【完結】キラメキ・リンク!~煌めきの彼方へ~ 作:匿名女児
──夏休み。
アイドル研究部の活動もない。
今日は、久しぶりの完全な休日だった。
「うーん……」
ヒカリは一人、街の中を歩いていた。
特に予定があるわけではない。
ただ、なんとなく外へ出てみたくなったのだ。
「夏休みって、こんなに暇なんだ……」
少しだけ寂しそうに呟く。
すると。
「……あれ?」
ヒカリの視界に、一人の少女が入った。
帽子。
眼鏡。
長い髪。
人混みに紛れるように歩いている。
「……もしかして」
ヒカリは足を止めた。
見覚えがある。
あの姿。
あの雰囲気。
「あの時の……!」
ヒカリは駆け寄る。
「すみません!」
「……?」
少女が振り返る。
「えっと……」
ヒカリは少し戸惑いながら続ける。
「前に、私を助けてくれた人ですよね?」
「……!」
一瞬。
少女の表情が変わった。
けれど、すぐに穏やかな笑顔へ戻る。
「……よく覚えていましたね」
「やっぱり!」
ヒカリが嬉しそうに笑う。
「あの時は本当にありがとうございました!」
「いえ。大したことではありませんよ」
「そんなことないです!」
ヒカリは首を横に振る。
「あの時、あの人が助けてくれなかったら……私、どうなってたか分からないです」
「そうですか」
少女は小さく微笑む。
「それなら、よかったです」
「はい!」
ヒカリは元気よく頷く。
「そうだ!」
ヒカリが思い出したように顔を上げる。
「私、あれからアイドルを続けてるんです!」
「……知っています」
「え?」
「……いえ」
少女は少しだけ慌てたように眼鏡を直す。
「頑張っているんだな、と思っただけです」
「そうなんです!」
ヒカリは嬉しそうに話し始める。
「私、最初はアイドルのこと何も知らなくて……」
「……」
「でも、ユウヒちゃんとリカちゃんと出会って、一緒に練習して、ライブもして」
「はい」
「それから、キャルちゃんにキラメキアクトのことも教えてもらって」
少女は黙ってヒカリの話を聞いている。
「最初は、ただキラキラしててすごいなって思ってたんです」
ヒカリは空を見上げる。
「でも、今はちょっと違います」
「どう違うんですか?」
「煌めきって、私たちだけのものじゃないんだって」
ヒカリは胸元に手を当てる。
「歌って、踊って、それを見てくれる人がいて……その気持ちが重なった時に生まれるものなんだって、少し分かってきました」
「……」
「それに、私一人じゃできないことも、みんなと一緒ならできる」
ヒカリは笑う。
「この前、カリンちゃんも仲間になってくれました」
ヒカリは嬉しそうに続ける。
「カリンちゃんは衣装を作ってくれて、それから一緒にアイドルを始めて……」
そして。
「四人で、Color☆Linkっていうグループになったんです!」
「Color☆Link……」
少女はその名前を口にする。
「素敵な名前ですね」
「はい!」
ヒカリが笑う。
「みんな違う色だけど、それがつながって、もっと大きな煌めきになるっていう意味なんです」
「……なるほど」
少女は満足そうに頷いた。
「ずいぶん、成長しましたね」
「え?」
ヒカリが首を傾げる。
「……前に会った時より、ずっとアイドルらしい顔をしています」
「本当ですか!?」
「はい」
少女は微笑む。
「あなたがアイドルを続けていてくれて、よかったです」
「ありがとうございます!」
ヒカリは嬉しそうに頭を下げる。
その様子を見つめながら、少女は少しだけ考える。
「……ところで」
「はい?」
「今、少し時間がありますか?」
「ありますけど……?」
「それなら」
少女は街の先にある小さなステージを見る。
「あなたのライブを見てみたいです」
「私の?」
「はい」
「でも、今日は私一人ですよ?」
少女は微笑む。
「今のあなたが、どんな煌めきを放つのか……見せてくれませんか?」
ヒカリは少し驚いた。
そして。
「……分かりました!」
笑顔で頷いた。
「見ていてください!」
◆
「今日は一人だけど……」
深呼吸する。
客席を見る。
帽子と眼鏡の少女が座っている。
ヒカリは笑った。
「よし!」
音楽が始まる。
ヒカリがステージへ飛び出す。
歌う。
踊る。
一人でも、迷わない。
最初の頃なら、きっと不安になっていた。
誰かが隣にいなければ。
誰かが支えてくれなければ。
けれど、今は違う。
ユウヒ。
リカ。
カリン。
キャル。
これまで出会ったみんなの顔が浮かぶ。
「私は──一人じゃない!」
ヒカリが大きくステップを踏む。
その瞬間。
──煌めきが生まれた。
桃色の光。
いつもの煌めきとは、少し違う。
強く。
まっすぐに。
ヒカリ自身の周囲へ集まっていく。
「……!」
客席の少女が目を見開く。
桃色の煌めきが、ヒカリの身体を包み込む。
そして──
光が弾けた。
舞台の上に、色とりどりの花が咲き始める。
昼の太陽の下。
青い空を背景に。
桃色、黄色、白。
無数の花々がステージいっぱいに広がっていく。
風が吹く。
花びらが舞う。
その中心で、ヒカリが踊る。
「わぁ……!」
ヒカリは笑う。
「これが……」
花びらを受けながら、ヒカリは最後の振り付けへ入る。
「私の煌めき!」
最後のポーズ。
昼の光を浴びた花畑が、まばゆい光へ変わる。
そして──
ぱぁっ!
ステージいっぱいに煌めきが広がった。
光はゆっくりと消えていく。
「ありがとうございました!」
ヒカリが深く頭を下げる。
◆
ライブが終わった。
ヒカリはステージから降りると、少女のもとへ駆け寄る。
「どうでしたか!?」
「……」
少女はしばらく何も言わなかった。
そして。
「……素晴らしかったです」
「本当ですか!?」
「はい」
少女は満足そうに笑う。
「歌も、ダンスも、表情も」
一つ一つ確かめるように言葉を続ける。
「以前とは、まるで違いますね」
「えへへ……」
ヒカリが照れたように笑う。
「みんなと一緒に練習してきたからです」
「それだけではありません」
「え?」
「あなた自身が、アイドルとして何を届けたいのかを理解し始めている」
少女はステージを見る。
「だから、あれほどの煌めきが生まれたのでしょう」
「……!」
ヒカリは自分の手を見る。
「まだまだあの人には遠いですけど……」
「それでも」
少女は微笑む。
「十分、立派な一歩です」
「ありがとうございます!」
ヒカリは頭を下げる。
「私、もっと頑張ります!」
「はい」
少女も頷く。
「あなたなら、きっともっと先へ行けます」
しばらく二人は、静かに笑い合った。
やがて。
「それでは、私はこれで」
「あっ……」
ヒカリが少し寂しそうな顔をする。
「もう行っちゃうんですか?」
「はい」
少女は立ち上がる。
「今日は、素敵なライブを見せてもらいましたから」
「こちらこそ!」
ヒカリが笑顔になる。
「あの時助けてもらったお礼、少しは返せましたか?」
「……十分です」
少女は穏やかに笑う。
「とても素敵なものを見せてもらいました」
「よかった……!」
「それでは」
「はい!」
少女は帽子を直す。
「これからも、アイドルを続けてください」
「もちろんです!」
ヒカリは大きく頷く。
「私たち、Color☆Linkで、もっともっと煌めきを届けます!」
「……楽しみにしています」
少女はそう言って歩き出す。
「さようなら!」
「……さようなら」
ヒカリは手を振る。
少女の姿が、人混みの向こうへ消えていく。
「……不思議な人だったなぁ」
ヒカリは小さく呟いた。
それでも。
胸の中には、不思議と温かなものが残っていた。
「私も、もっと頑張ろう!」
ヒカリは空を見上げる。
夏の青空。
まぶしい太陽。
そして──
その光の中に、一瞬だけ桃色の煌めきが見えた気がした。
◆
夏休み最終日──
Color☆Linkの四人は、部室で練習をしていた。
「よし!」
リカが汗を拭う。
「今日もいっぱい練習したね!」
「うん」
ヒカリも頷く。
「夏休みから、ずっと忙しかったもんね」
「ライブも増えましたし」
カリンが笑う。
「少しずつ、私たちのことを知ってくれる人も増えてきました」
「これからもっと頑張らないとね」
ユウヒが笑う。
その時。
部室に置かれていたテレビから、ニュースが流れ始めた。
『続いて、アイドル界のニュースです』
「ん?」
ヒカリが振り返る。
『現在、トップアイドルとして活躍するカサネさんが、今年十二月に開催される公式大会を最後に、アイドル活動から引退すると発表しました』
「え……?」
ヒカリが目を見開く。
「カサネさんが……?」
リカも驚く。
「引退!?」
ユウヒ達は黙ってテレビを見つめる。
テレビには、華やかなステージに立つカサネの姿が映っていた。
圧倒的な歌唱力。
美しいダンス。
そして──
眩しいほどの煌めき。
「そんな……」
ヒカリは画面を見つめたまま呟く。
なぜだか。
胸の奥が、少しだけざわついた。
あの日。
自分を助けてくれた、あの少女。
そして。
今日まで、自分たちの前を走り続けてきたトップアイドル。
その二つの姿が、ヒカリの中で重なった気がした。
「十二月……」
ヒカリは無意識にそう繰り返していた。
秋の気配も感じる中──
カサネさんのラストステージが、少しずつ近づいていました。