【急募】高育のAクラスで快適に過ごす方法 作:人生谷あり罠あり
──────『神室真澄』、それはよう実の原作に登場し、坂柳有栖の半ば従者のような存在となっていた生徒だ。が、別に好き好んで坂柳のお世話をしているわけではなく、入学当初に万引きをしたところ、それを坂柳に目撃され脅されたという経緯がある。
俺はこの『キャラ』ではなくあえて『彼女』と呼ぶが、結構好きだったりする。好きなやつ多いなと思うかもしれないが、ビジュや性格諸々含めてしまえば嫌いになれる奴の方が少ないと思うんだ。南雲とかも、最後の方はいいやつだったろ?
「──────ちょっと待ってくれない?」
入学から四日目、放課後。俺はここ数日ずっと神室の後をこっそりつけていたりする。いや、ストーカーじゃないから。神室を守るためなんだって。
え? ストーカーは皆そう言う? 知るか。
「──────は? 何?」
コンビニ内。何の躊躇いも迷いもない足取りでビールや焼酎が置かれている棚へと移動した神室を追うと、案の定手を伸ばしかけていた。ので、なんとかそれを止める。
背後にはカツンカツンと杖の音してるし、結構まずい気もする。心臓がヤバい程の音を立ててる。しかし、自分のエゴを突き通すためには相応の代償を払う必要があるのもまた事実。
「それ、やめといた方がいいよ?」
「どういう意味」
「俺の後ろ見て。ね?」
「………分かった」
「賢明な判断だ」
俺は右に向けて視線を振る。神室も後ろの存在に気付いてくれたのか、渋々と言った様子で引き下がる。そのまま、2人で何も購入することなくコンビニを出た。
「それで、何の真似?」
コンビニを出てからしばらく歩くと、そんなことを言われる。心外だなぁ、何か目的があって接触したと思われてるらしい。ま、半分正解だし仕方ないか。
「なんのって?」
「なんで私を助けるような真似したわけ。そもそもあの場では仕方なく退いたけど、坂柳さんがいたからなんだっていうわけ?」
神室目線、坂柳はまだ優秀な人間どまりと言った認識だろう。葛城と同等程度の扱いしか脳内ではされていないはずだ。だからこそ、危なかったわけだけど。
「なるべく目撃者はいない方が良いと思っただけだよ。入学して4日で退学とか、洒落にならなくない?」
「別に。っていうかあんたに止められなかったらバレなかったかもしれないじゃん」
「それは希望的観測だよ。反対側から人が覗いていた可能性は? 実は小型の監視カメラが設置されていた可能性は? 今この場で、絶対にないと言い切れるの?」
「そ、それは…………」
「要するに、リスクヘッジが足りてないんだよ。そもそも俺が来てるのにやろうとしてた時点でね。俺が問答無用で学校に突き出すような人間なら今頃君はコンビニの奥で尋問中じゃないかな」
確か彼女は、過去に誰にも必要とされなかったことから生まれた心の闇が原因で万引きを繰り返すようになったとあった。つまり、ある種のスリルを味わうものと承認欲求のようなものからだろう。
坂柳に対し嫌々な態度を示しつつも最後まで着いていったのは脅されていたからと言う要因以外にも、彼女に必要とされているという状況に対し満足感を得ていたからなのかもしれない。
「────はぁ、まじ腹立つんだけど。人のこといきなり止めたかと思ったら今度はお説教? もう帰る。白けたし」
そう言い引き返そうとする神室。ここまでは、大方予想通りだ。神室が他人に対して簡単に心を開くような性格じゃないのは原作を読んでいれば分かる。
だからこそ、手を用意してある。基本的に原作通り話が進むのなら、龍園は坂柳を狙うことになる。そのときの標的から彼女を外すことが遠い先での目標だ。
「…………スリルを味わいたいんだったら、もっといい手があるんだけど、聞いてみる?」
翌日、俺は神室と共に放課後のケヤキモールに来ていた。理由は当然デートやショッピングをするためじゃない。上級生に接触を図るためだ。
ああ、勿論悪いことをしようってわけじゃないよ? ただ、悪い子に負けないように正義のお兄さんを手助けするだけだからさ。
「で、どうするわけ?」
「気弱そうな先輩を探そう。同級生の顔は入学式とこの五日間で全員分覚えたから」
勿論嘘である。挿絵やアニメで顔の出てきた生徒を除いた残りの生徒の分を必死に脳に叩き込んだだけである。それも短期記憶だから数週間もすれば脳内から消えると思う。
「分かった。終わったら目的聞かせなさいよ?」
「昨日の夜チャットで伝えたよね?」
「それは
「分かった分かった。話せる部分は話す」
そう言ってから、周囲に目を向ける。平日の放課後だけど、ここくらいしか楽しめる場所がないから結構人がいる。しかも、割とカップル多めだ。リア充爆ぜろ。
「────あの黒髪短髪の男子は? 根暗そうだけど」
「あれは確かに『Dクラス』顔だね。話に行こうか」
「はいはい。交渉はそっちがやってよね」
「流石にね。スリルはまだまだ先だから」
─────俺の言ってるスリルというのは、神室は多分まだ分かってないと思うけど、『坂柳や綾小路、龍園とかにバレちゃうかな? ドキドキ』のスリルだ。
原作知識というのは強力な武器だ。頭のいい人間が試行錯誤を繰り返して得た結論を既に持ってるし、実際に行わないと確定しない未来の情報も持ってる。だけど、使いすぎるのは危険だ。
一部の賢い生徒は、少しの矛盾が生じるだけでその存在に勘づくことがある。龍園なんかも、無人島試験の暗躍一回だけで綾小路の存在に勘づいて見せた。それが奴らに与えられた嗅覚。
これに気付かれず、のびのびと暮らすためには割と手間がかかる。が、これでも数日間じっくり考える暇はあったんだ。計画の完成も見え始めている。
「─────ちょっといいですか?」
俺は上級生に声を掛ける。すると彼は肩をびくっと震わせ、徐にこっちに視線を寄越す。そんな警戒しなくてもいいのに。あなたに実害を与えるつもりはないからさ。
「な、なんですか?」
「上級生かとお見受けします。失礼ですが学年を聞いても?」
「あ………えと、二年、です」
「クラスは?」
「D、クラスです」
おお、神室冴えてる。流石、坂柳に能力を買われていただけはある。学力や身体能力だけでなく観察眼や推理力もありそうだ。実際、天沢のヤバさを山勘で察してたし。
「………少し、お話があります。聞いていただけますか?」
「えと、なんですか? っていうか君1年生だよね? あんまり話すなって言われてるんだけどな………」
「少しだけなので。それじゃあ──────」
『上手く行った?』
夜。神室からメッセージが来た。
『順調だよ』
『ならいいけど。でも、本当に意味あるわけ? 結果に差異はないと思うけど』
『大ありだよ。今回重要なのは
葛城は、原作だと坂柳や橋本の所為で散々な成果を残した生徒になってしまっているが、言うまでもなく飛び切り優秀な生徒だ。それこそ、龍園の折り紙つきレベルである。
だから、そんなお前にこそ、俺はリーダーを託すよ。
俺はわざわざポイントで購入した二つ目のアカウントで葛城に送り付けた音声ファイルとメッセージを再び目に通す。
これでようやく、葛城がリーダーに近づくことができる。心配しなくても平気だよ、葛城の成果は俺が保証するから。
『A~Dクラスは優劣順で別れていて、尚且つ月に貰えるポイントは変動する。以下の証拠と共に坂柳に差をつけるべし』