アーヴィンジャー大密林、その奥地。禁域と呼ばれ、過去に魔神が出たと言われる危険地帯。そこには、この密林の中で特に強い九体いるヌシと呼称すべき個体の一匹、巨大な蜥蜴の魔獣がいた。
一見、ギガント・バジリスクの近縁種にしか見えないこの個体は、竜のような巨躯と魔法を自在に行使する知性、なにより獲物をただ己の悦楽の為だけに甚振る残忍な性質から、侮蔑と竜が如き強さへの畏怖を持って“竜擬き”と呼ばれていた。
その日“竜擬き”は幸運な事に集団で獲物を追い詰めている白い猿どもを見つけた。己を見た瞬間に脱兎の様に逃げ出す姿はなかなか愉快だったが、“竜擬き”はちょうど空腹だった。
何匹か腹ごなしに食べようと考えて、己の油断を自覚する。
猿どもは小さく脆弱だが、それ故に魔法や毒、罠など様々な方法で己を攻撃してくる事を覚えていた“竜擬き”は、以前失敗に終わった狩りの反省を活かすことにした。
今まさに逃走している白猿を制止させるため“竜擬き”が魔法を行使しながら咆哮する。常人なら鼓膜が破れんばかりの轟音と、咆哮と共に発動された、何らかの精神系魔法による効果で、白猿どもの何匹かは動きを止めた。
“竜擬き”は相手の動きを止める魔法や相手を操る魔法を好んでいた。狩りを楽にするのもそうだが、何より魔法で相手の動きを止めて、泣き喚く獲物の姿を見ながら食うのも、ツガイ同士の個体を殺し合わせて、生き残って絶望している奴を食うのも好きだった。
今日はどのような方法で食事をするか考えていたところ、逃げ出していた猿どもの動きが変わる。何やら1匹の小さい猿が自身の前に出てきた。
小さな猿━人間種の子供━は異質だった。この“竜擬き”は長年森で暮らしているからこそ、強さを感知する能力があった。
ただ、その小さな猿からはカケラも強さを感じなかった。まるで草花のような、自然で小さな生命力しか感じなかった。どんな種族であれ戦士や強者ならあるはずの、生命力の発露が殆ど感じられない。
また、何やらオーラを放つ鉄の棒━確か武器とか言うらしい━を持っているが、それに込められている力も何故か感知できない。おそらく貧弱すぎて感知できないのだろう。
どう見ても脆弱で装備も貧相な猿を前に、“竜擬き”の勘は警告を発していた。
ここで勘に従い、一目散に逃げていればまだ、生き残る確率は百に一つはあっただろう。空前絶後の才覚を持ち、この歳で逸脱者の領域に足を踏み入れている少年は、どこかの石橋を叩いて壊した後に魔法で橋を作って、橋を魔法で頑強にした上で飛行して渡る程の骸骨ではないが、それなりの慎重さを持っている。
しかし、その時点で“竜擬き”は油断していた。こんな脆弱な猿なんぞ、簡単に踏み潰して殺せると考えたのだろう。
実際、間違ってはない。もし人の世に“竜擬き”が出れば、難度は100に迫らんかというところ。そして、難度100とは、一般的に人間が倒せる限界点、壮年に達したドラゴンと同格の存在。更にこの“竜擬き”は長年森で生きてきた言うなれば歴戦の個体。
もし“竜擬き”の種族が群れを成す生態なら、確実に群れを統率して英雄と呼ばれていたであろう強者。脆弱な人間種の、しかも子供が相手などしたら、次の瞬間には無惨な子供の死体ができていると考えるのが道理だろう。
自身の体で踏み潰すか、それとも魔法で操って色々試そうかと考えていた“竜擬き”は、一歩少年に近づこうと体を揺らした刹那。
「〈瞬閃〉」
少年の刀が振り抜かれる。一瞬、“竜擬き”は煌めく刀の軌跡を最後に目に焼き付け、首を刎ね飛ばされた。
大密林に長年その悪名を轟かせ続けた“竜擬き”は、彼が今までそうしてきたように、圧倒的強者の都合で呆気なく死んだ。
眼前で起きた余りに短い時間の出来事に、周りの者達も動揺していたが、すぐに持ち直した。
「あの“竜擬き”を倒されるとは!」
「流石です!ヤマダ様!」
「凶悪な異形を倒すそのお姿、なんと雄々しい!」
「見てくださいますか!我らの父祖!八欲の王よ!」
少年に似ているのか病的な白い肌に白髪、赤目が特徴の男達は皆一様に少年に対して狂気的な信仰を宿した目を向けている。その目は有り体に言ってガンギマっていた。
確かに、先刻自分たちでは到底敵わない強者に襲われ、そこから鮮やかに守られたのだから興奮するのも無理はないが、側から見たら成人男性の集団が、まだ幼さの残る少年に狂信者のような目を向け、口々に崇め讃えている光景は中々に悍ましく見えた。
しかし、そんな様子に慣れているのか、少年は手を挙げて彼らを制すると、自身が倒した“竜擬き”を彼らが解体するまで待ち始めるのだった。
★
いやー“竜擬き”は強敵でしたね
どうもヤマダです。今は狩りの成功を祝って里で宴会の最中です。いやーしかし“竜擬き”君は結構怖かった。イヤーコワカッタ、ホントーコワカッタヨー。
‥うん、嘘だ。まんじゅう怖いじゃないんだ。怖い怖い言ってても出てこないだろう。
しかし、俺的にはアレぐらいの個体はそれなりの数出てきて欲しいと言うのが本音だ。なんせレベル上げは大変なのだ。
以前言った、天才の補正で成長速度は上がっているらしいし、実際俺はまだ10歳なのに逸脱者の領域にいる。
ただ、自分が真にその領域に踏み入れられているとは思えなかった。おそらく天才効果による能力値の上昇で、逸脱者相当ではあるのだと思うが、現状自分のレベルは30半ばぐらいだろうと目算している。
これでも年齢が10になる頃には、限界レベルまで上げ切る予定だったんだが、途中で特殊な職業を習得した結果、レベル上げが難航した。
オーバーロードの世界においてレベル的な意味での職業(ジョブ)は非常に重要だ。原作でも色々強力な職業は出てきていたが、強力な職業はその強さに見合った強いスキルを習得者に与える。
ワルキューレの『死せる魂の勇者』やエクリプスの『TGOALID』、極め付けはワールドチャンピオンの『次元断層』。どれも非常に強力で、ワールドチャンピオンのスキルに至っては世界級アイテムの効果すら(スキル発動のタイミングという問題はあるが)無効化できるらしい。
そして、俺は特殊な、ユグドラシルで言うならレベル75以上で習得できる最上位職業に就くチャンスがあるのは確定していた。
それこそが前回言いそびれた出身Sの効果だ。と言うのも、あの六項目の中で出身は、ランクが上がると良い産まれに強い職業を習得できる機会を与えてくれる。
たしか、Sになるとユグドラシルの知識を持つ転生者として産まれる、と書かれていた。
これによって、俺は原作で比較するなら、絶死絶命の『レッサー・ワルキューレ』に匹敵する職業を習得している。
ちなみに、その強力な職業が与える影響だが、俺の職業によるスキルなどの切り札を知られていない状況であれば、俺の上限レベルから20を引いた数字に0.6をかけて出てきた数字を限界レベルに加算した分と同等程度に強いと考えて良いらしい。
もちろん、切り札などが知られている状況なら倍率は下がって最終的に0.1になるそうだ。
そして、選択内容の恩恵のみで俺の強さを測るならこうなる
限界レベル41
能力値補正アリ 実質61レベル
能力値補正、出身補正最低 61+2.1=63.1
能力値補正、出身補正最大 61+12.6=73.6
かなり大雑把な計算だが、俺が最大限強くなって且つ初見の相手に限って、実質73レベル相当の強さになるそうだ。
もちろん、どこまで行っても俺の限界レベルは41なので、その状態でレベル70の相手と戦ってもレベル差の影響をモロに受けるだろうが、現地人でここまで強くなれるというのは前回も言ったが破格そのものだ。
それに、この状態は選択内容の恩恵のみで考えた俺の強さだ。実戦ではここに俺の武技など現地人特有の要素も入って来る。さっき“竜擬き”君に使った〈瞬閃〉とか、これでも色々武技方面は開拓してる。更に装備やアイテムの要素もある、まだまだ強くなれる可能性は十二分にある。
ただ、武技とは逆に装備やアイテムは少し厳しい要素でもある。例えば、俺が限界レベルまで成長し、且つ職業の切り札を知られている場合、その強さはだいたいレベル63相当だ。
その状態の俺と近いレベルのキャラ、例えばナーベラルと一対一で戦うとする。その場合、個人的には十中八九負けると考える。
もちろん、ビルドの差とかそもそものレベルだとか色々負けてる要素ばっかだが、一つ絶対に勝てない部分がある。装備の差だ。
あっちは高位の金属糸とか使った戦闘メイド服、こっちは最高でも八欲王様が残してくれた秘宝(笑)という名のネタ装備。しかもあっちは行動阻害耐性とか色々効果が盛りまくっている。
こっちが用意できても最上級の装備なら、あっちは気軽に聖遺物級の装備とか、下手したら伝説級とかを出して来る。装備の面では100%勝てない。
一応、武器だったら特殊アイテムSの効果によるものか、愛用してる刀が神器級と同格張れるぐらいの性能はしてるが、コレを刀として振るうなら兎も角、真の機能をポンポン使い過ぎると竜王とか飛んできそうだから実質使えない。
そう考えると、レベル上げが終わったら良い装備を探す旅に出てみるのも良いだろう。まあ、里にある八欲王が残された秘宝(笑)の方が確実に強いだろうけど。
泣けて来る。この世界で見てきた武器の中で、愛用の刀を除いて一番性能いいのが、ピコピコハンマーとか終わってやがる。ふざけた見た目してるくせにめっちゃ攻撃力高いし、殴打耐性貫通するし。
もしくは、未だに遭遇した事ないがアインズ様やツアー、そのクラスの相手とのコネを使うのもいいだろう。コネクションSの効果で将来そのクラスの相手とコネができるらしいから、その時に装備をお願いするのも有りかもしれない。
ネイアとか色々貰ってるしな。‥‥俺もドワーフの国行ったらルーン武器とか貰えるのか?アルティメット・シューティングスター・スーパー貰えるなら土下座してでも聖王国に行くが。
「‥ヤマダ様、その‥うちの子、見て行かれますか?」
装備について考えていると、何やら緊張した様子で話しかけて来たのは、里に数人いる英雄級の戦士、ヤマーさん。里の人にしては珍しく筋骨隆々でグレソ握ってそうなイイ筋肉をしてる。
「そうですね、気が向けば尋ねさせていただきます」
そう答える。これは実質的なお断りだ。行けたら行くって意味に近い。因みにokすると、ヤマーさんの娘にザリュースとクルシュしないといけなくなる。
「‥それでは、うちの子などは?」「ヤーマン殿、話はまだ終わってないのですから割り込むなど‥ヤマダ様、うちの娘はどうでしょう?」「む‥‥ヤマダ様、先日孫がいい酒を作りましてな、是非試飲に」「ヤルオの爺さん、酒は卑怯でしょう!」
「すまないみんな、今日も鍛錬の日でね。それにヤルオ爺、俺はまだ10歳だよ」
こうして、戦士のみんなから家に来ないかというお誘いが来るが、全部鍛錬を口実に断る。狩りが終わった後に、里で宴会してると何時もこうなる。
‥そういう事は流石にキツい、というのが本音だ。血の繋がりもそうだが、なんせ狭い里だ。みんな産まれた時から知り合いで、俺が赤ちゃんの頃にケツ拭いてくれた人や、俺が5歳とかの時に世話した子が相手だったりする。俺から見ると妹や姉、下手したら親みたいにしか見えない。
一応、俺も男だ。モテるのは素直に嬉しいし、性欲だって普通にあるが、二次元ならまだしも現実でこうなると、ちょっと‥キツイ。今ならワクワクしながらエロゲやってたら、キャラの声優に実姉が出てきたペロロンチーノ様の気持ちがわかる。
ちなみに、こんなに誘いが来る逆エルフ王状態の理由だが、個人的にはこの因習村みたいな里と、俺の限界レベルSの恩恵による合わせ技みたいなもんだと思ってる。
というのも、限界レベルSの効果は単純にレベル上限が決まるだけ、ではない。その副次効果でどのぐらい異性からモテるかも決まる。
Sになると10か国以上から嫁婿入り希望され、付き纏う異性で困って逃げ出したくなるレベルになるらしい。
原作で無理矢理に比較例を出すならラナーとかアルベド辺りか?
そして、限界レベルSによる圧倒的な異性人気と里ぐるみで強者の子を沢山作ろうとしてくる環境の合わせ技で、知り合いの親から一発ヤってく?と聞かれる地獄みたいな環境になる。俺まだ10歳だぞ?デケム呼んできてくれ。
ただ、こうなるのも少し理解できる。里から一歩でも外に出ればモンスターがうじゃうじゃいる危険地帯。密林から出ても人間を餌程度にしか見ない亜人ばかり。里の中での文化的な娯楽は八欲王様のかつての偉業を聞くか、酒造りぐらいだ。後は宴会とか喧嘩ぐらいしか娯楽がない。蛮族かな?
そんな環境で人気になる男は、単純にイケメン野郎か強いヤツ、もしくはその両方だ。それに皆んなは、八欲王様の教え(笑)を幼少の時から受けるので、強い奴=正義みたいな蛮族思考なのがそれに拍車をかけてる。
過酷な世界だからこそ、色々あるのも理解したいが、こっちはまだ10歳だ。前世なら小学校に通っている年齢の子供に色々言わないで欲しいものだ。
「申し訳ないが、今から鍛錬でね。一足先に失礼するよ」
こう言って宴から離れる。宴に出る飯は俺の好みで美味しいからもったいなくて感じるが、こうして、足早に帰宅した。
設定
主人公
名前:ヤマダ・アーヴィンジャー
種族:人間
年齢:10
レベル:36
ジョブ:戦士系
タレント:不明(本人は武技に関連すると予想)
装備アイテム:刀
オーバーロード世界に転生した哀れなオバロファン。オーバーロードの世界に転生するだけでも哀れなのに、大陸中央部に転生させられた。
現状の目的は死なない事、そのために日夜モンスターを殺しまくっては鍛錬していたので10歳ながらレベル36に到達。天才補正なども加味するなら実質レベル54相当の実力。
本人はイマイチ自覚していないが戦闘に関する全てに唯一無二の才能を持つ。タレントによって様々な武技を使用できていると思っているが、全て本人の才覚故に使えるだけ。タレントは関係ない。
ナザリックや竜王に『まず間違いなく一度は勧誘される。敗北したとしても命を助けられ、もう一度勧誘される』程の才能なので、万能の天才にしても良かったが、そうすると問題が起きる前に解決されるので一点特化型の天才にした。才能:縁壱
ただ、どれだけ才能があっても上限レベルは41なので、アインズ様の絶望のオーラで死ぬし、ツアーにパンチされたら避けれず死ぬ。
刀。三百年前、旅に出ていた里の人間が大きな洞窟の近くで拾った不可思議な刀。三百年経つのに一度も刃毀れせず、調子が悪くなる事もなく、尋常ではない切れ味を保ち続けている。