なんだかんだで男女ですので 作:タリーズさん
『あのクソババアぶっ殺して粉砕機で粉々にしてアライグマの餌にしてやるゥゥゥゥゥ!』
練習の合間の昼休憩。
スマホの通知を確認したら、殺害予告が表示されてた。タップしてみるとトーク画面に切り替わり、ぽんっぽんっと新たなメッセージが立て続けに2つ。
『えっ何事?』
『なにがあったんだよ。とりあえずここで荒ぶるのはやめろ。個別にかもん』
これは、リングというコミュニケーションアプリのグループだ。グループ名は『生きづらいスケーター達のためのグループ』。そこはかとない闇を感じる名前である。名付け主は前回オリンピックの銀メダリスト。
最近はCMとかにも出てるお姉さん、岡崎いるか姉さんだ。なんでも、心に闇を抱えてるスケーターの拠り所になれば──とか思いながら作ってみたらしい。
思ってたよりも人が増えて困ってるとのことで、勝手に招待するのは禁止になった。
『ファーーーーック!』
『おいやめろ茜。まさか飲んでんのか? そんなわけないよなお前はまだ未成年だ』
俺は『お前も入れといたからとっとと許可しろ』と脅迫されたから入っているけど、グループ内で発言はあんまりしない。どうしてもって時は姉さんに直電することにしている。今年は一度しか機会がなかったので何より。そんな頻繁に深く病んでたら生きるの辛いからね。……生きてくって大変だよなぁ。
「どうしたの雨取くん、スマホ見ながら難しい顔して〜……」
ちょっとナイーヴになっていると、若返った胡荒さんでなく娘ちゃんの方が話しかけてきた。
ふわっとした雰囲気のJKの亜子ちゃんだ。ピカるんに次ぐスターフォックス女子のナンバーツー。
二人とも華やかな顔立ちだけど、ピカるんはどっちかって言うと凛としてる感じ。亜子ちゃんはゆるふわって表現がしっくりくる。
「ん〜、生きてくのって大変だなって考えてたら、将来が不安になってきて……」
「えぇ〜……大丈夫? お母さんに相談する……?」
「本気で心配されるからやめとく」
「そっかぁ〜……」
カラフルなミディアムヘアーには、きちんと手入れされたお団子がふたつ。この子、俺の中での異名は『百人斬りのコアラ』である。実際は二十人くらいしか振っていないらしいが、それでも十分やばい。どうやったらそんなに告白されるのか理解に苦しむ。
今も男子が一人、チラチラとこっちを見てるけど……諦めろ。君は既にお断りされたって聞いたぞ。ちょっとしつこくしてみるみたいだけど、本当にやめとけ。
そういうの、絶対に良い結果は生まれないから。
スケーター同士の恋愛沙汰については、アメリカにいた時に目を覆いたくなるような悲劇を見た。シャロンに付きまとってた男が社会的に抹殺されかけて、号泣しながら縋り付いてきた時はどうしようかと思った。諦めて引っ越せとアドバイスしたらいなくなったけど、まあ仕方ないよね。盗撮までしといてお咎めなしとか有り得ないから。世の中、そんなに甘くない!
「それって、前に言ってたいるかちゃんのグループ?」
亜子ちゃんは『よいしょ〜』と俺のスマホを覗き込んできた。掛け声の意味は不明だが、可愛いから良しとしよう。ちなみに、同じクラブの
「そうそう。いるかちゃんのグループだけど、人のスマホを覗き見しない」
「あ〜、ごめんね〜、つい〜……」
岡崎いるかの親はやばい。
あの人、昔は隠してたはずなのに最近は普通に笑い話にしていて、ここの亜子ちゃんも噂話で知っている。お悩み相談グループについても特に秘密にはしていなくて、亜子ちゃんには俺が話した。雑談の中でね。言いふらすような子じゃないし、別に構わないかと思って。
「う〜ん」
「亜子ちゃん何が言いたげ? どうしたの?」
「たいち君の視線が気になるんだよねぇ〜……」
「耳打ちをするな。俺が睨まれるじゃんか」
その
「だってぇ……」
「仕方ないな……午後は太一君の練習を見るよ。うまいこと
太一君は猫かぶりな性格だ。嫉妬深いが面と向かって反抗してくることはないので、素知らぬ顔であーだこーだと諭してやろう。
その前にスケートの話だけどね。全日本選手権は惨敗したくせに頭の中は完全ピンクとか、ちょっとマジでどうかと思う。人のこと言えるのかって? 俺やダリアちゃんは切り替えできてるからいいの。練習日の休憩中に脳内
「あはは……亜子はどうせ補欠だし〜……」
数秒、目を離して太一クンを見ていたら、亜子ちゃんがネガティヴなことを言い出した。デコられまくったスマホを操作し、ほらほらと画面を見せてくる。
来年の2月と3月に行われる国際大会、そのアサイン表だ。
四大陸選手権と世界選手権大会。
アサインの基準は主に全日本選手権。そのため、俺もダリアちゃんも選出されることになった。先にある四大陸選手権はスキップする選手もいるけど、今回はどっちも出る。示し合わせたわけじゃなくて、俺もダリアちゃんもそれぞれの状態を考えて、その上で出るって判断をしただけ。当たり前の話だ。
「──そうだね。モチベーション維持するのは大変だと思うし、口ではなんて言っててもいいさ。その代わり、今のまま気持ちを切らないようにね」
くどくど言わなくてもこの子はちゃんと
弱気なこと言っててもやることはちゃんとやってるし、今までだってそうしてきた。出られるか分からない大会のために調整していく経験は、既に何回も積んでいる。投げやりになったことはないし、今もそういった様子はみえない。だから大丈夫だ。
「うん。わかってるよぉ」
「それなら練習再開だ。スケートスケート。それじゃ俺は太一君を引っ張ってくるかな。なんか暗い顔してるすー君もついでに。なんであんな情緒不安定なんだあの子達は」
すー君ことすざく君は、壁に向かって何かをブツブツ呟いている……! 彼の場合は本当に体調崩したりすることあるから困る。俺自身メンタルは強い方じゃないけど、そんな俺から見てもこのクラブの男子って精神的に難アリな傾向があるんだよな……。ええい『クズでごめんなさい』とか言うのやめろ!
「すう君! なんで病んでるんだお前は! ほら、太一もヤンデレしてないでスケートスケート! あんまいつまでもウジウジしてると、ライリー先生でも怒るぞ! 知ってると思うけど、あの人だって優しいばっかりじゃないんだから!」
「いのりちゃんが……返信くれないから」
すー君は情けないことをほざいた。
いのりちゃんにガチ恋している彼にとって、既読スルーは死活問題のようだ。最近は鴗鳥さんちの理凰君と三角関係が始まっているとか、いないとか。お願いだから俺に恋愛相談とかはしないで欲しい。ロクなアドバイスとかできないから。
「そっかわかった。『見てる?』とか送っちゃダメだぞ絶対だぞ。んで太一君、ちょっと一緒にスケートしよっか」
「ゲッ、なんでこっち来るんだよ
太一君が太眉を曲げて、めちゃくちゃ嫌そうな顔をしている。なんで来るのかって? 君が困ったちゃんだからだよ察しろ!
「トリプルアクセル成功させたいんだろ! だったら練習しろ練習! 体は強いんだからもっと追い込め! おら働けー!」
「ひいっ!? なんなのそのノリ! 繋人くん熱血キャラじゃなくない!?」
「ピンクを燃やし尽くしたいんだよ察しろ!」
「意味わかんないよ!」
涙目の太一君の首根っこを掴み、ついでにすー君も引っ張ってリンクに向かう。
断じて俺はしっかり者などではないけれど、それでも思わずにはいられない。
大丈夫かこいつら、って。
***
本日は12月29日である。
いわゆる年の瀬である。そんなこたぁスケーターには関係ないわけで、全日本選手権の余韻はあっという間に吹き飛んだ。
浸っていたのは最終日と、その翌日、翌々日あたりまで。完全オフモードは丸三日もなかった。まあ、いきなりフルパワーで追い込んだりはしないけども。全日本選手権直前に比べたら、多少の余裕はある。というか嫌でも余裕もってないとダメ。やりすぎて故障するタイプの人間は特にね。
「ジャンプさせてよ! なんでずっとスケーティングなんだよっ」
「太一君は基礎練習が足りないから。以上」
「死ぬっ、乳酸がやばいんだって!」
「文句言う余裕があるなら大丈夫だねー。ライリー先生もやらしといていいって言ってたから、まだまだ滑ってもらうよー。おらちゃんと腕意識ー! 指先まで神経とぎすまして滑れー!」
太一君はやらなさすぎて故障するしジャンプに安定感もないので、ガンガンやって頂きたい。
そういうわけでひたすらスケーティングだ。ジャンプなしで滑り続ける。クロスクロス。本人は超しんどそうに汗を垂れ流しているけど、ヘッドコーチもオッケーって言ってるんだから続けろオラ。
「悪魔かよっ」
「自由練習なんだから拒否してもいいよ? でも俺はまだ続けるからね。太一君の負けってことで」
「勝ち負けじゃないだろっ、はっ、はーーーっ!」
もちろんやらせるだけじゃない。
俺もやるよ。やっている。ひたすら一緒に滑っているからよくわかる。やっぱりスケーティングが雑なんだよなこの子。パッと見はスピード出てて華やかに見えるけど、深いところで雑だ。
それが疲れた時に浮き彫りになって、ジャンプにも影響する。細かいエッジの使い方とかね。多くの観客にはわからなくてもジャッジは見抜く。だから点数が伸びないどころか、減点を食らう。
「呼吸を乱すなー、整えながら滑れー」
「無茶言うゲボがホッ!」
「はい、噎せるなら叫ぶのはやめましょう。あー、すう君はそのままでいいから、あと三十分やったらジャンプいこっかー。ライリー先生がそれでやるよう言ってたから」
ちょっと楽しくなってきたから、今日は終わりまで付き合おうかな。
後輩達とは常に一緒に練習してるわけじゃない。
この二人はともかく、俺の方は全体練習への参加はまちまち。出たり出なかったりしながら、個別に見てもらっていることの方が多い。
だから貴重なのだ。こうやって後輩と触れ合うことのできる時間というのは。
「乳酸がっっ」
「試合後半の感覚か、それよりしんどいだろ? それでジャンプ飛んだら怪我するから、怪我しないような体の使い方を覚えようねー」
「にゅうざあああんっ」
「ははは、うるさい」
この後、太一君とお話をした。
そしたら、自分はモテるはずなのにおかしいとかとち狂ったことを言い出したから、俺はとても困った。
なんでも、母親からイケメンだと言われて育てられたから、顔だけは自信が持てるのだとか。たしかにイケメンはイケメンだが、だからって恋愛が全て上手くいくわけではない。そこのところ休憩室で日が暮れるまで説明したら、なんか泣かれた。
「おかしいんだよ……俺、
「おい落ち着け。京都のナルシストみたいなことを言うのはやめて、深呼吸をしよう。太一君さ、まさかとは思うけど、全女子からキャーキャー言われるのが当たり前とか思ってない? 大丈夫だよね?」
「もっとモテるはずだとは……思ってる!」
「そっかわかった。頭を冷やせ」
更によくよく聞いてみたところ、驚きの事実が判明した。
この男、亜子ちゃんが好きというより、ちょっかいかけても反応が薄いのが面白くないだけだった。
どこが好きなのかと聞いても、『可愛い』とか『スタイルがいい』とか言い出す始末。挙げ句の果てには学校には付き合えそうな女子がいるとか言い出したので、流石に軽くお説教した。
「ハーレムなんて二次元の世界だけだから。アニメやゲームの世界だけの産物だから。わかった?」
「で、でもママが……」
「わかった? わかれ。練習に来てまで女子のお尻を追いかけるのはやめなさい。周りからの信頼も失うし、君の人間的価値が下がるから」
「はいごめんなさい」
ママが何と言おうがダメなものはダメだ。そのママとは挨拶したことがあって、とても常識的で優しそうな人だったはずなのに……わっかんねぇなぁ、人間ってやつはこれだから怖いね。
まあ、太一君がママに全責任を押し付けている可能性もある。だから決めつけるのは良くないが、どっちにしてもダメなものはダメです。
スケートそっちのけで頭ピンクはいけません。相手にも周りに迷惑になるようなアプローチは論外です。以上、太一君がわかってくれたことを祈る。
***
フィギュアスケートはスポーツであり芸術である。
近頃は
女子でも4回転を複数決めてくる時代だ。3回転と比べて基礎点の高い4回転をいくつも決められては、それができない選手は非常に厳しい。逆に4回転がなくても戦うことのできる選手というのは、稀有な技術力を持っているということでもある。
「ダリアちゃんやばいね……ちょっと疲れたくらいじゃ全くミスしないんだけど、代表レベルってみんなあんな感じなの?」
「あの人は特に丁寧なスケーティングができるけど、それでも本番になると難しい面も多いよ。まあ、数年前に比べて凄く体力がついたし、後半のガス欠もなくなった。でも、やっぱり難しいんだ。特に国際大会は」
雪がちらつき始めた、夜。21:27。
帰ってこないから探しに来たら、ダリアちゃんはまだ大学のリンクにいた。
うちは俗に言うマンモス大学で、キャンパスが関東から南に点在している。範囲で言うと日本一かもしれない。ダリアちゃんは別のキャンパスというだけで同じ大学の括りなので、申請さえすればリンクを自由に使うことは難しくない。むしろ余裕だ。
「ほえ〜……私は同好会レベルだから分からない世界だけど、そういうものなんだ」
「そういうものなの。てか佐藤さん、こんな時間までふらふらしてて大丈夫? 里帰りとかしないの?」
ダリアちゃんは有名人なので、練習してれば見物人くらいは普通に集まる。とはいえ現在は年末で学内に人が少ないし、何度も熱心に見に来る人はそこまでいない。大体の人は記念撮影したら満足するとか。俺がはじめて代表に選ばれた時もそうだった。
「これからするよ、里帰り!」
「今から!? もう22時なるけど!?」
「明日ね!」
「ああそっか明日ねー!」
「じゃあ私は帰るから!」
「ああ、うん。佐藤さんは本当に元気だね」
フィギュアスケートは滑るより見るのが大好きだという女子、佐藤さん。自分で量産型ギャルとか言っちゃう愉快な子は、小走りで正門に向かって行った。
彼女は大学の友人第三号である。わりと早くに仲良くなったが、遊びに行ったことはない。学祭の時にケパブを奢ってあげたことがあって、パインアメのお返しを貰ったのが一番の思い出。
(完全オフは二日だけ。後はガンガン追い込んでるな……そこまで食べてないはずだけど、また痩せるんじゃないか?)
朝から地味な陸トレ中心にやって、夕方からはガンガンスケーティング。ジャンプの練習は最後にまとめて短時間で。一番疲れているはずの時間帯だが、しっかり跳べている。
荒れた銀盤の上でもぶれずに踊って、加速して、前向きに踏み切る。折れそうなくらい細い軸が3回転半、きっちりと回る。氷を叩く音が白い光の下に響く。滑らかに動く下半身と連動して、腕の振りがしなやかで綺麗だ。
「……ああ、時間オーバーですね。心配させてしまいましたか?」
ダリアちゃんはこちらに気付くと、シャーッと音を鳴らして滑ってきた。普段は真っ白な顔が紅潮している。汗も凄い。しっとりされている。
「いや、大丈夫。でも、そろそろオーバートレーニングでしょ。ダウン付き合うから、終わったら帰ろう」
「そうですね」
先程のトリプルアクセルは現在のダリアちゃんの生命線。あれが決まらないと苦しい。それも一本ではなく二本。その上でノーミスで完走できれば、上位進出は十分に狙える。
一方、ピカるんといのりさんは大技をいくつも持ってるから、多少ミスがあっても挽回できる。なぜいのり
「追い込みすぎじゃない?」
「そう見えますか?」
「見える。けど、四大陸までにはまだ2ヶ月あるからね。計画的にやってるなら、それでいいと思う」
「…………ふぅ。焦りもありますね。頭を冷やして、ピーキングはしっかりやりましょう」
「うん、そうしてね」
体を伸ばして柔軟体操。
俺も関節伸ばしながら考えた。
コーチ不在で普段とは別の場所で練習。それでも大した変化はないとこの人は言う。
幼少期から数えて20年近く。同じコーチに師事し続けてきて、学ぶことができるものは全て吸収してきた自負があるとも。だから、一人でもやることはわかるし、むしろその方が視野が広がるような気がしているらしい。今回こうやって地元から一時的に離れているのは、スケーターとしての考えがあってのことなのかもしれない。
「まずは四大陸選手権。アメリカのシャロン・リーはやはりスキップ。大本命は今シーズンの前半を長期離脱していたオリンピアン、ミーア・オセロットですね……まあ、全米選手権がどうなるかですが」
枝毛の先から汗が滴る。
表情は普通だ。いつも通り穏やかで、何を考えているのかわかりにくい。
「女子ならロビンも本命だと思うよ。ロビン・チェン。シニアに上がってからずっと苦しんではいるけど、あの人は上手いし強い。苦しみながらでも一向に消える気配ないし」
「ああ、ロビン・チェン……何度も大会で顔を合わせていますね。私は親しくはありませんが、どんな子なんですか?」
「すっごい真面目な人かなぁ……名古屋の
「なるほど。よくご存知のようですね」
アメリカの一番手は女王、シャロン・リー。続いてミーア・オセロット。どちらもオリンピアン。ロビン・チェンはその二人には差を空けられているけど、バレエを深く取り入れた芸術的なスケーティングは侮れない。大崩れしないし、上手い選手だ。成功率は高くないとはいえ、4回転も持っている。
三人ともアメリカ時代に面識あり。ミーアは連絡先は知らないけど、会った時はそこそこ喋る。今年のグランプリシリーズは故障でスキップしたけど、全米選手権には間に合うという噂だ。
「汗冷えするから着替えてきなよ」
「ええ、もちろん」
女子は激戦。男子も激戦だが、それはあくまで国際大会での話。オリンピックを狙うという一点においては女子ほどじゃない。
女子は本当にキツい。アメリカ代表の方々もそうだが、日本国内がまずおかしい。岡崎いるか世代の下、狼嵜光&結束いのり世代以降が
順調にいけばあの二人で二枠。さらに京都の天才姫で一枠。故障もスランプもなく時が進んだ場合、それが最も可能性が高い結果となる。とか実際に言われてたりするから、他の選手にとっては絶望だよ。オリンピックの枠は最大三で、天才が三人もいるんだから。
「
「風邪ひかないでよ。帰ったらすぐお風呂入って、髪を乾かして」
「お母さんですか」
とりあえず帰ったらチューしよう。
これで何もないのが奇跡なんだが、そこのところこの人はどう考えているのだろうか。
****
「キスとハグだけでも心は満たされると言いますから、成人もしていますしこれくらいはいいかと」
「ハグは昔からしてたけどね……昔って言っても数年前くらい。そこまで昔じゃないか」
どう考えているんだろうか。
どうでもいいや。お風呂上がりダリアちゃんを見上げてたら、なんかどーでも良くなった。
赤いキャミソール、ひらひらカーディガン、半分くらい隠れてる短パン。もう完全なオフモードで
「まあ、細かいことはいいじゃありませんか。あまり激しいことはしてあげられませんが、こうして触れ合うくらいなら大丈夫ですので」
「暴発したら引っぱたいてね。よろしく」
「わかりました。ん、少し力んでいますよ。お姉様に任せて力を抜いていてください」
両手で胸を優しく押し込んでくる手つきが、やけに余裕がある。なんだろうザワザワするぞ。
「思ったんだけど、なんか慣れてない?」
「そうですか? ふふ、経験豊富なお姉さまなのかもしれませんね」
うわぁ悪い笑顔だ。儚い瞳がほの暗い。冗談なのかそうじゃないのかわかりにくい。経験豊富だったらちょっと嫌だなぁ。この人の男性関係は知らないし探ったこともないけど、彼氏とかいたことあるんだろうか。
「経験豊富?」
「まさか。あなたの反応を観察しつつ、色々と勉強しているだけですよ……ん」
目を瞑っていろと言われたので大人しく言うことを聞いていると、舐められた。
最初は唇。次は首。顔。ぬめっとした細い舌が這い回ってきて、悶えた。味わうようにゆっくりと舐め回されて、死にかけた。
「な、なんだこれ……昨日よりエグいことに……」
「ちゅっ♡ お姉さまのご奉仕ですが、なにか?」
そして数分後。
挑発的に笑いかけられてイラッとしたので、押し倒してめっちゃキスした。誰でもいいから、布団に引きずり込まなかったことを褒めて欲しい。ライリー先生でも胡荒さんでもいいから、褒めてください。