【急募】高育のAクラスで快適に過ごす方法 作:人生谷あり罠あり
ラルフ・ワルド・エマーソン
体育祭に向けてそれぞれのクラスが準備を整え始めている九月中旬。参加表の共有を受け入れてもらえた俺たちAクラスは、Dクラスの作戦会議を行っていた。
各クラスの代表者数名を交えたこの会談で、大まかな編成を決定する予定だ。だからこそ、各個人の能力や得意分野を把握する猶予を用意した。
「さて、始めるか」
「そうだね。まずは最初にありがとうと、言ってもいいかな?」
ケヤキモール内のカラオケの一室。普通より少し広い部屋の中で向かいに座っている平田が口を開いた。
「感謝される筋合いはないと思うが?」
「そうでもないよ。僕たちもあんまり波に乗れてるとはいえないし、正直Cクラスなんかの奇策にビクビクしてるんだ。Dクラスと協力することを選択してくれた葛城くんに感謝するのは当然だよ」
互いに、綾小路の件を口に出すことはない。それはこの協力関係に罅が入ることに直結することだと向こうも分かっているからだろう。
Dクラスから会談に参加しているのは平田洋介、櫛田桔梗の2人。Aクラスが俺1人なのはこのような場で発言できる生徒が限られているからだ。
「改めて、話を進めよう」
「うん」
「Dクラスでは各生徒が活躍できそうな種目や得意分野の把握は済んだか?」
「大体は私がまとめたよっ! それと、少しだけいいかな?」
「ああ。構わない」
「うちで一番運動ができる須藤くんを全部の推薦参加種目に参加させたいんだけど、どうかな?」
櫛田の発言を元に考える。基本的に、今回の体育祭では個人種目よりも団体種目が重要であり、そして全員参加種目より推薦参加種目の方が重要だ。
その観点から見れば、一見この提案はこちらに不利になるようなものに思える。しかし、これも午前の全員参加種目とさしたる違いはない。
「もちろん構わない。これは対等な協力関係であり、こちらからDクラスの行動を制限するつもりはない。四方綱引きでは強力な相手になるだろうが、男女混合二人三脚は順番をずらせばいいし、借り物競争については運だからな」
この関係は互いの勝利のために互いを利用し合うもの、戦力を削り合っては本末転倒だ。それに、Dクラスはピンキリだが運動ができる者が多いのを偵察で把握している。
もし断られれば、Aクラスとしても厳しい戦いになることは避けられない。なら完全な味方にし、BクラスとCクラスだけに集中する方が得策だ。
「そう言ってくれると助かるよ。それじゃあ、クラスメイト達の得意分野の共有をやろうか。今後仇になるかもしれないけど、それでも今回は協力する方が大切だ」
「そうだな。まずは目先の勝利を確実にしてから、今後のことは考えればいい」
うちのクラスにも、鬼頭や清水、秋月や綾小路なんかの運動が得意な生徒はいる。対等に戦えるかは不明だが、白組も無策で挑んで来るとは考えずらい。何かしらの策を打ってくると予想して動くべきか。
◆
『真に恐れるべきは有能な敵ではなく、無能な味方である』、かの有名なナポレオン・ボナパルトが残したとされる言葉だ。意味は有能な敵も当然警戒すべきだが、無能な味方は制御不能であり、敵よりも組織を内部崩壊させる危険性を孕んでいるという意味だよとされている。
「頼んだことはやっておいてくれた?」
「まぁね。でも、いいわけ? 私が言っても、真嶋先生だってアイツにそのまま伝えるとも限らないけど」
「だからこそだよ。俺はどっちに転んでもいいようにしてある。君でも、彼女でもね」
「あの言葉、信じてるわよ」
「当然。俺は有言実行を体現する男さ」
俺は葛城と何かを話している戸塚を見る。彼も俺が少し助言したことで徐々にだが性格も変わりつつある。だが綾小路のことを認め始めているからなのか、Dクラスに対する当たりはより一層強くなっちまった。
「まずは目先の問題からだ。男女混合の二人三脚を任されたことだし、今日の練習も頑張ろうか」
「そうね」
俺と神室は葛城から男女混合二人三脚に出るよう頼まれた。大体行動を共にしているし、2人共運動神経がいいからこそだろう。俺たちはOKを出した。
因みに最後の種目である三学年混合の1200mリレーには出ない。綾小路、鬼頭、橋本で男子は満員だ。神室は出るって言ってた。頑張れ。
◆
「それで龍園。わざわざ呼び出して何の用だ」
「分かってんじゃねえのか? Dクラスが触れようとしねえのは同盟を壊さないため。Bが触れねえ理由は分からねえが、俺には躊躇いなんてないのさ」
ケヤキモール内のカラオケの一室。葛城は龍園の指定してきた部屋が前に来た際の部屋と偶然被ったこともあり、少しだけ驚いた。
「躊躇い? 一体何の話だ?」
「おいおい言わせるなよ? 二学期が始まって早々に綾小路の移籍。都合が良すぎるとは思わねえか?」
「ああ、その話か。それがどうした?」
龍園からこの話が出るであろうことは俺自身予期していた。綾小路を引き入れるということはそういうことでもある。だからこそ、あいつの提案は俺としても有難いものだったのも事実だ。
「どうしたもこうしたもあるかよ。それはつまり、『船上での一件』の首謀者はてめえだったってことだろうが」
「………ふむ。なるほどな、おまえはそう考えているのか」
「あ? どういう意味だ」
「そこで俺が犯人だと断定してしまうようではおまえの程度も知れるという意味だ」
俺はあえて挑発するように龍園を見る。こいつの考える作戦は見事だ、だがそれでしか勝てないと考えているのも事実。
正攻法なら、俺が龍園に負けることはありえない。少なくとも、現状ではそう考えている。結論付けるにはまだ早いが。
「てめえ以外にいるってのかよ」
「さぁな。ただ、別におまえが俺を攻撃することは止めない。ただ、『犯人』とやらはいないぞ」
「首謀者はてめえ以外にはあり得ねえ。確かにあの場の演技は見事だったぜ、だが電話相手はおまえの指示で動いてたんだろ?」
「そうなのかもな。話は終わりか?」
あいつからの俺への指示は2つ。1つ目は『他クラスにいる真犯人を匂わせること』、2つ目は『決して明言しないこと』。
あらゆる可能性を示すことで、龍園の行動を遅らせる。コイツに対してどういう対処をするのかは知らないが、俺にできるのはそれだけらしい。何とも傲慢だが、言い返すことはできない。
「待てよ。気に食わねえな、おまえにしては行動があやふやだ。誰かに入れ知恵でもされたか?」
「期待外れなおまえに対するアドバイスだ。それと、言っておくが
「クク。それは構わねえぜ、俺にしたって、
「そうか。なら、1つだけ教えておこう。
龍園の反応を確認せず、俺は部屋を出る。龍園に狙われれば、得意の奇策で裏を突かれる可能性もある。今回の体育祭にしたって気は抜けない。そういう意味でも、彼の目がうちから逸れるのならありがたい。
◆
俺の行動には、大体意味がある。少なくとも、無意味なことはあまりしない。そして、船の上ではすべてがそうだった。
神室との会話も、指示した言動も、高いレベルでこなしてくれた。お陰で、
「何考えてんの?」
「体育祭が終わったら、停滞している現状が大きく動き出すことになる」
「あんたが動かすんでしょ」
「どっちかというと、第三者が動かすように仕掛けておいた、が正解かな」
あの部屋での真嶋の言動にもすべて意味がある。龍園、おまえは