後付けの曇らせタグで本当に申し訳ないです
ただ、自分は最終的に晴らすことを絶対に約束します
『メルちゃんも気になったら是非遊びに来てくださいね♪』
ハナコからそんなモモトークが来たからだろうか、脳裏によぎったのは、これから補習授業部が迎える合宿の行方だった
(確か…あの合宿の最中に色々あって、先生が本格的にみんなと向き合うことになるんだったな…先生ならやれると思うけど…一度見ておきたいし…)
原作通りにハナコや先生が動いているのか気になった俺は、足取りを重くしながらも、補習授業部が合宿を行っているという古い校舎のほうへと向かうのだった
古い校舎の扉に手を掛けようとした、その瞬間だった
……カチッ
足元から、あまりにも聞き慣れない金属音が響いた
〝……ぇ?〟
思考が追いつくよりも早く、俺の無意識の生存本能が全開で警報を鳴らす
横に体を投げ出した次の瞬間、俺のさっきまで踏んでいた地面が轟音とともに激しく爆発した
〝ぎゃっ……!? し゛ぬっ……!!〟
爆風と吹き飛ぶ土の中、俺は叩きつけられるようにして地面を転がったが、奇跡的に直撃を免れた
つば広帽子が衝撃で吹き飛び、俺の黒いツノが丸出しになるが、そんなことを気にかける余裕すらない
服は煤まみれになり、不快な耳鳴りがキィィンと響いている
(あっぶねぇぇぇ!!死ぬかと思った!!てか帽子!早く被んないと!)
荒い息を吐きながら何とか立ち上がり、帽子を被り直すと脳裏にふと原作の記憶が浮かんできた
(そ、そういえば……! アズサがあの校舎の周囲に自家製の地雷をアホほど仕掛けて、要塞化してたんだっけ…!! すっかり忘れてた…死ぬところだった…!)
恐怖からか、力の入らなくなった足腰で地面を座り、煤と土でぐちゃぐちゃになった顔をバッグに入っていたタオルで拭っていると、派手な爆破音を聞きつけたのか、校舎の扉が勢いよくバタンと開き、数人の人影が飛び出してきた
「い、今の爆発音は何なの!?」
「不審者ですよね!? そうじゃなかった場合大変なことに…!?」
「あらあら、そうだった場合派手な宣戦布告ですね♪…って、あら?」
「……敵では…ないな。仕掛けたトラップにかかった生徒……か?」
「ちょっと、みんなもう大丈夫!大丈夫だから武器を一旦おろして!」
そこに揃い踏みしたのは、よく知っている放課後補習部の面々だった
ピンクの髪を揺らしながらどこか心配そうな目を向けてきている下江コハル
あわあわと泣きそうになりながら落ち着かない様子で手を動かしている阿慈谷ヒフミ
どこか余裕の楽しげな笑みを浮かべる浦和ハナコ
そして銃を構えたままこちらを警戒するような視線を向ける白洲アズサ
さらに、その中心には……先生の姿もあった
(なるほど…これはみんな堕ちるわ…イケメンだな…便利屋先生…というか藍染○右介みたいだな……裏切らないよな…?)
全員の視線が、煤まみれになっている俺に突き刺さる
「あ、あの…大丈夫ですか…?」
何も言わない俺を心配したのか、ヒフミが慌てて駆け寄り、心配そうに手を差し伸べてくれた
その眩しいほどの善意のオーラを無碍にしないために俺はなんとか気力を振り絞って立ち上がった
〝えっと…初めまして…私はメル…です…〟
気まずい沈黙を破るため自己紹介をしたのだが、何とも無愛想な出来になってしまうが、ヒフミを筆頭に、コハル、アズサ、そして先生へと順に俺に自己紹介をしてくれた
(というかハナコは俺のことを知ってるだから助け舟出してくれもいいじゃん!!何でずっと面白いものを見る目でニコニコしてんだよ!!)
自己紹介が一通り終わると、コハルが怪訝そうに眉をひそめて俺を指差す
「ちょっと、あんた! 私たちになんの用よ! ていうか、その制服……トリニティのなの!?あんた見たことがないし…何者なの!?」
コハルの鋭い追及に、俺は冷や汗を拭いながら、精一杯の言い訳を絞り出した
〝べつに…怪しい者じゃ…なくて…ミカの付き人、です…飛び級…してる…〟
その言葉を言った瞬間、場の空気がピシリと固まるのを感じる
ピリッと緊張した空気が流れ、俺は慌てて両手をパタパタと振り、付け足した
〝…そこまで緊張…いいです…ハナコ…見に来ただけ…いつも通りで…いい…〟
俺のその、いかにもやる気のない声色の弁解を聞いて、ヒフミは「あはは…」と少し引き攣ったような顔をし、アズサは銃を下ろして、ハナコの方を向き不思議そうに首をかしげ、コハルは「なによ!知ってたならあんたも話しなさいよ!」と頬を膨らませている
みんなからさまざまな視線を向けられたハナコというと…
「まあまあ、お話は中でお茶を淹れてしませんか? メルちゃんも、爆破に巻き込まれて驚いているでしょうし♪」
いつもの調子でハナコが笑いながら俺の手を取り、みんなと一緒に校舎の中へと案内してくれた
案内されたのは、古い教室だがとても綺麗に掃除されていて、正直本校舎の教室と遜色ない
(合宿1日目に掃除したからか、めっちゃ綺麗になってる…!…てことは先生…あの破壊力のあるハナコの水着姿を見たと言うことか…?よく理性が持ったな…先生よ、俺は男として貴方を称えるよ!!……今女だけど…)
俺は皆の邪魔にならないよう、部屋の隅のパイプ椅子にちょこんと腰掛け見ていようと思っていたのだが…
ハナコが「メルちゃんがそんなに離れているだなんて私…寂しいです…」なんて、わざとらしく言うもんだから、近づかないわけにはいかないだろう
せめてもの抵抗として、少し離れたところにある椅子に腰掛け、持ってきた帽子を目深に被り直した
(いやぁ…地雷で吹っ飛ばされかけた時は本気で死ぬかと思った…でもこれ…マリーも経験したのか……地雷直撃したマリーって案外打たれ強いのかもしれないな…)
冷や汗の引いた体で、俺は部室の中をそれとなく観察し始める
いろんなものに目を向けた後、視線の先にいるのはもちろん、補習授業部の顧問である先生だ
横顔で見ても、正面で見ても先生は、噂に違わぬなかなかのイケメンだ
落ち着いた佇まいで、ヒフミの話を真剣な眼差しで聞いては、言葉を返している
少し遠くて、内容は聞こえないが、時折見せる笑顔からは包容力と大人の男性の余裕が滲んでいる
(なるほどねぇ…そりゃあキヴォトスのあちこちの少女たちがこぞって狂ったような矢印を向けるわけだわ!!面がいいんだよ!あんたは!!)
ただ、ふと先生と視線が合った瞬間、彼の瞳がわずかに細められた
(ん…? なんか、若干警戒されているような気配が…?……オレムガイダヨォー…ヒリキナヨウジョダヨォー…)
最初は俺が口下手や、カミングアウトのせいでピリついていた空気だったが、さすがは補習授業部というべきか、その緊張はほんの数分でどこかへ消え去ってしまった
「ちょっとアズサ!! 勝手に校舎の周りに地雷を埋めないでって言ったでしょ! マリーも爆破されてたじゃない!!」
「…防衛のためだ。すまないコハル」
「もう、二人とも落ち着いてください。はい、お茶どうぞ、先生もメルさんも」
「ありがとう、ヒフミ。助かるよ」
〝ありがとう…ごさいます〟
ヒフミが淹れた紅茶を囲み、アズサとコハルが言い争い、それを先生が困ったような笑顔でなだめる
そして、そのやり取りをハナコが面白そうに笑みを浮かべて眺めている
(うぉっ…眩しっ!眩しすぎだろ!!なんだこれ……なんだこれ…!?青春してんねぇ!めちゃくちゃ楽しそうじゃん…)
最近感じていたトリニティ全体の冷たくてピリピリした空気とはまるで違う、どこか温かく、みんなが寄り添い合うような空気がこの教室には満ちていた
ハナコがあの日の夜、噴水の前で「ここが楽しいと思えた」と言っていた意味が、少しだけ分かった気がする
俺は椅子に深く腰掛け、すっかり脱力しながら、その和やかな光景をぼんやりと眺める
「……あの、メルさん?」
〝……?〟
ぼんやりとみんなを眺めていた俺は、不意に名前を呼ばれて顔をそっちを向く
声の主は、さっき紅茶を淹れてくれたヒフミだった
「えっと…さっき、ハナコちゃんを見に来たって言っていましたけど……ハナコちゃんとは、以前からお知り合いなんですか?」
(おっと、そこを聞くか…まあ、やばい質問じゃなくて助かった…)
〝隣の席…だから…〟
「なるほど…そう言うことですか…!ではこの中では一番ハナコちゃんとの付き合いが長いってことですね!」
(この体…口下手すぎるだろ!…でも、話を広げてくれるし、話すの待ってくれるんか?ヒフミ!!こりゃナギサも気にいるよ!話してて楽しいもん!)
コハルとの話に折り合いがついたのか、今度はアズサが口を開いた
「……メル。一つ聞いてもいいか?」
〝うん〟
「さっき、じっと先生を見ていたな。何か気になることでもあったのか?」
思わず心臓が跳ねる
(……げっ…!よく見てんなアズサァ!…いや、別にやましいことはしていないよな…?先生がイケメンだなぁとか、こりゃハーレム築けるわとか考えていただけで!!……いや、十分不審か…?)
〝…先生…すごい…って考えた…〟
「すごい?」
〝…うん〟
俺はちらりと先生の方を見る
キョトンとした顔をしているが、それでもなおかっこいいのは主人公補正というやつなのだろうか
〝…話…よく聞いてる……それに…さっき…助かった…〟
言いながら、ふと考える
(原作を知ってる俺からすれば、先生がそういう人だってことは知ってるけど…この世界で実際に先生と接したことは、まだほとんどないんだよな…あれ!?失言か!これ!?)
〝…いい先生…〟
そう言うと、ヒフミがぱっと顔を明るくした
「はい! 先生は、とってもいい先生ですよ!」
「……メルは、先生に何か相談したいことがあるのか?」
アズサの言葉に、俺は固まってしまった
(いや、相談したいことなら山ほどあるけど!? 原作の展開とか、ミカのこととか、セイアのこととか!etc…!でもそんなこと言えるわけないだろ!!)
〝………ない〟
「そうか…何かあれば、先生に相談するといい。先生は、きっと力になってくれる」
「うん。何でも相談して。私は生徒みんなの味方だからね」
(…ああ…やっぱり、アズサも先生のことを信頼できているんか…原作が進んでるようで順調だな!)
〝…覚える…〟
大体アイスブレイクが進んだ頃だろう
「ところで、メルさん!」
ヒフミが何かを思い出したように、ぱっと手を叩いた
「もしよかったら、今度、私たちと一緒にお出かけしませんか?」
〝……おでかけ?〟
「はい! せっかく知り合えたんですし、もっとお話ししてみたいなって!」
「ちょ、ちょっとヒフミ!? 勝手に決めないでよ!」
今まで話に参加してきていなかったが、緊張が解けたのだろう
普段のコハルのツッコミの勢いを取り戻したようで何よりだ
「えっ!? あっ、ご、ごめんなさい…!」
コハルにツッコまれたヒフミはというと…
シュン…とすると悲しげな表情で俯いてしまった
「ち、ちがっ!否定する気はなくて…そう…!そうよ!メルはどうなの!?本人に聞かないと…」
すっかり慌てきってあたふたするコハルに、悲しげに俯くヒフミ…この状況で答えは一つしか残されていないだろう
〝……いいよ〟
そう答えると、ヒフミは嬉しそうにぱぁぁ…!と微笑んだ
「ぇっ…!?…本当ですか?ありがとうございます!」
(……ああ、まずいな…そういう顔…弱いんだよなぁ…)
原作の知識があるからこそ、俺はこの子たちがこれから経験することを知っている
だから、できることなら…
この何気ない日常が、少しでも長く続けばいいと思った
「では、メルちゃん♪今度のお出かけでは、ぜひミカさんとの馴れ初めも聞かせてくださいね♪」
〝……やっぱり…いかない〟
「ええっ!?どうしてですか!?」
〝ハナコ…いる…から〟
「まあ、ひどい♪」
「ふふっ!ハナコは1人でお留守番ね!」
「…あら♪コハルちゃんは放置での焦らしプレイが好きなんですね♪」
「はぁぁ!?あん…た…何言ってるのよ!エッチなのは駄目!!死刑!!」
(うぉぉ…!!生のエ駄死!!何だか感慨深いな!というか…ハナコも何を口走ってるんだ!?)
心地よいような、けれどどこか気恥ずかしいような補習授業部の和やかな空気の中に身を置いてから、およそ30分ほどが経過した
これ以上、青春の光に当てられていると、トリニティとの寒暖差で風邪を引いてしまう
俺は椅子からゆっくりと立ち上がり、パタパタと制服の煤を払った
〝えっと……そろそろ…かえる〟
俺のその唐突な宣言に、賑やかに盛り上がっていた部室の空気がふっと落ち着いた
「えっ、もう帰っちゃうんですか? メルさん、お茶もお代わりしてないのに…」
ヒフミが名残惜しそうに見つめ、コハルも「なによ、急ね」と眉をひそめる。ハナコは「名残惜しいですけど、また来てくださいね♪」と笑みを浮かべている。「また来てね。歓迎するよ」と先生は相変わらずのイケメンフェイスで声をかけてくれる
もう少し自分の顔の良さを自覚して欲しい
〝また…あさってくらいに…くる…から…〟
俺のその言葉に、アズサは「勝手に来ると、また地雷を踏み抜くかもしれない」と物騒な忠告をしてくれたが、その表情に初めて会った時のような敵意はなかった
〝…じゃあ……また…〟
全員に見送られながら、俺は地雷原を慎重に一歩一歩踏みしめながら、古びた校舎をあとにしたのだった
夕暮れ時のトリニティの敷地内をトボトボと歩きながら、俺は大きく息をついた
(裏で暗躍するミカの心を心配しするのでさえ、胃痛案件なのに…!!先生と接点を持っちゃった…好奇心は猫をも殺すっていうけどミスったな…)
当初の平穏な引きこもりライフは完全に崩れ去り、いつの間にかトリニティの巨大な謀略の渦の中心に片足を突っ込んでしまっている
考えれば考えるほど胃が痛くなり、自分の不運さを呪いたくなった
〝…はぁ…ねよ…〟
すっかり疲弊しきった体を引きずりながら、俺は重い足取りで帰路につくのだった
あれから2日後
前回の悲劇を繰り返さないように、俺は事前にモモトークでハナコに『いまから行く』とメッセージを送り、再びあの古びた校舎へと足を運んだ
今回はアズサが事前に地雷を回収してくれていたおかげで、爆発することなく無事に校舎に入ることができた
扉を開けて教室に足を踏み入ると、そこにはいつも以上に明るく、弾んだ空気が満ちていた
「みなさん、聞いてください! 受けた模試の結果…全員、合格点を上回っていました!」
ヒフミが少し大きな紙を掲げながら、嬉しそうにパッと花が咲いたような笑顔を浮かべている
その横で、コハルが「ふふっ!当然ね!エリートだもの!」と大喜びし、アズサも「ふっ、当然の結果だ」と腕を組みつつどこか誇らしげだ。ハナコはこれまたいつもの笑みを浮かべて「めでたしめでたし♪」と微笑み、先生はそんな彼女たちに「みんな!!よく頑張ったよ!本番も合格できるよ!」と温かい眼差しで褒め称えていた
誰もが『これで補習授業部は終わる』『日常が戻ってくる』と、心からそう信じて疑わないような最高の瞬間だった
……でも
(この後、ナギサのあの横暴が発動するんだよなぁ…)
俺の頭の隅には、原作の残酷な展開がハッキリと焼き付いていた
この直後、ナギサから新たな通告が入り、テスト範囲は理不尽なまでに増やされ、合格ラインも大幅に引き上げられる
せっかくの努力と喜びが叩き潰され、彼女たちが再び絶望の淵に突き落とされる、あの胸糞の悪いイベントが
(あぁ…!せっかくみんなあんなに喜んでるのに…この後あんな鬼畜な追加ルールが発表されるとか、知ったら絶対絶望するやつじゃん……)
知っているからこそ、目の前の無邪気な笑顔が直視できず、俺の胸のうちは何とも言えないモヤモヤとした居心地の悪さでいっぱいになった
しかし、だからといって『この後、理不尽なテストが出るよ』となんて口が裂けても言えるわけがない
俺は相変わらず、教室の椅子にちょこんと座った
「メルさん…!ちょうどいいところに、私たち、模試で全員合格点が出たんですよ!」
俺に気づいたヒフミが、キラキラした目を向けながら駆け寄ってくる
〝…おめでと…みんな、すごい…〟
苦痛を、表情には一切出さず、できる限りいつものトーンで、俺は精一杯の祝福の言葉を口にした
目の前で無邪気に喜ぶ少女たちの未来に待ち構えている曇り空を思いながら、俺はそっと大きな溜息をつくのだった
そしてまた2日後
俺はハナコにモモトークで『いまから行く』と連絡を入れ、再びあの古い校舎へと足を運んだ
しかし、前回とは打って変わって、扉を開けた瞬間に部屋を支配していたのは、底冷えするような沈黙と重苦しい空気だった
勉強をしているが誰も喋らず、それぞれの席にに座っている
ヒフミは焦ったような表情で問題集を見つめ、コハルは泣きそうになりながらうなだれて、アズサは複雑な表情を浮かべていた
(あぁ…やっぱり、起きてしまったか…)
俺は胸が痛むのを抑えながら、そっと先生の近くへ歩み寄った
先生もどこか疲れ切った顔をしていて、俺の姿に気づくと小さくため息をつき、静かに事情を教えてくれた
ナギサの独断による、理不尽な通告。テスト範囲の急激な拡大と、不可能に近い合格ラインの設定
偶然かどうかはわからないが、温泉開発部による爆発で答案用紙が吹き飛んだこと…
合格したはずの模試のあとに突きつけられたその仕打ちは、彼女たちの希望を綺麗に踏みにじったのだと
(知っていたのに……何も言えなかった…俺がモブとしてここにいて、ストーリーに干渉できないからこそ、余計に……)
あまりの居心地の悪さと、どうしようもないいたたまれなさに俺が身を縮こまらせていると、突然、ガシャンと激しい音を立ててコハルが立ち上がった
「ちょっと、あんた……!!」
コハルは怒りに震える指で私をビシッと指差す
その目には大粒の涙が浮かび、声が怒りからか裏返っていた
「私たちがあんな理不尽なテストで苦しめられてるの、知ってたんでしょ!? ティーパーティ所属のあんたが、私たちの結果をナギサ様に内通したんでしょ!? だからあんなひどい嫌がらせを……!」
〝……っ…!〟
心臓が大きく跳ね上がり、鼓動が早まる
息が詰まってしまう
否定しようと口を開きかけたが、周囲の反応を見て血の気が一気に引いていく
「コハルちゃん…!落ち着いてください…!」
ヒフミは慌ててコハルを制止しているが、俺を見る、その瞳の奥には隠しきれない強い疑念の色が浮かんでいた
アズサは銃に手をかけ、俺を射抜くような敵意むき出しの視線を向けている
「…メルが、私たちの動向を探りに来ていたということか。最初から信用すべきではなかったな」
「みんな…待って欲しい…!一旦話し合わない!?」
そして、庇ってくれている先生までもが、複雑そうな、少しだけ探るような目をこちらに向けていた
(…そりゃあ、そっかぁ…考えてみれば当たり前だよなぁ…)
俺は頭の中で冷静に状況を整理した
ハナコに会うためという口実で、2日おきに来ていた俺
そして、模試合格点越えの、その直後に起きたナギサによる理不尽な通告
普通に考えれば、俺がスパイで情報を流していたと疑うのが一番自然で、一番納得がいく結論だ
(ここで必死に弁解しても、誰も信じてくれないだろうな…もういいや、嫌われるなら嫌われたままで…仲良く…したかったな…)
どうせ何を言っても無駄だという諦めと、ここまで露骨に向けられる敵意に対する恐怖が混ざり合い、俺はうつむいたまま、ただ泣かないように口を閉じるしかなかった
教室の空気が完全に凍りついたその時
「待ってください…みなさん」
(ハナコ…?なんで…)
凛とした声が響いた
椅子から立ち上がったハナコが、俺とみんなの間に一歩進み出て、真剣な雰囲気を纏って立った
「「「「ハナコ(ちゃん)?」」」」
みんなが戸惑いの声をあげる中、ハナコは俺をかばうように立ち、ハッキリとした口調で言い放った
「メルちゃんは…スパイなんて、そんな面倒くさいことはしません」
「なっ、なんでそんなこと言い切れるのよ! ティーパーティ所属だったら……」
「あの子の普段の様子をみればわかりますが、スパイには向いていません。わかりやすすぎます。それに、私たちを裏切る動機も、メリットもないはずです」
ハナコの力強い説得に、教室の空気がわずかに揺らいだ
(は、ハナコぉ…今まで散々好き勝手言ってごめん…救世主だよ…!!まじでありがとう…)
ヒフミは「確かに、メルさんがそんな…」と悩み始め、アズサも銃からそっと手を離した。先生とコハルも、ハナコの言葉を受けてハッとしたように表情を和らげる
俺は、自分の前で庇ってくれているハナコの背中を見つめながら、驚きと、そして安堵感で、涙が溢れそうになった
ハナコがみんなを説得してくれたおかげで、コハルたちの殺気立った視線や疑念は和らいだ
しかし…これ以上あの場にいるのは耐えられなかった
〝…ハナコ……ありが…とう…いいから…〟
上擦ってしまった声でそれだけ呟くと、俺はみんなが何か言いかけるのも聞かずに、その場から背中を向けた
これ以上ここにいたら、俺の精神がすり減ってしまう
とてつもない気まずさから、俺は逃げるようにその古びた校舎を飛び出し、家へと走っていった
ミカは今日もまだ帰っていない
それは、悲しいことに慣れてしまったのだが、恥ずかしいことにここ最近の俺は、ミカという温もりを知ってしまったせいで、ミカがいない日は寝付くまでが遅くなってしまっていた
(なんでだろう…いつもと変わらないのに、すごく…胸がざわつく…嫌な予感がする…なんかあったか…?)
心臓がいやにバクバクと騒ぎ立て、呼吸が浅くなる
俺は落ち着かない足取りで部屋の中を行ったり来たりしながら、頭をフル回転させ、前世の記憶と原作の知識を必死に引っ張り出そうとした
(思い出せ……! このタイミング、補習授業部で理不尽な事件が起きて、みんなが絶望した直後……! 原作ではこの後、何が起きるんだっけ……!?)
薄れゆく前世の記憶の断片を必死につなぎ合わせる
理不尽な弾圧に耐えかねた補習部――アズサやハナコたちが動き出す。ナギサが裏切りにおびえ、そして……
(……っ!ばかばかばかばか!!何で思い出せなかった!!)
血の気が一気に引いて、頭を殴られたような衝撃とともに、世界が歪む
(今日だ…! 今日が、あの日だ…!最悪だ…!俺の馬鹿野郎!!)
ナギサがアズサやハナコたちによって襲撃(保護)され、セイアの死によって、追い詰められたミカが、動き出す日……!
(くそっ!!今日だったか…!? ミカが、捕まる日…!!動かなきゃ!今からでも!!)
外を見ると、すでに夜の帳が下りていた
もう手遅れかもしれない
俺に笑顔を向けてくれたミカ、俺の髪をいじって楽しそうにしているミカ、可愛らしいミカの寝顔、俺のせいで拗ねた時の顔……ミカ…ミカ…ミカ…が脳裏によぎる
〝…っ!探さなきゃ……!まだ…!!〟
自分を鼓舞するようにそんな言葉を口にして、俺は帽子をしっかりと頭に押し込むと、パジャマのまま、冷たい夜風が吹き抜けるトリニティの敷地へと飛び出す
夜の闇に包まれたトリニティの敷地を、俺は息を切らして駆け抜けた
どこを探すべきか、頭の中で原作の知識を総動員する
行き着く先は一つ……あの大きな体育館だ
〝…ゲホッ…!…はぁ…はぁ…まだ…!〟
冷たい夜風を肺に取り込むものの、肺が焼けるように痛むのにも構わず足を動かすと、やがて視線の先に、大勢の人影が見えた
〝…ヒュー…っ!ミ…っカ…!〟
掠れる喉で、叫ぶように声を上げながら、俺は全速力で駆け寄り、その見覚えのあるシルエットの前に立ちはだかった
そこに映し出されたのは、月光によって照らされたミカだった
その背後には、ガスマスクをつけたアリウスの生徒たちが何十人も控えている
ミカは驚いたように足を止め、目を細めた
「……メルちゃん…? こんな夜中に、どうしてここに…!」
〝…フー…っ!ダ…メ…っ!ミカ……!〟
すがりつくように伸ばした俺の指先が、ミカの制服の袖に触れかけた……その瞬間
パシッ、と冷たい音が静寂を切り裂いた
「……やめて」
しばらく理解できなかった
叩き落とされた俺の手は、行き場を失い、宙に浮き、そのまま力なく下へ落ちる
痛む手のひらよりも何倍も、胸の奥が鋭く抉られるような衝撃が走る
視界が急速に狭まり、不快な耳鳴りがキィィィと頭の中で反響する
〝……ぇ…っ…?〟
助けたい、帰ろう、一緒にいたい……言いたい言葉はたくさんあるのに、その全てが喉の奥でつかえた
目の前のミカが、信じられないものを見るような、そして、嫌なものを見るような冷ややかな目で俺を見下ろしている
「……ねえ、メルちゃん?私、ずっと我慢してたんだよ?私の周りをちょろちょろして、馴れ馴れしく『ミカ、ミカ』ってすり寄ってくるの、本気で…死ぬほど鬱陶しかったの」
〝ぅ……そ……?〟
「嘘じゃないよ。最初から、ずーーっと大っ嫌いだった。メルちゃんみたいな図々しい子、視界に入るだけでも虫唾が走る…なのに…ちょっと優しくしただけで、勝手に勘違いして……あっ!そっかぁ…メルちゃんは知らなかったか…私…ゲヘナは大っ嫌いだから⭐︎」
ぐさぐさと言葉の刃が、容赦なく俺の心臓を突き刺していく
頭の中でガラスにヒビが入るようなピシピシという音がする
〝…っ、そんな…ぅぇ…っ…〟
前世の記憶があって、この世界の結末を知っているから、俺なら頑張ればミカを救える…
ミカの孤独を埋めてあげられる
そんな、底の浅い慢心と、どこかで傲慢さが、俺の中にあった
知っているから大丈夫だなんて、そんなものはただの思い上がりだったのだ
現実は、綺麗事なんかじゃ救えない泥沼で、俺の浅知恵など一瞬で踏みにじられるほど、遅かった
「来ないで…これ以上私に関わらないで顔も見たくない。理想の『私』を押し付けるメルちゃんなんか。…それとも…こんなのがあるからまだ期待するの?」
そう言いながら、ミカはあの日2人の証とも取れるピアスを取ると……
(やだやだやだやだやだ…!やめて…!ミカ…!やだ…!ごめんなさい…!やだ…!それは…!)
パキンっ!!
〝…ぁぇ…っ…〟
…ヒールでそれを踏んだ
「ふぅ…清々した⭐︎もしかしてこんなの本気にしてたの?ほんっとメルちゃんってバカなんだね…もう会わないと思うけどバイバイ」
突き放すような冷酷な言葉を残し、俺の横をミカは通り抜けた
その背中を引き止めようと、振り返りもう一度声を絞り出そうとした瞬間、胃から込み上げてくる熱い塊に阻まれる
〝ぅえ…っ…おぅえ…っ…コ゛ぽ…っ…ケ゛ヒュ…っ〟
喉の奥が焼けるように熱い
べちゃべちゃと不愉快な音がアスファルトに反響する
震える足の力が抜け、俺はその場に崩れ落ちるように膝をついた
遠ざかっていくミカ達の足音が、やけに頭の中に響いた
いたい
みえない
とまらない
にじんでる
なんで?
あたまのうえぴしぴしって
ずきずきいたい
きこえない
なんで?なんで?
きもちわるい
くるしい
あつい
すっぱい
なんで?なんで?なんで?
みかたすけて
いたい
いたい
いたい
みか?
…みかは…?
…きらい?
きらい
きらい
キライ
おれはみかを…
おれ?
わたし?
おれってだれ?
「クックック…先生の動向を見に来たつもりですが…ここまでのものを見つけるとは…!!」
初めて曇らせっぽいのを書いたんですけどこれであってます?
適当な曇らせっぽくなったので申し訳ない