その都合上だいぶ短いです
(……ごめんね、メルちゃん)
声には出さず、心の中でだけ、そう呟く
胸の奥が焼き切れそうなほど痛くて、吐き気がするのは私もだ
あんなに傷ついた顔をさせてしまった
私のせいで…
私を守ろうとして駆けつけてくれたメルちゃんを、この手で地獄に突き落としてしまった
振り返っちゃ駄目だ
今振り向いたら、私のぐちゃぐちゃに歪んだ顔が見られちゃう
「嘘だよ」って、全部嘘だって、抱きしめて泣き叫んじゃうから
……メルちゃん
私の…ちっちゃくて…不器用で…トリニティに似つかわしくない優しさを持ってて…愛おしい…メルちゃん
初めて会った日のことを、今でも鮮明に覚えている
あの日、トリニティの路地で見つけた、倒れていた女の子
あの時は、どこにも怪我なんてなくて、ただ眠るように横たわっていたよね
最初は、関わるつもりなんてなかったんだよ?
『見捨てたら後味が悪いな』なんて理由をつけて、適当に応急処置をして、目を覚ましたらさっさとゲヘナに送り返そうと思ってた
だって、ゲヘナの生徒なんて関わりたくもなかったし⭐︎
でも、私の家のベッドで眠るメルちゃんを運んだ時、私のスカートを掴んで急にぽろぽろ涙をこぼしながら、〝…まま……っ〟って呟いてさ…
私を必死に求めて、うなされたように泣くその姿を見た瞬間……胸の奥がキュンってして…
『この子を守ってあげなきゃ…!』って…私の中の母性?保護欲?みたいなものが、一気に芽生えちゃたの
それからの日々は、私にとって夢みたいに温かい時間だったよ
私のことを初めて〝ミカ…?〟って呼んでくれたあの不安げな顔…
私がメルちゃんの髪の毛を梳かしている時の、気持ちよさそうに目を細めていた顔…
私が少し意地悪をした時に、拗ねてぷっと頬を膨らませていた顔
私が選んだ服を着て、恥ずかしそうに見せてくれた時の顔…
メルちゃんは自分のこと、あまり感情が顔に、出ないタイプだと思ってたのかもしれないけど…すごい表情豊かで可愛いんだからね?
……だから…
嘘だよ。全部、嘘
我慢してただなんて…死ぬほど鬱陶しかったなんて…大っ嫌いだなんて…全部嘘
本当はね……大好き
だ〜い好きだよ…!メルちゃん?
メルちゃんを抱きしめたら、その温かい体温が、私の胸の中のドロドロした醜い感情を全部溶かしてくれる気がしたんだよ?
……大好き
本当に…もう、言葉にできないくらい、メルちゃんのことが大好き
(なのに……なんでかな)
いつの間にか、私は取り返しのつかないほど、深く泥沼に沈んじゃっていた
セイアちゃんのこと…ナギちゃんのこと…アリウスのこと…そして…トリニティのこと…
本当は何がしたかったんだっけ
ただ一緒に笑って、みんなとお茶会をして、夜になったらメルちゃんと抱きしめ合って寝て……そんな平凡で幸せなことがしたかったはずなのに
何が一番したかったのかさえ、今の私にはもう思い出せないや…
今の私は、トリニティを裏切り、友達を傷つけた最低な人間
こんな汚れきった私に、メルちゃんが巻き込まれちゃ駄目
私という泥水が、メルちゃんというワインと一緒になったらメルちゃんまで泥水になっちゃう
だから……折らなきゃいけなかった
メルちゃんが私に抱いている期待も、私に対するいろんな感情も、全部
「来ないで…これ以上私に関わらないで顔も見たくない。理想の『私』を押し付けるメルちゃんなんか。…それとも…こんなのがあるからまだ期待するの?」
すがりつくように伸ばされた小さな手
涙でぐしゃぐしゃになった顔
私の大好きな、守りたかった可愛い顔が、私のせいで壊れていく
思ってもない言葉を吐き捨てながら、耳元から、あの日お揃いにした、思い出のピアスを外した
メルちゃんに、『ずっと付けてね?』なんて言っちゃった手前、私が外すのも何だか情けなくて…思わず笑っちゃいそうになっちゃう
あの時の意味…私の好意なんかメルちゃんは気づいてないかもしれないけれど…
それでも、いつもメルちゃんが大切に、宝物みたいに扱ってくれていたピアス
(やだ…いやだ…!いやだ!…そんなことしたくない…)
私はこんな状態でも冷徹になれないみたい…心の中で、悲鳴を上げて泣き叫ぶ
これを壊したら、本当に二人を結ぶものが何もなくなってしまう
そのことを自覚して、ヒールをのせた瞬間、足がぷるぷると震える
胸がちぎれるような、吐き気がするほどの痛みが走る
吸っても吸っても、呼吸は苦しくて…まるで肺に穴が空いちゃったみたい
(…ごめんね、メルちゃん。私を…忘れて)
奥歯を強く噛み締め、私は頑張って冷酷な笑みを顔に貼り付けたまま、体重をかけた
パキンっ!!
固いガラスと金属が、惨めに砕け散る乾いた音が響く
その音は、私とメルちゃんの2人の心が折れた音のように感じた
「ふぅ…清々した⭐︎もしかしてこんなの本気にしてたの?ほんっとメルちゃんってバカなんだね…もう会わないと思うけどバイバイ」
口から出た舌足らずな言葉は、ナイフとなってメルちゃんを深々と突き刺していったけれど…
本当は、それと同じくらいの刃が私の胸をぐさぐさに抉り取った
息が上手く吸えない
心臓が痛くて痛くて、吐きそう
嘘。全部、嘘だよ
こんなので清々するわけない
でも…私はもう戻れないんだから
こんなこと、平気な顔をして笑わなくっちゃいけないんだから…
…自分に嘘をつき続ける
私は…メルちゃんのことなんて最初から嫌いだったんだって
そう自分を騙さなきゃ歩き出せそうにないから
自分が本当に望んでいた温かな未来なんて、最初からなかったんだと思い込むようにして
隣を通り過ぎる時だって、そのぐちゃぐちゃな顔を拭ってあげたかった
「うそだよ、大好きだよ、私を一人にしないで」って、なりふり構わず泣きついて、その温もりに縋りつきたかった
あの日からずっと、メルちゃんがくれた温もりを知ってしまったから、私はもう、メルちゃんのいない夜が怖くてたまらないのに
置き去りにした、私の世界で一番大切なメルちゃん
お願いだから私のことなんて大嫌いになって、二度と振り返らないで、どうか幸せになってね
あ〜あ…正義実現委員会を無効化したぐらいじゃダメだったか…
シスターフッドが動くだなんて、予想外だったな〜…
まぁ…でもこれでメルちゃんは、完全な被害者…さながら、魔女に唆された白雪姫ってところかな⭐︎
ナギちゃんはもちろん…いつのまにか、ハナコちゃんともお友達になっていたんだから、これからトリニティで過ごしても十分満足な生活ができるよね…?
……だから
面会に来た、やけに焦ったようなナギちゃんの言葉が、信じられなかった
いや…信じたくなかった
「ミカさん…メルさんがあの日から行方不明なのですが何か知りませんか…?」
ミカは可哀想なくらいが可愛い