【急募】高育のAクラスで快適に過ごす方法 作:人生谷あり罠あり
今日はプールの授業がある日だ。幸い、原作Dクラスのように下賤な会話をする生徒はAクラスにはいなかった。政戦が本格化する前は民度が良いだろうと思っていたけど、想像以上だな。
さてさて、昨日の夜送った情報を葛城がどう扱うのか、見させてもらうとするか。他人にお膳立てされた情報など俺はいらない!っていう態度を取るのなら、計画を多少変更する必要が出てくる。
「──────皆、おはよう。今日は大事な話がある。出来れば時間を貰いたい」
HRが終わり、先程登校してきた葛城が席を立つ。彼は教室前方の席だから必然的に目立つな。ガタイもいいし、何より特徴的だし。
「実は、昨日ケヤキモールで買い物をしていたらとんでもない情報を手にしてしまった。証拠もある、今からそれを流そうと思う。静かにして聞いてくれるとありがたい」
そう前置きしてから、葛城は自身の携帯を操作し、それから手に持ち掲げた。音量を上げる動作をしていたことから、あの2本の動画をどちらも流す可能性が高いな。
『今月は厳しぃな………でもま、Dクラスに比べればマシか』
『アイツらは今月5000ポイントとかだもんなぁ。まさかポイントが変動するなんて、思いもしなかった』
1本目の音声ファイルの再生が終了する。あれは昨日捕まえた2年Dクラスの生徒に言わせたものだ。俺のポイントは2個目のアカウントの購入で5万使ってしまっていたからカツカツだったが、価値のある買い物だったと言えるだろう。
『聞いたか? Dクラスの奴ら、また私語や携帯いじってマイナス食らったってよ』
『自分らでクラスポイント減らすとか馬鹿だよなぁ。まぁ、Cクラスの俺らが言えることじゃねえけどな笑』
『だとしても学年最下位の『不良品』と一緒にされたくはないぜ。AやBより下なのは認めるが、同じ土俵なのは気に食わないな』
ここで2本目の音声ファイルも終了。結果3人の上級生にポイントを支払う羽目になったが、払った額は合計で4万とすこし。俺のポイント残額はもう1万以下だ。
だが、未来の自分の糧として甘んじて受け入れよう。俺はそれだけの覚悟を決めてここにいる。毎日山菜定食を食べることになろうとも、俺の心は折れない!
「先輩には申し訳ないが、録音させてもらった。以上の情報から、AクラスからDクラスまでのクラス配属先は能力の優劣で定まっており、Aクラスが上位であること。そして月の初めに貰えるポイントは授業中の私語やそぐわない態度でマイナスされる可能性が高い」
流石は優秀な葛城くん!と、クラス内は盛り上がる。当然だろう、態度次第では貰えるポイントが増える可能性すら見えてきているんだからな。
だが、俺は1つ決定的なことを葛城に伝えていない。それは、この学校が掲げている褒賞が、Aクラスで卒業した生徒にしか与えられないことだ。だけど、それまでもを録音で用意してしまえば流石に坂柳に怪しまれる可能性が高い。
「じゃあ、えーと、私達は私語とかに気を付ければいいのかな?」
「ああ、是非ともそうしてもらいたい。なるべく、そのクラスポイントとやらを減らさずに、貰えるポイントを多くした方が良いだろうからな。それに、先輩方の言い方的には貰えるポイントはクラス内で統一されるようだしな」
‘‘Dクラスは’’今月5000ポイントだと、そう言った先輩の発言を元に推測をする葛城。いい推理力だ。もし個人で貰えるポイントがそれぞれ違うのならそんな言い方はしないだろうからな。
「流石葛城さん! 凄いぜ!」
「弥彦、俺は運が良かっただけだ。これくらいで褒めてもらっては困る」
既に彼の忠犬となっている戸塚との会話を聞きつつ、俺は次の作戦について考える。一先ず、クラス内の共通意見として坂柳よりも葛城の方が優秀そうだというものは出来上がり始めているだろう。
次のステップを踏むのは、五月末の中間試験だ。四月末に行われる小テストから推測した過去問という裏技を、彼に教える。
夏休みに行われる試験では、足手纏いが多かったせいでまともな戦略をとれずに敗北した葛城だが、その地盤をまずは崩壊させる。願わくば、2学期が始まる前に坂柳派を潰すことが理想だ。
「─────あんた、いい体格してるわね」
「そう? ありがと」
遂に始まったプールの授業。俺としては神室や白石なんかの水着姿を見れて満足していたが、声を掛けられた。
相手は神室だ。良かった、ちゃんと話せる奴くらいの認識はしてもらえているっぽい。学校では話しかけないでとか言われたら凹むからね。
「何かやってた? 運動とか、格闘技とか」
「スポーツは、一応サッカーを休み時間に友達とやったくらいだね。空手なら経験あるよ」
「そ。でも、それならさっきの勝負勝ててたんじゃないの?」
神室が言っているさっきの勝負とは、体育科の教師が(強制的に)開催した50m自由形でのタイム勝負のことだ。男女別で一番いいタイムだった人に5000ポイント。俺は鬼頭と一緒にやらされた。
「無理無理。鬼頭の速さ見たでしょ? あれに勝てるわけないよ」
「そう? あんまり大差ない体格に思えるけど」
「本人がそう言ってるんだからそうなの」
「あっそ」
神室は興味を無くしたのか、俺が座っているところから少しだけ場所をずらしてプールサイドに腰掛けた。いやいや、鬼頭ってOAAの身体能力の数値Aだからね?須藤とかと同じレベルよ?
勝てる可能性が0なわけじゃないけど、やるのは嫌だなぁ。それこそ、避けては通れない事象が発生した場合でもない限りね。こういうのってフラグになるのかな、頼むよ神様。
「──────よっ、秋月」
「ん?」
そのままプールサイドに座って皆を眺めていると、上から声が降り注いだ。誰か近づいてきてるのは分かってたけど、まさかこいつだったとは。
「俺、分かるか?」
「橋本だよね。どうかした?」
「いやぁ、おまえ神室ちゃんと仲良さそうじゃんと思ってな」
うーん、面倒くさい。っていうか、俺の悩みの種No.2はおまえなんだよ、橋本。っつーか、神室が退学したのおまえの所為だかんな? 自覚持て?
「たまたまコンビニで会って、そっから少し話すようになったくらいだよ。別に仲良しって程じゃないと思う」
「そうかぁ? まぁいいや、ところでおまえも姫さんにつかないか?」
「姫さん?」
「坂柳のことだよ。アイツ、入試の成績では全教科100点なんだとよ。葛城よりも頼りになると思わねぇか?」
橋本って、こんな早くに坂柳の下についていたんだっけか。もう1年生編前半とかあんまり覚えてないな。一応思い出せる限りは自前のノートに情報残してあるんだけど。
っていうか、そもそも描写がない可能性もあるしな。そう考えると、他の人たちにとって俺がエラーであるように、一切登場しない描写もない生徒が俺にとってのエラーになることもあるのか。
「どうだろう………どっちがリーダーとか、あんまり関係なくないと思うけど。だって別にポイント減らさないだけでいいんでしょ?」
「そうだけどよ。葛城が言ってたクラス別のポイント?があるなら、クラス間で争うことになるかもしれないだろ」
事実ですね、はい。5月からはバッチバチにやりあうことになります。けど、現段階でこいつが中立派かどうかは正直どうでもいい。俺の作戦は夏休みでほぼ完成するからな。
「どっちとも言い切れないね、正直。俺はまだ中立の立場にいるつもりだよ。けど、そっちが少数派なんじゃない?」
「だからこその勧誘だ。おまえは、俺の直感が優秀だって言ってるからな。また声かけるわ」
今のところ、今朝の話も合ってクラスの半分以上が葛城を支持している印象を受ける。実際プールの授業でも皆葛城の言葉に従って遊びつつも節度は弁えていたし。元々それができる連中だからAクラスなんだろうけど。
声はもう掛けないでくれ、そう言いかけた口を閉じて、俺は自分との戦いを再開した。世界平和を願い、瞑想に集中するんだ。