【完結】キラメキ・リンク!~煌めきの彼方へ~ 作:匿名女児
「詳しく説明するって言ってたけど、うちの学校にアイドル部なんてあったんだね~」
私立きらめき中学校。
その校舎の一角を歩きながら、桃井ヒカリは首を傾げていた。
昨日、突然現れた黒猫――キャル。
背中に翼が生えていて、人の言葉を話す。
しかも自分を「アイドルマスコット」だと言った。
そして今日。
詳しい話をするからと、学校にあるという部室へ案内されたのだ。
「えっと……部室棟って、こっちだよね?」
少し不安になりながら廊下を進む。
やがて、一枚のプレートが目に入った。
そこには、
――アイドル研究部。
と書かれている。
「ほんとにある……」
ヒカリが扉を開ける。
「こんにちはー……?」
「待ってたネコ!」
「わっ!?」
机の上からキャルが飛び出してきた。
「キャル!」
「昨日ぶりネコ、ヒカリ!」
その隣には、一人の少女が立っている。
青い髪。
落ち着いた雰囲気。
ヒカリより一つ年上くらいに見える少女だった。
「初めまして、桃井さん」
「あ、初めまして!」
「私は青木ユウヒ。このアイドル研究部の部長だよ」
「部長さん!?」
思わず声が大きくなる。
「と言っても、部員は私一人だけなんだけどね」
ユウヒは少しだけ苦笑した。
「キャルと契約して、本格的にアイドル活動を始めることになったから、作ったの」
「じゃあ、青木さんもアイドルなんだ!」
「うーん……まだ、そう名乗れるほどじゃないよ。歌ってみたとか、簡単な企画配信をちょっとだけ」
ユウヒは少し照れたように視線を逸らす。
「そうなんだぁ。そういえば、契約って……?」
「アイドルマスコットとの契約ネコ!」
キャルが胸を張る。
「アイドルマスコットと契約した子は、専用のライブ配信ができるようになるネコ!」
「ライブ配信……」
ヒカリは先日見たカサネのライブを思い出した。
あの星空。
空を駆ける少女。
光に包まれたステージ。
「……わたしも、やってみたい」
思わず呟く。
「じゃあ」
ユウヒがヒカリを見る。
「体験してみる?」
「え?」
「アイドル研究部。まずは実際にライブをやってみた方が分かりやすいと思う」
「きょ、今日!?」
「今日」
ユウヒは静かに頷いた。
「大丈夫。私も一緒にいるから」
「……うん!」
◆
部室に備えられた簡易スタジオ。
中央に立つヒカリの前には、一台のカメラ。
画面には配信開始までの時間が表示されている。
「本当にこれで配信されるの……?」
「そうネコ」
キャルがカメラの横で羽を動かす。
「準備できたネコ!」
「ヒカリ」
隣に立つユウヒが声をかける。
「最初は緊張すると思う。でも、楽しめばいいよ」
「楽しむ……」
ヒカリは胸に手を当てる。
心臓が早い。
足も少し震えている。
誰も見てくれないかもしれない。
でも──
もしかしたら、自分の歌を聞いてくれる人がいるかもしれない。
「……うん」
ヒカリは顔を上げた。
「やってみる!」
「それじゃあ──ライブスタートネコ!」
カメラのランプが点灯した。
配信が始まる。
最初に画面へ流れたのは、わずかなコメントだった。
《始まった?》
《新人かな?》
ヒカリの目が大きくなる。
「わ……」
コメントが流れている。
本当に、見てくれている人がいる。
「……ありがとう!」
マイクを握る。
イントロが流れ始めた。
最初の一音。
少しだけ声が震えた。
振り付けも、完璧とは言えない。
歌だって、特別上手なわけではない。
それでも──
ヒカリは笑った。
歌う。
踊る。
画面の向こうにいる人たちへ、届くように。
少しずつ、コメントが増えていく。
《かわいい!》
《初ライブ?》
《頑張れー!》
《なんか楽しそう》
その一つ一つを見るたびに、ヒカリの表情が明るくなる。
もっと歌いたい。
もっと踊りたい。
もっと、この気持ちを届けたい。
曲が終わる。
最後のポーズ。
そして──
《お疲れ様!》
《よかったよ!》
《また見たい!》
「……っ」
ヒカリは胸元を押さえる。
嬉しい。
ただ、それだけだった。
◆
「……楽しかった!」
ユウヒが微笑む。
「うん。良いライブだったと思う」
「本当!?」
「うん」
少しだけ間を置いて。
「桃井さんは、アイドルに向いてると思う」
「……!」
その言葉に、ヒカリの顔がぱっと明るくなる。
「じゃあ……わたし、この部活に入りたい!」
ヒカリがユウヒを見る。
「……うん。今日からよろしく、桃井さん」
ユウヒは頷いた。
「ヒカリでいいよ。青木さん……青木部長?」
「私もユウヒでいいよ」
「うん!よろしく、ユウヒちゃん!」
二人の間に、小さな笑顔が生まれた。
「これで部員は二人ネコ!」
キャルが嬉しそうに飛び跳ねる。
「まずは部員集め第一号、大成功ネコ!」
「どんどん活動してこうね!ユウヒちゃん、キャル!」
ユウヒはそんな盛り上がる二人を見て、静かに笑った。
こうして。
新設されたばかりのアイドル研究部に、二人目の部員が加わった。
まだ、たった二人。
けれど。
少女たちのアイドル活動は、この日から始まった。
◆
その頃。
一つのライブ配信が、静かな部屋の中で再生されていた。
画面に映っているのは、先ほどのヒカリ。
白銀の少女――天原カサネは、ソファに腰掛けたまま画面を見つめていた。
「随分機嫌が良さそうだけど、何かあったトン?」
「ええ」
カサネは画面から目を離さない。
歌。
ダンス。
表情。
まだまだ未熟。
それでも。
画面の向こうへ届けようとする意思だけは、はっきりと伝わってくる。
曲が終わる。
ヒカリが笑顔で頭を下げる。
カサネは静かに口元を緩めた。
「……期待の新人ですわね」
「トン?」
「ええ」
それ以上、何も語らない。
ただ画面の中で笑う桃色の少女を、しばらく見つめていた。
シュートンもまた、何も言わずにその横に浮かんでいる。
静かな部屋に、配信終了の音だけが響いた。
ユウヒ⇒ヒカリ⇒○○