【急募】高育のAクラスで快適に過ごす方法 作:人生谷あり罠あり
今回は『綾小路清隆と季節限定パフェ』『神室真澄と山村美紀』『秋月緋彩の休日』の三本立てでお送りいたします。
◇綾小路清隆と季節限定パフェ◇
─────綾小路清隆にとって、世間のあらゆることは『未知』である。
友人にしても、食事にしても、遊びにしても、見るもの触れるものすべてが初めてであり、好奇心をくすぐるものだ。
「緋彩はまだなのか」
つい先日から向こうの提案で下の名前で呼び合うようになった緋彩はまだ来ていない。今日は美味しいカフェに行く予定だ。
他には誰もこない予定だが、夏休み中盤でケヤキモール、という条件が揃えば誰か知り合いと遭遇してもおかしくないだろう。それはそれで楽しみではある。
「──────おはよ、清隆くん」
「ああ、おはよう」
そんなことを考えていると、1階に到着したエレベーターから緋彩が出てきた。今日も夏に似合う爽やかな服装だ。オレも着たら似合うだろうか。
「緋彩は今日もイケているな」
「そうかな? ありがと。清隆くんも似合ってるよ、その服」
あまり私服を持ち合わせていないので適当に見繕ったものだが、好評だったらしい。お世辞の類ではないことを祈るばかりだ。
「今日は2人か?」
「その予定だね。一応神室さんとかも誘ったんだけど、今日はパスだって。俺と2人じゃ嫌?」
「そんなわけないこと分かっているだろう。2人大歓迎だ」
「よかった。じゃあ行こうか、今日は君に食べて欲しいやつがあるんだ」
「何だ?」
「着いてからのお楽しみ。とっておきだからね」
緋彩はそう言って笑ってから歩き出す。彼がとっておきと言ったんだ、かなり期待できるな。俺は急いで緋彩の横に並び、内心ウキウキしながらケヤキモールへと向かう。
「─────ここは、初めて来る場所だ」
「そうなの? まぁ、確かに少しお高いしね。でもかなり美味しいんだ、珈琲とか好き?」
「ほぼ毎日飲むぞ」
「じゃあここで買える豆おすすめだよ。香りが最高なんだ」
ケヤキモール内3階にあるお洒落なカフェに案内された。そのまま窓際の席を選んで真向かいに座る。緋彩は珈琲がおすすめらしいが、メニューを見る限りかなり種類は豊富だ。
「清隆くん何にするか決めた?」
「ああ。このキャラメルマキアートってやつにする」
「いいじゃんいいじゃん。俺もいつもとは違うヤツにしてみようかなぁ………これにしよ。ホットケーキとな」
「お、美味しそうだな。それで、緋彩のオススメというのはどれだ?」
「あー、もういっちゃう? 最後のページ開いてみて」
緋彩がそういうので、俺は手元のメニュー表を手に取り、最後のページまで捲る。すると、目に飛び込んできたのは『夏季限定』の文字。こ、これは……!
「そう。『夏季限定フルーツ特盛パフェ』、清隆くん前にフルーツ好きって言ってたら喜ぶかなって。どう?」
「嬉しすぎるぞ、緋彩。これは注文するしかないな、店側が用意してある分で足りるかどうか」
冗談半分でそう言うと、緋彩は盛大に笑った。「足りなかったらまた別の日に来よう」と付き合ってくれるあたり、やっぱりこいつはいいやつだ。
その後、頼んだパフェとキャラメルマキアートは美味しくいただいた。どちらも最高級の味だったが、パフェの方は次元が違ったな。冗談のつもりだったが、これならまた明日にでも来ようと思ったくらいだ。
◇神室真澄と山村美紀◇
「神室さん。もういたんですね」
「約束に遅れるのは性分じゃないから。それじゃあ行きましょうか」
「はいっ」
今日は山村とショッピングに来ている。理由は一昨日秋月と遊んだときに気付いたけど、山村の私服のバリエーションが少ないから。
もう少しあってもいいと思うのよ、お節介かもしれないけどね。
「とりあえずブティックに行くわよ」
「はい。で、ですが私には神室さんの来ているようなカッコイイ服は似合わないと思うんです」
そんな弱気なことを言っている彼女の手を掴んで引っ張っていく。自分の服にもあんまり執着はないみたいだけど、勿体無いわよね。
「自分で選べばいいでしょ、好きなやつを」
「それは、そうなんですけど………」
「こだわりがないなら、私が選んでもいい?」
「もちろんですっ」
あんまり自分にも自分の服にも興味がないらしい。自分を蔑んで見る癖から繋がっている惨状。秋月の作戦の影響で絡むようになったけど、情は湧くものよね。
もう少しだけ、自分に自信が持てるようになればいいんだけど。
「──────その、今日はありがとうございました」
「気にしないで。九割九分は私のエゴなんだから」
「それでもですよ。失礼かもしれないんですけど、質問してもいいですか?」
いつもとは違う少し活気のある目をした山村が、そう言ってくる。頷くと、一瞬息を吸ってから、彼女は口を開いた。
「いいけど」
「その…………今までやってきたことって、全部神室さんが考えたことなんでしょうか?」
「っ、そうよ。私が考えて、あなたや秋月に動いてもらったの」
まさかそんな質問をされるとは思っていなかった。仲間に引き入れるのはリスキーだと思ったけど、まさかここでこんなスリリングな展開を味わえるなんて。
「そう、ですか………」
「腑に落ちないみたいね」
「だって、神室さんはこんなにも優しいので。戸塚くんを無理矢理暴力でリタイアさせる、なんて作戦思いついても実行させるとは思えなくて」
「それは『勝つ』ためだからね。あのまま戸塚がリーダーをやっていたらCクラスにリーダーを当てられてた。運が悪かったらDクラスにもね」
「そう、だったんですか………。すみません、何も知らなくて」
「いえ、伝え忘れていた私のミスよ。それに、戸塚への謝罪と弁解も一応は済んだのよね?」
「は、はい。なんで呼び出したのかと聞かれて言われた通りのことを話しました。そしたら、怪我は私のせいじゃないから気にしないでいいと」
戸塚………ただの金魚の糞だと思ってたけど、意外といいとこもあるのね。やっぱり秋月の観察眼は鋭い。
「そう。でも、本来してなかった謝罪をさせたのはごめんなさい。作戦とはいえいい気分じゃなかったでしょ?」
「そんなことないです。怪我をしたのも間接的には私のせいでもあるわけですし、気にしてません」
「なら、いいんだけど」
◇秋月緋彩の休日◇
夏休みも中盤。あと数週間もすれば1年生次の夏が終わってしまうと考えれば、居ても立っても居られない者も多いだろう。俺もそのうちの1人だ。
「来たぜ……」
ケヤキモール内1階の中央に立ち、俺は周りを見渡す。1年生から3年生まで幅広い学生がうろついており、そのほとんどが2人組以上だ。
3年生は受験勉強大丈夫ですかと聞きたくなるけど、無粋なことなのでやめておこう。きっと大丈夫なんだ、混合合宿が何かの予定と被っていたなんて噂を前に聞いたことあるけど、大丈夫だ。
まず探すのは挿絵か何かに登場したことのある人、そして今までに見たことがない人だ。高育の校舎は広いし他クラス他学年と会う機会は自ずと限られる。確率が高いのは食堂と放課後のグラウンドだろうね。俺は後者には縁がないからここに来たわけ。
「………! お、お、おおお?」
あ、あれは……! 南雲先輩じゃないすか!! 朝比奈先輩もいる!
4人で歩いている2年生の先輩方を発見。やはり、転生したからにはこういうのもしておかないと勿体ない。にしても、イケメンだなあの人。
売春強制疑惑をよく見かけた記憶あるんですけどあれって本当ですか?とか聞きに行きたいけど、一瞬で消されかねないのでやめておく。ポイントを自分のために使ったら元も子もないからね。
その後もクラスメイトと笑い合っている一之瀬や女子に囲まれてる平田を見かけたけど、他には特に出会いはなかった。残念だけど、まだチャンスはある。
「──────あれ、秋月くん?」
少し離れたところから声を掛けられた。振り向くと、1年生編クラス内投票でざまぁ展開されてしまった
「あれ、真鍋さんじゃん。
「うん。あのときは助かったよ、ありがと」
「気にしないでいいよ。お互い気持ちよく終わるのが一番だからね」
一体何の話をしているんだ、と思ったかもしれないけど、俺は夏休み直前に真鍋たちを一度助けたことがある。絡んできた面倒くさい先輩を追い払っただけだけどね。
その繋がりと恩を利用して、俺は船上試験の最中に真鍋たちと軽井沢の問題を解決に導いた。山村に監視してもらってたからすぐに駆けつけることができたのも幸運だった。
「秋月くん今日は1人なんだ」
「そうだね。ちょっと買いたいものがあって」
「良かったらちょっと一緒に回らない? リカもお礼したいって言ってたし。ね?」
軽井沢も最初は謝る気すらなかったみたいだけど、諸藤を突き飛ばしたのがケヤキモール内だったこともあり、言外で『監視カメラ確認して裁判起こすこともできるけど?』と脅したら簡単に謝ってくれた。
あの場には軽井沢と真鍋たち以外は遠くの山村以外いなかったので、目立たずに済んだ。軽井沢も自分が謝ったなんてこと認めたくないだろうから口外されることはないだろう。
「その、ありがとうございました」
「いいよいいよ。気にしないで」
真鍋の後ろから後ろからひょっこり顔を出した諸藤が謝ってくる。元は多分大人しい子だから、Sの才能に目覚める機会が訪れないことを陰ながら祈っておくよ。