
そんなことよりも、早くこの状況を打破しないと。クラスポイントがないと、私たちがAクラスに上がれるチャンスはどんどん減ってくんだから。
『ふむふむ、個性の出る解答ですね。僕としては、この状況においては龍園くんと葛城くんの言葉が聞きたかったですけど』
「御託はいいっつったろ。さっさと本題に入りやがれ」
『ではお望みどおりに。先程申し上げた通り、私は全てのグループを『結果1』で終わらせたいと考えています。できれば、何も言わずに賛同し、私にポイントを渡して欲しい』
「そんなことできるわけないって、分かって言ってるよね?」
『かもしれないですね。では、納得していただけるように全グループが『結果1』で終了した場合のメリットをお話ししましょう』
全グループが『結果1』で終わった場合、クラスに入るプライベートポイントは大きな額になる。けど、それじゃAクラスには行けない。私たちはそれじゃ満足できない。
『──────1500万ポイントを渡す、そう考えると気に食わないかもしれないけど、650万ポイントも手元に残るって考えれば悪くないんじゃないかな?』
「それでも、本来ならもっとポイントを得られていたわけで…………」
『え? 冗談でしょ、平田クン』
言い返そうとした平田くんの言葉を遮るように、再び携帯から声が聞こえた。その声音には、侮蔑にも似たものが含まれていたように思える。
「え?」
『本来なら、ってアホらし。私がクラスポイントの取得のために動いてたらここにいる4人の中の3人のクラスが-150クラスポイントされてたの分からないかな』
「そ、それは………」
『これは僕の我儘であると同時に、みなさんへの施しでもあると理解していただきたい。そして、ここからは
そして再び声音が変化する。度々入れ替わるように変わることから、携帯の向こうに2人以上の人間がいるか、ボイスチェンジャーを2台以上用意していると分かる。
それに、一人称も口調も次々に変わるせいで、性別も性格も特定できない。
「デメリット、だと?」
『ええ。先程の質問にも、しっかりと意味はあります。まずはじゃあ、一番自信があるし、誰よりも期待されているだろう一之瀬さん。あなたへ話しかけます』
「え? あ、えと、はい」
『クラスメイト全員を信頼してる、そう言いましたね?』
「うん。私はみんなを信じてるよ、何があっても」
『ほう、それは美しい仲間意識だ。無人島の試験でも堅実にポイントを積み重ね、
「チッ」
隣に立ってる龍園くんが静かに舌打ちをする。結果だけでも、そんなことまで分かっちゃうんだ。薄々感じてたけど、用意周到なだけじゃなくて、頭も凄くいい。
「それで、デメリットって何なのかな」
『そうだね。一之瀬さんはクラスのみんなを信頼してるみたいだけど、それって上っ面だけの関係だよね』
「そんなことないよ。私たちは皆それぞれが信頼し合ってる。だから裏切りもいじめも起きないの」
『まだ3カ月かそこらの関係なのに言い切れるんだ。じゃあ本当に
「もちろんだよ」
『それって──────
◆
『じゃあ次は龍園くんね』
「一之瀬の次は俺か? いいぜ、何でも聞けよ」
『大して彼女と変わらないさ。クラスメイトは信じられないらしいね』
「そりゃそうだろ。真に信用のおける人間なんざ、一生に一度出会えりゃいい方だ」
『それには同意だね。でも、君は言い切っちゃったからもういいや。また後で』
そんな調子で彼(彼女)の質問は続いて、最後に僕の番になった。ここまでの流れで、嘘が通用する相手じゃないのは分かっている。
『最後に平田くんだね。君は信じられる?』
「もちろんだよ。僕は彼らを信じてる」
『そっか。ねえ、それって須藤くんとか山内くんも?』
「えっ?」
『彼らってさ、如何にも金積まれたら何でもやりそうだよねぇ。正直さ、
未だに、話の全体像は掴めない。それでも、嫌な予感だけは確かに働いていて、部屋に空調が効いてるのに嫌な汗は収まる様子はない。
『──────結論を言おう。『結果1』にしないデメリットはね、
「何?」
「それはどういう意味だ」
龍園くんと葛城くんの2人が訊き返す。すると、携帯から不気味な笑い声が聞こえてきた。まるでこの場にいる全員を操っているみたいに見えたんだ。
『…………簡単に言うと、さっき龍園くんの言った話は間違っているんだ』
「あ? 俺の話のどこに間違いがあったって言うんだ?」
『‘‘私が『優待者』を指名できない’’ってとこさ』
「間違ってるっつーならやってみろや」
『いいのかなぁ、そんなこと言って。さっきの問答の意味も、君なら分かるはずさ』
「さっきの、問答…………てめ、まさかっ!」
顎に手を当てて考え始めた龍園くんは、すぐに結論を導き出したのか、慌てた様子で真嶋先生に近寄り、携帯に顔を近づけた。
「俺のクラスメイトを誑かしやがったな」
『アハ。これでもう盤面は滅茶苦茶だね』
「な、なに。何が起きてるの?」
「どうした龍園。何があるというんだ」
龍園くんの様子から異常な事態を察した葛城くんと一之瀬さんが駆け寄る。その2人を突き放し距離をとった龍園くんは、静かに口を開いた。
「つまり、だ。コイツは、自分のクラスだけじゃなく、
「なっ?! だが、コイツに協力するような者はうちのクラスにはいないはずだ」
「それが『金が絡んでも』の意味ってことなんだよ、そうでしょ?」
「ああ、そうだ。『優待者』を当てさせ50万ポイントを与えた上で、自分も報酬を受け取る。しかも、もし
「最悪なこと?」
「もし裏切り者が、所属クラスの生徒が『優待者』じゃないグループなら、全クラスが指名し合って結果どのクラスもクラスポイントは増えず、コイツだけ得するって話だ」
『どうやら、自分たちだけで結論を出せたみたいだね』
「クク。ったく、おまえはホントにとち狂ってやがるなぁ?」
『褒め言葉?』
「ああ、俺なりのな。それと、少しだけ4人で話させてくれねえか?」
『ん~、ま、30秒だけならいいよ』
◆
「話は済んだ?」
『ああ。おまえの案、仕方ねえから乗ってやる』
携帯から龍園の返答があった。何を話し合ったのかは
「そっか。じゃあ丁度その場に先生もいるし、録音と先生の前での証言によって契約を締結させてしまおう」
『おまえは………こうなることを見越して、俺たちを誘導するためだけじゃなくこの場で自分が赴くこともなく契約を成立させるために先生を使ったのか?』
「お、ビンゴだよ葛城くん。その通りさ、いやぁ、契約書なんて面倒だしそっちの方がみなさんも楽でしょう?」
それから間もなく、葛城・一之瀬・龍園・平田の4人と真嶋の間で契約が結ばれた。内容は試験終了から2週間以内にクラスの代表が真嶋に一括で1500万ポイントを払うこと、そしてそれを達成できなかった場合クラス全員が毎月1日に真嶋に3万ポイントを払うことなどだ。
しっかりと試験期間終了までにすべてのグループの試験を終了させることも禁じているし、その場合には4人全員がそれぞれ支払うポイントを上限ギリギリの2000万まで増やしている。
『これで良かったのか?』
「ええ、助かりました。あなたの時間を買って正解でしたよ」
『しかし、
そう、あの4人もバカじゃない。俺が他クラスにいる『裏切り者』を使用してどこかのグループを終わらせれば全員に対し2000万を要求できることに気付いていた。だから俺の正体を知っていると言わせ、24時間俺の携帯の動きを監視すると証言させることでスムーズに騙すことに成功したわけだ。
『あえて言わせてもらうが、俺から見ればあの契約は‘‘無効’’だと思うぞ』
「どうしてですか?」
『契約の内容に嘘があるのに、それを認めろと?』
「でも、教師は生徒間の問題に口出しはできないですよね。それに、あなたは
『確か、特別試験終了から2週間以内に『葛城康平』『一之瀬帆波』『龍園翔』『平田洋介』から振り込まれたポイントをすべて渡すという契約だったな』
「ええ、そしてあなたはそれを了承した。だからこのことを言うことも、支払いを拒否することもできない。金は彼女に振り込んであげてくださいね」
『…………俺さえ、すべて掌の上ということか。つくづく、恐ろしい男だ』
すべて計画通りだ。真嶋の時間を購入し、俺の言葉にすべて肯定を示すよう命令し、契約締結を促す。そして真嶋に振り込まれたポイントはすべて神室を通して俺へ流れてくる。
誰が何を考えようと、あの4人が部屋から出て、真嶋の『40分間』が終了したところで、後の祭りでしかない。