【急募】高育のAクラスで快適に過ごす方法 作:人生谷あり罠あり
「──────おや、奇遇ですね。秋月緋彩」
「あれ、森下さん」
朝、虎グループのディスカッションまで時間に余裕があるのでピークの過ぎたレストランでビュッフェを楽しんでいると、森下が来た。
坂柳や橋本とは違う意味で警戒しておかないといけない相手だし、油断は禁物だ。てか、なんか俺が裏で動いてるの勘づいてるし。
「秋月緋彩がこんなところにいるとは思いませんでした。何かやることがあったのでは?」
「特にないよ。そんな忙しい人間でもないし、今回の特別試験は葛城くんの指示に従うだけで終わりそうだね」
俺が各クラスのリーダーを脅し、契約を結ばせたのは昨日の朝になる。それから約1日が経過したわけだけど、朗報として『猿グループ』は終了していない。
つまるところ、平田か誰かが高円寺を止めたのだ。大方プライベートポイントが欲しいのと時間の無駄が理由だろうから、そこを何とかしたんだろうね。
「おや、まさにその『葛城康平の指示』にあなたが絡んでいると私は見ているのですが」
「何を根拠に………っていうか、みんなで相談して今回の特別試験はプライベートポイントの収集に充てるって決めたって言ってたんだから、首謀者は例の4人じゃないの」
「ふむ。確かに各クラスの代表4人が首謀者である可能性も否定はできませんし、現時点ではほぼ全員がその説を信じているのでしょう」
「なら君も信じればいいんじゃないの」
「そういうわけにもいきません。この私、名探偵藍ちゃんの名に懸け、犯人を特定しなければなりませんから」
確か綾小路も認めていた観察眼、恐れ入るね。だけど、現時点において俺を犯人だと特定できるだけの証拠は一切存在していない。
もしバレるとしたら神室がバラすことだけど、この線は消してもいいでしょ。流石にここまで来たら裏切らないだろうし、もしされても言い逃れるだけの準備も整えてある。
「犯人って………確かに葛城は褒賞を奪うような真似をして申し訳ないとは言ってたけど、それ込みで全部返すって
「ええ、まぁ確かにそうですね。実際それに多くの者が賛同したから今回の件も区切りがついたわけですしね。犯人という言い方は相応しくなったかもしれません」
「呼び方なんて些細な問題だけどね。それで、何で俺の隣に座るわけ?」
「私のような可愛い女子と隣に座れて、その上食事までご一緒できるのだから本望でしょう?」
うーん、カワイイのは認めるけど、可愛げはないぞ? 森下よ。自分を可愛いと認識してるなら、もう少しそれらしい振る舞いをしてくれ。
「そうだね。君は可愛いから、一緒にご飯を食べれる俺は幸せ者だよ」
「ようやく理解してくれましたか。ではご褒美にこれ上げます。ウィンナーです」
「一口噛んであんまり美味しくなかったからって人に押し付けないでね」
「けち臭いですね、秋月緋彩。そんなだと神室真澄にフラれてしまいますよ」
「なんでそこで神室の名前が出てくるんだ?」
「いつも一緒にいるじゃないですか。放課後2人でケヤキモールをふらついているのを見かけましたよ」
俺を対象として監視してる場合は大体気付けるけど、多分コイツは視界の端とかで捉えてそうなんだよなぁ。コイツの生態を解明しない限り、俺の安寧は訪れないのかもしれない。
…………じゃあ一生無理じゃん。
「友達だからね」
「美しい友情ですね。私も丁度友人を作ろうかと画策するつもりだったので秋月緋彩を加えることにしました」
「思いが一方通行の場合友達とは呼べない気が………」
「え? 秋月緋彩はこの友人を求める可憐で儚い美少女の願いを無下にすると?」
「…………分かったよ。仕方ないなぁ」
◆
「参ったな………」
橋本正義は、周りに誰もいないことを確認してから、デッキの手すりに寄りかかり呟いた。
「どうしたもんかねぇ」
無人島で行われた特別試験、それを予想していた姫さんの指示に従い、俺は徹底的にAクラス、もとい葛城の邪魔をするために動いた。
Cクラスの龍園にAクラスのリーダーが戸塚だという情報を流したし、他クラスが占有しているスポットも荒らした。
まぁ、それに関しては
「あー、もしもし姫さん?」
『どうかしましたか。今は2回目の特別試験中ではないのですか?』
「それに関してだけどよ、今回は1年生全体で何か問題が起きてるらしいんだ」
『問題? 鬼頭くんとあなたの報告では『優待者』を見つける人狼ゲームのような試験だったと記憶していますが、どこかのグループではなく、全体で何か起きているのですか?』
「ああ。風の噂程度だが、各クラスのリーダー格、つまり『葛城康平』『一之瀬帆波』
『龍園翔』『平田洋介』の4人が、誰かに嵌められたっつー話だ」
『それはとても興味がありますね。それで、どんな問題が?』
「今回の試験、全部のグループを『結果1』で終わらして、プライベートポイントを徴収するつもりらしい。詳しい情報は一切ないから憶測でしかねえけど、徴収は確かだ」
『そうですか。とりあえず報告ありがとうございます。それでは他クラスに『優待者』の情報を売っても意味はなさそうですね』
何かが起きているのは確かだけど、何も情報がねえ。そもそも、全員が脅されるなんて話が実際にありえるのか? 絶対どこかのクラスは得をするんだから、1人はグルがいそうなもんだが。
──────姫さんも、そろそろ限界かもな。
正直無人島の試験でAクラスが圧勝したことで、クラスはほぼ葛城によって統一されてる。唯一の勝ち筋はここで葛城が大敗し、2学期から仕切り直すことだったのに、それも
いっそのこと、夏休み期間中に葛城に接触して寝返るか。正直これ以上姫さんが藻掻いたところで盤石すぎる葛城の牙城が崩せるとは思えない。
それに、俺の裏切りを封じられたってことは、予め坂柳派の動きを予見してたってことだ。それじゃ2学期になろうが状況は一切変わらない。いや、それどころか今以上に悪くなってる。
──────それに、どのみち俺は今回の特別試験でクラスを、葛城を裏切ることはできなかった。なぜなら…………
「これが一番の問題、だな」
携帯のチャットアプリの履歴を見る。未登録の正体不明の相手から送られてきた、数枚の写真。そこには、他クラスのスポットを荒らす俺の姿があった。
この相手は、無人島の試験で使用したデジカメを買い取った、そしてそれを自分の携帯で撮り直したわけだ。そしてこの写真を送るという行為だけで俺を完璧に封じ込めてみせた。
葛城だとしてもそうじゃないとしても、俺には正体を探る素振りもできないし、裏切ることもできない。会うことも、話すこともなく叩き伏せられた経験は初めてだった。
◆
「やっぱりヤバいわよ、あんた」
30分程探してようやく見つけた秋月緋彩に、神室真澄は話しかける。その息が少し上がっている理由は察しが付くだろう。
「そうかな。俺は自分を普通寄りの人間だと自認しているんだけど」
「普通の人間はあんなことしないっつの。私、全然知らなかったんだけど」
「何が?」
「各クラスのリーダーを脅した件よっ! なんであんな無茶したの」
秋月に少し
でもそれでも、私はあんたに付いてきた。万引きを止められた時から、今までの日常が壊れていく音がしてたから。新しい日常に飛び込めば、現状が変わるかもしれないと思った。
「無茶なんかじゃないよ。あれは必要な手順だった」
「だからってやったことの意味分かってるの? 全クラスを敵に回したのよ」
「そういえば、言ってなかったっけ? 大丈夫、葛城はこっち側だから」
「そう、なの?」
「流石に俺も全クラスを本当に敵に回すことはしないよ。葛城には流れてくるポイントの一部を流す代わりに、少しだけ条件を付けたけどね」
「聞かないでおく。どうせロクでもないんだし」
──────
秋月が大丈夫で、よかった。そう思ったのは、きっと自分にスリルを与えてくれる存在がいなくなるのが嫌だっただけだ。きっと、そうだ。
「ひどいなぁ。けど、俺はずっと大丈夫だから」
「よく言うわね。いざとなったら、本当に必要になったら、全クラスでも、全校生徒でも敵に回すつもりのくせに」
「したくないけどね。まぁ、やむを得ないならするしかない」
秋月はそう言ってへたくそな笑みを浮かべた。その真意は分からないけど、これからもあんたと一緒なら悪くないわ。
「…………でもさ、神室」
船内に戻ろうとしたとき、後ろから呼び止められる。いつもより、少しだけ優しい声な気がした。
「スリルを味わうのはいいけど、俺は友達が傷つくところは見たくないんだ。だから、君を巻き込んだ責任はとるつもりだよ」
「へぇ? あんたにも責任感ってあったのね」
「あるよ、そりゃ。もし今後君が危ない状況に陥ったら、必ず
「それは、
「それは状況次第かな。だけど、危険な目にはなるべく合わせないようにするし、もしそういう事態になったら
「それは…………頼もしいわね」
今後についてですが、1話の前書きの通り完全なる見切り発車なので、僕の頭には船上試験編までしかないのです。
一応ちょくちょく書いていければと思ってますが、更新は遅くなるかもしれないです