この素晴らしい世界に蛇遣いを!   作:パーノクス

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第1話 蛇遣いと爆裂魔法使いの出会い 

 紅魔の里にて

 

 魔法学校レッドプリズンを卒業しためぐみんには目標があった。それは里を出て他の街へ行って冒険者となり、爆裂魔法を教えてくれた恩人に出会うこと。そのために彼女は短期間で稼げるバイトを探していた。

 

 なぜバイトを探してるのかと言うと、金が必要だからだ。紅魔の里の外は強力なモンスターがウヨウヨしており、爆裂魔法を1発撃ったら動けなくなる彼女では、自力でモンスターたちを倒して他の街へ行くことは不可能。

 そこで、紅魔の里にある転送屋と呼ばれるテレポートを生業としてる店に行き、水と温泉の都と呼ばれるアルカンレティアへと転送してもらう。そしてアルカンレティアから馬車を使って駆け出し冒険者の集う街、アクセルへと向かって冒険者登録を済ませ、爆裂魔法を教えてくれた人を探すというのが、目標を達成するための計画であった。

 本当なら直接アクセルに向かいたかったが、需要が低いせいか、転送屋の登録先にアクセルはなかったので、最寄りの街であるアルカンレティアに転送してもらい、そこから向かうことになった。

 そして、転送代として必要な金額は30万エリス。彼女は手っ取り早く稼ぐため、短期間で簡単に高収入を得られるバイトを探していたのだが。

 

「……はあ。今日も仕事が見つかりませんでしたね」

 

 一向に仕事が見つからず、トボトボと元気なさそうに歩いていた。

 

「このままではアクセルどころかアルカンレティアさえ行けません。なんとかして仕事を見つけなくては。しかし、私に合った仕事が見つかりませんしどうすれば」

 

 どうやって稼ごうか悩みながら家の扉を開けようとすると、中から良い匂いが漂ってきた。

 

「これは……ご飯の匂い?」

 

 しかし、その匂いはいままでかいだことのないものであった。不思議に思いながら扉を開けると、玄関先に見慣れない靴が1つある。素人でも高級な物だと分かるほどのもので、もしこれを売れたら30万エリスなんて余裕なんじゃないかと彼女が考えていると。

 

「蛇の兄ちゃん! これすっごく美味しい!」

「喜んでもらえて良かった。たくさんあるから遠慮せずに食べると良い」

 

 妹であるこめっこの声と、聞いたことのない男の声が聞こえてくる。

 

「美味しい! 私こんなに美味しいもの食べたことない。蛇の兄ちゃんは毎日こんなに美味しいもの食べてるの?」

「小さい頃は食べてたが、今はあんまり食べないな。俺は食べて経験値を稼ぐより、戦って稼ぐ方が好きだからな。命を脅かすほどの強敵ならなおよろしい」

「おお。兄ちゃん、戦闘狂の鑑だね」

「そうか? 普通のことを言ってるだけだと思うんだがな」

 

 妹は楽しそうに男と話をしているが、話の内容からしてかなり物騒である。めぐみんは警戒しながら部屋の扉を開けると、そこには妹の他に一人の男が立っていた。王族のような気品を持ち、腰まで伸ばした金髪をポニーテールのように纏めている。顔立ちは大人っぽくてかっこよく、女子から人気が出そうである。碧眼の瞳は一見すると優しそうに思えるが、その瞳の奥には不気味な何かが潜んでいるように感じられた。

 

(この男は一体。それに)

 

 男の次に目を引いたのは、テーブルの上に所狭しと豪華そうな料理。どう考えても貧乏なうちが用意出来るものではなく、妹はその料理を幸せそうに食べている。しばらくして、ようやく姉のことに気づいたようで話しかける。

 

「あ、姉ちゃんお帰り!」

「こめっこ。この料理は一体」

「ここにいる蛇の兄ちゃんが持ってきてくれたの! 姉ちゃんが帰ってくるまで外で待つって言ってたんだけど、こんなにも美味しい物を外で持たせるのは勿体ないと思って家にいれの。うん! このお肉も美味しい! こんなお肉食べたことない!」

 

 妹は幸せそうにステーキを食している。よく見ると、男のそばには巨大な箱が3つほど重ねられて置いてあり、一番上の箱は蓋が開いていて、キッチンは片付いてるが、料理を作った痕跡がある。あの巨大な箱から食材を出してこの料理を作ったのだろうとめぐみんが推察してると、男が話しかけてくる。

 

「初めましてめぐみん。俺はベルゼルグ・スタイリッシュ・ソード・ルーク。ベルゼルグ王国の第2王子だ。蛇遣いと言えば分かるかな?」

「蛇遣い!? まさか、あの」

 

 蛇遣い。それは紅魔の里では有名な異名であり、めぐみんも魔法学校で何度も聞いたことがあった。召喚魔法を駆使するアークウィザードであり、使役してる召喚獣が全て蛇の形をしているため、蛇遣いと呼ばれている。

 

 彼は紅魔の里に莫大な資金や資材をつぎ込んで支援しており、王族しか使えないようなスキルアップポーションも渡したりと、普通にアウトな行為もいくらかやっていると言われている。彼のおかげで紅魔の里はかなり発展したらしく、紅魔族全体の実力も飛躍的に上がったという。

 なぜ紅魔族を支援してるのかというと、強くなった紅魔族と戦うためだ。

 蛇遣いは強者との命を賭けた戦いを何よりも楽しむ戦闘狂であり、生まれつき魔法使いとしての高い才能を持つ紅魔族は彼の琴線に触れたらしい。故に彼は数ヶ月に一度、紅魔の里に赴いて、気に入った相手をギリギリ死なないレベルで完膚なきまでに潰すということを条件にし、里を支援しているのだ。

 

(そういえば2カ月前にも、そけっとが蛇遣いに叩き潰されたと噂になってましたね。で、敵討ちに行ったぶっころりーも完膚なきまでに潰されたとか。金髪碧眼の男とは聞いてましたが。彼があの蛇遣いだとは思いませんでした)

 

 めぐみんは後退りしながら杖を構えて話しかける。

 

「まさかとは思いますが……私の家にやってきたのは、私かこめっこのどちらかを潰すためですか?」

「そんなくだらないことはしない。今の君やこの子と戦っても何にも楽しくないからな。俺がここに来たのは、新しい取引をするためだ」

 

 そう言って、彼は蓋の空いてない箱を取り出して開ける。そこには魔力上昇のポーション10個、スキルアップポーション10個がある。その他にも経験値が豊富な食材が大量に入っている。

 

「君を強くするために、王都から盗ん……じゃなくて持ってきたものだ」

「今盗んだって言いましたよね。というか、なぜ私にこんな物を」

「簡単だよ。君の将来性や魔法の強さに、俺は心を奪われた。だから優先的に支援しようと決めて持ってきたのさ」

 

 彼がそう言うと、こめっこが不思議そうな顔をして質問する。

 

「でも蛇の兄ちゃん。姉ちゃんって爆裂魔法っていうネタ魔法しか覚えてないんだよ。里の皆が言ってたけど、爆裂魔法って消費魔力が多いし、習得が大変だし、使った際の爆音でモンスターを呼んじゃうし、威力が高すぎて使い勝手も最悪なネタ魔法なんだって。しかも姉ちゃんは爆裂魔法を1発撃ったら動けなくなるから、将来性あるように見えないけど」

 

 めぐみんは心に大ダメージを負いながらも、妹の言葉を否定したかったが、否定する事が出来なかった。

 妹の言うとおり、周囲の人たちは爆裂魔法を使い勝手の悪いネタ魔法として認識しており、友達であるゆんゆんですらその認識は変わらない。しかし、彼はこめっこの言葉を鼻で笑う。

 

「ふん。爆裂魔法をネタ魔法なんて言うやつは、目が曇ってる馬鹿の意見だ。俺からすれば、なぜ他の紅魔族が習得しようとしないのか不思議でしょうがない。神や悪魔さえ殺せる究極にして最強の攻撃魔法。極めれば世界を滅ぼすことも容易となるだろう。確かに魔力消費の多さや習得までの大変さは無視できない所はあるが、それを差し引いても、あんなに素晴らしい魔法は絶対に身につけるべきだ。いや、身につけなければならない。それはアークウィザードとして生まれた者たちの宿命だ! なのに、アークウィザードの大半は殆どが上級魔法で満足し、爆裂魔法に手を伸ばそうとしない愚か者ばかり。正直、心底失望していたよ。しかしめぐみん。君は魔法学校でスキルポイントを必死に貯め、苦労の果てに爆裂魔法を身に着けた。その若さで爆裂魔法を身に着けるまでスキルポイントを貯めるのはかなり苦労したはずなのに、君は諦めることなくその困難を乗り越えた。さらには、1発だけとはいえ爆裂魔法を放てる膨大な魔力量。俺が今まで見てきた中で、君は誰よりも最強のアークウィザードになれる素質がある! だからこそ、支援しまくって限界まで強くなる手伝いをしたいと思い、こうしてポーションや経験値を稼ぐための食材を持ってきたのだよ」

 

 めぐみんは驚いていた。彼は爆裂魔法をネタ魔法とバカにせず褒めちぎっている。一瞬、自分のご機嫌取りをするための嘘かとも思ったが、楽しそうに話す彼の言葉に嘘は感じられない。そして、最強のアークウィザードになれる素質があると言われ、彼女の気分は有頂天になっていた。

 

「素晴らしいです! まさか、爆裂魔法の偉大さを理解してくれる人が現れるとは! それに、こんなに沢山のポーションや食材を用意してくれるなんて」

「タダというわけじゃないぞ。君にはやってもらうことがある。言っただろ。これは取引だって」

 

 めぐみんは爆裂魔法の強さや自分が最強のアークウィザードになる素質があると褒められたことと、そして箱にあるポーションや食材のことで頭が一杯であり、取引の事を忘れていた。

 

「そ、そうでしたね……あの。まさかとは思いますが、これを使ったら、あなたと戦わなくてはならないとかですか?」

「だから、今は戦わないって言ってるだろ。強くなる前の獲物を潰すことほど、つまらないものはない。取引内容について説明しよう。俺は王都から盗んだ食材やポーションを優先的に君に与え、資金も出来る限り用意する」

 

 そして、彼は3つ目の箱の蓋を開ける。そこには大量の札束と金貨、更には綺麗な宝石も大量に入っていた。

 

「ざっと1億エリス。君を支援するために用意したものだ。何を買おうと、どんなことに使おうと君の自由。もしこれでも足りないというののなら、3倍の金額まで追加で用意することも出来る」

 

 めぐみんたちは、彼の提示した金額の大きさに唖然としていた。

 

「つまり……合計で4億エリスまで使える? わ、私は一体なにをすればばばば」

「落ち着け。そんなにビビらなくて良い。やってもらうことは簡単だ。君が爆裂魔法を極め、最強のアークウィザードになったと俺が判断した時、命を賭けた殺し合いをしてもらう。それが、支援を受ける条件だ。とはいえ、すぐに殺し合いをするわけじゃないから安心しろ。どんなに早くても、数年後くらい先の話になるだろうからな」

 

 彼女は彼の言葉に、今度は別の意味で唖然とし、さっきまでの喜びや驚きは恐怖へと変わった。

 

「こ、殺し合い……ですか?」

「ああ。この里でやってるような模擬戦もどきとは違う。正真正銘、命を賭けた殺し合いだ」

「えっと……その、私は……人を殺すのは流石に」

 

 爆裂魔法を褒めてくれた彼の言葉は嬉しかったし、支援もとても欲しいが、その見返りが殺し合いとなるて、流石の彼女も及び腰になってしまった。

 しかし、支援は欲しいし、彼の目が提案を断るなと急かしてるように感じてしまって、なんとか勇気を振り絞って了承を受けようとする。

 

「くっ……わ……わか……分かり……分かかかか……えっと。あの」

 

 しかし、肝心なところで言葉が出てこない。この取引を受け入れ、いずれ来るかもしれない彼を殺す未来。あるいは彼に殺される未来を想像して怖くなってしまい、言葉が出せなかった。

 

「……今日は取引を決められそうにないな」

「ま、待ってください! 後少しで勇気が入りますから! もう少し待ってください!」

「落ち着け。別に今日決めなかったからと言って、取引を反故にするつもりはない。俺も色々やることがあるし、しばらくはここに滞在するつもりだ」

 

 彼はメモ帳を取り出し、日付を確認する。

 

「そうだな。2週間後までに答えを出してくれるとありがたい。それと今日用意した箱だが、君が取引を受けるにしろ断るにしろ、好きに使うと良い。これらは前金として用意したものだからな。どう使おうと君の自由だ」

 

 彼は懐から青い水晶を取り出して彼女に渡す。

 

「これに話しかければ、俺が里のどこにいても会話することができる。答えが決まったら話しかけてくれ。良い返事を期待してるよ。めぐみん。君は、俺が今まで見てきた中で最高峰の素質を持つアークウィザードだからな」

 

 その言葉を最後に、彼は家を出ていった。めぐみんはしばらく唖然としており、水晶や彼の用意した箱、箱の中にある札束やポーション、食材を見ていた。

 

「……なんだか、とんでもないことになってしまいましたね」

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