流石に次からストーリーに絡むと思います
先生がトリニティに来て放課後補習部の顧問になったとハナコから聞かされた
俺としては、そのことをミカやナギサに教えて欲しかったため抗議したが…
「先生というまだ未知の方にメルさんを見せてしまうと、外交的な問題になってしまうかもしれなかったので…」
などと、真剣な表情で身の安全を心配されたら怒るに怒れないだろう
(それに…この体に適応してきたのかわからないけど、見た目相応の感性とか、情緒になって気がする…!それもこれも全部…ミカが過度に甘やかしてきてるせいな気がする…!!でも嬉しいし……!うぅ…心がふたつあるぅ…)
〝はぁ……ねむれない…〟
そんな俺は今、布団の中でゴロゴロしても、初めてあの鬱陶しさすら感じる睡魔が訪れる気配がないため、気分転換にいつもの帽子を被り、パジャマの上に軽く羽織るものを引っかけて、夜のトリニティの敷地内を少し散歩することにした
初めてこの身で感じる夜風は冷たく、月明かりが石造りの校舎や綺麗に手入れされた庭園を白く照らしている
誰もいない静かな夜の学園は、昼間のピリピリとした空気とは打って変わってとっても静かだった
そのまま特に目的もなく、足の向くままに歩いていくと、大きな噴水のある広場に出た
水面が月光を反射してキラキラと揺らめいている
その傍らにあるベンチに、人影が腰掛けているのが見えた
(…!?こんな夜中に誰だよ!?…もしかしてアリウス…!?いや…まだ早いはず…!)
足を止めて引き返そうとしたが、向こうもすでにこちらに気づいていたらしい
人影がこちらの方を向く、視線が合い、月明かりの下で艶やかに微笑む姿が浮かび上がった……ハナコだった
(うわ……よりによってハナコかよ…俺的にはアリウスの子と出会うより嫌だぞ…!2人きりで話す相手としてこれほど難易度の高い子他にいないんだけど!?)
内心、フウカのよく見る呆れたような顔をしながら、今さら引き返すわけにもいかず、俺は重い足取りで彼女のほうへ歩み寄った
「メルちゃん…?こんな夜更けにどうしたんですか?もしかして…ミカさんに黙ってて抜け出してきたんですか?ふふっ…そこまでして私に会いたかったんですか?」
そう言い、ハナコはいつもの笑みを向けてきた
〝…ねむれなくて…さんぽ…ハナコこそ…こんなところでどうしたの…〟
俺は帽子を目深に押し下げ、無愛想にそう返すことで、距離を取ろうとした
しかし、ハナコは少し横にずれたのちに、隣のスペースをポンポンと軽く叩き、座れと促してくる
逆らっても面倒なことになりそうなので、俺は仕方なく、ちょこんと腰掛ける
夜の冷たい空気の中、しばらく沈黙が流れるかと思ったが、ハナコはふっと、どこか遠くを見るように噴水の水面に目を向けた
(黙ってれば美人なのに…いくら事情を知ってる俺でも、どぎつい下ネタ言ってるの見たとき腰抜かしかけたぞ…)
「…ねぇ、メルちゃん…少しだけお話しいいですか?」
珍しく、いつものおふざけを削ぎ落とした、やけに落ち着いた声だった
断る理由も特にないので小さく頷く
「前に言った…放課後補習部って覚えてますか?あそこは…窮屈じゃないんです。みんなそれぞれに秘密や事情を抱えているのに、不思議と居心地が良いんです。トリニティに入ってから、あんな風に誰かと打算抜きで話したり、くだらないことで笑ったりしたことがなかったから…」
ハナコは自嘲気味に話しているが、どこか満たされたような美しい笑みを零した
「初めてなんです…このトリニティという窮屈な鳥かごの中で、ここが楽しいって、心の底から思えたのは」
その横顔を見たとき、俺はハナコという少女が、付ける仮面の裏にある、あまりにも聡明で、孤独で、そして年相応の感性に気付かされた
(いくらハナコだってまだ子供だもんね…あんなことをしていたら気を病むことだってあるし…)
ハナコもまた、このトリニティという巨大な鳥かごの中で、宿り木を探していた一人なのだと
(ハナコにとっての補習授業部が、少しずつかけがえのない場所になり始めているんだ…本編でもあそこだけ、マジで青春してて眩しかったからなぁ)
感慨深いような、胸の奥がキュッと締め付けられる感覚を覚えながら、俺は頭の中で浮かぶ言葉をかけられるずに、ただ静かに彼女の横顔を見つめることしかできなかった
静かに噴水の水音を聞いていたハナコだが、ふと視線をこちらに向けた
その潤んだ瞳のまえでは俺の内面すらも、お見通しになっていそうで自然と目を逸らしたくなってしまう
「…それと、メルちゃん」
ハナコは唇の端を上げ、柔らかく微笑んだ
「今…何か、一人で抱え込んでいる悩みでもありますか?」
〝……っ!?…!〟
心臓が大きく跳ね上がり、汗が背中を伝う
(!?…確かに、ここ最近はエデン条約編の展開とか、ミカのことが頭から離れなくて、授業中に満足して寝られてなかったけど……そんな些細な変化だぞ!?それを見抜くなんてだいぶおかしいよ!?)
声が震えそうになるのを、必死に堪えながら、俺はできるだけいつも通りを装う
〝べつに……なにもないよ…きがぬけないだけ…〟
「ふぅん?」
〝…しいて言うなら…ピリピリして…つらい…〟
(あながち嘘ではないからな…!トリニティ全体に漂う不穏な気配と、いつ爆発するか分からない爆弾みたいなミカなんて、俺にとってストレスの塊だから…!)
ハナコはしばらくの間、俺に穴が開くぐらい見つめていた
その聡明な瞳の奥で、彼女が俺の言葉の裏にある意味、言い淀んでしまった理由を理解しようとしているのが痛いほど伝わってくる
優秀すぎるハナコなら、俺が何か重大な秘密を抱えてるのを気づくのは容易い…はず
(やばい…!まずいぞ…!これ!!追撃の質問が来る…! どう言い訳しよう…!こうなったらハナコに味方になってもらうように…!)
身構える俺を前に、ハナコはふぅ…と小さく息を吐き、優しく目を細めた
「……そう…学校の雰囲気が居心地悪い、ですか…」
ハナコはベンチから立ち上がると、夜風でコートを踊らせた
「…確かに、今のトリニティは息が詰まるような思惑で満ちています…ですが…メルちゃん。もし本当に居心地の悪さを感じていて、どこにも逃げ場がなくなったときは――いつでも私に声をかけてくださいね。…友達…なんですから」
(…!?ハナコ…?…なんっ…で…?俺を追求するチャンス…なのに…)
驚いて顔を上げると、ハナコはどこか切なくも温かい、笑みを向けていた
「夜風は冷えるので…あまり遅くまでうろつかない方がいいですよ。おやすみなさい、メルちゃん」
それだけ言うと、ハナコはヒラヒラと手を振り、静かに夜の闇の中へと歩去っていった
彼女の圧倒的な洞察力と、それに反する絶妙な優しさに圧倒されながら、俺は何かから逃げるように家に帰った
(多分…すべてを見透かしていながら、あえて踏み込まないでいてくれたんだろうな…そう考えるとハナコって友達にとことん優しいんだろうな)
(……てか…あのコートの下…何も着ていないように見えたんだけど…気のせい…だよな…?)
今日…学校に来ると、あんなことがあったものだから、ハナコと気まずくなるかと思ったが、全然いつもの顔で、からかって来てくれてちょっとだけ安心してしまった
(ハナコと一緒に過ごすのも…何だか心地よくなって来ちゃったな…いや…!自惚れるな俺!結局は先生がいる限り、先生に惹かれるんだからNTRで脳を壊されないためにも!!ちょうどいい距離感を保つんだ!)
そんな馬鹿馬鹿しいことを考えていると、モモトークで、ナギサから『少しお話があります』と呼び出しを食らった
(うげぇ…! セイアの次はナギサって、ティーパーティにどんだけ呼ばれるんだ俺は……! てか絶対セイアの話じゃん!初見の反応…うまくいくか…?胃が痛い…)
何度か帰ろうかと思ったが、既読をつけてしまった以上、行かないという選択肢はないため、ため息をつきながらいつもの部屋へ足を運び、部屋の扉を叩く
「どうぞ入ってください」
上品でどこか威厳のある声に従って入室すると、そこには紅茶の準備をやり終わり、1人で紅茶を飲んでいるナギサの姿があった
席を勧められ、俺が腰を下ろすと、ナギサはカップを置き、わずかに表情を曇らせて話を切り出した
「…突然呼び出してしまってすみません、メルさん。実は、あなたにとても重いお話をしなければなりません」
〝…なに…?〟
「1週間ほど前…セイアさんが、何者かの襲撃を受けて…彼女は、亡くなりました」
(知ってる…知ってるけど、ナギサの口から聞くとやっぱり重いな…! …って!そんなこと考えてる暇じゃねぇ!初めて知ったみたいな雰囲気出さないと…)
〝え…それって……ほんとに…?〟
「ええ…私も、まだ信じたくありませんが……事実のようです」
沈黙が続く間、ナギサはカップの縁を指でなぞりながら、痛ましそうに目を伏せた
そして、何かを葛藤するように切り出した
「……それでですね、メルさん。最近のミカさんの様子について、少し気にかかることがあるのです」
〝…みか……?〟
「はい。ミカさんは感受性豊かな方なので……セイアさんを失って、どこか様子がおかしくなっていませんか? いつも…2人は言い争っていましたが、ミカさんは怒りながらも楽しそうに会話をしていらしていたので……何か、変わった様子などがあれば、教えていただきたいのですが…」
(ここで変に突っ込んだことを言って、ナギサのミカに対する疑念を生んだり、原作のルートをズラしたりしたら最悪だ!! 当たり障りなく、適当にごまかさなきゃ…!)
〝ううん…とくに……いつもどおり…だよ…?ごはんも…ちゃんとたべてるし…かいもの…いくし…〟
そんな当たり障りのない返答を心がける
それを聞いたナギサは、ふぅ…と小さく息をつき、どこか安心したような、あるいは自分を納得させるような笑みを浮かべた
「……そうですか…ミカさんはいつものミカさん、ですか」
(よかった…とりあえずナギサとはギクシャクせずにすみそうだな…一番相手にしたくないのナギサだからあんまり話したくもないんだけど……でも、やっぱり美少女と話すっていいよな!!寿命が伸びるぜ!!)
ホッと胸を撫で下ろしていると、ナギサは気を取り直すように紅茶を一口飲み、先ほどとは違う、少し柔らかいトーンで雑談を振ってきた
「そういえば、先日セイアの部屋からメルさんが出てくるのを他の生徒の方が見かけたとおっしゃっていましたが……何かお話しでも?」
〝…あぁ…うん…たまたまよばれて…お茶して…あと……〟
なんとなく頭をよぎったあの日の記憶
ナギサの質問を疑われずに返せて、気が緩んでいたのか俺はとんでもないことを口走ってしまった…
〝かみのけ…におい…かがれた……すんすんって…〟
それを口にした瞬間、ナギサの動きがピタリと止まった
「なるほど……は、はい?」
ナギサが見たくないものを見るように、目を細める
彼女の顔に、驚愕、呆れ、などがごちゃ混ぜになった、言葉にし難いすごい表情が浮かび上がった
「セイアさんが……メルさんの髪を…? 一体…なぜ…?」
〝さあ…よくわかんない…でも…なんか…ちかづいてきたから……〟
(嘘は言ってないな!うん…!言ってない…かな…?許可を出したような気もするけど…気のせいだろ!!)
俺が自信なさげに答えていると、ナギサの視線がふと、俺の耳元へと動く
「…?…メルさん…?そのピアスは…?」
〝これ…?〟
「いつ付けましたか?以前会った時にはなかったような気がするのですが…」
じっと観察するナギサの鋭い視線から逃れるように、俺は顔を逸らした
〝…みかに…もらった…おそろい…〟
その言葉を言った瞬間、ナギサは完全にフリーズした
口が半開きになり、ティーカップを持ったままピクリとも動かない
ナギサの脳内では、ミカが俺と一緒に穴を開け、自分とお揃いのピアスをつけさせたという事実が処理しきれず、一瞬で別世界か宇宙の彼方へトリップしたのだろう
数秒の静寂の後、ナギサは現実世界へと帰ってくると、深い、本当に深いため息を吐き出した
「……はぁ…ミカさんですもんね…それくらい平気でやりますか……」
呆れを通り越して、もはや同情に近い目を向けられる
これ以上このままの空気だと、何だか恥ずかしくて、気まずすぎて、頭がおかしくなりそうだと思った俺は、ナギサが何か考えている間に、目の前に用意されていた高級そうなお茶菓子に目をつけ、現実逃避するようにそれを口に運び始めた
(このお菓子うますぎだろ!!これに比べたら今まで食ったお菓子はカスや…!バームクーヘンは意味わからんぐらいしっとりしてるし…スコーンも単体でうまいのに…いちごジャムにつけて食べるなんてほぼ犯罪だろ!!あと、ロールケーキだけ異様に種類あるけど何なんだ…?)
もぐもぐ、むしゃむしゃと食べ進めるが、一度に詰め込みすぎて、リスのようにほっぺたいっぱいに詰まってしまう
急いでお茶で流し込みながら食べていると、ナギサはいつの間にか、考えがまとまったのだろうか…顔を上げると、まるでお母さんのような、ものすごく温かく、慈愛に満ちた目と視線が交差する
「…ふふ。本当に、メルさんはマイペースな方ですね…」
ナギサは小さく笑い、口元についたクリームを肌触りの良いハンカチで拭いてくれた
(ああ…ナギサ…彼女は私の母親になってくれたかもしれない女性だ…)
先ほどまでの空気はどこへやら、その後は随分と和んだ雰囲気で話に華を咲かせることができた
ミカに髪の毛をよく吸われていることを話した時に『後でロールケーキぶち込みですね…』と小さく呟いたのは聞こえないふりをした
アーメン…ミカ
そんな楽しいお茶会の帰り際、ナギサは『お口に合ったならどうぞ』と、箱に入ったお菓子を持たせてくれた
俺はホクホクした気持ちで、ナギサの部屋をあとにして、家への帰り道を辿った
次は放課後補習部との話〜ミカの黒幕発覚くらいを想定してます